48 オハナシアイ
備品の買い足しや、初回購入を諦めたソーイングセット等を、使い勝手を考えて選ぶ。
高くて使いやすそうな方を選択し、代金を払いながら考える。
正直、かなり纏まった額のお金が手に入った。
多少の備品購入くらいじゃ、揺るがない程の大金だ。
これは、馬車を買うべきではないだろうか?
移動速度が上がればクエストの達成スピードも上がるし、依頼主の心証や評価も上がるだろう。
何より俺やデイジーの体力を温存出来る。
そう考えていたのは俺だけではなかった様で、夜にオーランドから、今後の方針についての招集を受けた。
議題は、今回手に入ったお金の使い道だ。
高額なポーションを買うべきではないか?装備を一新してしまって良いのでは?等、皆それぞれに意見が出た。
勿論俺も、馬車が欲しいと提案した。
馬だけ離せば、最悪馬車丸ごと【アイテムボックス】に放り込めるから、細い道なんかがあっても無駄にはならないと、アピールもした。
他にも色々出てきたが、その中でもみんなの心を奪ったのがジャックが言った。
「拠点が欲しい」
だった。
そこからは、どんな拠点にしたいか、何が必要か、等ワイワイ騒いで盛り上がった。
紙とペンを持っている俺が、自主的に書記になりみんなの意見を書き留めていく。
・最低限メンバー全員の個室がある事
・追加メンバー分などの予備もあると尚良い
・賃貸ではなく買取(改造できたほうがいい)
・キッチンの充実(流台、パン焼き竈、コンロ複数口、広めの作業場)
・広い庭(訓練スペース、洗濯物スペース男女分)
・風呂(無ければ作れるスペース)
・厩付き(馬車置き場付き)
・井戸が近い事(無ければないで俺の魔法でどうにかなる)
・調合部屋や物置き、書斎などの特殊な部屋があると良い。
・カッコいい外観
・可愛い出窓
・広いリビングスペース(ふかふかのソファー)
・武器保管庫
・ワードローブ
・畑
等々。
まだまだ出てくるが、多分ここから先は、個人の欲望が羅列されるだけな気がする。
ていうかオーランド、武器保管庫ってなんだ。
エレオノーレさんは、ワードローブってなんだ。
服は分かるけど、武器なんかは、俺が持ってた方が安心だろうが。
いつ何処で何が必要になるともしれないんだからな?
あと、「かっこいい」と「可愛い」は同居しません。
畑はあると便利だろうけど、クエストに行ってる間の世話とかどうするんだよ、ジャック。
だんだんカオスになってくるみんなの要望を、書ききれなくなってきたので、明日このメモを持ってギルドで拠点の紹介をしてもらうことにした。
正直言って、こんな物件はない。
間違い無く、無い。
その現実を、彼等に見せてやってほしい。
瞳の中に「欲望」って浮かんでいる、彼等に。
そんな中、デイジーが何か言いたそうにモジモジしている。
「どうした、デイジー?なんか言いたいことある?拠点の要望ならメモするよ?」
コソッと声を掛けると、頬を赤くして膝の上にある自分の手を見つめる。
指先をコネコネしながら、蚊の鳴くような声で話し始める。
「じ、実は、じぶ、自分の、お金が、で、出来た、から、出身の、こ、孤児院に寄付に行きたく、て、パーティを少し抜けさせてもらえないかな、って……」
「え?パーティ抜けるの?」
「「「?!」」」
話された内容にびっくりして繰り返すと、皆が話をやめて、一斉にこちらを向いた。
それにビクつきながら、更に小さい声になったデイジーは続ける。
「抜けるって言っても、孤児院に寄付して戻るまでの間だから……」
「なんだ、だったら一緒に行こうぜ」
俯いてこちらを見れないデイジーに、オーランドがニカッと笑って言う。
だよな、オーランドはそういうやつだよ。
「そうだそうだ。遠慮することなんかないぞ」
「でも、私のわがままに皆さんを付き合わせるわけには……」
「別の国って訳じゃないんだろ?何処の街?」
「帝都です」と、泣きそうな声で言うデイジーに、オーランドが笑った。
他の三人もホッとしている。
帝都であれば、丁度拠点の候補地だ。
ついでに物件を見に行ってみようぜ、と言い切られ、とうとうデイジーは、お礼を言いながら泣き出してしまった。
前のパーティが、如何に酷かったか分かるよな。
いつも『俺不運』読んでくださってありがとうございます。
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