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220 クラン結成 5


 新商品と言えばもうひとつ、思いつきで作った薬草茶のティーバッグはかなり話題になった。

 折り返して茶葉が出てこない様にした荒目の布袋と一回分の茶葉、五個セットで大銅貨一枚。

 茶葉はすぐに抽出できる様に少し細かくしている。

 地球の物ほど細かくすると茶殻が布から出てしまう為程々の大きさにするのがポイントである。

 布袋は洗えば繰り返し使えるし、専用のティースプーンも別売りでご用意。

 ティーポットがなくとも鍋で煮て作ることもできるし、最悪カップで直接淹れる事も可能だ。

 ついでに時間が長めに掛るが、水出しもできる。


 元々薬草茶はいくつか並べていたものの、中々売れなかった商品の一つである。

 こちらの世界、というかこの国では、一般市民はお茶を飲む習慣がない。

 貴族や商人といったお金持ちがステータスの為に飲むもので、平民は水を飲むだけである。

 え?ハンターのくせにお茶を飲んでる者達がいる?

 ウチのパーティはエレオノーレさん(貴族出身者)がいるからね。

 例外例外。

 それにその時飲んでいたものは、所謂茶の木から採れた茶葉ではなく、ドクダミ茶の様な野草を乾かして煮出した物。

 翻って販売しているものは一定の効果のある薬草をブレンドしたもので、効果の強いハーブティーといった方が伝わりやすいかもしれない。

 効果としては安眠だったり風邪防止だったりと地球のものと大きくは変わらないが。



 そもそもの発端は店を閉めている間の社員会議である。

 バイトさん達も呼んで、皆でどうやれば良いか話し合っている時だった。

 店頭に並べてあった薬草茶が古くなってくると休憩中に淹れて飲んだりもする。

 捨てるのは勿体無いし、かといって販売するのも憚られるからね。

 それをこの時も出したのだ。

 人数が多いから大きめの薬缶にたっぷり作って。

 そしたら、バイトのおば…お姉様方が美味しそうに嬉しそうに何度もおかわりするのだ。


「そんなに好きなら買って下さいよー」


 エドガーが呆れながら言うと、彼女達は顔を見合わせた後に大笑いする。


「いやーお茶を淹れるのなんて無理無理」

「わかるわー茶葉の量もわかんないし」

「ティーポットなんて洒落たモン持ってないしね」

「「「何よりお湯を沸かして淹れるのがね!」」」


 かわるがわる理由を口にして、むりむりと笑いあう。

 薪代と火の始末、茶葉の料金などを考えたら汲み置きの水で良い、となるのだそうだ。

 お金持ちでなければ燃料である薪は出来うる限り節約したい出費なのだとか。

 特に家計を担う奥様方には一番のやりくりポイントらしい。


「うーん……水出しにしたらいいんじゃないですか?」

「水出し?」


 お湯で煮出さず、水に直接茶葉を入れて時間を掛けて抽出したお茶があったはずだ。

 俺が見たのはでっかい氷を使っためっちゃ時間がかかる出し方だったけど、氷でイケるなら水でもイケるはずである。

 物は試しとガラスのティーポットに冷たい水と三杯分の茶葉を放り込んでしばらく安置しておいた。

 直射日光の当たらない風通しの良い涼しい場所に保管。

 その後いくつかの相談を済ませてオヤツタイムである。

 お菓子を取り出しつつ、安置していたティーポットを確認すれば、充分に茶葉の色味が出ていた。

 ティーカップに少な目に淹れて一口味見をすると、煮出した物やお湯で淹れたものに比べると香りは控えめだが、しっかりとお茶の味がした。


「うんうん、もう少し置いてても良いかなって思うけど、こんだけ出てれば充分かな」


 そう言って皆にカップを差し出した。

 恐る恐る口をつけた者達の目がカッと開く。

 美味い。

 皆の顔にはそう書いてあった。

 常温という事もありスイスイ飲めるし、香りだって少ないとはいえ充分にある。

 しかもお湯で淹れた時の渋味が全くない。

 まろい口当たりに充分な旨味。

 お茶に不慣れな者達はこちらの方が絶対飲みやすいはずだ。

 こっそり【鑑定】してみて、効能が充分にある事を確認する。


「ものによってはお湯で淹れた方が良いやつもあるけどこれでも充分に効果があるしね」

「でもコレはキリトさんが淹れたからでしょう?あたし達には一回分の量を測るのが難しいんですよ」


 名残惜しそうに残りを飲み干した女性が残された茶葉を見る。

 出涸らしはこの後床掃除に再利用するので捨てはしない。


「うーん専用のティースプーンを使ってすり切り一杯とかティーバッグとかあれば簡単だよね」

「「「ティーバッグ?」」」


 俺の言葉に首を傾げる他のメンバー。

 誰も存在を知らないという事は存在しないのかな?

 単純な作りだから誰も思いついていないのか、市民に広がっていないだけなのか。

 すぐに作れるのでちょっと作ってみせる。


 【アイテムボックス】から荒めの麻布を取り出しカットして縫い合わせる。

 細長く切った布の端を処理して折り返して中身が飛び出さない様にするだけで、小学生の家庭科レベルのお裁縫である。

 一応熱湯で煮沸消毒して、魔法で乾燥させると、茶葉を一杯分中に入れた。


「こんな感じのやつですね。これで一杯ぶ……」

「なんだいこりゃ便利じゃないか!」

「はーー作りは簡単なのに中身が飛び出ないね」

「コレなら中の量さえ覚えれば間違う事もないね!」


 言い終わる前に奪い取られて振ったり揉んだり裏返したりと思い思いに弄って感想をだーーーっと言われた。

 まさに立板に水。

 そしてあれよあれよという間に製品化され販売する事が決定していた。

 麻布は洗って何度でも繰り返し使える為最初に数個購入すればあとは好きな茶葉を買い換えるだけである。

 ティーバッグの作成は寡婦に依頼する事になった。

 袋部分を作る者、茶葉を乾燥させて破砕する者、出来上がった二つを量を計って入れる者、パッケージする者と一つ一つの作業を単純化させて流れ作業で作る事になった。

 薬草採取に関しては孤児院の子供達や『緑の手』にお任せである。

 サイズを統一させる為、麻布のサイズを合わせてカットするのはブリギッテのとこの下働きのお仕事になったらしい。

 練習に丁度良いと笑われた。


 その様な人件費が掛かった物なので、確実に売れる様に努力すべきだろう。

 ティーバッグの売り出しに合わせて、発売から三日間限定で小銀貨一枚以上薬草茶を購入してくれた人にはガラスのティーポットをプレゼントする事にした。

 地球ではよく見る初回サービスだが、そんなサービスどの店でもやっていないそうだ。

 そう突っ込まれたが、店長権限で押し通す。

 期間限定でそれ以降は絶対に付けないし、デザインはシンプルで比較的壊れやすい物なのだ。

 しかも一定金額以上購入せねばもらえない。

 正直言ってそこまで客は集まらないだろうと思っていた。


 だが、商品を買えばただで貰える、というのがデカかったらしい。

 一定金額買わねばもらえないのだが、こちらの人達にとっては出した金額分商品が手に入って、その上高価なガラス製品が貰えるというのはイコール無料だったようだ。

 想像以上の反響があった。

 ちなみにバイトのおばちゃん達はすでに全員が先行購入済みである。

 家に持ち帰り、ご近所さんに自慢したらしい。

 そこから広がった口コミはとんでもなかった。

 発売初日には帝都中の人が買いに来たのでは?と思うくらいだった。


 ちなみにガラスのティーポットは土魔法なので元手なしでいくらでも作れるよ!

 商圏を荒らしちゃうので販売はしません。

 それがまたプレミアを付けちゃったらしいんだけど、そんなの知りません。

 ご贔屓のガラス工房にご依頼下さい。

 贔屓先が無い?じゃあエイグル工房がおすすめだよ!

 先行してエイグルさんに報告相談と、デザインにこだわったガラスのティーセットをアトラさんに付け届けしておいた。

 薔薇のモチーフで五脚のカップとセットのティーセットは大変気に入ってもらえた。

 娘さんを陥落させ、問い合わせがあったら客を振ると言われたエイグルさんは呆れた苦笑いで請け負ってくれた。




 人気が出てきて、効果もある事が知られると、こんな症状に効くお茶はないのか?と問い合わせが増える。

 その症状に効果のあるお茶を作りたくて孤児院長先生に相談に行くと「これは画期的だ!市民にもお茶の文化が広がる!」と大感激された。

 一応自分でも【鑑定】で各症状に合わせた薬草を仕分けたのは良いが、上手くブレンド出来なかったのだ。

 単純に美味しく無い。

 そう話せば、院長先生オリジナルの腹痛や血行不良などの体調に合わせた薬草茶を色々教えてくれた。

 あと皇妃様に依頼されて色々調べた時に効果のあった薬草を出して話すと色々ブレンドして開発してくれた。

 妊婦さんにも安心な薬草茶も種類を出す事が出来たのはとてもでかかった。

 やっぱり美肌茶や美白茶、デトックス茶などの美容系と風邪予防などが人気なんだけど、時折頭痛改善や便通なども売れる様になった。

 薬草茶の客は圧倒的に主婦が多い。

 そして驚くべき事にハンターが次点に来るのだ。

 若い女性にも人気なのだが、男性ハンターが女性への贈り物に選ぶ事が多い様だ。

 最近では「外しの無い贈り物は薬草茶のティーバッグ」と言われるほどである。


 そして私達は味方だからね、と言って肩を叩いていくおばちゃ…お姉様方も増えた。

 きっとバイトのおばちゃん達が色々と話してくれたのだろう。

 無理をせずこの調子でじわじわと信用を回復させていこうと思う。


 エデルトルート様からの連絡は未だ無い。

 しかし、先にアダルブレヒトさんからの手紙が届いた。

 いつも俺不運を読んでいただきありがとうございます。

 いいね、リアクション、ブクマ、感想、評価、誤字報告とっても嬉しいです。

 ありがとうございます。

 めちゃくちゃ励みにしています。


 ハーブティー、酸っぱいヤツは苦手です。

 以前ハイビスカスティーをいただく機会があり、綺麗な水色に期待して飲んだ時は、本気で転げ回りました。

 甘い匂いで甘く無いお茶や、匂いで判らない酸っぱいやつは先に教えておいてほしいものです。

 紅茶は無糖ストレート派なので甘くなくても良いのですが、香りで騙してくるのはなんか違うな、と。


 話は変わりますが、今年の仮面ライダーめちゃくちゃかっこいいですね!

 子供向けか?と言われると少し悩みますが、初代のオマージュで悪役面してますし、ベルトじゃなくて胸に着けるあたりが胸熱です!

 変身シーンが禍々しいのは子供置き去りの悪夢感(笑)

 おもちゃショーで一足先にベルトで遊んできましたが、かなりアクションもボイスもかっこいいです!

 少年心(中2心)を掻き立てられますね!

 まだ見てない人はぜひ見て下さい!(厄介ファン)


 さて、次回はアダルブレヒト氏のターンです!

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― 新着の感想 ―
孤児院の院長先生、実は、薬師としてはかなり偉い人だったりしませんか。 ----------------------------------------------- コンビニのチェーンなど始めてもウケ…
キリトさんたち、このティーバッグやティーポットの販売にしても高値で売ろうとか、利益追求ではなく、一般人が楽しめる手の届く範囲に価格を設定したり、社会的弱者の仕事の確保などを図って 弱き者たちの味方であ…
帝都全体の健康が保たれるのであれば、皇帝陛下もさぞお喜びになるでしょう そのうち薬草茶が帝国の文化として広く定着するかもしれませんね 冒険者にとっても新たな薬草需要が広まって利益になるはず これでも悪…
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