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間話 ◯視点 『三剣の華』 ヨハンネス【Bランクパーティのハンター達 3】

 これまた理由はありませんが後々の自分の為の間話です。


 私の名前はヨハンネス、聖女アレクサンドラ様率いるAランクパーティ『三剣(みつるぎ)の華』の大楯担当である。

 体格も見目も良く、血筋も良い。

 何をしても周りの目を引いてしまう。

 聖女のアレクサンドラ様にも気に入られていて、戦闘時は私が御身をお守りする様に指名されている。


 例の愚かな貴族が問題を起こしたという、ドドレライスデンに着いた。

 私達貴族がいた為すぐに城に向かう事が許可される。

 中々良い目を持った門番もいるらしい。

 にしてもやはり平民の住む街は整理もされておらず見苦しいな。

 アレクサンドラ様も顔を顰めておられる。

 貴族の馬車の前を横切るなどマナーの無い!


 ふと、城に近づくととある方が目に入る。


(あの方は……)


 以前父と共に目通りした事がある。

 公爵家の四男で、その能力の高さから皇帝自ら側近に選んだと言われる天才ーーシュレースヴィヒ・ホルシュタイン・ゾンダーブルク・アウグステンブルク様。

 皇帝の懐刀とまで呼ばれるこの方は常に皇帝の側に控えていた。

 側近中の側近である。


 間違いなく彼がここの責任者だと一目で分かった。

 しかも彼がここに来ているということは、皇帝がこのドドレライスデンを重く見ているということだ。

 そこで顔見知りの私が挨拶をすればシュレースヴィヒ様もお喜びになられるであろう。


「アレクサンドラ様、私シュレースヴィヒ様にご挨拶をして参ります」

「まあ、アウグステンブルク様がいらしているのですか?お名前で呼ぶほど関係が近いとは知りませんでした。ぜひご挨拶してらっしゃいな」


 アレクサンドラ様に許可を得て馬車から降りて駆け寄った。


「シュレースヴィヒ様お久しぶりです!」


 ここの責任者と知己である私を平民達が呆気に取られて見ているが、貴族と平民の差なのだ。

 大人しくそこで見ているが良い。


「どなたですか?今私は大変忙しいのですが……」


 忙しい為か、眉間に皺を寄せて振り返ったシュレースヴィヒ様に礼儀正しく貴族としての礼をとる。

 

「えーと、君はどこの家の子だったかな。マナーの勉強が足りないんじゃないか?」

「はい、オッペンハイム家の三男ヨハンネスです!マナーは一通り勉強しましたので大丈夫です」


 シュレースヴィヒ様と会ったのは一度っきりだったので思い出せないらしい。

 「思い出せないので自己紹介をしろ」と言われて名乗る。


「それで、オッペンハイムの三男が何の用でしょう、か……ーーーキリト君!よく来てくれたね!待っていたんだよ!」


 疲れからか、溜息を吐きながら返事をしていたシュレースヴィヒ様は私の背後を見てあからさまに態度を変えた。

 私との会話を放り出して、笑顔で駆け寄っていく。


「あ、あの、お久しぶりです。先日はお世話になりました」

「いやいや!君達『飛竜の庇護』のおかげで惨事になる前に手を入れることが出来たんだ。助かりこそすれ世話をしたなど」


 その時の私の衝撃が伝わるだろうか?

 皇帝の懐刀とまで呼ばれる彼が、平民の小間使いと笑顔で会話をしているなどと。

 普段ほとんど笑わない天才の彼が。

 厳しい表情で柔らかな言葉遣いで辛辣な意見を吐き捨てると評判の彼が。

 平民如きと笑顔で会話するなどーーー。

 しかもあの平民、馬車から降りていないのだ。

 なんと不遜な。

 なんと不敬な。



 我がオッペンハイム家は建国の時代からこの帝国に在籍する由緒正しい家柄である。

 莫大な功績を挙げた初代当主が『永年陞爵辞退』を宣言してさえいなければ今頃は侯爵でもおかしくない家柄なのだ。

 その後どんなに功績を上げたとて「初代を超える功績でなければ陞爵させられぬ」と初代の宣言を盾に決して陞爵を認めてもらえなかったという。


 つまり我が家は実質侯爵として扱われるべきであるし、それに見合う生活をすべきであるのだ。

 お爺様がなんとかというハンターに手を出して皇帝に睨まれてからというもの、我が家は不運に見舞われている。

 お爺様は隠居させられて、父上が当主となった。

 しかし、父上が当主になった途端に周りの貴族家は手のひらを返し当家に寄り付かなくなった。

 税収も下がる一方で、ヴァイツゼッカー家からの一方的な婚約破棄を突きつけられた。

 クラーラは跳ねっ返りではあるが、それを組み伏せることを楽しみにしていたのだ。

 アイツも私の事を憎からず想っていたはずであったのにあっさりと婚約は破棄された。

 父上からは想いが通じ合っていればこの様に簡単に婚約が破棄されることは無かったとひどく叱られた。


 その後、帝都に店を持ったクラーラは、そしてヴァイツゼッカー家はあっという間に成り上がった。

 他国に真似のできぬドレスを交渉の札にして外交を有利に行っただとか、皇妃に目を掛けられているから、と様々な家に口を聞いてもらっただとか、ヴァイツゼッカー家の話を聞かぬ日はないほどであった。

 なんとクラーラの功績により次代での陞爵が決まったという話さえ流れてきた。

 その話が出た日、私はクラーラに婚約を再度結ぶ様にわざわざ花まで買って出向いてやった。

 しかし、私が婿に入ってやっても良いとまで言ったにも関わらず、あの恩知らずは手酷く拒絶の言葉を叩きつけてきた。

 あまりの対応に花束で頬を打つ。

 その晩、私は父上に呼び出された。


「ヨハンネス其方なんという事を仕出かしてくれたのだ!ただでさえ父上のせいで立場が悪いと言うのに!」


 部屋に入るなり父上はこちらを向いて怒鳴りつけてくる。

 普段は貴族らしく振る舞えだのなんだの小言を言うくせにご自身が一番貴族らしい落ち着きのなさである。

 私はひとつ溜息を吐いて、事実を指摘する。


「父上、父上が言われたのですよ?あの様な金蔓を手放したくなかったと」

「ああ、言った、言ったとも。其方があの娘を婚約している間に籠絡しておれば良き金蔓になったのだ。それをどんな対応をしておったのだ?!こちらが劣勢になった途端に即座に婚約破棄を叩きつけてきおった」


 父上は怒りでワナワナと震えながら中空を睨む。

 おそらくその視線の先にはヴァイツゼッカー家の当主の顔が浮かんでいるのだろう。


「しかも相手側からの一方的な婚約破棄にも関わらず慰謝料も解約金も無しだと?!挙げ句の果てには社交の場で我が家を悪様に言う始末だ!」

「成り上がり貴族なのですから仕方ないではありませんか」

「違う!そうではない!そうではないのだ!其方には婚約者に対しての態度を問うておるのだ!」


 我が父ながら相変わらずヒステリーが酷い男だ。

 ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる父上に神妙な顔を見せつつ言葉を聞き流す。

 幼い頃から続けられる行為にこちらのスルースキルも鍛えられると言うものだ。

 事あるごとに八つ当たりをしてくる。


「今回の其方の愚行のせいで更に我が家の立場は無くなった!もう其方を庇ってはおられぬ。勘当だ。我が家から出てゆくが良い」

「は?」


 意味がわからない。

 父上があのクラーラを手放したくない、金蔓にしたいと言うから私がその願いを叶える為に行動したにも関わらず勘当とはどういうことだ?


「父上!訳がわかりません!一体何がどうしてその様な話になるのですか!!」

「たった今説明しただろうが!このっ家の面汚しめ!其方の軽率な行動のせいで我が家は危険な状態に陥っているのだ!何を考えてクラーラ嬢の元に婚約復縁など求めに行ったのか?!」


 結局詳しく説明もしてもらえないまま家から追い出されてしまった。

 手元には武器防具と数枚の粗末な着替えと大金貨三枚、そしてハンターギルドに当てた紹介状が一枚。

 訳がわからぬ。


 そうして家の前で立っていても、召使や門番に怒鳴っても状況は変わらなかった為、仕方なくハンターギルドに向かった。

 帝都のハンターギルドでギルドマスターに歓待され、ハンター登録をしてもらった。

 盾を使うと話して少しだけ動きを見せたらギルドマスター権限でCランクのギルドカードが発行された。

 いきなりAランクなどにする訳にはいかないが、貴族を平民と同じ扱いにする訳にはいかぬと中々見所のある事を言う。


 パーティはどうすれば良いかと相談をしたところ、「ちょうど良い貴族出身者のハンターパーティがいる」と紹介状を渡され、馬車に乗せられてフンシュヴァーフの街に移動した。

 そこで私は運命の出会いをした。


 ーーーアレクサンドラ様だ。


 フンシュヴァーフのギルドにはすでに連絡が行っており、『三剣の華』という貴族出身者のパーティを紹介すると説明を受けた。

 隣国で行われる聖女選定で事情があって離脱した令嬢だそうだ。

 王家の血筋を汲む高位貴族出身で、最有力候補と噂されていたものの、他の候補者による企みに陥れられ、泣く泣く国を出る事になったらしい。

 彼女を守る三名の女騎士と、盾持ちの男性は貴族、不慣れなハンター生活をフォローする為に一人平民がいるだけなので私も馴染みやすいだろうとの話だった。


 その話をしている時に部屋に訪の音が響く。

 ギルドマスターが誰何し、涼やかな音が転がった。

 それが人の声だと理解するのに時間を要した。

 私がその声に、心を震わせている間に扉は開き、薔薇の女王とでも呼ぶべき美しい女性が入ってくる。


「ギルドマスター、お呼びと伺いましたが」


 チラリとこちらに流された視線に私の心は射抜かれた。

 貴族として、一人の男として、彼女をお守りしたい。

 その想いを行動に表す。

 彼女の前に跪き、挨拶をする。


「はじめてお目に掛かります。美しきご令嬢。私はオッペンハイム家三男のヨハンネス・ステアール・オッペンハイムと申します。この度御身の守護を希望し、こちらまで罷り越しました」

「はじめてのご挨拶ありがとうございます。オッペンハイム様。その様に傅かれてはお話もできませんわ。さぁ、お立ちになって」


 柔らかく、上品な、慈愛に溢れた言葉に体が震えてきた。

 そうか、神はこの出会いの為に私を家から出したのだ。

 父上のあの不思議な程の怒りはきっと神の手によるもの。

 この道に進める為に、少しだけ無理が出たのだろう。


 そうして私は『三剣の華』の一員になった。


 そんな私を差し置き、平民如きがシュレースヴィヒ様と仲良さげに笑い合う、と。

 その様な事、到底許される訳がない。

 私はぎり、と我知らず歯噛みしていた。

 

 いつも俺不運を読んでいただきありがとうございます。

 『三剣の華』とオッペケの事情説明回でした。

 オッペンハイム家は建国時代からいる由緒正しいお家でした。

 初代当主が、永年陞爵辞退を宣言した理由は自分の家族が信用できなかった為です。

 建国に対してものすごい貢献をしたのですが、自分の家族には下手に権力を持たせてはならないと判断しての宣言でした。

 そうして「貴族としての心得」を子孫に教え込みましたが、結果ひねくれ、捩れてあの様な残念なオッペケ野郎が生まれる事になりました。


 ヨハンネス、当主から明確に家から追い出されているのでぶっちゃけ貴族だの家名だのを名乗るのはアウトなんですよ。

 本人全く理解してませんが。

 そして『三剣の華』には後から参加したメンバーです。

 彼等の正体は隣国のお貴族様達です。

 オッペケは聖女だと呼んでいますが、実際は聖女候補で、しかも脱落しているので聖女呼びも本当はアウトです。

 他のメンバーはそう呼びませんし、一応オッペケにダメだと説明しています。

 オッペケはその上で「それでもアレクサンドラ様は陥れられただけで、本来なら聖女なのだ」と呼んでいますし、アレクサンドラも満更でもないのであまり強くは止めていません。

 アレクサンドラ様にはフンシュヴァーフのギルマスから彼の事情を教えてもらってます。

 追放の時のアレですね。

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― 新着の感想 ―
オッペケペー家初代は立派な人だったんだな家人としては駄目駄目っぽいが 家族を信用できなかったって信用できるような関係を築かなかったのか教育に無関心だったのか…… 優秀な人っぽいからちゃんと見ていれば妻…
肥大した自意識の極みというか 先祖の永久陞爵拒否はこいつのためにあったと言えなくもないというか… なんで元男爵の三男如きが他の貴族を蔑んでるのかと思ったら こいつの中では自分は侯爵であるはずとかいう統…
クラーラ様の元婚約者だったのか。しかし、その見下している平民がクラーラ様の功績の立役者だったなんて皮肉すぎますね。 オッペンハイム家は初代が多大な功績を挙げながらも永年陞爵辞退したから多少の目こぼしさ…
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