44 レジーナ再び
防具屋オリハルコンは、俺がこちらに来て最初にお世話になったお店だ。
まだ早い時間なので、店の方に顔を出す。
シンプルな木のドアを押し開けると、軽やかなベルの音が店内に響いた。
「おう、いらっしゃい」
カウンターから渋い良い声が聞こえてくる。
今日の店番は親父さんか。
親父さんは、鎧を磨きながらこちらに視線寄越す。
「おお、キリ坊じゃねぇか。もう依頼は終わったのかい?」
厳ついのに人懐こいというギャップを搭載した親父さんは、片手を上げてこっちに来いと呼ぶ。
「はい、無事、初依頼終了しました。あ、あと新しく『飛竜の庇護』のメンバーになったデイジーです」
「デイジーです。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げるデイジー。
おう、よろしくな、と大きくゴツい手を差し出す親父さんに、おそるおそる手を差し出している。
「レジーナさんは?コート作りは順調ですか?」
レジーナは今、めちゃくちゃ大変みたいだ。
デザインは既に確認してもらって、仮縫いも合格が出て、今は裏手にある工房で、一心不乱に本番の毛皮を縫い合わせているところらしい。
親父さんが手伝おうとすると「父さんは手を出さないで!」と怒るらしい。
なんとなく、猫耳のついたレジーナが威嚇している姿が思い浮かぶ。
可愛いなぁ。
親父さんの心遣いで、今回も泊めてもらえることになった。
挨拶に来ただけだったけど思わぬ幸運だ。
お金があっても、安く上がると嬉しいよね。
場所はわかるだろって事で、勝手に入ってな、と鍵を渡される。
デイジーの荷物を置かせてもらうために、ありがたく拝借する。
喜び勇んで店を出た俺の耳には、親父さんとジャックの会話は届かなかった。
「ライバル出現ってか?キリ坊は良いやつだし、あの娘も良い娘みたいだが、娘の恋路は助けてやんねぇとな」
「キリト、モテモテ」
「まぁ、手塩にかけた可愛い娘はそう簡単にはやらんがな!」
勝手知ったる他人の家。
前回泊めてもらった部屋を、手早くクリーン魔法を掛けて荷物を整理する。
薬草達の処理は後回しだ。
片付け等は程々に、レジーナに声をかけに行く。
ジャックは荷物だけ置くと三人組を回収に行った。
裏手から店に入り、工房に向かう。
「レジーナさーん、いますかー?」
中を覗くと、難しい顔をしながら毛皮を縫い合わせているレジーナがいた。
真剣そのもので、俺達に全く気づいていない。
チクチクと少しの長さを縫っては伸ばして、皺が寄っていないか、歪みがないか見ている。
俺とデイジーは顔を見合わせて頷くと、そっと部屋を出た。
「凄い集中でしたね」
「だなー。お茶でも入れていってやろうかな」
「あの方が“レジーナさん”ですか?」
「そうそう」
【アイテムボックス】からすっきりめのハーブティーを取り出して、ティーポットに茶葉を入れたら熱いお湯を生み出して注ぐ。
デイジーとおしゃべりしながら、しばし蒸らして出来上がり。
レジーナのマグカップにたっぷり注いで、ついでに自分達の分も淹れて、農村で貰った、自然な甘さのビスケットみたいな焼き菓子を添えて、トレイに載せると、再度工房に向かう。
先程と全く変わらない状態のレジーナが居た。
トレイを安全な位置(万が一こぼしても毛皮に絶対掛からない場所)に置いてから、レジーナの肩を軽く叩く。
「レジーナさん、レジーナさん、少しだけ休憩しましょうよ。ずっと作業を続けていても効率が悪いですよ?」
「!?」
ポンポンと触れた事で、初めて俺達に気づいた様だ。
肩をびくんと跳ねさせて、俺とデイジーを交互に見ている。
「……キ、リト?帰ってきたのね?お帰りなさい!……と、だれ?」
パッと花咲く笑顔になり、首に飛びついてきた。
相変わらずボディータッチの多い娘だなぁ……。
引き離して下ろすと、デイジーを見て首を傾げる。
コロコロ変わる表情が可愛い。
「はい、戻りましたレジーナさん。彼女はデイジー。『飛竜の庇護』の新しいメンバーです。神官で、野草や、薬の知識が豊富で凄いんですよ。そしてデイジー、彼女が凄腕の防具職人で、看板娘兼店長のレジーナさんだよ」
「はじめまして、デイジーです。……店長、さん?ですか?」
「ちょっ!キリトその紹介の仕方!……ゴホン。ま、まぁ色々あってね。店長のレジーナよ、よろしくデイジー」
礼儀正しく挨拶するデイジーが首を傾げる。
まぁ確かに店にいた親父さんの方が店長らしいよね。
現にこのコートの件がなければ親父さんが店長だしね。
レジーナは、手早く作り掛けのコートと道具を片付けると、丸椅子を二脚持ってきて俺達に勧めた。
トレイを中央に置くと各自自分のカップを取ってお菓子を齧る。
デイジーは少し人見知りをしている様で、要所要所で困った様に俺を見る。
そんな顔しなくてもレジーナは良い娘だよ。
「デイジーって十六なの?じゃあアタシより一個上じゃん!デイジーさんって呼んだ方がいい?」
「う、ううん。このままデイジーって呼んで下さい」
「じゃあアタシもレジーナでヨロシク!」
ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべて、レジーナが話すと、デイジーも一生懸命返事をする。
こう、なんていうか見てるだけで幸せで、健康になれるよね。
ありがとうございます。
話の流れで俺の歳の話になり、二十一だと伝えると二人とも驚愕していた。
背伸びもしてないし、嘘でもないよ。
エルフもドワーフも混じってません。
毎度毎度この世界の人は!まったく。
その話題を切っ掛けに、二人は一気に打ち解けたようだ。
晩ご飯を二人で作る約束をしていた。
この後買い出しに出る様だ。
それであれば喜んで荷物持ちやらせていただきます。
可愛い女の子達とのお買い物、プライスレス。
いつも『俺不運』読んでくださってありがとうございます。
沢山のブックマーク、評価大変励みになり感謝しております。
本当に嬉しいです!喜びに溺れてしまいそうです!ありがとうございます。
レジーナ久しぶりに登場です。
思ったよりも甘酸っぱい要素は皆無でした……。
次回は無理なので、次次回こそはなんとか、青春的な要素を入れたいです。
頑張ります。




