24 後始末と空元気と
ブラックウルフ
牙は武器、魔法の触媒、錬金素材等多岐に亘
って使用される。特に犬歯付きの頭蓋骨は触
媒に最適。高額取引される。
毛皮は刺突に強く、革鎧等に人気。
肉は毒などはなく食べる事は可能だが固くて
不味い。
力無く横たわる黒い狼達はワイルドな大型犬に見えた。
毛は硬そうで、ハイイロオオカミを黒く染めただけの様な姿だ。
オーランドが言う通り、見た姿そのまま、ブラックウルフだった。
一体だけ、最初に俺が仕留めた大きな個体だけがブラックウルフリーダーとなっていて、【統率】スキルを持っていた。
ズラリと並ぶ大ぶりな牙と薄く開いた顎、その隙間からダラリと溢れ 落ちる長く赤い舌。
初めから死体だったグリーンフライフォックスとは衝撃が違った。
間違いなく、俺が、命を、奪った、死体、だ。
思わず合掌して冥福を祈る。
どうか魂は自由に、輪廻の輪に戻り新たな生活を送れますように。
どうか妹女神様、よろしくお願いします。
それからは解体作業だ。
まずは、ノミや血の汚れを落とす為にクリーン魔法を掛けて、毛皮を剥ぐ為に切れ込みを入れる。
毎度イメージするのが面倒なので「解体」と言うと毛皮、皮下脂肪、肉、内臓、骨、とバラバラになって【アイテムボックス】に収納された。
これからは解体用魔法で良いんじゃないか?
はじめは視線を逸らしていたが、今ではちゃんと見れる様になった。
牙をどうするか悩んだものの、触媒に使用できるし、【アイテムボックス】に入れてしまえば荷物にもならないと言う事で、首を切り落として、丸ごと持ち帰る事に。
ついさっき冥福を祈ったばかりで罰当たりな気もするけれど、此方も生活が掛かっている。
首を切り落とされて、恨みがましく此方を見ている気がする、光を失った目を見ない様に【アイテムボックス】に素早く放り入れた。
恨まないでくれよ、ナムナム。
解体作業と各自休憩を取ったら昼になっていた。
『固くて不味い』と鑑定さんに言われるウルフ肉は流石に申し訳ないので少しだけ昼食に使用してみた。
が、残りは全員一致で埋めることになった。
骨と内臓と肉は土を掛けて改めて手を合わせる。
そうして俺達、『飛竜の庇護』は野営地から出立した。
午後の移動は昨日より幾分ゆったりしたもので、なんとかついていく事が出来た。
予定よりも少し遅れてしまった、と心配していたら皆んなが笑いながらそんな事は無い、と話してくれた。
そもそも移動は二、三日程余裕を見て計画を立てるのだとか。
昨日みたいに魔物に襲われる事もあるし、天候で道が悪くなる事もある。
スムーズにいく方が少ないとの事。
そんなこんなでハンターの仕事をあれこれ教えて貰いつつ天幕を張る。
今日はオーランドが先生役だ。
「ここはもっとギュッと結んで、ぐわーっとやるんだ」とか、「バッと被せてギュギュッだ」とか、擬音が多すぎて最初にジャックに習っていて本当に良かったと心の底から思った。
やり方自体は頭に入っていたので、結び方が緩いんだな、とかもっと思いっきり投げる様に掛けた方がいいのかな?とか考えながら二度のやり直しを経て、なんとか自分の天幕を建てることができた。
「達成感〜!」
「フフッ、初々しいわね」
満足気にくるくるいろんな角度から自分の天幕を眺めていると、エレオノーレさんがクスクス笑いながらこちらを見ていた。
途端に襲い掛かる羞恥心。
なんでだろう、男共に見られても全く恥ずかしくないのに女性のエレオノーレさんに見られたらこんなに恥ずかしいとか不思議だ。
「あら、恥ずかしがらなくても良いのよ?ハンターになったら皆通る道なんだから。それに女神様もハンターの技術まではフォローしてくれなかったのね」
クスクス笑いつつも、色々教えてくれる。
一般のハンターは、ハンターギルドの講習や、先輩ハンター達から教えて貰って覚えるらしい。
ふと見るとエレオノーレさんの手には野草や山菜がたっぷり載った、竹みたいな植物で編んだ浅いカゴがあった。
「エ、エレオノーレさん、それは今日の晩飯です……っじゃなくて、晩御飯?」
「ウフフ、そうよ。この辺沢山野草があるからハーブティーも作ろうと思って沢山摘んじゃったわ」
無理矢理話を逸らした俺に、笑いながら話に付き合ってくれる。
優しさが滲みるわー。
ちょいっと持ち上げた葉っぱを振って歩いていくエレオノーレさん。
はー……なんかめっちゃ変な汗かいたわ……。
さっさと、お風呂準備しよう……。
辺りを見回して、程良さげな場所を探す。
木が程々に近くに生えていて、野営地からはそこまで遠くない場所。
それぞれの木にロープを結びつつ張っていく。
四辺全てに防水布を吊って掛ける。洗濯バサミで留めて、近くの枝に借りたランタンを引っ掛けて、中心にタライを置いたら完成だ。
正直隙間から中は覗けるし、タライだけだと下半身しか浸かれないし、上半身は拭くしかないから、そこまでスッキリはしないんだけど仕方ない。
シャワーが欲しいよぅ……。
本当は天幕でやるつもりだったんだけど、みんなからダメ出しされた。
天幕の内側は防水では無いからそんな事したらすぐに傷んでしまうらしい。
結果、泣く泣くこのスタイルに。
エレオノーレさんが入ってる時はジャックに見張りに立ってもらおう。
準備が出来たので、近くに居たヤンスさんに安全チェックをしてもらい、合格点をもらってから一番風呂を頂く。
本当はエレオノーレさんに渡すつもりだったのだけど、ジャックがまだご飯を作り終えてないのに加えて、エレオノーレさんもハーブティーの為の乾燥が終わっていないのだとか。
入りたそうにチラチラ見ていたし、涙を飲んでの苦渋の選択だった様だけど。
お先に失礼しますよっと。




