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52 弁明・説明・驚愕

「さて」


 外から見えなくなった途端、ヤンスさんから笑顔が消えた。

 残ったのは、座った目と明確な怒りだった。

 パキポキと指を鳴らしながら、ゆっくり詰め寄ってくる。


「まずは、さっきの大魔法について、話してもらおうか?」

「大魔法とか大袈裟な「何度も言うけど、キリトちゃんの常識はズレまくってるからな?」


 俺の言葉に被せるように、ドスの利いた声で圧を掛けてくる。

 お腹にずしっとくる恐怖に、勝手に手が震える。

 ひええ……

 ジリジリと距離を取っても、すぐに詰められてしまう。


「まず四大属性以外の属性魔法は目立っちゃうんですよ」


 デイジーが、天幕の入口で頭を抱えながら教えてくれる。

 そもそも四大属性を極める事さえ困難なのに、複合属性が必要な雷を使うとかどうかしている、との事。

 複数人を殺さずに、動きを確実に止める為に選んだ属性から失敗していたらしい。

 しかも魔法は、基本的に一度に複数を攻撃する事はできないらしい。

 そんな重要な事、聞いたことないんですけど?!誰かそんな事言ったっけ?


「あと、あの逃げる奴を追いかけていく技、あれ何?確実に絶対当たるわけ?」

「あ、あれは探索魔法で『ロックオン』して『ホーミング』させたんだ。何かに急に遮られたり、俺の魔力が切れたり、相手が魔法を無力化させたりしない限りほぼ当た「ろっく、おん?ほーみんぐ?」


 どうやら無意識に地球の言葉になってるみたいで伝わらない。

 デイジーが目をまん丸にしている。


「えーと……標的を決めて、追尾する魔法だと思ってくれれば」

「で、それを一度に複数放って、全部当てた、と」


 バカでかい溜息と一緒に溢すヤンスさんは、どう見ても、俺より疲れ切っている。

 どうしよう、これ、絶対俺のせいだよね?

 代わりに休みますか?って聞いたら思いっきり拳骨を食らった。

 めっちゃ痛い。

 目がチカチカする。

 涙が出そうだよパトラッシュ……


 しばらく天幕の中で反省してろ、と言い捨てて、ヤンスさんはぷりぷり怒りながら出て行った。

 デイジーに、この馬鹿に常識を教えてやってくれ、と言っていた。

 デイジーには申し訳ないけど折角なので色々確認しようと思う。


 まずは【マナーブック】を取り出して魔法の常識について調べる。


『魔法は魔力に方向性を持たせ、発動に必要な魔力を集めて発動させる事であり、サポートとして詠唱がある。


魔法の発動手順

 1.純粋な魔力を属性のある魔力に変換する。

 2.魔力に方向性を持たせる。

 3.発動に必要な魔力を集める

 4.発動


 最初の手順で、無駄に多く魔力を変換すると、発動時に使用しなかった魔力がキラキラ零れてしまう。』



「こんな事聞いたことありません」


 そう言って最後の一文を指差す。

 前にエレオノーレさんも言っていたけれど、やはりここがおかしいらしい。


「わたしは魔力を持っていたので、魔法の使い方も教えられました。教えてもらったのは飲み水の魔法でした。ここの魔力の変換?の事だと思うんですけど、水の魔法を使うんだーって魔力をとにかくいっぱい集めて正しい呪文を唱えなさいって教えられました。わたしは、うまく、できませんでしたけど。センスがないんだって言われました」


 なんか教え方が雑だよな。

 呪文なんて自分が理解、イメージ出来さえすればちちんぷいぷいのほいっとかでも良いのにさ。

 それを正しく唱えろとかソイツ、サボってたんじゃね?


「変換した魔力は流してもらったんだよね?」

「いいえ、手を繋ぎながら魔法の発動を見せてもらっただけです」

「は?」


 新しい属性を使用するにはその魔法が使える人に属性魔力を流してもらってそれを扱う事で習得するんだって書いてあったぞ?

 手を繋いでるから認識しようとすれば出来るかもしれないけど、まだ魔法を使った事のない子に教えるなら流すべきだろ?


「それは、その教師は教え方が悪い。ちょっと試してみても良いか?」


 こくりと頷いたデイジーの手を取り、まずは純粋な魔力を送ってみる。

 そして一度止め、次は水属性に変換した魔力を改めて流し直す。

 その違いにハッとした顔になり、此方を見るデイジー。


「違い、わかった?」


 属性変化は普段使用しているもの程、認識しやすい。

 特に水は顕著である。

 デイジーはコクコク頷いて魔力を変換させている。


「じゃあ使えるか試してみようよ」


 もう一度手順を見せる。

 『1.純粋な魔力を属性のある魔力に変換する。』


「これは今出来たよね。どんな属性の魔法を使いたいなーと思って魔力を変換させる事。詠唱が必要であれば『我が身に宿る魔力よ水となれ』とかそれっぽいかな?別に自分がわかれば良いんだから『水水水水〜』とかでも良いよ」

「水水水〜は流石に無いです〜」


 ケラケラと笑いながら拒否されてしまった。

 お茶目に可愛くしてみたのに、呪文は受け入れてもらえなかった様だ。


「じゃあ次ね」


『2.魔力に方向性を持たせる。』

 言い方は小難しいけどどんな魔法にしたいかってだけだから簡単。


「水属性のどんな魔法を使いたいか決めるよ。今回は天幕の中だし、手の平一杯分の飲み水にしようか。カッコつけるなら『渇きを潤す清水と成りて』とかかな?『飲み水』とか『水』だけとかでも良いよ。しっかりイメージしてね」


 ふむふむと頷きつつ次を促される。

『3.発動に必要な魔力を集める』


「コレはわかるよね?」

「はい。どこに発動させるかって事ですよね」

「そうそう。手の平とか指先とか杖の先とかその辺が多いけどね」


 手をひらひらさせてからお椀の様に両手を合わせる。

 水を掬う時みたいに指をピッタリ合わせて隙間を無くす。


「そして『4.発動』。『我が手の平に顕現せよ』なーんてね」


 適当にそれっぽい言葉を言うと魔法が発動し、泉が湧く様に、手の平から水が湧き出てくる。

 キチンと手の平一杯分だ。

 溢すのも勿体無いので飲み切る。


 ぷはーっ


 冷たくておいしい水だ。

 それを食い入る様に見ていたデイジーも、やってみる気になった様だ。


「わたしの魔力よ、水になって……この手のひらに現れて」


 だいぶ可愛らしくアレンジされた呪文だったが魔法はきちんと発動し、小さな手の平に一杯分の水が現れた。

 少し気合を入れすぎた様で、盛大に魔素が溢れているのはご愛嬌だ。


「う、そ……こんなに簡単に出来るなんて……」


 ポタポタと零れるのも気にせず手の平の水を眺めている。

 初めて鏡を見た猫みたいだ。

 とても可愛い。

 意を決して飲む。

 そんなに緊張しなくてもちゃんと飲めるよ。


「美味しい……」

「ね?簡単だろ?」


 俺がそう言うと、デイジーは大きなため息を吐く。

 そしてひた、と俺を見据えて言い放った。


「最初から最後まで非常識です」


 なんですと?!

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