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33 お宝の仕訳とダンジョン事情

 窓からヤンスさん達が買物に行くのを見届けて、オーランドに声を掛ける。


「オーランド、デイジーに俺のスキルの事どこまで話した方が良い?【アイテムボックス】はもう見られてるから、それだけで通す?」

「……そうだな。流石にまだ【鑑定】は言えないな」


 一個一個【アイテムボックス】から取り出しては【鑑定】して、メモを付けたら戻す、という作業を繰り返しながら小さい声で話し合う。

 まずは、幾つかクエストをこなして、信頼関係を築いてから正規メンバーになったら話そう、という事になった。

 それまでは『どうでも良いことは良く知っているけど、常識が足りない』奴として、対処していくことにされた。

 学者先生とかにそういう人は多いらしい。

 なんかものすごい不服なんだけど、【鑑定】を誤魔化すには、それしか無いのだから仕方ない。

 そこまで決まったら、後は【鑑定】を続けるだけだ。


 宝石は袋に名前を書いた紙を入れて、口を縛る。

 装飾品も、使われている宝石とベースの金属をメモして一つずつ麻袋に入れていく。

 金貨は、一旦ステイで。


 基本的に、箱入りの物はマジックアイテムの様だ。

 あのティアラとかの三点セットは、やっぱり凄かった。

 毒無効、麻痺無効、即死無効が其々に付いていて三つ揃いでつけると防媚効果を発する、とかいうとんでもアイテムだ。

 千年くらい前の、女王様専用アイテムだったみたいだな。

 デザインもクラシックではあるものの、品が良くて、曇り一つない宝石に、落ち着いた色味の銀細工は溜息が出るほど美しい。


 目を付けていた蝶々のブローチはマジックアイテムで、身に付けた者の不幸をひとつだけ防いで、幸せを運んでくれるらしい。

 コレは是非ともお世話になったマチルダさんに贈りたい。

 配分が終わったらなんとか買い取らせてもらおう。


 他にも、魔力を上げる指輪とか、祈りの指輪、回復を早くするネックレスとか、カフスとサークレット、指輪の魔法使いの為の三点セットみたいなのもあった。

 この辺は、エレオノーレさんや、デイジーに良いかもな。

 俺も、体力回復の指輪は欲しい。

 皆の装備補強に、良いかもしれないな。


 ほぼ、【鑑定】と仕分けが終わった頃に、ヤンスさん達が帰ってきたのが、開けっぱなしだった窓から見えた。

 でっかい木箱を、六つとかジャックすげぇ。

 片手で三つずつ持って運んでる。

 他のみんなも籠や袋、紐等を沢山持っていた。

 デイジーは紙の束だ。


「「おかえりー」」

「ただー」

「ただいま」

「ん、ただいま」

「え?あ!はいっ!ただいまです!」


 ドアを開けるとヤンスさん、エレオノーレさん、ジャックはいつも通りの返事をした。

 デイジーだけはまだ慣れないのか戸惑いつつも、嬉しそうに、破顔して返事をした。

 めっちゃかわいいな!

 本来は、明るい子なのかもしれない。


「じゃあ改めて、今回の戦利品を分けていこうか」


 リーダーであるオーランドが話し始める。

 椅子を並べて、輪になり全員が頷く。


「でも、まず最初にデイジー、ようこそ『飛竜の庇護』へ!歓迎するよ」

「「「「ようこそ!」」」」

「あ、ありがと、う、ございましゅっ!あっ!」


 ワーパチパチパチーと、拍手で歓迎していたらデイジーが噛んだ。

 ドジっ子属性か。

 ふむ。

 イイネ!

 皆が、生温かい視線でドジを流して自己紹介していく。

 俺も【アイテムボックス】持ちのポーター兼魔法使いだと名乗った。(嘘はついていない)


「で、キリトなんだが、常識は無いが、審美眼は凄いんだ。アイテムの鑑定なんかも出来る」


 オーランドが俺の背中を叩きながら言う。

 力が強い、めっちゃ痛い。


「そんなキリトが今回のアイテムの中にマジックアイテムがあると言った」

「「「え?!」」」

「は?」


「はい?」


 あれ?皆の反応おかしくない?

 やったーとか、ラッキーとかみたいなの、無いの?


「しかも、複数だ」


 オーランドが、苦虫を噛み潰したような顔で言う。

 誰もが、息を飲む。

 おい、なんかおかしいぞ?


「皆の意見が聞きたい。このアイテムを、装備するか、売り払うか、秘匿するか、を」


 自分の膝に、肘を付いて指を組み口元に当てる。

 所謂ゲンドウポーズを、亜種でキメるオーランド。

 見回せば、何故か皆同じような疲れ切った顔をしている。

 ちょっと待て、ちょっと待て、情報を整理させてくれ。

 これ、そこまで大事なのか?

 オーランドに「意味が解りません!」とアイコンタクトしてみると、溜息を吐いてデイジーを見る。


「あー……デイジー、君にはまだ言っていなかったことがある。そこのキリトは『迷い人』なんだ。多分、今どんだけ大変な事になっているか、分かっていないと思う。ちょっと説明してやってくれるか?」


 デイジーが信じられないものを見た!みたいな顔で俺を見た。

 そして震える声で、説明を始める。


 まず、この世界ではダンジョンと呼ばれる物が、二種類ある。

 一つは資源が出るダンジョン。

 そしてもうひとつがマジックアイテムが出るダンジョンだ。


 資源が出る方は高価な素材が多く採れ、採取系クエストになる事が多い。

 素材によって難易度が変わってくるので、新人からベテランまで広い層のハンターが利用する。

 宝箱などは出ない。

 モンスターも、素材に良い物が多く、偶に今回の様に、ボーナスフロアがあって、予想外のアイテムが出る事はあっても、マジックアイテムが出ることは無い。


 もう一つのマジックアイテムが出るダンジョンは、Cランク以上の高ランカーたちが挑戦する、高難易度のダンジョンである。

 強いモンスターも多く出現するし、低ランクのハンター達は入場自体を制限され、周囲の街や村は好景気に沸く。

 しかし良いことばかりでは無い。

 スタンピードの対策を取らねば危ないし、間違っても、一般人が迷い込めない様にしなければならない。


 そして、今回皆が頭を抱えている理由が、『資源ダンジョンだと思っていたダンジョンからマジックアイテムが出た』という事だ。


「お、大事じゃん……」

「大事、なんです……」


 成程。

 納得した。

 今までそんな重要視されて無かったダンジョンが、急に価値を持ってしまったのか。

 鍋敷きだと思ってたのが、芭蕉扇だったってくらい驚きだ。

 しかも、まだ確定では無い所も、問題のポイントだ。

 今回手に入れたマジックアイテムは『ボーナスフロアから出た一回限りのアイテム』だという事。

 宝箱から出たわけでも無い。

 ギルドに報告するにしても、何の確認もせずに報告は出来ない。


「アイテムは、わかんない様に装備しといて、無かった事にしようぜ。指摘されたらそうだったんですかー?!って言えば良いじゃん。シラ切ろうぜシラ」

「そうね、それが一番妥当かしら。金貨と各自装備出来そうなマジックアイテムを着けてから、残りはパーティ財産とかで良いんじゃ無いかしら?」


 面倒くさそうに鼻白みつつ、ヤンスさんが言い放つ。

 背もたれに体重を掛けて、前後にユラユラしている。

 何であの体制で倒れないのか不思議だ。

 良識派のエレオノーレさんも、賛同しているし、その横のジャックも頷いている。

 オーランドも「だよなぁ……」と、でっかい溜息を吐いていた。


 結果、ダンジョン自体を急いで確認する必要は無い、という事になった。

 魔物に異変があった訳でも無いし、ここで焦って調べなくてもスタンビートなどの心配も現状ではなさそうだという判断らしい。

 既に、受注した納品クエストもある訳だし、そちらをクリアして手が空いたら、で構わないのでは無いか?

 むしろ誰かが気づいて、先に報告とかしてくんないかなー、とか考えている。


 嗚呼、面倒な事になってしまった……。

 いつも『俺不運』を読んでくださってありがとうございます。

 ブックマークして下さった方ありがとうございます!

 大変励みになります。

 これからも頑張りますので、どうか霧斗達のゆるめな冒険をよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] これが災い転じて福と成すの効果か。福の後に厄介が来たのは呪いの所為かな。
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