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不運な俺は異世界に行っても不運な様です  作者: 試験管
シェッテ王国騒乱
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253 フォーグレノスッテに潜入 2


 とりあえず俺とオーランドが二人と一緒に馬車に乗って話を聞く。

 二人は前日の朝から街を出て、日が暮れた所で野営してからゆっくり歩いていたんだそうだ。


「だから朝イチで街を出たオレ達よりも先を歩いていたんだな」

「納得した」


 アルミンの速度に合わせていたが、昨夜寝冷えしたのか体調が悪いらしく、少し歩く度にぐずって中々先に進めない。

 当初の計画では一泊すれば昼前には国境に着き、閉門までにフォーグレノスッテに到着できるはずだった。

 しかも、今日中に着かなければ水や食料が足りなくなる。

 そもそもそれほど多くの水を用意していない為、移動中も節水している程である。

 確かに水樽を背負って歩く訳にはいかないもんね。

 俺たちは魔法を使える人員が多い為あまり気にしてなかったけど、普通はそういうものらしい。


 閑話休題


 水も食料も少ない為、なんとか宥めすかして進んでいたのだが、とうとう道の真ん中でしゃがみ込んで動かなくなった。

 背負ってくれとせがまれてもヴィンデの背には大きな背負子があるし、いくらなんでも大きくなった八歳の息子までもを抱いて歩く力は無い。

 困り果てて途方に暮れている所に馬車と共に俺達が現れた。

 イマココ。


「いやもうほんと貴族の馬車とかじゃなくて良かったねぇ……」

「……わるかったって。ちゃんとハンセイしてるよ」

「もうしないよな」


 安堵のため息を吐きながら言葉をこぼせば、アルミンも恥ずかしく思っているのか赤くなってそっぽを向いて謝った。

 そんなアルミンににかっと笑いかけるオーランドが眩しい。

 ごとごとと揺れる車内で水と携帯食料を少しだけ渡し、少々踏み込んだ話を聞く。


「それで旦那さんは……」

「はい、昨年の秋に盗賊に襲われてしまって……」


 暗い表情になり話してくれた内容はやはり想像の通りだった。

 昨年秋、ちょうど俺がアルスフィアットに来る直前に、盗賊ーー例の犯罪組織に旦那と馬車を襲われたそうだ。

 馬車の中にいた二人には目もくれず、旦那を殺し、馬と積荷を奪って行った。

 残されたのはボロボロに壊れた馬車の残骸と僅かばかりの積荷に手回りの品のみ。

 靴の中や下着に縫い付けた“もしも金”と残された積荷を売り、馬車の残骸を薪として宿に持ち込みこの冬をなんとか越えたところだそう。


 ヴィンデが背負子を手に入れて、歩いて商売してなんとか生き延びているが、カツカツの生活。

 物を見る目には自信はあったけれど、お金も信用もまるで無くて、良い物を見つけても買うことも売ることも出来ない。

 商売に手を出したばかりの商人でも扱える様なものしか扱えない。

 それはほんの少しばかり終わりまでの距離を稼いでいるだけにしかならなかった。

 食事や宿のランクは下がっていく一方で、成長期のアルミンには食事や休養が必要で、ヴィンデは擦り切れる一歩手前といった感じである。

 これ以上話を聞くと張り詰めた糸が千切れてしまいそうだ。

 俺は慌てて話題を変えた。


「ヴィンデはどんな品物に詳しいの?布製品とかどう?」

「いえ、わたしは漁村の生まれでして、工芸品や干物などが専門です。それと多少の農作物でしょうか?」


 ヴィンデは申し訳無さそうに眉を寄せる。

 別に謝る必要はないんだけどな?

 二人で困った様に首を傾げていると、オーランドがフォローに入った。


「漁村という事は出身はシェッテ王国の方か?」

「いいえ、一応エーアスト帝国に属しています。小さな名も無い村ですので、通いの商人以外は誰も来ない村で、お二人がご存知なくても何もおかしく無いですよ」


 儚く笑うヴィンデの言葉に俺は驚いた。

 だってこの国に漁村があるって事は海があるって事だよね?


「え?!この国海あるの?!アルスフィアットでは干物すら見てないけど?」

「山の向こうに少しだけあるな。距離が遠いし干物は不味いからあまり売れないんだ」


 ヴィンデの村は海で合っていたけど、この国で“漁村”と言えば湖の近くにある村のことを言うらしい。

 水が豊富で綺麗なアルスフィアットでは新鮮な川魚獲れるので海魚の干物は売れない。

 なので、もう少し先の街や山間部の村まで持っていくのだそう。

 それこそ俺達が通ってきたフェンフュラストとかまで。

 そこまで運べば中々の値段で売れるらしいのだけど、とはいっても売れ残りも出る。

 それは二人の道中の食料になるのだそうだ。

 気になったので売れ残りの干物をお願いして見せてもらった。

 それはからっからに干したどちらかといえば出汁の素感のある干物だった。

 めざしとかでは無くにぼし的な感じ。

 にゃんこまっしぐらでは?


 聞きたい情報はほぼほぼ聞けた。

 どうせ向かう先は同じだし、あちらでも美味しい屋台や、おすすめの雑貨屋などいろいろ教えて欲しいと願えば了承が返ってくる。

 売れ残りの干物数個と新鮮な食材をいくつか交換した。

 スパイスジャーキーとパンをキラキラした目で食べる二人に俺達は驚く。

 水は水袋に入れているとはいえ、馬車の揺れなど物ともしない慣れきった動作に感動する。

 不慣れな俺達なんかは乗っているだけで疲労困憊していたというのに何という違いだろうか?

 普段から馬車で移動していたというのがよくわかる。

 食事をとって、座ることができたからか、段々と二人は眠気を感じはじめたらしい。

 話をしながらもこっくりこっくりと船を漕ぎ出す。


「二人ともまともに寝れてないんじゃないですか?なんならここで休んでくれても良いですよ。俺達は馬車から降りますから」


 そう言って炬燵などの邪魔な物を【アイテムボックス】に全てしまい、野営用のマットレスを敷く。

 恐縮しきりなヴィンデにアルミンを休ませる様に言ってクッションを枕がわりに出す。

 毛布は二人とも持っているらしい。

 オーランドと一緒に馬車から降りると深く頭を下げたヴィンデが見えた。

 アルミンは既にマットレスの上に寝落ちている。

 あっという間に二人分の寝息が聞こえてきた。


 二人とも頼りにしていた人も財産も失ってギリギリまで張り詰めていたのだろう。

 ゆっくり休んでほしい。


「あの二人の目利きが本物だったならアルスフィアット支店とかシェッテ王国支店とかあっても良いよね」

「アルスフィアットにはもう支店あるだろ?」

「服の方でしょ?雑貨屋はこっちにもあっても良いと思うんだよね。さっきの二人みたいに女性と子供だけでなんとか生きてる人達が働ける場所みたいな」


 出来たら寮とか建てて、皆で支え合いながら生活出来ると良いなって思う。

 孤児達が卒業した時の受け入れ先としても、寡婦や怪我してハンターを辞めざるを得なかった者達だって雇えるかもしれない。

 オーランドに理想を話していると後ろから捻くれた声が聞こえてきた。


「相変わらずお優しいことで」


 嫌味の様に聞こえるが、これはまた俺が問題に巻き込まれることを心配してくれている時の声色だ。

 ヤンスさんは素直じゃないし、言葉遣いは悪いけどこういう時はわかりやすいんだよね。


「心配してくれてありがとうございます」

「ケッ!心配なんかしてねーよ」


 そっぽを向いたヤンスさんの耳が少し赤くなっていた。

 皆がくすくすと笑う声が春の青空に響いていく。

 束の間の平和だな。



 国境に近くなると雰囲気がなんとなく変わる。

 最初に見えたのは長い建造物。

 高い壁がずらりと連なって伸びている。

 森の中に入ってその姿が見えなくなるまで続いているけど、あれって流石に国全部を囲んでたりはしないよね?


「まあ、途中で途切れてはいるが、その先は険しい道だし、警戒はされてるし、魔物は出るしだから通るやつはいない」

「そこから侵入すれば問答無用で犯罪者として処罰されます」


 疑問を口にすればオーランドやツァーベルさんが教えてくれる。

 出国に関しては結構スムーズに終わった。

 むしろ余程の犯罪者や、重要人物以外は止めずにそのまま見送るスタンスみたいだ。

 

 国境にある大きな広場で入国審査を待つ。

 反対側からくる者達もいて、広場の流れが決まっているのでどこに行くべきか悩まずに済む。

 入国審査を待っている間にヴィンデとアルミンを起こせば慌てて飛び出してきた。

 そんなに長い時間寝てしまったのかとあせっているが、疲れていたのだろうし、仕方ないと思う。

 特にヴィンデは自分がアルミンを守らねば、とずっと気を張っていたんだから当然だ。

 旅の荷物から商業ギルドカードを取り出してアルミンとしっかり手を繋ぐヴィンデ。

 逆に俺達は『烈風』とヤンスさん、ジャック、レオンさんを護衛に残して馬車に乗り込んだ。

 現在の御者はグレーテさんである。


 しばし待った後、馬車が進む。

 入国審査はグループによって掛かる時間が変わる。

 気になるのはお金持ちそうなグループや反社的なグループの方が早いこと。

 善良そうな人や荷物の少ないハンター達は妙に長く引き止められている様だ。

 荷物満載の馬車の方が時間が掛かると思うんだけど、グループによってはすぐに終わってしまう。

 なんでだろうね?


 それなりの時間が経った頃、俺達の番になった。

 急がないと街に着く前に日が暮れてしまいそうだ。

 馬車を指定の位置まで進めて皆で馬車から降りる。


「入国の理由は?」


 兵士が気だるげに確認してくる。

 そうだよね、この時間は混雑して大変だよね。

 でもその態度はどうなのさ?

 そう思いながらも建前の理由を口にする。

 今回は俺が商会主なので俺が対応する。


私共(わたくしども)は帝都に店を持つ商人です。新しい商圏、取引先を広げる為に下見に参りました」


 胡散臭い程の笑顔で応える。

 頬が引き攣っていないか心配だ。

 そんな俺を見てニヤリと嫌な笑いを浮かべた兵士が次々と質問をしてくる。


「何を扱っている?」

「食料や日用品、錬金や製薬等に使用する各種素材、そしてハンターツール等を取り扱っています」


 下着だって日用品だよね。

 貴族用だけど。

 話を聞き流しながら兵士は馬車の中を覗く。

 当然ながらそこには何も無い。

 備え付けの座面とがらんとした空間があるのみである。


「馬車は空の様だが?」

「私、小さいながらも【アイテムボックス】のスキルを所持しておりまして、貴重品は全てそちらに」

「ふむ、それでは密輸をし放題だということだな」

「いえ、その様な事はいたしませんし、今回はほんの下見程度。販売は行う予定がありませんので」


 にこりと微笑んで返すが、兵士は「ふむ」とだけ口にして俺を頭からつま先までジロジロと見てくる。

 その目が何かを要求している気がして、「この様な品を取り扱っております」とそっと味付き燻製肉を少しだけ手渡せば、迷いもせずに口に運んだ。

 え?毒とか疑わないのだろうか?

 むしろ何かを要求してくるってことは、袖の下が日常化してるのかな?


「この様な不便な場所でのお勤めは大変でしょう?何かお困りの事はありませんか?」

「ふむ、葡萄ジュース等は持っておらんか?少し()()()()構わんぞ?」


 古い葡萄ジュース、つまりお酒が欲しいと。

 しかもお金を準備する様子は見られない。

 俺は小ぶりな瓶に入った質の良くないワインを取り出した。


「こちらは古めのジュースですので、万が一体調を崩してしまわぬ様に、皆様お仕事後に楽しんでいただければ……」


 そう口にして兵士に渡せばニヤリと笑った後通行料を受け取って「通って良いぞ」と道を開ける。

 なんか最近こんなんばっかりだな?と首を捻りながら国境を抜けた。


 いつも俺不運を読んで頂きありがとうございます。

 いいね、リアクション、感想、ブックマーク、評価やる気が出ます。

 そして誤字報告。

 本当に本当にありがとうございます。

 何度も確認しているはずなのに何故ここまで見逃しが多いのか……。

 いつも本当に助かってます。

 感想に癒されて次も頑張ります。

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シュッテ王国がいかに腐敗しているか良く分かる 国境の検問って普通は王家直属とか辺境伯とかが精鋭を配置するはずだけど 仮想敵国との国境に犯罪者予備軍を平然と通し一般通行者に賄賂を要求する様な愚物を配置す…
弱者に集る蠅が名物の街やね
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