38 マッピングマッピングマッピング
翌日は、朝から一階層の探索だ。
ヤンスさんの先導で、言われるままにマッピングしながら進む。
時折、探索魔法と擦り合わせをしつつ、無事全ての通路をマッピングできた。
本当にいやらしい罠が多い。
目の前に落とし穴があるからと飛び越えた先にも別の落とし穴があるとか、ほんの少し開けた場所にある座るのに丁度良さそうな石がアラームスイッチになっているとか。
意地が悪いにも程がある。
他にも、判り辛い位置に通路があり、その先に採掘ポイントがあったりもした。
最低限の納品量は確保したし、ワンフロア分の地図も完成した。
出てくる魔物も分かるだけメモしたし、出てきやすいポイントもメモした。
これで帰れなくもないけど、折角ならもう一つ下の階層も確認していこうという事になった。
「ここで冒険しなきゃハンターじゃないぜ!」
笑顔のオーランドの“鶴の一声”だった。
一旦最初の安全地帯に戻り、食事と休憩をとる。
恐らくもう真夜中だ。
だが、そもそも光の当たらないダンジョンの中なので関係ない。
明日のフロア攻略の相談をしてから、しっかり休みを取る。
見張りは一人だ。
デイジーは、エレオノーレさんと二人で最初の見張りをする。
野営と違ってダンジョン内は声が響くので、ふたりの話し声を子守唄に、眠りに落ちた。
翌日、ここからは情報がないから、純粋に探索からだ。
出来るだけ早く安全地帯を見つけて、マッピングを進めたい。
「暗い、息苦しい、帰りたい」
「エレオノーレさん、キュアしましょうか?」
うんざりした顔で呟きながら歩くエレオノーレさんに、心配顔のデイジーが声を掛けている。
マッピングの集中が乱されるので、出来ればもう少しだけ小さな声で、文句は控えめに言って欲しい。
出て来る魔物も、蝙蝠やスライム、岩っぽいミミズに石を背負ったヤドカリみたいな(皆曰く)小物ばかりで、エレオノーレさんも八つ当たり出来ない様だ。
基本的には、オーランドが剣で一振り、バッサリ倒してお終いだ。
たまにヤンスさんが弓矢でビュンくらいだ。
エレオノーレさんの出番は無い。
俺は正直、戦闘には一切リソースを割けないくらいに、マッピングでいっぱいいっぱいだった。
そうして、二日掛けてなんとか二階層の地図を完成させた。
「ぐっはーーっ疲れたーーーー!もうなんもしたくねーー!」
二階層の安全地帯の野営地で、出来上がったばかりの地図を作業テーブルに叩きつける様に置くと、仰向けにひっくり返る。
ひっくり返った拍子に、シートの下にあった、捨て損った小石に頭をぶつけた。
痛い。
外傷だけでなく、考えすぎのせいで頭の芯が痛い。
目も首も肩も手首も痛い。
持ち慣れないペンのせいで指まで痛い。
俺は付けペンよりミリペン派なんだよ。
いちいち、インク付けるのめんどくさいし、丁度ノってきた所で、インクが切れることが多いし、カーブを描くのが難しいしね。
「お疲れさん」
「お疲れちゃーん」
オーランドとヤンスさんが苦笑いしつつ、出来立てほやほやな地図を確認していく。
全体像に、メモを貼り付けて、ワナや発掘ポイントを書き込んでいる。
俺史上、最高傑作の手描きの地図だ。
言っても、このダンジョンしか書いた事ないけどな。
ハハッ。
翌日は、その地図を元に採掘していく。
【鑑定】して、質の良い素材が出る場所を優先的に採掘する。
やっぱり一階層よりも質の良い鉱石が採れる。
どの程度のどんな鉱石が出たか、などその辺の情報もメモに書き付ける。
蛍石も大きくて純度の高い物が手に入った。
参考情報の為に、どれくらいの物が採取出来たかスケッチも残しておく。
番号と記号で、どのフロアの何処の採掘ポイントかが、わかる様にしておいた。
恐らく、一般的なハンターパーティが持てる量の、五倍程の蛍石を手に入れたので、オッケーだろう。
勿論、他の鉱石はその十倍はゲットしたぜ!
もう一階層、下の階層に向かうか否か話し合ったけれど、そんなにお金には困ってないから、良いんじゃね?で満場一致。
ダンジョンに潜るのに疲れた、と言う理由も多分にしてあると思うし、素早く納品した方が評価が良いと思うし。
というわけで、帰ろうか。
はーっつっかれた!
帰り道に農村に寄った。
テーブルや椅子の使い心地と要望、採掘ポイントの謝礼、ついでに卵や乳製品の補充の為だ。
村に入ると、あっという間に囲まれた。
一番の目的はやっぱり毛皮だった。
無いよー、ダヨネー的なノリで終わったけど、やっぱりみんなガックリしてる。
替わりに、と言ってはなんだけど、今まで狩って貯まった水鳥の羽毛をあげることにする。
そんなもん何に使うんだ?とオーランド達に言われていたので、タダで渡しても文句は言われないだろう。
とはいえ、今まで物々交換だったのに、急にタダで渡すのはいけない気がする。
なので、野菜や布、子供が作ってくれた花冠等と交換した。
布をできるだけ細かく織って、少しフワッとする程度に羽毛を入れる、羽毛がずれない様にキルティングする。
そうすると、毛皮がなくても少しはあったかいはずだ、と奥さん方に説明すると大変に喜ばれた。
サービスでクリーン魔法を掛けて渡したのですぐに使える。
花冠をくれた女の子は、ほっぺにキスまでしてくれた。
大変に尊かった。
デイジーが増えていることに関しては、村の人達はなんとなく察している様だった。
不思議に思い質問すると、ふくよかな肝っ玉母ちゃん!って感じのおばさんが呵々大笑しながら教えてくれた。
「そりゃあ簡単さね。三日くらい前に、お嬢ちゃんの仲間だーってハンターが目の色変えてこの村に押しかけてきたからね」
「自分達の財産を持ち逃げされた!って息巻いてたけど、胡散臭くてネェ。まぁ、見たこと無いのは本当だから皆で知らないって答えておいたよ」
「お嬢ちゃん見たら嘘だってすぐわかるよ。辛かっただろう?」
「うぅ……っ」
泣き出したデイジーを、溢れるほどの母性(物理)で抱き締めて頭を撫でる。
「良い人たちに助けてもらえたんだねぇ」
この村は良い人ばかりだ。
グスッ。
おや?おかしいな?目から汗が出て来るよ。
その後泊まっていけ!と大変情熱的に引き留められた俺達は、村長さんのお家にご厄介になる事になった。
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