51 盗賊
「おぅい、ここから先は通行料を払ってもらおうかぁ?」
ぐへへへへ、と汚く笑いながら盗賊達は、獲物を眺める。
シミターを肩に担いで、こちらに話しかけてきているのが頭目だろうか?薄汚れてはいるけれど、一番良いものを着ている。
「荷物全部と馬車二台、そして女二人は置いていきな」
「馬車一台と命だけは助けてやるよ」
まさにテンプレ。
そんなこと、するわけないじゃん。
俺達『飛竜の庇護』は商隊の皆の安全確認をしたら、まだ何か喚いている頭目(仮)を無視して、素早く動き出した。
俺から見えるのは、ヤンスさんだけだ。
ティモさんを背中に庇い、右サイドの木の上に隠れていた盗賊の足を、目にも留まらぬスピードで正確に射た。
俺には弓を用意している動作すら見えなかった。
高い風切り音の後に、ドサリと重い物が落ちてくる音がした。
間髪容れずに、逆サイドの木にも矢を放つ。
再び呻き声と落ちる音。
この間、僅かに五秒だ。
ヤンスさんは、矢を放った動きを止めず、流れる様にナイフを抜き放ち、鋭く辺りに視線を巡らせる。
真ん中の馬車の周囲に脅威が無いことを確認すると、ティモさんと射落とした盗賊の間の位置を取りつつ、手早く縛っていく。
「キリトちゃんは、そっちな!」
ヤンスさんの指示に、慌ててロープを取り出して、痛みにうめく盗賊を縛り上げる。
教えられた通りに、胴体と腕を縛り、背後で手首を八の字で縛る。
手首を縛ったロープでギリギリの長さで首に縄を掛ける。
抜け出そうと腕をもがくと、首が絞まる結び方だ。
なんともえげつない。
ま、結んだ俺が言うのもなんだけどな。
後方では、エレオノーレさんの放った魔法で数人が火達磨になっているのが見えた。
あれは、見た目は派手だけど火はすぐ消えるし、殺傷能力は皆無だと言っていた。
チラリと見えたジャックは、隙なくアックスを構え、いつでも振り抜けるようにしている。
前方は此方からは見えないが、順調に制圧されている様で悲鳴と怒号が響いている。
盗賊を縛り終わって、探索魔法を確認すると、まだ数人周りに残っている。
慌てて杖を握って魔法を放とうとしたが、どんな魔法を撃てば良いか分からない。
まとめて全員行動不能にさせたいし、死なれても困る。
そうだ!電気ショックだ!
あと、ホーミング機能をつければ完璧じゃないか?ホーミングって言ったらデカルチャーなアレだよな!
「杖先より放たれる雷は跡を追い必ず敵を撃つ。マクロの宇宙を貫く的なホーミングスパークミサイル!」
杖を高く掲げ、ふざけた適当呪文を唱えると、紫に光る雷が複数現れ、イメージ通りに複雑な軌道を描きながら、まだ無事な盗賊達に襲い掛かる。
森の少し奥にいる二人にも、逃げようと避けた盗賊にも、容赦無く紫電が迫る。
探索魔法と連動させてホーミングするので、誤爆も撃ち漏らしもない。
殺傷能力は皆無だ。
ただ、当たったらしばらく体が痺れて、ちょっとの間動けなくなるだけだ。
残党処理だけなので、俺が倒した盗賊はそれ程多くない。
多分、一番多く倒したのはオーランドだ。
そして次が、エレオノーレさん。
弓と魔法でバンバン倒してた。
ジャックが連携して、無力化した奴等を簀巻きにしていたし、流石ハンター夫婦だ。
息ピッタリ。
ヤンスさんも、弓とかナイフとか使いながら、商隊の人達を守っててすごかった。
俺は、魔法一発だけだし、呪文も(ふざけたけど)ちゃんと唱えた。
殺しちゃう程の威力も無い。
きっと、怒られないだろう。
「キリトちゃんダイジョーブか?あんな大技使ったら倒れるんじゃないのか?」
手近な盗賊を縛り終えたヤンスさんが声を掛けてきた。
「大丈夫」と答えようと振り返って息を呑む。
血の引くザァッという音が聞こえた。
ダメだったみたいだ。
傍目には、心配して駆け寄る様に見えるヤンスさんだが、俺にはわかる。
めっちゃ怒ってる!
ガッと顔を掴まれたかと思うと、マントを深く被せられて、首根っこを掴まれて引き摺られる。
「やっぱり顔色悪いな!すんません旦那方!ちょっとコイツ休ませます!安全確保はウチのリーダーと他のメンバーがやりますんで!」
「おう、あんなどデカい魔法使ったら具合も悪くなるってもんさ!休んどけ休んどけ!」
「神官さんも回復掛けてあげてよ、ここは良いからさ」
エーミールさんが、快く返答すると、他の商会員の人達も、そうだそうだと送り出してくれた。
途中でデイジーも合流し、ヤンスさんが神速で組み上げた天幕に放り込まれる。
コレは、ヤバい……
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