キリト は まわりこまれて しまった 後半
さて、コスメの販売だが、これに関しては皇妃様の許可が無ければ販売不可にしてもらった。
ぶっちゃけ絶対生産が追いつかないもん。
前回の下着店で嫌と言うほど理解した。
ラノベとかでよく見るけど、お貴族様は流行を追うものなのだ。
下準備も何も出来ていないこの状況でいきなりオープンしたら苦情大爆発間違いなし。
なので最初っから後ろ楯というか防波堤になってもらうことにした。
皇妃様プロデュース、人気の下着店の商会が営業、皇妃様の許可が無ければ購入できない最高級品店。
そうやって最初からトップに立つ売方にしておけば文句は出ないだろうという目論見。
急遽店を立ち上げることが決まった為、大急ぎで店舗の改装が始まった。
俺の勝手なイメージでデパコス売り場的なデザインだ。
いや、だって化粧品売り場ってそれしか知らんし。
ドラッグストアとかスーパーの化粧品売り場感出すのはなんか違うでしょ?
女性物は細かくカテゴライズされていて、理解がとても難しい。
その辺はお姉様方にお任せします。
丸投げが正解だと思う。
改装中に他の諸々の作業を進める。
まずは化粧品素材の確保。
これはうちのクランをフル活用。
今回使った素材と類似の効果のある素材を、とにかく色々沢山採ってきてもらう。
緑の手やデイジーなど孤児院出身メンバー大活躍だ。
勿論俺も一緒に行った。
俺が行けば素材の鮮度や持ち帰れる量が多くなるしね。
そしてその間に工房員や店員を集める。
とはいえ、こちらは皇妃様……もといエデルトルート様にほとんどお任せである。
エデルトルート様が色々と手を回してくれたおかげで、工房員も優秀な錬金術師や魔道具師に薬剤師がぞろり。
いつもの面接を行い、乗っ取ってやろうと思っている数名はお断りして、自分の仕事を全うする系の人を役職につける。
国が選んだはずなのに俺がNGを出すと何故かスムーズに弾かれていった。
え?大丈夫なの?
本人達はものすごい苦情を訴えてくるし、親の爵位とか地位とかをちらつかせて脅してくる。
とはいえ、ここに爵位とか権威とかそういうものは関係ない。
純粋なヤル気と皇妃様への忠誠心が一番です。
知識なんて後からいくらでも補完できるからね。
あまりにひどい人達には、こちらは皇妃様がいらっしゃいますが?と笑顔で追い返す。
ついでに本人の名前と持ち出してきた爵位や地位、親の名前を明記してエデルトルート様にお渡ししたら良い笑顔で受け取ってくれた。
錬金術師と薬剤師へ、今回作った化粧品を叩き台に、より良い製品の開発と研究をお願いする。
実際に目の前で作って見せ、これにはこんな効果があってどういう理由で使用しているのかなど簡単に説明した後、他に良さげな素材はこちらとを並べておいた。
分量調整や使う素材の厳選など研究すべき内容は山のようにあるし、皇妃様が使うものと全く同じものを貴族が使えるわけもない。
その辺の調整は彼等に任せる事にする。
それ以外に欲しい素材などあれば適宜報告して欲しいと話すと研究者の顔をした工房員達が大きく頷いた。
皇妃様に気に入っていただいたケース類はそのまま例のドワーフに頼んだ。
一応「皇妃様プロデュースのお店で扱う。貴族に大人気間違いなし。沢山、でも品質を落とさずにお願い」と話したら頬を引き攣らせて請け負ってくれた。
その後小物工房が色んな工房から人を呼んで徹夜で作業をしていたらしいが、俺は知らないったら知らない。
今度ポーションと鉱石を差し入れに行こうと思う。
彼等の好きなお酒は全てに一息ついてからだ。
今のうちにヤーコプにドワーフが好きなお高くて美味しいお酒を沢山用意する様に予約しておこう。
二ヶ月後、皇都の貴族街にでっかい店舗が出来上がる。
こちらもショーウィンドウ付きで、キラキラ輝くカットガラスが連なってぶら下がっている。
このカットガラスは言わずもがな、エイグルさん作だ。
デパートのウィンドウを思い出して使えそうだったので、お願いして作ってもらった。
エイグルさんはカットの仕方でキラキラと輝くガラスに新たな商機を見出していた。
背の高い円筒形の展示台にちょこんと載せられているのは化粧水のガラスボトル。
そのステージだけに魔道具のスポットライトを当てている。
アトラさんに贈ったティーセットをオマージュしたという薔薇の花が巻き付いたボトルは、それだけでとても華やかである。
その横にはオープン日と皇妃様の許可が無ければ購入できませんとの案内文。
庶民平民下位貴族お断り感が半端ねぇ……。
でも貴族街であるし、皇妃様プロデュースということですでにたくさんの貴族の耳にその情報は届いているらしい。
ついでにこないだ皇帝から水銀を使用した白粉の使用禁止が出ていることも拍車を掛けている気がする。
今も遠くからの視線がビシビシと背中に突き刺さる。
今日の服は団服なので余計に貴族街で浮いている気がするけど、クランのアピールの為に我慢だ、我慢。
店内に入れば皇妃様の手駒さん……もとい、店舗スタッフの皆さんがキビキビと準備を進めていた。
明るく照明を多用した店内、テスターとして並べられる幾つもの化粧品。
曲線を多用したカウンターと在庫のある広いバックヤード。
店内イメージもいくつか描かされたので、俺のイメージそのままにより高級感のある仕上がりだ。
内装デザイン段階で、せっかくならお試しコーナー作って、プロの手でメイクを施す事で「これ良いわね!欲しい」と思わせる手法やらない?と話したら大盛り上がりだった。
しかしそこはお貴族様。
現代日本のように人前で化粧を落とす事は出来ない。
他人の前ではすっぴんは見せたくないとのことで、いくつもの個室を用意する事にした。
その個室は大人が四、五人がゆったり入れる程の大きさだ。
高位貴族のお嬢様方が来られるので、本人と店舗スタッフ、侍女と護衛が一人ずつは入れる様に配慮している。
それ以上に連れてきた人達には申し訳ないが店内か店外でお待ち頂くしかない。
洗顔して化粧を落とせる様に魔道具の洗面台と豪華な一人掛けのソファー、そして特注の鏡がある。
鏡の周りに魔道具のライトを置いて、肌が明るく綺麗に見えるようにしておく。
いわゆる女優ミラーとか言われるあれね。
勿論皇妃様にはより美しく優美に作った専用の鏡台として献上させていただいている。
ライトの魔道具は工房員の錬金術師にお任せした。
以前使用した魅力アップの素材を使用しているのでより美しく見えるらしく大変満足とのお声を頂いた。
ーーーそして「むしろこの魔道具の鏡を頂戴」と喚く客が増える事をこの時の俺と工房員はまだ知らない。
満を持してオープンした化粧品店「女神の雫」は予想通り大人気となった。
皇妃様に認められなければ買えない、肌が美しくなる、そのどちらかだけでも貴族は勝手に集まるのに、それがどちらもとなれば言わずもがな。
お貴族様ばかりなので押し合いへし合いは無いのだが、嫌味と牽制の視線と言葉が飛び交っていた。
俺は店頭に立って笑顔で「いらっしゃいませ」と言うだけで、小競り合いなどは全て店舗スタッフさん方が丁寧に対応してくれている。
しぜーんに声を掛けてそれとなーく遠い席に案内するその手際の良さと言ったらもう!
(ありがたやありがたや)
心の中で拝み倒すくらいしか出来なかった。
とりあえず初日の閉店後、試作品の化粧品とポーションをそれぞれに配ったら、目を輝かせてお礼を言われてしまった。
一応、人に勧めるためには自分も使わなくてはならないと購入はしていたが、かなり高価な為、そう多くは手に入れられなかったらしい。
折角なので忙しいのが落ち着いたら『社内販売』という利益を少し削って、社員や関係者が安く買える仕組みを作っておこうかな。
そうして初日から一週間程をくぐり抜けた時には俺はもうぐったりと疲れ切っていた。
そして同じくクランメンバーはこの店の素材採取だけで手一杯になっていた。
ほんとみんなごめん。
しかも、化粧品に使う薬草や鉱石だけでなく、ケースに使う宝石や貝殻なんかも大量に集めに行かされていた。
【アイテムボックス】を持つ俺と、収納カプセルを持つパウルさんは強制的に別行動になるが、お仕事自体は単純明快なものになるのでメンバーシャッフルなども行った。
とても良い経験になった。
ヒメッセルトのダンジョンに団服を着たクランメンバーで向かった時は大騒ぎであった。
どこの軍隊だ!とハンター達が騒ぎ出し、ハンターギルドの職員が走ってきてお互いにポカーンとしたりする一幕もあった。
すわ一大事!と出てくればよく見知った俺たちがお揃いの服を着ているだけである。
ここまで大事になるとは思ってもいなかった俺たちもバタバタと走ってくるギルド職員に固まるしかなかった。
その後はそのとんでも状況を笑い合い、情報の共有がなされたのか、トラブルは無かった。
ヒメッセルトのダンジョンは比較的簡単にマジックアイテムが手に入る事で話題になっている事もあり、かなりの人数が潜っているらしい。
現在なんと十階層まで確認されているのだとか。
俺たちは五階層に大きな採掘場があったので、そこで採集を行った。
大量の宝石を掘り返し、【鑑定】で仕訳をしつつ一定量が溜まれば【アイテムボックス】に放り込むだけの簡単なお仕事だ。
ヒョイポイ袋に振り分けて放り込んでいく俺を見てカトライアさんから「よそではやっちゃダメよ?」と厳重注意を受けた。
ヤンスさんだったら一発殴られているところだな。
注意を受けてからはちょっと悩むふりをしたりしておいたが、わざとらし過ぎると演技指導を受けた。
解せぬ。
ヒメッセルトに行くついでに、最近ちっとも行けてなかったいつもの農村にも顔を出す。
しかしそこはもう“農村”とは呼べない大きな町になっていた。
ぐるりと囲む分厚い壁、頑丈な門。
近くにダンジョンがあるからと新しく建設されたであろうことはよくわかった。
建ち並ぶ宿屋、他所から流入してきた道具・武具・薬屋。
農地には安易に踏み込めぬ様、柵が取り付けられていた。
おそらくハンター達が何度か踏み荒らしたんだろうなぁ。
「おお!久しぶりだな!」
「お久しぶりです!村長?さんはいらっしゃいますか?」
そうして、村長改め町長の元に移動する。
手の空いている人に綿花の生産を依頼出来ないか相談した。
化粧水用のコットンに、下着類に使用する綿の布も大切だ。
もうどう考えても絶対に足りないので作る事に踏み切ることにした。
まあ、踏み切れたのは“専属農家”というシステムを思い出したからだけど。
うちの専属農家という形で契約して、出来上がった綿花は全て買い取ると約束すれば、大喜びで各農家の次男三男が協力してくれるそうだ。
ただし、一定量は必ず納品することを約束させた。
サボってほんの数本だけ納品されても困るからね。
それでも町長に話されてヤル気に満ちた青年達を見れば少しだけ手伝いたくなった。
魔法でいくつかの木を切り倒し、農地を確保、土をふかふかに耕す。
帝都で手に入れておいた綿花の種と苗を等分して渡した。
それでも希望者に対して圧倒的に数が足りない。
足りない分の種や肥料とかは自分達でなんとかして欲しい。
ヒメッセルトに行ったり、取り寄せてもらったりすれば良いと思われる。
そうしてバタバタしているうちに夏が来た。
いつも俺不運を読んでいただきありがとうございます。
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制作の励みにさせていただいております。
とうとう皇妃様とタッグを組んでお店の経営に入ってしまいました。
しかも元来の真面目さが仇となってものすごい勢いでお仕事が増えています。
クランメンバーも皇妃様直々に下される依頼に忙殺されています。
結果的にハンターギルドからは少し距離を置いて、ガッツリ稼ぐ状態となっていますね。




