イケメンがやってきやがりました
「コレ、採らないならもらっても良いか?」
サラサラと流れる赤みの強い茶色の髪、人懐っこそうな深い緑の瞳。
キリッとした眉に、スッと通った鼻筋。
驚くほどのイケメンだ。
服の上からでもわかる締まった筋肉。
特に腕がすげぇ。
あんまり太いわけじゃないのにこう、ムキッとしてる。
胸とか腕とかの最低限の場所だけ守る(ライトプレートって言うんだっけ?違ったっけ?)革の鎧を着けている青年。
多分俺と同じくらいか、一個二個上くらい。
「え?」
聞き間違いかな?
彼が持っているのは、エゲツない毒キノコ中でもとりわけエゲツない、食べたら気持ち良くなってそのままキノコの温床にされちゃうやつ。
「……誰か、殺したいんですか?」
「は?」
思わずポロリと零れた俺の言葉に青年はキョトンとした顔で首を傾げる。
あざとい。
世の女性達が見たらキャーキャー騒ぐような仕草だ。
お前は俺の敵だな?
「ソレ、一口食べたら人生終わるキノコですけど、誰かに食わせるんですか?」
ヒヤリと心を占める暗い気持ち(嫉妬などではないぞ!決して!)につられて声が固くなる。
じっとキノコを見て、俺を見てを繰り返して言葉を咀嚼し終わったのか冷や汗をかき始める青年。
「……え?コレ毒キノコなのか?こんなにうまそうなのに?」
「ソレ食ったら生きたままそのキノコの温床になって一生をそのキノコに捧げる事になりますよ。それでも良ければどうぞ」
「げっ!」
症状を論うと、慌ててキノコを投げ捨てる。
嫌そうに手を振っているのでウォーターボールでも、と水を出すイメージをしてみた。
ばちゃり!
バケツ一杯分くらいの水が俺と青年の間で零れる。
「…………」
「…………」
…………失敗した。ちくしょう微妙な空気だぜ……。
もう一度しっかりイメージする。
今度は消毒出来る水で、空中に留まり中で手が洗える様に……。
むむむむむ。
たぷん
出来た!
バスケットボールくらいの大きさの水球が浮いている。
思わずガッツポーズしてしまった。
「手も洗っておいた方がいいですよ。キノコは胞子で繁殖するから。万が一口に入った時がやばいです」
「……」
信じられないものを見た様な顔で水球を眺める青年。
毒とか疑ってるのか?
自分で見本を見せる様に手を突っ込んで洗うと、水球を青年の方へ動かす。
「どうぞ?毒とか入ってませんよ?」
「お、おぅ…すまん……」
ふよふよと漂ってくる水の塊に子猫の様に目をまん丸にしている。
俺の言葉に背を押されるかの様におっかなびっくり手を入れた。
彼は腰に付いているポーチを開けて縁に付いている付箋の様な白い紙を一枚取り出す。
三センチ角の小さな紙片で、改めて水の中に片手を入れて水を掬うとその紙ごとゴシゴシと洗い出した。
(紙石鹸か!この世界にもあるんだな…)
ふわふわした泡ではなく、こう、ネッチョリした感じの白いドロドロだけど、手に付いていた汚れは落ちていた。
丸ごと手を突っ込んで汚れを洗い流した青年はズボンで乱暴に手を拭くと向き直った。
それ、汚れたズボンで拭いたら意味がないのでは?
「オレは『飛竜の庇護』のオーランド、見ての通りハンターだ。剣士をしている。助かったよありがとう」
さ・わ・や・か〜⭐︎
白い歯がキランッと輝く歯磨き粉のCMみたいな笑顔だった。
なんだソレ!
隠キャを殺す気か!
でも多分コイツが大上神様が言ってた『お人好し』だと思う。
隠しきれない良い人オーラが溢れてる。
安心して頼ろう。
「俺は霧斗です。信じてくれるかはわからないんだけど、ここじゃない世界からここに来てしまって。着の身着のままで、お金もほとんど持ってなくて……悪いけどここから一番近い街まで連れてってくれませんか?勿論少しだけですけどお礼も出します!」
困っていることを隠しもせず、むしろ誇張してアピールしてみる。
何というか、予想通りすぎて肩透かしを食らうくらい簡単にこちらを信用してくれた。
そして仲間達に相談してみてくれる事に。
ていうかオーランド君、君もう少し警戒しようよ。
いや、俺としては助かるんだけどね?
キノコを狩りながら話を聞くと、現在クエスト受注中で、グリーンフライフォックスって言うキツネの毛皮を集めているそうだ。
どうしても今週中に十五匹分の毛皮を集めなくてはならないらしい。
それはかなりギリギリの納期で、オーランド達のパーティ『飛竜の庇護』は無理をして集めなくてはいけないそうだ。
結果、他の三人がギリギリまで粘って集める事にして、足が早くて力のあるオーランドだけが先行して野営設営する事になったそうだ。
しかも話を聞く限り、俺があの広場から離れてすぐくらいだと言うからため息しか出ない。
俺のタイミングの悪さときたら全く。
相変わらずツイていない。
とりあえず付近の食べられる素材をパパパッと集めて広場へ向かう。