230 騎士団と商業ギルド
すみません、操作をミスりまして、来週公開予定のお話が読める状態で投稿されてしまいました……。
前にもう一話本日公開予定だったお話があります。
ご注意下さい。
しかし、平和な時間は短かった。
転売ヤーを撲滅した関係上、うちの店でしかスパイス燻製肉と味付き干し肉が手に入らなくなった。
他の店も真似して味付きの燻製肉や干し肉を作っているが、うちのスパイスマスター【鑑定】先生の配合には勝てない。
ちょこっとだけ入っているハーブが味の深みの秘密なのだ。
結果、注文・客がウチに殺到。
討伐で手に入れたオークの肉がだいぶ減ってきているし、森で狩ってきた魔物や動物達のお肉で作っているけど、ゆーてそんなに大量には作れない。
燻製小屋だって一つしかないから数量限定でやっているのに何故ないんだ!とブチ切れられても困る。
無いものは無いし、購入制限も掛けている。
今もまた、どこぞの貴族家からの遣いだと自称する輩が怒声を張り上げている。
イザークとオイゲンがしっかり顔を覚えたところでゴネる客はジャックが摘み出す。
次回以降は入店拒否である。
「他のお客様のご迷惑になりますので貴方は当店出禁です」
そう言って店から放り出す。
勿論素直に帰るわけもないが、そこは騎士団や兵士のお仕事である。
「兄ちゃん、ちょっと面貸せや」
「はぁっ?!」
今日の兵士さんはかなりの強面さんだった。
子供好きの良い人なんだけどね。
そうやって何人目かの暴漢が捕まり、だんだんと騒ぐ人は少なくなっていった。
しかし、季節はそろそろ秋である。
皆が冬支度のために燻製肉や干し肉を求め始めた。
「うちは燻製屋さんじゃありません!ソーセージ屋さんでもありませんっ!予約注文や大量注文は受けられません!」
「帝都内で味付きやスパイス風味の燻製肉や干し肉を扱っている店はたくさんあるでしょう?そちらをご利用下さい」
一冬分の肉を用意するから作ってくれという客が後を断たず、店員が必死で断り続けている。
そんな中、騎士団からさえもまとまった数を仕入れたいとか言われても困るから。
俺はヤンスさんと共に目の前に座るカスパル団長とチャラ男騎士ことジークベルトを胡乱げな眼差しで見る。
「ああいった者達には、私達がすべて購入したから無いと言えば良いのでは?」
馬鹿なのかな?
そんなこと言えば金を積めばやってくれると思われるじゃん。
それに何故騎士団を優先する必要があるの?
浮世離れしたカスパル団長の言葉にうんざりとする。
「お断りします」
「ええええーっ!困るーーーっ!」
端的に断ると、即座にジークベルトが騒ぎ出す。
カスパル団長も断られるとは思っていなかったらしい。
なんでそんなわがままが受け入れられると思っているのか訳がわからない。
「オレ達騎士ですらなかなか手に入らなくなってきてるのにー!困るよてんちょー!なんとかお願い!ね?ね?!」
「……」
拝む様に手を合わせてチラッとこちらを見てくる仕草がえらく手慣れている。
どうせ女の子達にこうやってわがままを通しているのだろうな。
困ってるのはこっち!
やかましいから!
「ウチでは特別な注文は受け付けておりません。騎士の身分を傘に着て無理強いされるということでしょうか?」
ヤンスさんが全てが凍りつく様な冷たい瞳でカスパル団長を見る。
それを見て慌てた団長。
「その様なことは言っておらぬ。どうにか都合をつけてもらえないかという依頼だ」
「ですのでお断りします、と今お伝えしましたが?」
重ねて依頼され、更に視線が冷たくなるヤンスさん。
その取りつく島もないヤンスさんから、攻略し易そうな俺に視線を移されても答えはノーですよ。
俺は二人に向かって首を横に振る。
「もう良い、商業ギルドに依頼する!」
「一昨日きやがれ!」
「ヤンスさーん…」
ジークベルトが声を荒げて立ち上がるが、おそらく演技だ。
ここで追い縋ってはならないとヤンスさんにきっちり言い含められている。
でもさ、一昨日きやがれはだめじゃないかなー?
俺とカスパル団長はお互いに頭を下げ合い、商談は終了した。
その後依頼された商業ギルドは、レシピがわからないながらも販売している店から商品をいくつか用意したが、納得してもらえなかったらしい。
しかも安易に受付た上に質の悪い物を渡したことにかなりの叱責を受けたんだとか。
うちほどじゃないけど、売ってるやつだってちゃんと美味しいのに、どこに依頼したんだろうね?
「というわけで、肉や材料は商業ギルドが責任を持って確保するので、そちらで大量に作成して国に卸すか、レシピを公開するかしていただきたいのですよ」
むっつりとした表情のアルノーと名乗る商業ギルド職員がうちの店にやってきて話している。
だけど言っている意味が全く理解できない。
ぶっちゃけレシピが欲しい商業ギルドが騎士団の依頼を利用して画策したと言われた方が理解できる。
いや、冗談抜きでそうなのかな?
俺達のせいで被害を被ったから責任取れって堂々と言って来てるんだけど、どう考えてもこじつけだよね?
「なんでウチがそっちの尻拭いしなきゃなんねーんだ?!」
「いや、そちらが注文を受けていれば問題なかったのではありませんか?」
「やってねーから出来ねーって断って何が悪い?そっちが安易に受けてテキトーかましたから文句言われたダケだろうが!ウチに責はねぇよ!」
そう言うとヤンスさんが勢いよくテーブルに足を乗せた。
がこんとなかなか重くて硬い音が響いた。
俺もそう思う。
しかしアルノーは諦めなかった。
「人気があるにも関わらず、少量しか作成しない事に責任はあるでしょう?」
いや、ないけど?
何その無茶苦茶な理屈。
世の中ではそれ、屁理屈って言うんだけど。
「わかった。じゃあ、商業ギルドのアルノーに言いがかりをつけられたから肉を売るのをやめた、と貼り出して売る事自体をやめてやる。少量作成するのが悪いって言うから売るのをやめますってな」
「それは脅しでしょうか?」
「どっちが脅しだ?ただの事実だろう?ウチは言いがかりをつけられて面倒になったから売るのを止めるだけだ。いちいち相手をしてられねーからな」
「その様な暴論で納得する方はいらっしゃらないと思いますが」
「納得しよーがしまいが、関係ねぇ。原因はアンタだアルノーさんよ。納得出来ない客は販売を終了させた原因に押し寄せるだろうよ」
口を挟む隙もない。
「どうせその辺に騎士団も来てるんだろ?呼んでこいよ。みっともねー小細工しやがって」
「……!」
その後もあーだこーだ言い合って、何故か騎士団が呼び出されていた。
ヤンスさんが言った通りすぐ近くに居たらしく、イタズラがバレた様な表情でジークベルトが入って来た。
しかもそれからはスムーズに交渉が進んだ。
何が何やらさっぱりである。
結局アホみたいな高値で商業ギルドと騎士団にレシピを売った。
いやびっくりしたよ。
片方のレシピにつき大金貨で三桁枚ってどんだけ?
え?金額おかしくない?
騎士団と商業ギルドでお金を出し合ってレシピを購入するらしい。
あと、商業ギルドがレシピを手に入れた関係上、食肉加工系の商人達はお金を出せばレシピを手に入れることができる様になる。
あと、騎士団が贔屓にしている商会にもレシピが渡るらしい。
だから今まで通り一人勝ちは出来ないぞ、となんか釘を刺されたが、こちらとしてはトラブルが減る方がうれしいし、問題ないと思う。
(それに違いを出そうとするならまた別の味を作れば良いんだしね)
笑顔の下でそっと舌を出す。
基本の味なのだから別の味付けにしたり、お肉に合わせた下処理をしたりする事で周りとの差別化を図れるというものだ。
商業ギルドの思惑は別にして、あまりの金額にこっそりおまけでエナジーバーと唐揚げの作り方もジークベルトに教えたら、めちゃくちゃ喜ばれた。
エナジーバーは材料に蜂蜜を使うし、唐揚げは油を沢山使うから高いし、量が作れないんだけど、騎士団には問題ないらしい。
むしろこの燻製肉や干し肉の支払いの方がやばいらしい。
ジークベルトの家で立て替えておいて、後から分割で支払っていくしかないかな、とぶつぶつ言っていた。
唐揚げは早速騎士団の食堂に持っていって作ってもらうってさ。
食べ過ぎ注意だよー。
商業ギルドとジークベルトを見送った後、ヤンスさんにあんなに空気が悪かったのに、なんで急に交渉がスムーズになったのか聞いてみた。
「商業ギルドは儲けたかっただけで、ウチに恨みもなんもないからな」
「???」
言葉の意味がわからない。
首を捻っていると、ヤンスさんはため息を吐いて丁寧に説明してくれる。
商業ギルドは売れる商品のレシピ、今回でいえばスパイス風味の燻製肉や味付き干し肉のレシピを手に入れたかった。
そして、それらを大量に欲しかった騎士団と意見が一致。
共謀してレシピを手に入れようとした。
まずは言い掛かりとして「お前達が悪いんだからただで寄越せ」と要求して来た。
この時点でレシピを渡す者はほとんどいないが、商売に詳しくない新人などは渡してしまう者もいる。
そうなれば儲け物だろう。
そして、流石にそれが通じない普通の商人には「仕方ない、幾ら(激安価格)出そう」と言って交渉、普段よりも明らかに安い価格でレシピを購入するらしい。
しかし、今回はヤンスさんに裏に騎士団がいることもバレてしまった。
それらを踏まえて正しく“交渉相手”としてくれたらしい。
認めたと言い換えても良いらしいよ。
そしてサクサクと金額が決まって今に至るそうだ。
商人めんどくさ!
そうして街の人達は安心して美味しい燻製肉や干し肉を冬用に手に入れる事が出来たらしい。
ただし、レシピ代が上乗せされて絶妙に高いのが笑えるが。
転売ではありませんでした。
安く手に入るなら手に入れたいのが商人です。
それを統括する商業ギルドならは尚のこと。
久しぶりのヤンス無双。
スパイス類はどこかの誰かがお願いすれば在庫処分で沢山買ってくれていた為、例の商人さんが恐れずに沢山購入して試す事が出来たおかげで、がっつり商業ルートが開拓されています。
売れなかったやつは次回から少しだけにして売れるやつは沢山仕入れる。
そうやってリスク少なく大量に取り扱いされている為価格はかなり安定しています。
そのおかげで帝都は食の都になれました。
来たばかりの頃はお高かった胡椒や砂糖もだいぶお手頃価格で取り扱える様になってきています。
いつも俺不運を読んでいただきありがとうございます。
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んぎゃー!操作ミスってる!
ヤバい!来週の更新間に合うか?!




