37 念願のダンジョンアタック
風呂場騒動の翌朝、改めてダンジョンに向かう。
移動スピードは通常通りだ。
デイジーも小まめなヒールと、キチンと取れる食事と、休養で、かなり回復してきている。
大きな荷物と、華奢な体は変わらないが、昨日に比べて足取りがしっかりしていた。
そんな彼女は、ニコニコと薬草や木の実を回収している。
『飛竜の庇護』の皆は、拾ってない素材ばかりだ。
不思議に思って理由を聞けば、少し手間は掛かるが、調合すれば簡易的な回復薬になるらしい。
水と道具がありさえすればタダで作れるんですよ、と嬉しそうに話してくれた。
「この草の根が、大事なんです。綺麗に洗って、煎じて回復薬のベース素材に使用するんです。葉っぱは、薬には使いませんが、お茶になるので、一緒に回収しちゃいます」
「木の実は、カラカラに乾いた物で無いと、余計な成分が混じって薬効が出ません。確認して拾ってください」
等、詳しく説明してくれるのでわかりやすい。
回復薬の作り方は小学校の理科の実験みたいだな、と思いながら、引っこ抜いた薬草を水魔法で洗いつつ、鞄に吊るして干しながら歩く。
俺とデイジーの鞄は、瞬く間に葉っぱでモッサモサになった。
オーランドとヤンスさんが葉っぱの妖精か何かか?と笑っているけど、気にしない。
採取出来るものはやっておくに越したことはない。
程よく乾いたところで、【アイテムボックス】に放り込む。
残りの処理は、野営地でだ。
今回は、寄り道などしなかった為、昼前に着いた。
簡単な携帯食で昼食を取る。
塩っぱめなカロリー●イトって感じで、美味しくは無いけど、不味くも無い感じだった。
早速、ダンジョンに入ってみると、入口付近のあからさまな罠が復活していた。
ロープと石も復活していて、それそのものが、ダンジョンの罠だったのだと気づいた。
確かに、態々罠に引っかかりたい人はいないもんな。
念の為【鑑定】してみると、下には泥沼があって、一人では登りにくくなっている。
落ちる角度が悪いと、窒息死しそうだ。
怖いわー。
ヤンスさん、オーランド、デイジー、そして俺とエレオノーレさん、ジャックの順で入っていく。
本来は俺とエレオノーレさんの間に回復役であるデイジーが入るのだが、マッピング指導の為ちょっとズレている。
改めて教えられた通りにメモを取り、マッピングしていく。
今回はすぐに探索魔法を起動して、辺りを警戒する。
俺が二十歩歩く度に、みんなが一度止まって辺りを見回す。
マッピングってクッソめんどいな。
でも、ここが本当に、マジックアイテムの出るダンジョンであれば、この地図もお金になるのだから、しっかりメモを取る様に言われている。
薄くマス目を引いたメモ用紙に(方眼紙などは売ってなかったので俺の手作りである)一コマ一コマ丁寧に書いていく。
ちなみに、メモでは一コマを一歩、全体の地図は一コマを五歩で統一すると便利である。
農村で、教えてもらった地図と、探索魔法と、書いている手元の地図を、照らし合わせつつ進んでいく。
まずは、教えられたポイントで採掘するのだ。
教えてもらったのは、下のフロアに降りる階段とは別の方向にある、採掘ポイントだ。
少し広い部屋みたいになっていて、そこの壁から少量出てくる様だ。
「はーいみんな止まってー」
六十二回目の十三歩目で、ヤンスさんが足を止めた。
数歩先の地面をじっと見て、指でそっと押す。
簡単に地面の一部が、数ミリ沈んだ。
「スイッチだ。何が起きるかわかんないけど踏まないに越したことはないよねー」
そう言って、チョークでガリガリと、マーキングしていく。
俺は教えられた通りにスイッチ罠のマークを書き込んだ。
探索魔法を確認すると、そこにも罠マークが付いている。
自分の魔法ながら、なんとも器用だ。
念の為【鑑定】してみると、そのスイッチを踏むとアラームが鳴って、モンスターが複数体現れるらしい。
メモに書き添えておく。
スイッチ罠を避けて進むと、教えられた通りに、広場の様な場所に出た。
サッカーコート一枚分くらいの広さだ。
天井が高く、ドームの様に丸くなっている。
四隅には不思議な模様の柱が四本立っていた。
なんか、インドとか、アラビアとか、そんな感じの不思議なデザインだ。
どこかでさらさら水が流れる音がする。
「ここ、だよな?」
オーランドの質問に、多分とだけ応える。
自分で作った地図と、教えて貰った地図を並べて見せて、現在地を指差す。
部屋を歩いてサイズを確認しなくてはならないが、完璧に安全とは言い難いので、オーランドやヤンスさんの指示に従う。
来いと言われたらそちらへ行き、止まれと言われたら素直に止まる。
おいコラ、オーランド。
俺で遊ぶんじゃない。
しばらくふざけたオーランドに遊ばれて文句を言う。
探索魔法でザッと確認した範囲では、罠も、敵も、見当たらない。
村のおっちゃんの言でも、ここは安全地帯だとの事。
警戒をしつつ、ぐるっと壁沿いに歩いて広さを測り、書き込んでいく。
端の方には小さな小川というかせせらぎというか水が流れていた。
水が流れる音はここからだった様だ。
反響している様で、結構距離があるのに、はっきり聞こえる。
安全地帯にはモンスターが出なくて、水源があり、一定の広さがあるとのことだったので、多分ここで間違いがないだろうと皆で結論付けた。
向かって右側の、壁の一部が荒れていた。
恐らく彼処が、採掘ポイントなのだろう。
こっそり【鑑定】で確認する。
「ほんっと意地が悪いな!ダンジョン!」
採掘ポイントは、荒れた壁の向かい側、向かって左の壁だった。
確かに、右側の荒れている場所でも、ごく僅かの蛍石は産出される様だが、粒が小さく、質が低いそうだ。
ちなみに【鑑定】結果は以下の通りである。
発掘ポイント 下(右の壁)
ダミーの発掘ポイント。小さな粒で質の低い
鉱石、原石が採れる。産出量はごく僅かな量
である。
発掘ポイント 中(左の壁)
発掘ポイント。小振りではあるが、良質で色
味の良い鉱石、原石が採れる。採掘量はそれ
ほど多くはない。
ちなみに、農村のおっちゃんが教えてくれたのは、右のダミーの方だ。
小粒で質は悪いけれど、安全に採掘できるのだと。
まずは、ここに拠点を作る。
そして、今日はここの採掘をしたら、探索はお終いだ。
明日一階フロア全体を探索して、地図を完成させたら採掘する。
結果が芳しくなければもう一階層降りて、探索&採掘だ。
天幕を張って、外から持ち込んだ石でしっかり竈を作る。
ここまでは俺と、エレオノーレさんでトーチの魔法を使用してきたけど、ランプを高い位置に吊り下げて、ホール全体を照らす。
勿論、細かい作業をするときは、手元でトーチを使うけどね。
さて、では採掘だ。
問題は、ここのダンジョンの意地が悪いこと。
とりあえず、本当の採掘ポイントは向かって左の壁だと、オーランドに耳打ちしてみる。
ヤンスさん、エレオノーレさんと話し合った結果、全方面、少しずつ掘ってみる事になった。
分かりきっていた事だけど、発掘ポイント中から採れたものしか、まともな蛍石は出なかった。
時間いっぱい掘って、ギリギリ最低納品ラインくらいは、集まった。
勿論、他の鉱石もそこそこの品質の物も出てきていた。
ヤンスさんが警戒にあたり、オーランドとジャックがガンガン掘って、めぼしそうな石をエレオノーレさんとデイジーが削り出す。
ある程度露出した原石を俺が【鑑定】して、麻袋に種類別に仕分けして、漏れ無く【アイテムボックス】に収納した。
その日の夜、調合を教わったのだが、俺には才能が無い事がわかった。
三回失敗した後に、デイジーから優しく素材の処理をしろと言われてしまった。
しょんぼり。
俺不運を読んで下さりありがとうございます。
ブックマークを付けてくれた方、評価して下さった方、感謝します。
霧斗は料理は出来るけどお菓子は作れない人です。
どうにも大雑把で調合はダメな人ですね。
料理は芸術、お菓子は科学です。




