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27 穴熊亭


 街で一番大きな宿屋『穴熊亭』は飲み屋と食堂が一緒になった、異世界王道の宿屋だった。

 勿論、街で一番大きいというのは一般人が泊まるには、が頭に付く。

 お貴族様用の高級宿屋もあるけど、支払額が一桁変わるのだ。

 いっかいのハンターが泊まれる訳がない。


 話を戻そう。

 この穴熊亭は、昼前ではあるけれどチェックイン出来るそうだ。

 大部屋一つと二人部屋一つを取って美女と野獣組と男組に別れる。

 夫婦だもんね。

 たまには二人っきりになりたいよね。

 案内してくれるおばちゃんは恰幅が良くて、正に宿屋の女将さんって感じだった。

 見た目はまんまイメージ通りでも、態度は違った。

 冒険の目的や食事の有無を確認すると、「あっそう」と呟いて、部屋に案内する、と言うが早いか、さっさと歩いて行く。

 めっちゃそっけない。


(塩対応〜)


 おばちゃんについていきながら階段を上がる。

 二階の一番奥の部屋とその隣だった。

 正直日当たりが悪くて、部屋がジメジメ湿っぽい。

 シーツだけはキチンと洗濯した物の様だが、不衛生さが目についてどうにも居心地が悪い。

 クリーン魔法を部屋にかける事で大分マシにはなったものの、あの部屋でアルスフィアットの結局泊まれなかった『柳の小川亭』より高い値段だというのが納得できない。

 お風呂は無いとの事だったので、部屋でタライ風呂だ。

 無論、エレオノーレさんにもお持ちする。

 たっぷりのお湯を張り、俺は自分達の部屋に戻る。

 ジャックが部屋の前に出て見張り、終わり次第俺に教えてくれる様になっている。

 ぜひゆっくり入っていただきたいものだ。


 その間に道中拾ったり採取したりした物の処理を教えて貰う。

 日陰で干して乾燥させるもの、日干しにするもの、乾燥済みの薬草の不要な部分を毟り取る作業……結構地味だが疲れる。

 とはいえ、あれもこれも全部買っていたらお金がいくらあっても足りなくなる。

 道中のお茶とか、ちょっとした傷薬とか、出汁の素とか、食材とかは手間が掛かるもののどうにかなるのだ。

 ちょっと……あ、いや、かなり、面倒くさいけど。


 ちなみにオーランドは剣や鍋、天幕等の整備だ。

 薬草の処理をさせたらゴミを量産するらしい。

 成程納得。

 本当はこういう作業は、もっと後にやるそうだ。

 普通、最初は洗濯だ。

 宿に併設されている井戸を使って衣類や防具などを洗う事が何より優先される。

 だが、『飛竜の庇護』には関係ない。

 洗濯(それ)は俺のクリーン魔法で全て一瞬で終わってしまっている。

 全てさらさらのぴかぴかである。

 やるとすれば、一部の防具を虫干しするくらいだ。

 後はみんなで身体を洗って、濡らした床を掃除して食事だ。

 宿は綺麗に使用しなければならない、とお婆さんが言っていたのだと、オーランドが丁寧に磨いていた。

 実はおばあちゃんっ子だったんだな、オーランド。

 親近感あるぜ。

 さて、この宿はどんな料理が出るのか楽しみだ!


 飲み屋兼食堂になっている一階に降りて行くとそこに居た客達からの視線が集まる。

 こう、なんとも居心地の悪い“拒絶の視線”というやつだ。

 皆に視線で問いかけても、首を横に振るだけだった。

 俺達は違和感を感じつつも手早く食事を済ませて部屋に戻る。

 料理についてはごった煮のシチューとカチカチになった黒パンだったとだけ記しておく。

 野宿の時の方が食事が美味しいってどういう事?

 悲しみで涙が出そうだったよ。


 部屋に戻ってやる事もないので、ベッドに転がる。 日本の布団とは違う、藁がチクチクと刺さってくる感じにも大分慣れた。

 身体を休めるのも大切だ。

 実際身体のあちこちが強張ったり引き攣った様な違和感がある。

 これは柔軟しておいた方が良いかもしれない。

 起き上がって、ベッドに腰掛けたまま、ゆっくり手首や足首等の心臓から遠い部分から解していく。

 肘、膝、肩、股関節、腰、背中、首と順番にやっていくと、じんわりと血が巡り、温かく感じる様になる。

 途中で不審に思ったオーランドから声を掛けてこられたりもしたが、柔軟の説明すると二人とも興味を持って見様見真似でやっていた。

 宿の質は微妙だけど、和やかで穏やかな時間だった。


 そうして異世界初の宿屋の夜は更けていった。


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