32 助けた女の子とお宝
昨日の今日なので、農村には寄らずヒメッセルトまで真っ直ぐに向かう。
門でハンターカードを見せると、驚かれたけれど、デイジーを見て何故か納得していた。
宿の食堂で、話を聞いた皆は、彼女にパーティ脱退を薦めた。
勿論、俺もだ。
荷物類を全部置いて逃げてきたので、無一文、着の身着のままの彼女は下級神官だそう。
小さな傷や簡単な病を、祈りの力で治せるそうだ。
ヒールとかかな?
今、デイジーは柔らかく煮込まれた野菜のスープを大切そうに、ゆっくりと味わって食べている。
俺達も同じ物を食べているが、味は普通で、特別に美味いとは感じない。
俺的にはもう少し塩味がある方が好みだ。
この世界的にも、ちょっと長く煮込んだ普通のスープ、という感想だ。
その幸せそうな様子に、普段どれだけ粗食で食事が取れていなかったかが分かるというものだ。
デイジーのパーティメンバー許すまじ。
エレオノーレさんが言うには、タチの悪いパーティではよくある事らしい。
孤児院出身の神官職をパーティに入れて、ポーション代を浮かそうとしたり、弱そうな新米ハンターを仲間に入れて、サンドバックにして、使い捨てて、ストレス発散したりするらしい。
とんでもない奴等も居るものだ。
この街にあるハンターギルドで事情を話し、申請を出して、脱退処理をした。
事情の証明の為、デイジーだけ別室に連れて行かれたりもしたが、恙無く終わった。
本来であれば、パーティの共有資産から、頭割りした金額を抜いても問題ないのだが、こういうタチの悪いパーティの場合、追いかけてきてリンチしたりすることもあるそうなので、やめておいた方が良い、とギルドのお姉さんから止められた。
できる事なら、しばらくは『飛竜の庇護』に入っていると良い、とも。
言外に、他パーティの事情に首を突っ込んだのだから、お前達が責任を取れ、と言われている気がした。
多分、気のせいじゃない。
勿論、俺としては異論は無い。
だが、最近加入したばかりの俺が簡単に「良いよ」と言うわけにもいかない。
俺と、デイジー、ギルドのお姉さんの三人でじっとオーランドを見つめると、彼はニカッと笑って「責任持って守るよ」と言い放つ。
テライケメン。
久々にイラッとしたわ。
さすがに今日会ったばかりの彼女を正規メンバーにする訳にはいかないので、ソロハンターとして一時的に協力している形になった。
実際のところは保護である。
一時的な協力関係についてはヒーラーでは良くある事らしい。
話が纏まったところで、宿に戻って大部屋に入って、例の袋を見せる。
今回も、二人部屋と大部屋に分かれたよ。
ただし、今回は、男部屋と女部屋だけどな。ちなみに案内された部屋は、清潔感あふれる二階の南側の部屋だった。
袋を見たオーランドは、俺に待ったを掛けた。
窓を閉め、部屋の鍵を掛けて、俺にトーチの魔法を使わせる。
小声で「全員気配察知しろ」と言い、自らはドアの前に椅子を置いて座る。
それも、すぐに動ける様に浅めに腰掛けて。
腰につけられたままの剣が物騒だ。
「よし良いぞキリト。皆、驚くと思うが、大きな声は出すなよ?」
デイジーを含め、皆が神妙に頷いた。
真剣な表情のオーランドは、彫刻の様な凄みと冷たさがあった。
マジなイケメンめっちゃ怖えぇぇ……。
「さっきダンジョンで、落し穴に落ちた時にさ、これを見つけたんだよ」
部屋の真ん中に置いたテーブルに、袋の中身を出していく。
誰かの息を飲む音が聞こえた。
ことん、ことん
ーーコトン、コトン
ーーーーコトン、ゴトン
ーーーーーーごと、ごとん
(中略)
ゴト……
「いや、どんだけあんだよ?!」
スパーーン!!
六割くらいを並べたところで、ヤンスさんが突っ込んでくる。
大阪の漫才も真っ青なレベルのツッコミだったことを記しておく。
打たれた後頭部がちょっと痛い。
確かに、テーブルにはもう乗り切れない位に並んでいる。
作業用のテーブルにも並べようかと【アイテムボックス】から取り出す。
それからも黙々と並べて終了だ。
「「「「…………」」」」
「……わかる。コレ見て驚かない方が、異常だ」
大きく口を開いて、閉じる事の出来ない四人に、深く頷いたオーランドがチラリと俺を見る。
いやいやいやいや!そこで俺を見ないで!
なんで俺だけ驚いてない風なのさ?!
俺だって驚いてるからね?!
ちゃんと驚いてるからね?!
ふたつのテーブルに載る、沢山の宝石と、装飾品に、金貨の山。
そして金、銀、鋼のインゴット。
大体の塊で纏めてるけど、それでもテーブルから溢れそうだ。
皆で、大体何があるかを確認していく。
「とても品質の良い宝石ばかりね」
光に翳しながら宝石を見たエレオノーレさんが感想を溢す。
宝石は、カットされた物が、恐らく同じ石同士で小袋の中に入っている。
小袋とは言え、俺が両手を合わせてギリ溢れないくらいの大きさだ。
直径十五〜二十センチくらいかな?
確か、硬度が違う石をぶつけると、割れたり、欠けたり、傷ついたりするんだよね。
宝石が擬人化した本で読んだ気がする。
そんな小袋が全部で四十八袋。
そして装飾品。
金、銀、宝石がたっぷり使われキラキラと眩しい。
薄い木箱入りの物と、裸で入っている物がある。
箱が十三箱と、裸のティアラとかクラウンとかが四つに、ネックレスが五本、ブローチが三つに指輪が二十六個。
ティアラとイヤリングとネックレスがセットになっている箱入りのセット等は一体どれだけの価格になるかわからない。
え?あれってダイヤモンドだろう?
違うかな?
あ、この蝶のブローチは、マチルダさんに似合いそうだ。
【鑑定】は後程ゆっくりやるとしよう。
デイジーにどこまで話すかは、皆と相談しないといけないし。
それから、金貨の山は二十枚ずつに分けて、十六本のタワーが立った。締めて金貨三百二十枚。
金貨自体は、過去の帝国、ロヤマル帝国貨という物だった。
この国の貨幣価値としては、小金貨(大体百万円くらい)と同等の価値になるそうだ。
ちなみに、コレクターに売っぱらえば三倍くらいにはなるそうだ。
え?待て待て、つまり?
今いくらあるんだ?
恐ろしくて頭が計算を拒否してるぞ?
そこに各三本ずつのインゴットだろ?
あれ?今めっちゃ金持ち?
皆の顔色が悪い。
多分俺もだ。
「ちょっと外の空気吸いに行ってる。んでもって麻袋か木箱買ってくるわ。人数分」
誰もが無言で視線を交わし合う中、ヤンスさんが立ち上がる。
それにエレオノーレさんもジャックも便乗した。
「じゃあオレも……」
「オーランドは護衛で残っとけ」
どっちがリーダーか分からないくらいの力関係だった。
見えない耳と尻尾が垂れ下がってるよ、オーランド……。
「キリトちゃんも留守番な。安全の為にアイテム全部仕舞っといて。デイジーちゃんは面倒だろうけど付いてきてくれるか?男二人と一緒じゃ息が詰まるだろ?」
ニカっと、人好きのする笑顔でヤンスさんが誘ったので、デイジーはこくこくと頷いて慌てて立ち上がる。
おいでおいでと手招きする、エレオノーレさんの隣にちょこんと収まった。
なんというかこう、小動物感があって可愛いよなぁ……。
ヤンスさんは、サクサクと人員配置を決めると、あっさり部屋を出る。
俺達は大人しく片付けを始めた。
とはいえ、【アイテムボックス】に入れるだけなので秒で終わった。
多分、この人員配置は言葉通りの意味もあるだろうけど、どっちかっていうと、リーダーと人に言えない秘密の保持者本人である俺に、例のスキルの相談をしろって事だと思う。
だよね?
いつも『俺不運』を読んでくださって、ありがとうございます。
ブックマーク大変励みになります!
新キャラも登場して、少し賑やかになり始めました。
これからも、わちゃわちゃしながらゆるく冒険していく霧斗達をよろしくお願いします。
2024.6.3 デイジーをパーティ正規メンバーから外しました。
以前より色々な方から急にパーティ正規メンバーにするのは不自然だ、とご指摘いただいておりましたので、こちらで修正しております。
ご指摘くださった皆様ありがとうございます。




