46 頑張れレジーナ
翌朝はオーランドに、レジーナが気になると起こされた。
睡魔を押して付き添って私室に向かうが、ノックしても返事はない。
気配も感じないとオーランドが言うので、寝ているわけでもなさそうだ。
もしや、と作業場を覗くと、やっぱり居た。
レジーナは昨日と同じ姿勢で、同じ様に、難しい顔をしながら毛皮を縫い合わせていた。
真剣そのもので、俺達には全く気づいていない。
チクチクと少しの長さを縫っては伸ばして、皺が寄っていないか、歪みがないか見ている。
その顔色が真っ白で少しふらふらしている。
これはあれだろ?徹夜で作業したんだろ?俺達と過ごす事で作業時間が足りなくなったから、睡眠時間削って作業してるんだろ?
「ヒール」
真っ白だった顔に少し赤みがさした。
とりあえずこれで一安心だ。
あとで、消化に良いものを持ってこよう。
一緒に来ていたオーランドから白い目で見られているけど気にしない。
使える物は使うべきだ。
キッチンに向かって朝食を用意しているジャックに、パン粥の作り方を教えてもらいながら作る。
合間にジャックの作ってくれた朝ごはんを食べる。
固い黒パンにハムとチーズを挟んだサンドイッチだ。
黒パンは軽く炙ってあって、香り高く、食べ応えがある。
オーランドは、俺がレジーナに朝ごはんを持っていくと聞いて、あっさり自分のを食べに行ってしまった。
少しくらい手伝ってくれたって良いじゃないか全く。
小さく切ったベーコンと玉ねぎ、キノコ三種類を炒めて、白パンと鶏ガラベースのスープを入れたら弱火で煮込む。
病気な訳では無いので、具材に火が通ったらパンを一口大に千切って入れ、柔らかくふやけたらそれでおしまい。
真ん中に卵を落として、蓋をして余熱で火を入れる。
トレイに鍋と小皿とスプーンを載せて、作業場へ向かう。
開きっぱなしのドアをノックして声を掛ける。
「そこの働きすぎなお嬢さん、朝ごはんは如何ですかー?」
「え?アレ?朝?え?なんか明るくて、作業し易いなぁって、思ってたけど、そうか朝かぁ……お腹空いたぁ」
レジーナは寝ぼけている様で、キョロキョロと周りを見回して頭を振ると、きゅるきゅると切なげに鳴くお腹を押さえた。
青白い顔の目元には、薄らと隈まで出来ている。
俺の手元に視線を向けると、昨日と同じ様に手早く片付けるとこちらに寄ってきた。
「ありがとう〜キリト〜すっごいお腹空いてきた〜」
半泣きでパン粥をはぐはぐ食べては、あちち!と水を飲んで口を冷ましている。
見ているこちらがびっくりするくらいの勢いだ。
「ゆっくり食べないと消化に悪いですよ」
水をコップに継ぎ足して渡す。
レジーナはがっついているところを見られて恥ずかしいのか、顔が真っ赤だ。
うむうむ。
乙女の恥じらいプライスレス。
赤くなった顔で、他所を向きながらコップの縁をガジガジと齧りつつレジーナが言う。
「……キリトはさ、料理出来ない女の子ってどう思う?」
「?」
質問の意図がよく分からず、首を傾げると
「いや、ほら、昨日デイジーと一緒にご飯作ったじゃない?アタシあんまり料理得意じゃないし、そういうのって、男の人目線でどうなのかなーって!」
ものすごい早口で、手をバタバタさせながら説明する。
先程よりも真っ赤になっている。
ははぁん。
成程、成程。
これは好きな人がいると見た。
そして昨日のデイジーの女子力を見て危機感を抱いた、と、そんなところだろう?
「出来るに越した事はないと思うけど、みんなが皆料理上手じゃないといけない、なんて事はないとも思いますよ。ここだけの話ですが、男ってのは、下手くそでも好きな子に『一生懸命作ったの』って、渡されたらそれだけで胸一杯になりますからね」
好物だって聞いた肉じゃがを練習して、それしか作れないけど、他の料理も貴方の為にこれから頑張るわって古典があるくらいだからね。
自分の為に頑張ってくれる女の子が嫌いな奴なんて居ないよ。
「あとは逆転の発想で、料理が出来る男の子と一緒に作ってみるとかどうですか?二人で料理したら仲も深まるんじゃないでしょうか?」
「そ、そうかな?」
「そうですよ」
笑顔で言い切った俺に、弾ける笑顔を見せたレジーナは、華やかで、キラキラして、とても可愛かった。その笑顔を見せるだけできっとうまくいくと思うよ。
パン粥を食べ切ったレジーナは、とりあえず料理よりもコートの仕上げだ、と気合いを入れてまた作業を始めた。
俺は邪魔にならない様にサッサと退却だ。
いつも俺不運読んで頂きありがとうございます。
ブックマーク本当に嬉しいです。
頑張っているレジーナ、好きです。
こぼれ小話
オーランド、レジーナだけ名前がちょっと雰囲気違いますが、オーランドは両親が、レジーナは(もう死んでいる)母親が別の国出身の為です。




