42 納品
「それで、納品なんだけど」
「はーい、承ってますよぅ。こちらへどぉぞぉー」
そう言って何事も無いかのように、ギルド裏の倉庫へ案内された。
プロだなぁ……
でっかい扉の横の普通サイズのドアから入って扉を閉めると、受付嬢がバッと勢い良く振り返った。
「『飛竜の庇護』の皆さんどうしたんですか?!短期間にメンバーが二人も増えるなんて!」
オーランドにぐいぐい詰め寄る受付嬢。
「しかも『スキルを隠したい』だなんて!!こぉーんなに可愛い子をっ!どこから攫ってきたんですか!白状しなさいっ!」
腰に手を当ててぷんすか怒っている。
でもなんでだろう、背中がぞわっとする。
デイジーがそっと俺の背中に隠れたので、恐らく彼女もこの恐怖を感じているのだろう。
「落ち着け!こっちにも色々事情があるんだよっ!ちゃんと紹介するから!猫をかぶり直せ!」
「……」
怒鳴りつける様なオーランドの言葉に、ピタリと動きを止めて、くるりと振り返る。
「あ、お二人ははじめましてぇ。私はリーリエよぅ、よろしくねぇ」
震えて寄り添いあっていた俺とデイジーを見て、今までの剣幕が嘘かの様に、元の、ふわふわのお姉さんに戻って挨拶をされた。
逆に怖い。
「左に居る女の子がデイジー、神官だ。もう耳に入っているだろうが、パーティ内、搾取被害にあっていたから保護した」
「で、でいじー、です」
ブルブル震えながらなんとか挨拶しているが、終わると俺の後ろに完全に隠れてしまった。
リーリエさんは爪先立ちになりながら、デイジーの姿を見ようとしている。
綺麗な顔立ちのはずなのに鼻の下が伸びていて、まるでスカートの中を覗こうとする、エロ親父の顔だ。
とても残念度が高い。
「で、右に居る男がキリト。コイツは『迷い人』だ。こっちに落ちて来て、最初に会ったのがオレ達で、ウチが誘ってメンバーになった。なんと【アイテムボックス】を持っている」
おお、そこまで言っちゃうのか。
よっぽど、この人を信用してるんだな。
「霧斗です。よろしく」
「よろしくねぇ」
握手しようと手を出してこられたので、その手を握る
ーーーと、ものすごい力で腕を引っ張られた。
「やだー!お肌、ピチピチのすべすべじゃなぁーい!やだもう寿命延びるぅ!」
コスコスコスコスコスっ!
指紋が無くなる勢いで手を擦られる。
ゾゾゾゾゾッと腕から背筋を走り抜けた悪寒に、慌てて腕を引っこ抜いた。
「あぁーん、ざぁんねぇーん」
本気で残念そうに、こちらを見るリーリエさん。
なんだろう、きれいなお姉さんに可愛がられているはずなのに、ゾワゾワする。
こう生理的に無理な感じ、というのだろうか?
とりあえず彼女の手の届かない距離まで離れたい。
触られた手を摩りつつ、デイジーと二人でじわじわと距離をとる。
「十代の少年少女が好きな変態なだけで、襲いかかったりはしないから無害よ。視線は無視しなさい。そのうち慣れるわ」
いつの間にかジャックの背中に隠れていた、エレオノーレさんが吐き捨てる様に言った。
「やぁだもぉう、エレオノーレちゃんったらぁ。やきもち焼いちゃったぁ?」
にまにまと、女性としてしてはいけない表情で笑うリーリエさんを、エレオノーレさんが殴る。
かなりイイ音がしたとだけ言っておこう。
「やきもち焼くとか、砂一粒分も無いわ。でも、そんなことは、どうでも良いの。早く、納品の、確認、してくれない?貴女とは、一秒だって、一緒にいたくないの」
まさに絶対零度の視線で射殺す!って感じだった。
一言一言、怒りをこめながら納品確認を急かす。
そこからはサクサクと進んだ。
リーリエさんが脱線すると、エレオノーレさんの拳が力づくで、元に戻すからだ。
俺は言われた通り、仕分けした蛍石を出すだけの、簡単なお仕事だった。
「凄いわぁ!こんなに沢山!貴方ぁ優秀なのねぇ。こっちにおいでぇ〜、リーリエお姉さんが良い子良い子してあげるわぁ」
「……お、お断りします」
「ざぁんねぇーん」
隙あらば狙われるけどな。
きっちり距離を取って、身を守る。
デイジーに至っては、ジャックの陰から出てこなくなってしまった。
量は充分。
規定量の五倍だから問題はない。
高品質な物ばかり選んだから、質も充分のはずだ。
勿論、初めの方に採ったのは質が低めだけどね。
質ごと、色味ごとに袋も分けているので、使い勝手も良いんじゃないかな?
リーリエさんは早速、数人の鑑定士(スキルではなく知識と経験で判断する人達)を呼んで検分を始めた。
「なんだこれは?!」
「ちょぉっと、これ、どういうことなのぉ?!」
「だから裏に案内させたんだよ」
数分も経たないうちに、鑑定士だけでなく、リーリエさんも悲鳴を上げる。
な、なにかあったのか?!
いつも『俺不運』を読んでくださってありがとうございます。
ブックマークめちゃくちゃ嬉しいです。
ちなみにリーリエさんは私のお気に入りです。
どこまでも変態で、残念美人でいて下さい。
気に入ってくださる方がいると嬉しいなぁ……。
これからも頑張って書いて参りますので、霧斗達をどうぞよろしくお願いします。




