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間話 ◯視点 アダルブレヒト 【奔走】

 頑張るアダルブレヒト。


 無事キリト達を見送り、山場を乗り越えた事にホッと息を吐く。


 想定外に揃いの衣装を着て現れた彼等にハンターギルド内は大パニックだった。

 ほんの少し前には帝国軍がやって来てギルドマスターを連れて行き、そのまま国賊として一家全員処分された。

 また、それに併せて数人のギルド職員と数組のハンターも捕縛されている。

 その記憶もまだ新しく、ギルドマスターが変わったばかりだというのに、見慣れぬ制服を着た一団が整列してやってくるのだ。

 恐るなという方が無理だろう。


 どこの国の軍だ?!服の形が統一されていない事で軍ではないのではないか?いや、特定暴力組織ではないか?などと右往左往して上を下への大騒ぎ。

 おそらくクラン『飛竜の槍』だと説明しても騒ぎは一向に収まらなかった。

 本日正式にここのギルドマスターに就任したばかりで、事情を知るわけがないと誰もワタシの話を聞いていないのだろう。

 冷静な受付嬢の一人が「一番前に立って歩いている二人は『飛竜の庇護』と『三本の槍』のリーダー二人です」と断言した事でなんとか落ち着いたのだった。

 ギルドの掌握が一番の急務だな……。


 予定はすでに話してあった為、ギルドに入って来てからはなんとかスムーズに案内されて彼等はワタシの部屋にやって来た。


「よく来てくれたな」

「あ、あだるぶれひと……さん?なんで?」


 部屋に足を踏み入れ固まる者達に声を掛けると、キリトが震える声でワタシの名前を呼んだ。

 ワタシが召喚したというのにこの場にいる事が心底信じられぬという表情だ。

 むしろ何故いないと思っていた?


「まずは部屋に入りなさい」


 席に案内してあれこれと話しを聞いた。

 服についても水を向ければ「クランとしての活動の一環」だと返ってくる。

 全ての仕様を揃えず、必要なポイントのみとする事で軍や兵などと差別化をしているのだそうだ。

 せめて来る前にその服を着てくると一言でも伝言されていればここまでパニックにならずに済んだのだが……。

 今更それを口にしても詮無い事である。

 今後はこの“団服”と言ったか?こちらを着てクラン活動をするそうだ。

 似たような意匠の研修生という存在も居るらしい。

 胸のところにクランマークと呼ばれる紋章が付いている。

 これも見覚えのない意匠で、ディフォルメされた影で飛竜と槍が描かれている。

 このマークも貴族や国の紋章とは違うので大きな問題にはならないだろう。

 万が一にでもどこかの貴族家の紋章と似ていたりした日には余計なトラブルが起きるところだった。

 皇室が協力しているのだから問題ないだろうが、勝手に紋章を掲げるなど、国に対しての反抗に見られてもおかしくない。


(危うい……。本当に危うい。豊富な知識や技術があるかと思えばこの様な簡単な危機管理も出来ぬとは……)


 そうしてなんとか一団を見送り、ワタシはクルリと振り返った。

 そこにはこちらを伺う複数のギルド職員。

 仕事はどうした?


「さて、それでは改めて今回の事の説明と伝達を行う。今手を離せる者は全て会議室に集まるように」


 そう言って数人の雑用係に飲み物や会議室の用意を指示する。

 朝のうちに場所は確保しているし、ある程度の準備は行っているはずだ。

 だが、湯を沸かしたりするのには時間がかかる。

 パタパタと数名の女性が駆けていった。


 準備の整った部屋に神妙な顔をして座るギルド職員達。

 その顔は分かりやすく引き攣っている。


「改めてワタシが新しいギルドマスターに就任した、アダルブレヒトである」


 正面の壇上に立ち挨拶を行う。

 帝国の筋書き通りの“事情”を説明した。

 この度、数名の貴族と結託して前ギルドマスター、ガブリエールが帝国に対して反逆を起こし粛清された。

 また、余罪として貴族出身者達への不正な優遇、ランクアップが認められ、そちらは既に処理済みである。

 高額な通信の魔道具を使用したスピード重視の異例処置だ。


「また、一部のハンターへの嫌がらせ行為も発覚している」

「ああ……」

「……アレだな」


 ギルド職員全てがすぐに思い当たるほどにその嫌がらせはあからさまだった様だ。

 ワタシはその嫌がらせに加担していた者は今すぐに止めれば罪には問わない、また、詳しく知らずに噂をするハンター達を嗜める様指示を出した。

 その際に加担していた者達と視線を合わせてやった為、把握している者達は顔色を悪くさせ、大人しく頷いていた。

 これでハンターギルドは一旦大丈夫だろう。


 次はハンター達への伝達だ。

 掲示板に通達を貼り出しておく。

 内容は以下の通りだ。


 今後不確かな噂で一部のハンターを貶める者には注意喚起を行う。

 複数回注意を受けても改善されなかった場合降格処分や罰則も視野に入れる。

 不確かな噂を信じて被害を出した場合はパーティ全員連帯責任である。


 ギルドからハンターへの通達はシンプルにわかりやすく。

 クエストだけでなく、ギルドからの連絡も書かれる為、字が読めぬ者も、読める者に代読を願い、確認する。

 また、受付でも一言案内を徹底させた。

 これで悪意のない者は危ういことには近寄らないだろう。


 そして齎される報告に、貴族達から『情報通』達を伝って回される噂が追加された。

 いつの間にかガブリエールはハンター達への評価を自分の好悪で弄り、上前を跳ねていた事になっていた。

 また、『飛竜の庇護』はドドレライスデンでは無くてはならない働きをして貴族に評価されていたが、それを快く思わない貴族出身のハンターが悪評をばら撒いた。

 それに心の狭いハンター達が追従して、「実力がない」「貴族の後ろ盾を良い事に好き勝手している」と吹聴。

 実力はオーク討伐の際に証明されている。

 などなど、ある事ない事入り乱れ、彼等を擁護していた。

 これはある意味許容範囲内というか、予想が付いていたというべきか。

 まあ、特に問題はなかった。


 次に報告されたのは“隻眼の孤児”から撒き散らされる『真実』だ。

 『捧ぐ意思』がどれほど非道であったか、対比して『飛竜の庇護』の善良性を孤児である自分達を利用してあざとい程にアピールしている。

 子供のやる事だ、と目溢せば手痛い攻撃を受ける事になるだろう。

 あまりに大袈裟になる様であれば注意を行わねばならないだろう。


 その他にも悪意を持って貶めている者達への厳重注意や、噂の調整、後ろ暗い依頼を受けていたハンターをピックアップしての聞き取り調査、場合によっては捕縛、ガブリエールの怠っていた市民の依頼受付、その他諸々。

 火を消しても消してもすぐに燃え上がる。

 挙げ句の果てにはギルマスの入れ替えまで『飛竜の庇護』の仕業にされている。

 何度注意してもいなくならない嫉妬する者達。

 ワタシは愛する妻と会話することもままならず、日々消耗していった。

 癒しが、癒しが欲しい……。


 不幸中の幸いとして、貴族側からの叱責や催促は無く、それとなくポーションや薬などが差し入れられている。

 そもそも全てはガブリエールが取り立てたあのクソガキのせいだ。

 探りを入れてみれば、いまだに規律無視や命令違反、他の者への暴行などが絶えず、犯罪奴隷としての罪が重くなっていっているらしい。

 いっそのこと「コイツの流布したデマだ!」と言えれば良いのだが、『飛竜の庇護』の後ろ盾に貴族や、皇家がいることは事実だし、今回の首のすげ替えや処刑は多分にお上の都合が含まれている。

 下手に半端な事実が含まれているので強く否定もできない。

 だからこちらが言える事は「噂をするのをやめろ」ということだけ。


「ワタシはいつになったら妻の元に帰れるのだろうか?」


 二徹目の夜、書類決済と報告書の山に埋もれて呟く。

 しかもまた皇宮の方でなんらかの動きがあるらしく、雑貨屋の店長(キリト)が呼ばれているらしいのだ。

 頼むからおとなしくしていてくれ!

 これ以上仕事を増やすな!

 空しい祈りを天におわす女神は受け取ってはくれなかった。


 いつも俺不運を読んでいただきありがとうございます。

 霧斗達はまだ実感できない程度の現状です。

 お貴族様達が、守る為、というご立派な建前を手に入れて動き出しました。


 ここ最近ブクマや評価を沢山いただけて大変に驚き喜んでおります。

 また、感想もとても嬉しいですし、ドキッとするものも多数いただいております。

 わぁお、バレちゃった…ってなります。

 皆さんの予想が鋭すぎる……

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― 新着の感想 ―
「〈飛竜の庇護〉は、確かに皇帝陛下・皇妃殿下のお引き立てを受けているが、それは実力と実績有ってのことで、皇宮が然るべき何かの無い者を依怙贔屓することは有り得ない。 本来、ハンターギルドも同様の筈だが、…
皇宮ではアダルブレヒトさんをキリトたちの専任担当と考えていそうですね
逆に考えよう。お昼の差し入れに奥さんに来て貰えばいいんだ。
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