間話 ○視点 デイジー 【はじめてのお風呂】
思いついて、どうしても書きたくて書きたくて仕方なかったので、初の間話として差し込ませて頂きます。
内容はほとんどないので、読み飛ばしていただいて何ら問題ないお話です。
お風呂。
それは貴族やお金持ちの人が入る、一流のステイタス。
「やべぇよ!キリトがやらかした!風呂、作っちまった!」
それはわたしが『飛竜の庇護』に保護されてすぐのことだった。
キリトさんは、穴熊亭に宿泊して、宝物を仕分けを終え、わたしの旅支度を整えたあと、「風呂の準備をする」と言って部屋を出て行ってしまった。
皆はタライを借りに行ったのだろうと待っていたのにいくら経っても帰ってこない。
いい加減おかしいな、と感じる頃、窓の外からヤンスさんを呼ぶ声がした。
返事をして下を覗いたヤンスさんの顔色が一気に青くなる。
相談したい事があると言うキリトさんに応えて、窓から飛び降りていくヤンスさん。
窓から見下ろすと、さっきまで無かった謎の建物が出来上がっていて、その裏でキリトさんがヤンスさんに叱られているのが見える。
(うわ!あれは痛い……)
ゴチン、とここまで響くゲンコツの音に、叩かれたのはわたしではないけれど、自分の頭をさすってしまう。
「オレ、ちょっと様子見てくるわ」
その様子を見て、オーランドさんが足早に部屋を出る。
そして慌てて駆け戻ってきた。
「やべぇよ!キリトがやらかした!風呂、作っちまった!」
意味が、わからなかった。
お風呂を、作る?
キリトさんにとって、お風呂の準備とはタライを借りることではなく作る事?
ちょっと、頭が、考える事を拒否してる。
その後、宿の女将さんとヤンスさんの交渉により、わたし達はキリトさんが作ったという『洗い場』に足を踏み入れた。
「ふわぁぁぁ……」
「これは、すごいわね……」
三方を壁に囲まれた洗い場。
白い石の中に黒や灰色が混じっていて、いかにも高級そうだ。
しかも表面がツルツルしていて、全てが一枚に繋がっている。
着替えや荷物を置ける棚まで備え付けられていて、エレオノーレさんとそこで服を脱いだ。
服を着てても思ったけど、脱ぐとよくわかる。
とても、大きい。
たゆんたゆんである。
思わず自分のものと見比べてしまった。
部屋の奥、中央に白い陶器で出来た大きなお椀があった。
白い陶器の下には猫の足の様な金色の棒が4本あって、それで陶器を支えている。
中には温かそうなお湯がたっぷり入っている。
これはお話で聞く湯船というやつだろうか?
エレオノーレさんを見上げると、嬉しそうに頬が緩んでいる。
「ちゃんとしたお風呂なんて何年ぶりかしら!」
エレオノーレさんは鼻歌を歌いながら、備え付けられていた小さな桶で身体にお湯を掛ける。
成程、そうやって洗うのか。
真似してお湯を掛ける。
(き、きもちいい!お湯ってだけでこんなに違うんだ!)
エレオノーレさんの真似をしながら、持ってきた石鹸を泡立てて髪、顔、身体と順に洗って行く。
小さな小瓶に入った香油をお互いの髪に塗りっこして、さああがろうとすると、なんとエレオノーレさんがお湯の中に入って行く。
「え?!」
「ああ、お風呂ってね、お湯に入るのよ。本当に気持ち良いからデイジーも入ってきなさい」
隅の方にズレてくれるけど、そんな贅沢をして良いのかしら?
だってこの後このお湯まだ使うのよね?
「お湯の心配しているのなら大丈夫よ。キリトがまた新しいのにしてくれるから」
終わったらここの栓を抜いてお湯を全部捨てるのですって、と蒸気に火照った綺麗な顔で微笑むエレオノーレさん。
同性のわたしでも、ドキドキしてしまう。
「あ、あの……じゃあ、お、お邪魔、します」
恐る恐る足をお湯に入れると、少し冷えた足先にピリッと熱い。
思わず引っ込めると、エレオノーレさんが笑ってもう一度桶でお湯をかけてくれる。
「ほら、これで大丈夫。早く入ってごらんなさいな」
「は、はいっ」
もう一度入ると今度は丁度いい。
温かいお湯に包まれると、全身から力が抜けて行くような、疲れが抜けて行くような、そんな幸せな気分になる。
「ふあぁぁぁぁ……っ」
気の抜けた声が自然と出てしまって、慌てて口を塞ぐ。
「ね?気持ち良いでしょう?」
艶やかな微笑みに全力で頷いて、肩まで浸かる。
(き、きもちいいいぃぃぃぃっ)
全身が溶けてしまうかと思った。
エレオノーレさんに声を掛けらなければそのまま眠ってしまったかもしれない。
身体を拭いて、新しい服を着る。
心も身体もぽかぽかだ。
わたしはお風呂が一気に大好きになってしまった。
ああ、明日も入りたいなぁ……。
ちなみに、レジーナのお家にあるのはタライ風呂です。
深めのタライで、中には浸からないタイプです。(霧斗は浸かりましたが)
お貴族様時代のエレオノーレさんはもちろん毎日お風呂に入るお嬢様でした。
何故ハンターになったかは、また別の機会に。




