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28 乳製品を手に入れろ


 一晩明けて朝の準備を整えて朝食を摂りに降りると、昨日感じた違和感?拒否感?みたいなものが綺麗さっぱり無くなっていた。

 塩対応だったおばちゃんも今日は笑顔で対応してくれるし、他の客からの不躾な視線も無くなった。

 不思議に思っていると、朝食を持って来てくれたおばちゃんが謝罪しながら理由を教えてくれた。


 俺達より二日早く到着した蛍石採集のハンターパーティが、大変態度が悪かったそうだ。

 尊大な態度に、横暴な立ち居振舞い。

 部屋の使い方も悪い上に、夜は……まぁ、詳しくは言えないが、声を抑えず他の客に騒音で迷惑を掛ける。

 地元のハンターパーティに喧嘩を吹っ掛けるし、一般市民にも恫喝をする、等あまりにも目に余る態度だったそうだ。


 そりゃあ次に来たハンター(俺達の事ね)を警戒するのも分かるわ。

 昨日はごめんねーと言いながらテーブルに料理を並べていくおばちゃん。


 焼きたてのパンと搾りたての牛乳、それにぷっくり膨らんだ鮮やかな黄色のオムレツだ。

 ソーセージと細かく切られた野菜の入ったスープもある。

 ホカホカと温かそうな湯気を伴うそれは見るだけで、もうすでにとても美味しそうだ。

 スプーンで掬うと、とろとろのオムレツには小さく刻まれたカリカリのベーコンが入っていた。

 口に含めば優しい卵の甘さと、ベーコンの塩気と食感の対比がすばらしく、それはもういくらでも食べられそうなくらいに美味しかった。

 濃厚な卵の中には削ったチーズも入っている様でコクがあり、ベーコンから滲み出る旨味が次の一口を誘う。

 パンも牛乳も、昨日のあのひどいごった煮シチューは一体なんだったんだって言いたくなるくらいに美味かった。

 とにかく乳製品がめちゃくちゃ美味い。


 あまりにも美味くて、おばちゃんに酪農家さんのお家を教えてもらって少し分けてもらう事にした。

 牛乳とチーズとバターを買わせてもらうのだ!皆も美味しかったらしく、満場一致で仕入れが決定した。

 丁度通り道にある農村だった為、朝食後、準備が出来たらすぐに向かう事になった。




「え?毛皮ですか?」

「そう、毛皮だ。ハンターなら持ってたりしないか?」


 モキモキの筋肉を、ピタピタのシャツで包んだ筋肉ダルマ……もとい厳つい酪農家のおっさんが頷く。

 酪農家さんのお宅に突撃したら乳製品を譲っても良いが、何か毛皮を持っていないかと聞かれた。


 なんなの?こっちの世界の人は毛皮大好きなの?

 一応狼の毛皮ならあるけど……ちらり、とパーティリーダーであるオーランドを見るととっても良い笑顔で親指を立てる。

 おお、この世界にもサムズアップがあるのか。


「毛皮と交換でも良いぜ!」

「本当か?!」

「ちょっと待て待て待て待て!」


 笑顔で答えるオーランドに、慌ててヤンスさんが出てきた。

 俺達が持っている毛皮はブラックウルフの物で、かなり高価であるそうだ。

 更に正規のルートではない販売は、ハンターギルドや商人達に睨まれる事になるそう。

 それを理解した上で交換してほしいとの事。

 また、他のハンターがこの様な交渉に応じなくても悪感情を抱かない様にしてくれ、とも話していた。

 確かにそれで商売している人からすれば気持ちの良いことではないよね。

 他のハンターだって交換ではなく買取を希望したりして冷たくされたくないしね。

 ちゃんと『ハンター』の権利?人権?守っててすごい。


 ブラックウルフの群れは、Cランク相当の魔獣なので毛皮の販売価格は一枚が、最低でも小銀貨五枚は下らないこと。

 傷が多いものであれば小銀貨三枚までなら対応すること、オーランド(パーティリーダー)が了承したので等価の物々交換も対応する事、差額を支払えば問題ない事等細々とした条件を提示していく。

 ちょいケチくさい気もするけど、適正価格って大事だもんな。

 製品を守る意味でも、生産者ハンターを守る意味でも、経済的にも。

 うっかり価格破壊などしてしまうと、後々自分の首を絞めることになってしまう。

 詳しい事は分からないから下手に口出しせず詳しい人(ヤンスさん)に任せよう。

 俺は大人しく皆の後方で待っていた。


 結局ブラックウルフの毛皮二頭分と大量のバターやチーズ、牛乳にヨーグルトを交換した。

 それでも少し足りず小銀貨一枚が支払われた。

 明らかに俺達が貰いすぎな気がするけれど、とても喜ばれた。

 これからじっくりなめして冬の防寒具にするそうだ。

 【アイテムボックス】から二頭分の毛皮を出して確認してもらう。

 せめてものお礼に、できるだけ綺麗な物を手渡した。


「なるほど!【アイテムボックス】持ちだったのか少年!一人年齢が離れているから気になっておったんだよ、ガッハッハ!ありがとな!」


 オッサンは毛皮を受け取るとそう言って俺の頭を撫でた。

 いやいや俺ハタチ超えてますけど?

 やはりコチラでは俺は幼く見えてしまうらしい。

 まあ、良いか。


 オッサンとちょっと話をしてる間に、俺たちが毛皮を持っていて、物々交換で販売しているという話が酪農家の奥さんからあっという間に拡がったようだ。

道々で色んな人が物々交換を持ちかけてきた。


 ブラックウルフリーダーの素材は帝都で売った方がお金になるので出さないようにエレオノーレさんとヤンスさんに言われたので残して(とても怖かった事をここに記しておく)残りの毛皮は全部放出した。

 沢山の野菜や肉類、調味料にハーブ類。乾燥豆や穀物、小麦粉なんかもたっぷり。作業用のテーブルに、食器や調理器具(フライパン、ミルクパン、泡立て器にボウル等)、炭や投ナイフに、蛍石がよく採れるエリアの情報、他色々な小物を頂いた。

 面白いところでは、薄く延ばした柔らかい金属のミニ竈みたいなものまであった。

 上に乗せられるのは小さめの薬缶くらいだけど、ほんの少しの小枝などで一人分のお湯を沸かせて、夜の見張りの時とかに便利だと思う。


 なんだか道具類がとても充実してしまった。

 もちろん差額分のお金も結構ある。

 金額にして小銀貨六十三枚。

 え?六十万円超え?

 恐っ!


 彼等からすれば現物との交換も出来て、危険な道を行き帰りせずに、定価で購入出来るだけでとても良い事なのだそうだ。

 街に行くのにも時間と人手とお金が掛かるし、盗賊や魔物等に襲われる恐れもある。

 それを乗り越えたとしても、良い物を買えるとは限らないし、田舎者だと侮られると高値をふっかけられるそう。

 異世界怖い。


 俺、ちゃんと生きていけるかな?

 2500pvいきました!いつも、ありがとうございます!

 これからも頑張って書き続けますので、どうか、霧斗ののんびり異世界冒険生活を見守ってあげて下さい。

 よろしくお願いします。

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