231 廃油石鹸作り
ま、間に合いました…っ!
現在帝都では、騎士団からレシピが流れて唐揚げが大人気になっている。
どこに行っても唐揚げ唐揚げ唐揚げ……。
オーランドに至っては帝都中の唐揚げを売っている店を制覇したと言い切っていて、手製の地図に各店舗のランク付けまでやっていた。
よく新しい店の唐揚げをお土産で買ってきてくれるのだけど、俺的には少し胸焼けしてきている。
美味しいんだよ?
美味しいんだけど、連日揚げ物はちょっと……。
今日のご飯はサラダで良いかな。(しゃりしゃり)
そして胸焼けはおいておくとして、やっぱり醤油がないのが悔やまれる。
各店で色々魔改造されて塩ニンニクとか、ハニーマスタードとか、スパイス風味とかいっぱいあって、当然、当たり外れも大きい。
しっとりタイプもあれば二度揚げしているのかザクザクなもの、衣に手を加えてクリスピーなものまで、色んなお店が様々な唐揚げを作っては売り出している。
一部唐揚げではなくフライドチキンやとり天、チキンカツなんかもあるけど、まあ鶏を揚げたものと言われたらそれで良いのかな?
酒場なんかでは一緒にエールが大量に売れると大喜びしている様だ。
おかげで飲兵衛達の騎士団への感謝が鰻登りである。
「最高のツマミをもたらした騎士団にかんぱーい!」などという言葉がそこここから聞こえてくるのだ。
閑話休題
俺は以前、廃油石鹸というものを作った事がある。
勿論妹の夏休みの自由研究の手伝いでね。
材料は廃油と水と苛性ソーダ。
この苛性ソーダというのが危険物だという事で、母が妹達には任せられないと俺に白羽の矢を立てた。
一部の薬局などで購入する事が出来る白い粒は強いアルカリ性を持っている。
水酸化ナトリウムの通称で、皮膚や粘膜に付けばひどい化学やけどを負うことになるのだ。
万が一にも飲んだりしたらいけない。
なので俺が母と一緒に作り、妹達は近くで見ていただけで、実際には作っていない。
代わりにこまめに写真を撮ったり、状態をメモったりとちゃんと研究していたのでよしとする。
ちょっと話が逸れたので、その辺は置いておいて、アルマハルトでもその廃油石鹸を作れないかな、と思ったのだ。
だって今帝都中に廃油が溢れてるから。
そのまま川や地面に捨てたりしたら環境に悪いし、かといって同じ油をずっと使い続けるわけにもいかない。
廃油で蝋燭を作った人もいるのだけど、油が酸化している上にいろんな食材の匂いが染み付いているのでとても使えたものではなかったらしい。
今のところ、木材や大鋸屑に染み込ませて火付きを良くさせることに使われているが、こちらも臭いがキツく、特に獣人達からの受けが悪い。
そんな廃油を集めて石鹸にすることが出来たら環境にも良いし、お金も稼げて一石二鳥では?と思ったのだ。
広げたのは騎士だとしても、俺のレシピのせいで環境汚染とかになっても嫌だしね。
でも一番のネックは先程出て来た“苛性ソーダ”だ。
そんな化学物質こっちにあるかな?
エレオノーレさんやヤンスさん、デイジーに聞いてみたが、よくわからないとの事。
オーランドやジャックは言わずもがな。
残念ながらマナーブックには石鹸は載っていなかった。
三百年前は、竈門の灰や魔法を使ってあれこれ綺麗にしていたらしい。
絶妙に使えない……。
仕方ないので薬師ギルドに“石鹸を作る際に必要な強いアルカリ性の薬品”はないかと問い合わせてみた。
“あるかりセイ”が何かはわからないが、油と混ぜて使う危険な薬品ならあると答えが来た。
見せて貰えば俺の知っている苛性ソーダにそっくりな白い塊。
拳くらいの大きさで、片栗粉みたいに微妙に透き通って見える。
これを砕いて粉にして使用するらしい。
貴族用の高級石鹸に使用されるらしく、とある錬金術師一門が制作を担っているそうだ。
肌に付いたりすれば大火傷を負うので気をつけて使用する様にと言われた。
こっそり【鑑定】すれば「秘薬:カウッシュ」と出て、異世界の苛性ソーダによく似た構造の薬品だと説明されていた。
「石鹸を作りたいなと思っているのですが、作って売ることに何か申請するものがありますか?」
「特には無いが、作り方はわかるのか?」
「多少の試行錯誤は必要だと思いますが、作り方自体は大丈夫です」
そう話すと彼はわずかに目を見開いた。
まあ、普通石鹸の作り方なんてそうそう知らないだろうしね。
その後、誰がいつ頃どれくらいの量を購入したか記録されるので、犯罪なんかに使ったらすぐにバレるよと脅されたが、そんな事に使う予定は無いのでしっかりと頷いておく。
そこそこの量のカウッシュを購入して拠点に帰った。
危険物なので素手で触らぬ様にと丈夫な革袋に入れて手渡されて。
さて、早速ウチで過去に出た廃油を濾過して大きなゴミを取り除く。
後は以前作った様に廃油六百ミリリットル、水二百ミリリットル、砕いたカウッシュ八十グラム用意する。
これをベースに色々調整していこうかな。
後は防護マスクとゴーグル、厚手の革手袋。
この辺は錬金術師が使うらしくて普通に売ってた。
ただし、素材は虫系の目の素材とか、柔らかくなめした革だとか、何かの植物系素材で作られたフィルターとかですごいファンタジーだった。
揮発するガスも有毒なので換気に気を付けながら作成しないとな。
ビーカーに水とカウッシュを入れてゆっくり混ぜると一気に温度が上がるので火傷に注意である。
家で作った時に大体のやらかしはやっているので注意すべき点は押さえているつもりだ。
綺麗に混ざった溶液を、魔法を使って冷やし、廃油を注ぐと更に丁寧に丁寧に混ぜる。
とろっとした白い液体になればオッケー。
牛乳パックくらいの大きさにした木枠にそっと流し込み、これまた魔法で乾燥させる。
薪作りと同じ要領だ。
しっかり固まったら程よい大きさにカットして風通しの良い場所で1ヶ月くらい置いて熟成させて完成である。
固まったばかりの時点でも素手で触ったら痛い目を見るので革手袋は外さない。
熟成させる為に風通しの良い場所にカットした試作品を並べて一つ頷いた。
ただ、ちょっと臭いが気になる。
もわりと上がってくる油臭さ。
熟成させる事で少し落ち着くとはいえ、やっぱり廃油臭い。
「んー…雷魔法とかで酸化還元させらんないかな?あとはハーブで匂い消しするとか?」
そして第二試作品に取り掛かった。
廃油に電極になる銅板を二枚入れて指でつまみ、ごくごく弱い電力を流して酸化還元させてみる。
はじめは弱すぎて全く反応が無かったが、あれこれ調整をしていくうちにコツを掴んだ。
無事きちんと酸化還元して、それほど臭くない物が出来上がる。
第二試作品に制作メモを貼り付けて、今度は臭い消しのハーブで作ってみる。
そうして第三、第四、と作っては熟成させていく。
ただ、この石鹸、泡立ちはそこそこだけど汚れ落ちがイマイチなんだよね。
ぬるぬるどろっとしてるし。
いや、まだちゃんと使った事無いから一ヶ月後にならないとわからないけど、実家で作った時はそうだった。
「うーーん、どうしようかなー……」
「どうしたんですか?」
声と共に入り口からぴょこりと小麦色の頭が生えてきた。
実は訓練場の隅で壁を作って作業していたので、結構簡単に作業が見える状態だった。
訓練中のメンバーがちらちらとこちらを見ていた事はわかっているが、新商品の研究、危険な薬品を使用すると説明していたので、中までは入って来なかったらしい。
デイジーも入ってくるつもりは無かったらしいが、俺が悩んでいるのが見えて、少しだけ休憩のお誘いに来てくれたらしいのだ。
気遣い屋さんめ。
全く、ありがた可愛い。
手を洗い、休憩スペースでお茶を飲みながらデイジーが教えてくれたが、平民はザイフェの実という石鹸の実を使うそうだ。
森の中に入れば大体どこにでもあるザイフェの木に生る、一円玉くらいのサイズの胡桃っぽい実。
胡桃の様に硬い殻をゴリゴリと挽いて、粉になった物を少量の水で溶いて使用する。
泡立ちは微妙だが、汚れは結構簡単に落ちる。
俺たちがよく使っている紙石鹸などはこの液を水に溶けやすい紙に含ませた物だった。
なるほど、あの粉石鹸はザイフェの粉だったのか、と納得した。
ちなみに実の中身は食べられないことも無いがおいしくは無いらしい。
青臭く、苦味も強いが、身体には良いのだとか。
孤児院では、石鹸を作るついでに勿体無いので少量の塩を振って煎った物をオヤツとして食べていたんだって。
なんか似たやつ知ってるな。
銀杏かな?
でも臭くないと言うし、胡桃の小さいやつって言うし違うよね。
まあ、中身については置いておくとして、汚れ落ちが微妙な石鹸と、汚れ落ちは保証されている粉石鹸。
ならばーー
「せっかくなら混ぜてみようかな?汚れ落ちは良いんだもんね」
「そうですね、皮脂汚れなんかは結構しっかり落ちますよ」
そうしてザイフェの実ーー正しくは殻の粉なんだけど面倒いーーを混ぜてまた四種類作っては熟成させる。
少し興が乗って、良い香りのする石鹸にもチャレンジして作ってみる事にした。
廃油が無くなったので普通の植物オイル、これも香りの良いものを選んだ。
りんごの様な甘い香りのするお値段の高いオイルに、シナモンやバニラっぽい甘い香りのスパイスを足す。
そうして普通通りに作成する。
途中で牛乳を入れた物や、蜂蜜を入れた物を作りたくなって、三等分して木枠を小さくしたりもした。
流石に材料が高いから何個もは作れなかったんだよね。
凝り性ってあれだよね。
でも満足するまでできたので良しとしよう。
後は結果が出るのを待つばかり。
ついでだけど、こんな事あったよーといつものルートで騎士団がやらかした事を告げ口しておいた。
どうなったかは追いかけない方が精神衛生上良さそうだよね。
しーらない、しーらない。
いつも俺不運を読んでいただきありがとうございます。
いいね、リアクション、感想、ブックマーク、評価、誤字報告とても助かっています。
本当にありがとうございます。
廃油石鹸は大昔に作った記憶しかありません。
油臭くてぬるぬるしてあまり泡立たない、消費に苦労しました。
作り方が悪かった気もしますが。
なので魔法とか異世界不思議素材とかで都合よく変化してもらいました。




