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25 二度目の見張り番


 入浴も食事も全て終えて、天幕に入るとあっという間に眠りに落ちてしまった。

 昨日と同じく、三番目の見張りだった。

 今日はオーランドではなくヤンスさんとの様だ。


「昨日は結局殆ど寝られなかったからな、オーランドに順番変えて貰ったんだよ」


 二ヒヒ、と悪戯っぽく笑うヤンスさん。

 たしかに昨日はヤンスさんが寝てすぐブラックウルフが襲ってきたんだった。

 そこからは戦闘と、後片付け、携帯食料で朝飯にして、解体、道具の整備と休憩で昼食取ってすぐ出てきたもんな。

 寝る暇なんて無かったよな。

 自分はいつもより少ないといえしっかり寝てたから気付かなかった。


「すみません」

「なーにを謝る事があるんだよひよっこが」


 ケラケラと笑いながら俺の頭をくしゃくしゃにかき混ぜる。

 少し恥ずかしいけど悪い気持ちじゃない。


 エレオノーレさんが作った野草の根のコーヒーもどきを、ヤンスさんが淹れてくれる。

 ありがたく受け取って啜りながら気配察知の話をする。


「……それで、オーランドにどうやるか訊いたら、なんとなくわかるだろって言われたんだよ。わかるわけないじゃないか」

「ハハッ、まぁ、オーランドならそう言うわな。あいつ本当に初めから出来てたし」


 ヤンスさんはオーランドの天幕を見て眉間にシワを寄せて笑った。


「それはそうと“普通の人”なキリトちゃんはどうやって気配察知を覚えるんだ?」


 “普通の人”に幾分含みを持たせたヤンスさんは答えを知っていて教えないつもりなのか、ニヤリニヤリと弄る様に俺を見る。

 でも大丈夫。

 俺には探索魔法がある。


「魔法でなんとかしまし……なんとかしたよ」

「……は?」


 視界の右下にある探索魔法に魔力を込める。

 自分を中心に半径二十五メートル。

 所謂小学校のプールくらいね。

 近くに四つの青い丸。

 これは『飛竜の庇護』の皆だ。

 その周りに大小様々な灰色の丸。

 コレは害意の無い生き物、多分野生動物達。

 そして今は無いけれど赤い丸が俺たちに敵意のある生き物だ。

 ゲームをイメージしたせいでこんなにわかりやすくなってしまった。

 恐らく鑑定さんも一枚噛んでいるんじゃなかろうか、というクオリティだ。

 俺はドヤ顔で説明した。

 こんなに便利な魔法が作れたのだ、と。

 はしゃいでいた俺は、ヤンスさんの表情が強張り、顔色がどんどん悪くなっていくのに気づかなかった。


「こんな感じ!」

「キリトちゃん!おま、それ絶対他所で言うなよ?!特に国のお偉いさんとか貴族とか!勿論そこら辺の奴にも!出来ればウチの奴らにもだ!」


 説明が終わるとガシッと肩を掴まれ揺さぶられた。

 そして懇切丁寧に言い聞かされた。


 まず、半径二十五メートルがやばいとの事。

 剣の達人とか、Aランクハンターであればそれくらいは対応出来るらしいが、駆け出しペーペーの俺みたいな人間が使えるとなるとみんながパーティに勧誘してくるらしい。

 それも結構強引に。


 次に自分だけに、とはいえ、可視化した状態で魔力をほぼ使わず保留しておけ、魔力を流せばすぐに辺りが把握できる事も問題だそう。

 詠唱なども無くすぐに使える探索魔法など、暗殺やスパイなどの後ろ暗い人達と繋がっていると思われるそうだ。

 下手すれば自分がそういう職業だと間違われる。

 そもそもそんな魔法、見た事も聞いた事も無いとの事。


 さらに敵意があるなしを判別できるのは、もう国家的に喉から手が出るほど欲しいスキルなのだそう。

 目の前にいる人間がいつ切り掛かってくるかわからない交渉事などでは、ゆっくり休んでなどいられないらしい。

 寝る時間もいつ寝首をかかれるか、と始終緊張しっぱなしだそうだ。

 それを俺の探索魔法一つあれば、安心して眠れるし、思い切った交渉なんかもできる。

 とても有用な魔法だ。

 また、真意のわからない協力者の敵意を確認できるだけでやれる事の幅が一気に広がる。

 権力者としては何が何でも欲しい力だそうだ。


 つまり、コレを総合すると、国家権力に捕まり、国益の為だけに働かされて、しかも貴族連中に奪い合われ、落ち着いて生きる事など出来なくなる、との事。


「いいか?絶対だからな?キリトちゃんの為に言ってんだからな?」

「は、はひ……」


 どマジなヤンスさんの表情に、大人しく頷く以外に無かった。

 なによりも、知りもしない国の為に一生を捧げるなんて以ての外だ。

 俺は心に誓った。

 この魔法は内緒にして『飛竜の庇護』と自分の為だけに使おうと。


 そして、この日は魔物が襲ってくることもなく、迷い出た小動物や虫を追い払う程度だった。

 無事ジャックと交代して自分の天幕に入ることが出来た。

 色々考えたい事があったけれどやっぱり身体は疲れているみたいですぐに寝入ってしまった。


 翌朝美味しい匂いに目が覚めて、のそのそ天幕から這い出ると、ジャックとエレオノーレさんが朝ごはんを作っていた。

 川魚のアラで出汁をとったスープと木の枝に巻きつけて焼いたパンだ。

 ふんわり甘くて香ばしい匂いが堪らない。


 ーーーぐうぅぅぅ……。


 挨拶よりも先にお腹が鳴ってしまった。

 恥ずかしい。


「お、おはよう御座います」

「おはよう、腹ペコさん」

「おはよう」


 クスクス笑いながらエレオノーレさんがパンの向きを変えていく。

 ジャックは相変わらず鍋の灰汁取りだ。

 そうこうしているうちにみんなが起き出してきた。

 俺は水を出して顔を洗うと自分の天幕を片付けていく。


「キリト、水、頼む」

「OK」


 天幕を【アイテムボックス】に仕舞った後、ジャックが出してきた水袋に水を補充する。

 他の皆も自分の分を持ってくる。

 こうやって細かく充分に水を補充出来ることが、とても贅沢な事なのだと初日に教えられた。

 水魔法が使える人は食うに困らない、とまで言われるそうだ。

 それだけでも俺は褒められて嬉しい。


 朝の一連の準備が終わったら食事だ。

 みんなで他愛の無い話をしながら食べる朝食はまだ新鮮だ。

 少しだけ、実家を思い出す。

 食べ終わったらクリーン魔法でお皿洗いをして、焚き火の跡や、その他の片付けだ。採取した野草やキノコをカバンに吊るして、出発する。

 その後は問題なく歩いて、歩いて、時々休んで、歩いて、歩いて、新たな野営地に着く。

 昨日や一昨日に比べたら疲労も少ない。

 途中で鳥のフンが落ちて来たりもしたが、今の俺にはクリーン魔法がある。全く怖くないぜ!

 大分身体が慣れてきた様で体力に余裕がある。

 スムーズに自分の分の天幕を張ると、野営準備を教えてもらう。

 近くに落ちている乾いた枝や葉っぱを拾う。

 オーランド達は野営地に着く前に、途中から歩きながら拾っていた。


 明日は目的の街に着くだろうとオーランドが言っていた。

 まずは街で疲れを癒やして、情報収集、調味料の備蓄や食料、消耗品の補充をして翌日にダンジョンアタックだそうだ。

 ダンジョン!楽しみだ!

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