36 風呂は大切
2024.03.09 デイジーの荷物について修正致しました。
内容に大きな変化はありません。
あり得ない身軽さで降りてきたヤンスさんは、笑顔なのに目はちっとも笑っていなかった。
「なになに〜?ヤンスお兄さんに相談って、何かな〜?」
いつもより若干チャラウザめなヤンスさんに、あらましを説明すると、まず壁の裏に連れて行かれて叱られた。
鉄拳制裁だったよ。
とんでもない魔法をメンバーの目のない場所で勝手に使うな、から始まり、迂闊が過ぎる状況を見て動け、ナンパするな、等、語彙力高めに教育的指導された。
俺の魔法の使い方はこちらでは異常であり、権力者に目を付けられたらどうするのだ、と言われたけど、権力者なんてこの辺りにいないじゃん。
ついでに「ナンパなんてしてません」と抗議したら三倍くらいの言葉が返って来た。
しょんぼり。
その上で女の子達には、女将の了承を得ないと何とも言えないと話し、許可を取りに行く。
そして、ここからが凄かった。
おばちゃんに許可取りに行ったら、「洗い場をそのまま残しておいて、自分達が今後商売に使用しても良い」なら、今日は、彼女達も使用して良いとの事。
それに対し、ヤンスさんは「商売に使用するのなら建築料を請求する」とし、大舌戦の末、大銀貨八枚(約八十万だ!)をせしめていた。
ヤンスさんとおばちゃんとのやり取りが、歴戦の猛者だった。
あまりの凄さに、ギャラリーが大勢出来た。
しかし、おばちゃんもそこで終わらなかった。
その場で、洗い場の宣伝をして、ドアも鍵も取り付ける様に、と条件を出してくる。
もちろんやるのは俺。
鍵は宿側が取り付けるそうだけど、蝶番めっちゃむずいよヤンスさん!
これ、買った方が早いって!
最終的には、小部屋の使用料を払えば、誰でも使える様になった。
宿を取ってなくても、空いていれば、近所の人も使用できるらしい。
ほとんどの人は、自分の家で洗うから使わないんじゃ無いのかな?
そして、お金を請求する都合上、お風呂もタライじゃ無くて小さな湯船になった。
これも土魔法で作らされたよ。
底に水抜き穴を付けて、栓をする形。
イメージは、白い陶器の猫足貴族風呂。
排水溝も作りました。
お湯は三分の一、半分、八割の三つで、それぞれ小銅貨五枚、大銅貨一枚、大銅貨二枚になっている。
熱めのお湯で渡されるので、井戸水を汲んで熱さを調節するらしい。
魔法でお湯を出す(水を出してトーチやファイヤーで温める)場合は、部屋の使用料のみ。
勿論、今までのお部屋でタライプラスお湯でも大丈夫だ。
外からの利用者は、割増料金。
なんか、釈然としない。まぁ良いけど。
とりあえず、うちのパーティ皆の使用料金は、永久に0だ。
ヤンスさんが、これだけは譲らない、とゴリ押ししていた。
とりあえず風呂に入れればそれで良しとしよう。
人垣を押し退けて、お湯を張る。
ジャックが、殺気の様な闘気を放ちつつ睨み付けると、さぁっと野次馬が離れて行く。
それでも、遠巻きに見ているけどね。
「入りにくいわね」
「で、ですね……」
女性二人が、すごく居心地悪そうにしている。
これじゃ、お風呂に入る意味ないじゃん。
お風呂はリラックスする所なんだからな?
仕方ない。ここは俺が一肌脱ぐか。
「宿の受付カウンターで、利用予約を取っていますよ。早くしないと埋まっちゃうかもしれませんが、皆さんは利用しない方達で、良いですか?」
少し意地の悪い言い方だが、追い払うのには効果的だった。
ほとんどの人が、言葉が終わる前に回れ右して、走って行った。
今頃は、カウンターに人だかりができているかもしれない。
女将さん(自業自得なんだから)頑張れ。
しかし、そのおかげで、ウチの女性陣は安心して、ゆっくり入浴出来た。
二人が上がった後は勿論俺だ。
久々の湯船を満喫して、他のメンバーに代わる。
六人全員が上がれば、先程声を掛けて来た、二人の少女だ。
今回だけ特別に、俺がお湯を張る。
たっぷりのお湯で、ゆっくりリラックスしてもらいたいものだ。
そんなこんなで、夜遅くまで洗い場は賑やかだった。
翌朝のおばちゃんの笑顔は、しばらく忘れられないと思う……。
どんだけ儲けたんだ……。
いつも『俺不運』を読んでくださってありがとうございます。
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誤字報告も本当に助かります!
さて、お風呂が終われば今度こそハンターらしくクエストがスタートします。
そろそろちゃんと冒険して下さい!(笑)




