異世界に到着しましたが
ふわふわしていた身体が重力を感じ、すとん、と地面に足が着いた。
閉じていた瞼を開くとそこは森の中。
手違いが無ければ、ここは大きな街の近くの森のはずだ。
俺がいる場所は、森の中で、ちょっとした広場の様になっている場所だ。
下草も、踏みしめられている為生えておらず、固い土の地面だ。
隅の方に少し焦げた様な跡と、土を掛けられた木の枝の燃え滓みたいなものが見えた。
恐らくきっと焚き火の跡だろう。
適度に人の手が入っているのか、日が差して明るい。
木立がぐるりと囲む様にして生えていて、広場の左右に道が出来ている。
ツツジの様な低木も、所々に群生していた。
蝶々がひらりと舞い、小鳥の声が聞こえてくる。
パパパッと身体と顔を触って確認する。
全く違和感を感じない、いつもの俺だ。
懐にある財布もしっかり重たい。
落としたり失くしたりしていないようで、一安心だ。
そこらへんの小石や草を使用して【アイテムボックス】や【鑑定】の動作確認。
拍子抜けする程簡単にそれは発動して、使用しようと思えば普通に使用できた。
なんと言ったら良いのかアレだけど、ちょっと遠いとこにある看板を見ようと注意して目を凝らす感じや、ぴたぴたのジーンズのポケットの中から小銭を取り出そうってする感じに似てる。
ちょっと一手間?みたいな感じ。
勿論、物理的でなく魔力的に。
こう、すぅっと熱が抜ける感じで魔力が減るのがわかる。
地味に、言葉にして発動しなくても良いのが嬉しい。
厨二病は卒業したのだ。
俺は。
うむ。
念の為、小銭入れに大きな銀貨を一枚入れて、財布は【アイテムボックス】へ。
日本円はそのままだったのでこちらも裸銭ではあるが、【アイテムボックス】へ。
落としたら困るからな!
ふんす。
とはいえステータスはどんなに思っても出てこない。
呪文にしないと発動しない物もある様だ。
謎だなぁ……。
「ステータス」
お約束のステータス!ヒュンと軽い音を立てて目の前にウィンドウが現れる。
ちょっと感動。
俺は今異世界に来ているぞ!
キリト Lv.1 男 【状態異常:呪い(強)】
ジョブ 異世界人
スキル 【言語対応】
【アイテムボックス】
【鑑定】
【魔法】
【マナーブック】
【幸運】
【禍転じて福となす】
加護 大上神の加護
神候補者五名の加護
ふむふむ。
ちゃんとスキル付いてるな……ってなんじゃコラ!
状態異常ってなんだよ?!
しかも呪い(強)って……!
恨みがましく状態異常を眺めていると鑑定が発動したらしくポップアップウィンドウで説明が出てきた。
呪い(強)
異世界で先祖が受けた一族の呪い。
病や事故に遭いやすくなる。
重篤な後遺症が残りやすいが、この呪いの所
為で死ぬ事は無い。
永く苦しみを与える事が目的。
呪いをかけた本人が解除する以外は解呪は不
可能。
現在スキル【幸運】と打ち消し合い、呪い
(微弱)と同じ状態となっている。
なんと!
先祖の受けた呪いのせいだと?!
しかも解除不可とか……。
呪いをかけた本人はとっくに死んでるでしょー!?
【幸運】撃ち負けてるし……。
マジかーーー……。
呪い(微弱)を【鑑定】してみたら地味な不幸が訪れるとの事。
財布落としたり、絡まれたり、動物の糞を踏んだりうんぬんかんぬん。
……うん?これって今までと変わらなくね?
……………。
……………。
……よし。
気持ちを切り替えていこう。
生き返れただけで儲けもん!
不運なのは今更だし!
魔法だって使えるし!
現に【アイテムボックス】だって使えたじゃん!
ステータスも見れるし、イケるよイケる。
大丈夫。
というわけで、俺を助けてくれるお人好しさーん、早く出て来て〜。
あちこちを見回すものの、誰も居ない。
平和な森が広がっているだけだ。
下手に動くわけにもいかず、最初に立っていた場所を起点にうろうろ周りを見て回る。
ぴーちちちちちち……。
わー小鳥さんが歌ってる〜。
うふふ〜お腹空いてきたなー。
俺はパタンと【マナーブック】を閉じた。
するとフッと溶ける様に消えていく。
【マナーブック】は強く念じると古びた本が手の中に現れる仕様だった。
大きめの石に腰掛けて中身を読み始めたら止まらなくなった。
なんと気になる事がページを開けばすぐに書いてあるのだ。
例えば魔法について知りたいな、と思って適当に本を開けば魔法について概要から使い方まで載っているのだ。
しかも途中で気になる言葉が出てきた時、次のページをめくるとそれについて書いてある。
そんなの不思議で楽しいに決まっている。
体感時間と実際の経過時間は違うとはいうけど、腕時計はキチンと仕事をしている。
こちらに転移して、約五時間が経過した。
明るかった空も段々陰ってきて、あと二、三十分もすれば夕焼けになっていくだろう、という時間だ。
季節的に初夏なのか、寒くもないし、暑くもない。
夜に着の身着のままで寝ても風邪をひいたりはしなさそうだ。
左右に伸びてる道を歩いてみたけど、万が一入れ違い、すれ違いになっては叶わない。
広場からは、大きく離れられなかった。
スマホは元々あんまり残ってなかったのもあって、充電を使い切ってしまった。
予習復習に、ダウンロードしてた異世界もののラノベ読み返してたりなんてしてないよ。
してないってば。
……ちょびっとしか。
さて、そんなこんなで、さしたる苦痛でも無い五時間ではあったものの、流石にこれはヤバい。
お人好しに出会うどころか、食う物も寝るところもないぞ!
肉は無理だとしても、キノコとか、山菜だとか、木の枝とか、寝られそうなウロとか、探した方が良くね?
慌てて近くの茂みをあさり始める俺。
【鑑定】さん、お願いします!
乾いた木の枝や落ち葉を拾いつつ、見つけたキノコや木の実なんかを、鑑定で食べられるかどうか調べていく。
いくつかエゲツない毒キノコを見つけたけど、勿論不要なので採取はしない。
腹痛で転げ回って死んだり、全身の毛穴から血が吹き出して死ぬのはちょっと勘弁してほしい。
別のものを探そうと視線を外した瞬間、猛毒キノコをむしり取った手が見えた。
慌てて視線を上げれば、そこには目をみはるばかりの爽やかイケメンが、ニコニコキノコを握っていた。