間話 ◯視点 アダルブレヒト 【とあるパーティを巡る権力者達の騒乱・1】
理由はないけど後の自分の為シリーズです。
『“クラン”という新しい体系の団体を作りたいのですがどうすれば良いか分かりますか?』
珍しく手紙を寄越したと思えばなんとも予想外の内容で首を捻る。
手元にある帝都からの情報を確認してもう一度首を捻る。
手紙の続きを読めば、ハンターパーティ数組で協力する互助会の様なものを作りたいのだとわかった。
それはギルドの仕事だろう、それがあれば問題ないだろう、などと言うには彼等の置かれた状況はあまりにも良くない。
ワタシはひとつ深呼吸をして改めて報告書を読む。
これはワタシの個人的な手の者からの報告書である。
帝都のギルドから届く所連絡とは違い、帝都の雰囲気や大きなトラブル、ギルド内の問題、物価など様々な面から収集した情報だ。
その中には、特定のハンターを監視する者も数名いる。
ぴったりと張り付いてずっと監視する訳ではなく、同じ街に滞在し、それとなく情報を集めるだけの者達だ。
そのうちの一人から監視しているハンターパーティが帝都中の下位ハンター達に悪く言われている、と報告してきた。
広がり方がおかしいので、焚き付けている者がいる様だ、帝都のギルドも関わっているかもしれないなどと書かれている。
その悪感情が広がっているにも関わらず、何故か帝都のギルドは動かない。
報告を信じればむしろ広げている側だというではないか。
「いったい何を考えているのだ。少し情報を集めれば皇宮と関係を持っている事などすぐに分かるだろうに……」
帝都のギルドマスターを思い出して気分が塞ぐ。
丁寧に返事を書き、ついでに愛しの妻への贈り物もねだっておく。
抜け目のない男もいるが、こう書いておけばあのお人好しの少年は気を利かせてくれるだろう。
そうして書き上がった手紙を速達で出し、帝都のギルドマスター、ガブリエールを審問会に掛けようとハンターギルド本部に手紙を書いた。
そちらも速達で出す。
あとはガブリエールの職務放棄の証拠を集めるだけだ。
数人のハンターを雇い、帝都に向かわせる。
数日が経ち、ギルド本部への道の途中、帝都の次の街で待機していたハンターから連絡が届いた。
途中で何者かに手紙を奪われたらしく、待てど暮らせど誰も来ないのだそうだ。
同時に帝都のヒエロニムスと名乗る者から面会の依頼が届いた。
「この度は不幸な事故により連絡が途絶えてしまったらしいですな。ご心労お察し致します」
「いえいえ、何事も百パーセントなど存在しませんからな」
見え見えの嘘を口にするのはヒエロニムスと名乗る貴族。
『飛竜の庇護』と皇宮のパイプ役の伯爵家の貴族だと口にしていたがそれは正しくない事をワタシは知っている。
指定された店に顔を出せば、そこにはなんと優雅にくつろぐニコラウス・フリードリヒ・ヴィルヘルム・エーアストが居た。
エーアスト帝国の名を家名に持つ男、つまり皇弟殿下である。
今代の皇帝と皇弟は大変仲が良い。
とはいえたかが一ハンターパーティとの取次に皇弟を使うか?
なんとか頬の引き攣りを気合いで止め、丁寧に丁寧に最上級の挨拶を行う。
服装は皇弟に会うには足りないが、皇宮勤めの伯爵に会うには十分である。
相手が伯爵を名乗るのであればそれでいいだろうと判断した。
「そう固くならずもっと気楽にしてください。ちょっとした歓談の場なのですから」
「はい」
気さくに話すニコラウス…ではなくてヒエロニムス様。
おそらく皇宮がギルド本部に宛てた手紙を奪取したのだろう事はすぐに分かる。
だがその理由が判らない。
皇宮がガブリエールと繋がっていたのだろうか?
それともまた別の理由?
「警戒をさせてしまっている様だな。まずこちら、私達に帝都のギルドマスターであるガブリエールを庇う気持ちは無い事だけは信じてもらいたい」
「は?」
思わず間の抜けた声が出てしまった。
「ガブリエールをハンターギルド内で処理されては少々困るのだ。帝国の国賊として裁く予定だからな。ハンターギルドで確保されてしまっては時間が掛かりすぎる。こちらでまとめて裁くのでギルド内の犯罪を全部論って報告せよ」
「そ、そう言われましても……」
「協力するのであればハンターギルドには責任を問わないが、庇い立てするのであればこちらにも考えがある。なに、協力だけさせるつもりはないとも。君が帝都のギルドマスターになれるよう推薦させてもらおう」
優しげに口にするものの、命令し慣れている声音である。
若干の脅しが含まれていることも皇宮らしい。
庇い立てするのであればハンターギルド自体に責任を取ってもらうことになると言っているのだ。
ワタシは安易に頷けなかった。
「きっと彼も君を信用しているから安心だろう。だからそちらに相談した」
待て、彼とは誰のことだ?
心の中で問いかけるが、脳裏には大人しげな黒髪の少年が既に浮かんでいた。
「誰の、なんという相談でしょうか?」
聞いてもヒエロニムス様は意味深に微笑むだけだった。
迷い人だと言う少年は素晴らしい地図を描き、予想もしなかった魔法を使う。
あちらの世界の文化である「永遠に枯れぬ愛の日」を取り入れ、新たな商機を生み出した。
村長に請われてとはいえ、ダンジョンに有用な保存食に、産地限定のマヨネーズという特産品。
子供達の識字率を上げる絵本や紙芝居という娯楽型教育。
間違いない。
彼とはあの少年の事だろう。
帝都でも色々やらかしたと報告があった。
なぜそうなったか分からぬことばかりではあったが、現在の帝都の繁栄はハンターの少年一人によって引き起こされたものなのだ。
恐らく皇宮でも正確に把握している。
そうして囲い込もうとしていることも理解した。
「ご理解いただけたかな?」
鍛え抜かれた体躯と鋭い政治感覚を持つ高貴な男は、ワタシの僅かな表情の変化でこちらの内心を読んだらしく、にっこりと微笑んだ。
清濁合わせ持つその微笑みに全身に鳥肌がたつ。
「皇族の御心のままに」
改めて跪き短く返事をすると、ワタシは覚悟を決め、手元にあったガブリエールのギルド内の違反行為リストを提出した。
それだけでは足りないとのことで、帝都のギルドスタッフを呼び出し代わりに別のスタッフを送った。
所謂スパイと呼ばれる者だ。
馬を飛ばして大急ぎで向かってもらった。
ちょっと掘り起こせば簡単に出てきた。
貴族家から勘当された者を不当に高位のランクを付けていたり、一部の貴族出身のハンター達に簡単な依頼で高評価を付けたり、本来受けるべき市民からの依頼を受けられぬ様にしたりとやりたい放題だった。
しかし、予想していたギルドの金に手を付けたり、ギルドスタッフや女性ハンターに手を出したりといった犯罪行為はしていなかった。
この男はそこのギリギリの見極めがうまかったのだろう。
ハンターギルドで処理していたらあまり重い罪には問えなかったかもしれない。
しかし、帝国側から見た時、事情は少し変わってくる。
あの少年を帝国側から見れば、帝都の産業を活性化させた功績のある人物、又、今後より帝国へと益を齎す人物なのだ。
皇帝陛下、皇妃殿下からの信頼も厚く、本人の善性も素直さも大変に扱いやすいものだろう。
あの大容量の【アイテムボックス】は戦時にも災害時にも役に立つ。
安易に手放せない国として重要な人物である。
つまり“ギルドマスターから所属ハンターに対してのちょっとした嫌がらせ”は“帝国の重要人物を害する行動”になるのだ。
これで準備は整った。
いつも俺不運を読んでいただきありがとうございます。
霧斗達が新商品でわちゃわちゃしている裏でこんなことがありました。
ガブリエール氏の悪行、誰のことかわかるでしょうか?(にこり)
どちらも本編に出てきております。
簡単過ぎるだろ?とは言わないでくださいませ。
今週もう一度この続きを挟んで本編に戻ります。
ずっとアダルブレヒトのターン!(顎シャキーン⭐︎)
このネタも伝わる人はもう少ないですよね…(しょんもり)
作者の渾身のヒエロニムス様をよろしくお願いします。
ムッキムキの文官大好物です。←




