35 お風呂事情
さて、色々あって、なんか無駄に疲れた気がするが、まだまだ終わりじゃない。
ロヤマル金貨を一部両替してもらわなくてはならない。
家具とか、マジックアイテムとかの大きな買い物をするならロヤマル金貨でも良いんだけど、普段使いには大きな金額過ぎてお釣りが用意できない事がある。
デイジーは、二枚分で、俺は一枚分。
皆は、好事家に売るつもりだから、そのままにするらしい。
ハンターギルドに入って、相談カウンターへ向かう。
多少訝しがられたけれど、ダンジョンのドロップ品で手に入れたのだ、と話すと納得された。
使いやすい様に、小銀貨と大銅貨に替えてもらう。
ジャラジャラと、大量になったお金は一旦【アイテムボックス】へ。
両替して使いやすくなったお金で、デイジーには、身支度品を買い揃えてもらう。
財布用の丈夫な革袋、天幕、石鹸、下着や替えの服、マントや毛布、ランタンにその他諸々大きなリュックに詰めて持たせたものの、重くてふらふらしている。
特に天幕は小柄なデイジーには大き過ぎる様だ。
一人用とはいえ、折り畳み式の柱が四本、大きな防水布が一枚、扉代わりの小さい防水布一枚でかなりの重量だ。
多分五キログラム近くある。
今までは毛布一枚にくるまって寝ていたらしい。
他の奴らは二人用の天幕を男達がそれぞれ持っていたそうだ。
この話を聞いた時には、奴らに更に殺意が湧いた。
「ここまで、ちゃんとした装備を備えられるのは嬉しいです」
本人は喜んでいるが、倒れるのは時間の問題だ。
ふらつく後姿に、こっそりヒールを掛けてみると、途端に足取りがしっかりした。
痩せているのが治ったわけではないけれど、ふらつきが治った。
オーランドから、白い目で見られている気がするけど気のせいだ。
本人は不思議そうに自分の体をあちこち見ている。
これからも隙を見てちょいちょいヒールをかけていこう。
買い物も済んで、再び穴熊亭へ。
今日は色々あったので、しっかり休んで、明日改めてダンジョンに向かう事になった。
皆、土埃や汗などで汚れてしまったので、タライ風呂に入る事に。
ついでに土魔法の練習をしてみる。
風呂の準備をする、と言って部屋を出た。
某錬金術漫画の様に、土壁を建てることにした。
扉なりカーテンなりを付けたらエレオノーレさん達も安心してお風呂を楽しめるはずだ。
失敗したら、した時で、その時は部屋でそれぞれ入ってもらおう。
宿屋のおばちゃんに話をして、裏庭の井戸の近くの場所を借りた。
どうなるのか、どう使うのかを確認させて欲しいとの事だったので、場所を案内してもらうついでに、見ていってもらうことにした。
裏庭は、十二畳くらいの広さで、中央奥に井戸が設置されている。
手前の方には、シーツなどを沢山干せる様に洗濯紐が張り巡らされていた。
井戸の横二畳くらいのスペースが使用できそうだ。
「この辺りを使わせてほしいです。この辺にぐるっと壁を建てて、中でタライとお湯を使いたいんですが良いですか?」
「その辺りなら問題はないけどアンタどうやって壁を建てるつもりだい?」
眉根を寄せて、胡乱げに此方を見つめるおばちゃん。
俺は、そんなおばちゃんにひとつ笑ってから、少し距離を取る様にお願いする。
両手をパンッと合わせて、某錬金術師の真似は忘れない。
地面に手をついて、しっかりイメージして、魔力を流す。
「壁、錬成!」
必要の無い、詠唱をしたりして。
三方を丈夫な壁に囲まれた洗い場。
土だと汚れてしまうので、石になる様に。
ザラザラだと怪我をしてしまうのでツルツルした大理石的なものをイメージする。
ちょっとした棚があると便利だろう。
排水するための管を開けて完成だ。
目を開けるとイメージ通りに出来上がっている。
大理石をイメージしたせいで、なんかめっちゃ高級そうになってしまった。
元通りにしようと思ったら、今込めたばかりの魔力を抜いてしまえば、簡単にできそうだ。
「……っなん、だい……これは……っ!?」
「洗い場です。使い終わったら元通りに戻しておきますので、このまま使っても良いですか?」
ぽかっと、口を開けたままのおばちゃんが、壁を見上げてペタペタ触って、確かめている。
中を覗いたり、二階を見上げたりしている。
「これは上から覗けそうだけど大丈夫なのかい?」
そうか、俺だけなら良いけど、女性が使うにはまだ甘いか。
でも天井は蒸気を抜くのに邪魔なんだよな……
うーん……ぐるりと周りを見回すと屋根が目に入った。
そうか!あれだ!更衣室とかのドアにある斜めの板を並べたやつ。
アレを窓から見えない角度にして、天井にすれば、湯気は抜けていくから大丈夫だろう。
早速、土魔法を使用して作る。
うんうん。
イメージ通りだ。
「これで上から覗くこともできませんね。俺では気付けませんでした、女将さん、ありがとうございます。女性の視点は有難いですね、やっぱり」
「いやはや……アンタ、とんでもない魔法使いだったんだね……」
ドン引きするおばちゃん。
えぇ……これもダメですか?じゃあこの世界の魔法使いって、なんならできるのよ?
とりあえず使って良いよって事だったので中にタライを入れて、ドア代わりの防水布を掛ける。
お風呂はレディーファーストだ。
エレオノーレさんとデイジー、見張りのジャックを呼ぼう。
「うわっ!」
「「きゃぁっ!」」
振り向いたら、人にぶつかりそうになった。
十代後半の女性が二人だ。
反射的に謝ると、彼女達も自分達が近寄りすぎたせいだ、と謝り返してくれた。
二人はハンターで、ここの宿を常宿にして、仲間と四人で活動しているそうだ。
今日は休息日で、部屋でのんびりしていたところ、おばちゃんの驚いた声が裏庭から聞こえてきた。
声に釣られて外を覗いたら、見たこともない建物が建っていた。
偵察がてら降りてきたら、なんと洗い場だと聞こえるではないか。
もっと良く見たい、と覗き込んだところで、俺と鉢合わせたのだとか。
二人はお金は払うから、自分達も使わせてもらえないだろうか?と言ってきた。
どうしよう、こういう時ヤンスさんがいてくれたら良いのに、と部屋を見上げると、そこには丁度ヤンスさんが。
「ヤンスさーん!」
「どしたー?」
「ちょっと相談したい事があるんで降りてきてくれませんかー?」
お願いすると「オッケー」と軽い返事と共に、ヤンスさんが降ってきた。
サンッと、二階から飛び降りたとは思えないくらいに静かな着地音。
まじビビる。
いつも『俺不運』読んでくださってありがとうございます!
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ポカミスも多いですが、頑張って参ります。
次回はお風呂の交渉です。
ヤンスの交渉術が火を吹きます。




