クラン結成 4
お偉い方々の根回し待ちの今、出来ることと言えば信用回復とお金を稼ぐ事くらいである。
信用回復は街や国に貢献する事で地道にやっていくしかないのだ。
信用を失うのは一瞬でも、築くのには時間がかかるもんね。
麗らかな春の日差しの中、薬草をプチプチと千切っては傍らのカゴに入れていく。
バジルに似たぷりっとした艶のある五センチ位の葉っぱだ。
茎や根には用は無いので傷をつけない様に気をつけて千切る。
この時期であれば三日もすればすぐに葉を出すであろう。
今日は『緑の手』の皆と採取に来ている。
『緑の手』は普通にクエストだけど、俺はギルドに納入せずに、秋の終わりに薬屋に直接売る為の商品確保だ。
その時期になるとこの薬草は手に入らないのでお高く売れる。
所謂季節ものの薬草だ。
その為、『緑の手』の皆に同行させてもらった。
帝都で黒髪はちょっと目立つので、暑いけどフードを被っている。
それだけで特に何の変装もしていないのに誰にもとやかく言われない。
めちゃくちゃ平和だ。
『緑の手』のメンバーは薬草採取専門だと自称するだけあって、薬草にとても詳しい。
色々教えてもらいながらより良い採取方法であれこれと採取していく。
根こそぎとってはだめなので三株ずつ残すのを厳守する。
最近発覚したのだけど、探索魔法は薬草も探索出来るらしい。
なにげなく画面を見たら葉っぱのマークがあちこちに表示されていて、群生地を示していた。
しかもソート機能もあり、欲しい薬草に絞りたいと思えば他のマークが薄くなる。
やっぱこの魔法はぶっ壊れ性能だなと改めて思い直した。
この世界の事がだいぶわかってきた今から考えると初めの頃散々叱られていた理由が良く分かった。
俺、かなりギリギリスレスレの綱渡りをしていたらしい。
そうやって薬草を大量に集めつつ、かち合う魔物を倒して解体したり、野鳥を狩ったりして晩御飯のお肉も確保する。
オーク肉はまだまだあるけど、もう皆飽きているらしく、出してもあまり食べてくれないのだ。
バイトのおばちゃん達に少しプレゼントしたら大喜びで受け取ってくれたけどね。
醤油があればなぁ……。
角煮、生姜焼き、すき焼き……うぅ、食べたい。
あと俺は海の魚もだいぶ恋しい。
白身魚の煮付け……フライ(醤油味)……。
川魚も美味いんだけど、やっぱあのガブッといっても骨が少ない大型のお魚は海にしかいないもんね。
あとやっぱり旨味が違うんだよね。
屋台の焼きそばとカップ焼きそばが違う様に川魚と海魚は別物。
みんな違ってみんな良い。
いや、湖にはなんかでっかい主みたいなのがいるらしいけど、俺釣りどれんじゃねぇし。
そして恋しいといえば何よりも米。
米である。
お米が食べたい。
ほかほかご飯ーー真っ白で粒が立っていて噛み締めるほどに甘味が広がる奇跡の穀物。
もうずっと食べたいと思っている。
転生や転移物では良くある「家畜のエサ」はとっくに確認した。
ーーー無かった。
ヤーコプに話を聞いて色々説明したけど、どうやら遠い地方で食べられている主食がそれっぽいが、遠過ぎて仕入れに向かえないのだとか。
たとえ仕入れられたとしても以前の砂糖や胡椒より高くなりそうな感じだそうだ。
そんな高級品主食に使えない……。
がっくり。
閑話休題。
採取を終えて拠点に戻れば、エレオノーレさんとデイジーがキルシェを交えてあれこれ開発しているところだった。
先日新しい形態になってはじめて店を開けると、たくさんのお客様が雪崩れ込んできた。
急に閉めてしまったことで皆大変困っていたそうだ。
閉まっている間に何度か来てくれたお得意さんに「困ったことがあればすぐに相談しろ」と言われてうっかり涙腺が緩んでしまった。
ハンターに冷たくされ始めて、皆が敵になったように感じていたけど、そうでない人達も沢山居るんだよね。
胸がじんわりと温かくなった。
そんな温かな人達の為にも、自分達の生活の為にも新商品開発に取り組むことにした。
現在雑貨屋で人気なのはやはり錬金素材と魔道具だ。
閉まっていた間に他の店の素材を使ったが処理が甘くて大変困った、急に閉めないで欲しいといつものお爺さんに言われて平身低頭した。
次点でハンター向けの商品。
こちらはC級以下の者達からの売上は落ちたものの、帝都に住む上級や他の地域に向かう通りすがりのハンター達に今まで通り良く売れている。
特に初めて来店したハンター達はギルドからお金を下ろしてきて再来店してくれるほどである。
ありがたい事だ。
また、ハンターの採取した薬草の買取も始めた。
価格の条件を明記して貼り出しておいた事で、大きなトラブルは起こらなかった。
そもそもうちに悪感情を持っている人間は店に入ってこないし、入ってきても『三本の槍』を見ると慌てて出ていくのだ。
「こうやって教えてもらえると採取の時何に気をつけたら良いか分かって良いよね」
「条件に当て嵌まったら高く買ってくれるしね」
字が読めない人や、ハンターになりたての人などからはかなり良い印象を受けている様だった。
うちであまり良い値段で売れない時はギルドへの持ち込みを勧めたりもしているらしい。
優しさというか品質を守る為なんだろうけど、売る側からすればより高く買ってもらえる所に出したいだろうし、受けは良い。
ハンターギルドでそういう講義とか受けられないのかな?
うーん……他のギルドではやっててもここのギルドではやってなさそうだよね。
なんとなく。
改めて新商品の開発についてなんだけど。
まずは以前から置いているマッピング用の紙とペンの他に、魔力で押すタイプの罠ハンコや採掘ポイントハンコをキルシェに依頼して作ってもらった。
元々存在する魔道具(ep57でギルドカードに押したハンコ)なので、使用料を支払えば作り方さえも教えてもらえた。
ちょっとしたアレンジですぐに作ることが出来て、商品仕様の登録もアレンジ品としての登録になった。
「うん。簡単に押せるし滲みや掠れなんかもないね」
「うんうん。中々楽しかったよ!キリトサンのおかげで変わった魔道具を色々作れるし、クラーラお嬢様にも喜んでもらえるし本当にありがとうね」
納品物の確認をすると、にぱー、とひまわりの様な笑顔でお礼を言われた。
最近では魔道具師希望の女の子達がキルシェに弟子入りしたいと押し寄せているらしい。
マジョマジョも全然回らないので人手が増えることは大歓迎らしく、クラーラ様の方で身辺調査を行い問題の無い者達を見習いとして受け入れ始めたのだとか。
とはいえまだあまり詳しい知識があるわけでは無い。
その為、教科書を見ながら皆手探りで作成している様だ。
その光景はなんというか、高校の文化祭?
そんな感じである。
でも作っているのはこの国で唯一のオシャレ魔道具だ。
なんかこう、ギャル社長の会社感あるよね……うん。
そうやって日常業務の合間に作ってもらったハンコやメモ帳などが売り場に並ぶ。
見本品を売り場に並べて実際に試してもらうとその便利さにすぐ気付く。
なんといっても汚れない。
リングにリールで繋いでいるので無くならない。
単品でも良く売れるが、やはりメモ帳などとまとめ買いしていく者の少なくない。
「んー…セット品作るか」
「セット品ですか?」
「そう、これさえあればすぐに始められるよ、みたいなセット」
キョトンとこちらを見てくるエドガーに説明する。
そして実際に携帯用のインク壺や付けペン、メモ帳、ハンコ等全てをウエストポーチに納めてマッピング応援セットを作ってみた。
ウエストポーチは特製である。
仕切りを沢山作って、インク壺が溢れたり転がったりしない様にして、付けペンもポーチにリールで繋がる様にしているので、急な衝撃や罠などの時も無くなりにくくしておく。
メモ帳を外付けできる様にしたり、ポーチの中に綺麗にしまえる様にしたり、紙石鹸がすぐに取れる様に中央に穴を開けた引き出し口を付けたり、ポーションを入れられる様な細いポケットや、小銭が入れられるがま口のポケットなど、沢山のポケットを付けて使いやすくしたい。
イメージイラストを描いて、要望を注釈で書き込みまくり、真っ黒になった用紙を見せて、カールハインツに革細工職人を紹介してもらう。
これは俺も欲しかったので自分の分も別途注文しておく。
自分の分は、素材持ち込みで幾分良い物で注文したのは秘密である。
見本品が届き、商品を入れて使用に問題が無いか確認する。
完璧だった。
ポーチの蓋もサイドを押してワンタッチで開いたり閉じたりできる。
見本品に満足し、注文票を書いている時に自分も欲しいと言う者が多かった為、クランメンバー全員に希望をとってみた。
結構な人数が希望したので交渉すると、数量割引してもらえた。
やってみるもんだね。
せっかくだし、クランメンバーや店頭スタッフ用の物にはオリジナルデザインーークランマークの焼印を入れてもらう。(ついでに俺の分も焼印を押してもらった)
素材は勿論余りまくってるオーク革である。
是非使ってみて改善点や希望の機能を提案して欲しい。
そしてそのベーシックなマッピング用ハンターポーチを店に展示し、POPでアピールする。
注文を取ると希望者が殺到した。
ハンコとポーチに関しては、マジョマジョの人員では絶対に間に合わない為、他の工房にも紹介してもらって依頼を出した。
その際に簡単なご挨拶をさせてもらって、悪意のある工房には発注を送らない様にする。
ポーチに関しては最初に依頼した工房だけでは全く足りず、下請けどころか孫受けくらいまで色んな工房で作成してくれる事になったのだった。
ハンコに関しては正直商業ギルドにお任せした。
物自体は単純で、一般的な物なのでどこの魔道具師でも作れる。
マージンを取られても良いので信頼できる工房を紹介してもらった。
ハンターギルドの二の舞にならぬようきっちりお願いしておいた。
横にはシュシュフロッシュを二匹並べて。
あちこちの工房でポーチやハンコを作るので、専用サイズのインク壺やペンケースを作り、デザインにもバリエーションを出すことにした。
黒が一番人気なのは間違いないが、あえての赤や青なども結構売れている。
パイピングの色を変えたり、素材を変えたり、うちのメンバーがデザインしたりと数量限定の物を並べると奪い合いが起こったりもするほどに人気が出た。
ブリギッテのとこのデザイナーに依頼して描いてもらった“数量限定女性向けおしゃれ可愛いポーチ”はもう二度とやらないと思う程のキャットファイトが繰り広げられた。
やはり人間、「人気商品」「数量限定」「今だけ」「残りわずか」という言葉には勝てないよな。
ポーチの人気は日に日に過熱してゆき、普段は俺たちを悪く言う者達さえ顔を隠したりして買いに来ている程である。
そんなことしても普段から使ってたらすぐにわかるのにな。
インク壺に関しては俺の手作り(土魔法)なので、そもそも設計図が無い。
例え一つ購入して、他の店が陶器工房やガラス工房などに同じ物を依頼しても、エイグル工房が睨みを効かせている為同じサイズでは作ってくれないのだ。
なので「他の店で買った」は通用しない。
何よりウチの雑貨屋専売品で、他の店に卸してはいないので、別の店で売っている物は偽物か転売品ということになる。
つまり口では悪口ばかり言うくせにうちの店の商品を身につけている奴は、「アンタの為じゃないんだからね!」的なツンデレがいると思えばなんとなく可愛く思えてくるーーーわけない。
ただただムカつくだけである。
ムカつくので限定品のお値段はかなりお高め設定で出している。
それでも皆こぞって買っていくので濡れ手で粟を掴むが如き儲けとなった。
それを受けてからというもの、エレオノーレさんが新商品の開発に情熱を傾け始めた。
元々魔法に対して並々ならぬ熱意を持って取り組んでいたのだ。
マッピングポーチだけでなく後衛ポーチ、前衛ポーチなどを提案してお客様から大絶賛されていた。
特にポーションベルトの色を変え、HPとMPどちらのポーションなのか一目でわかる様にしたのは画期的だと商業ギルドにも言われていた。
他にも魔法系の商品を色々と考えてくれ、簡易竈門と魔石と魔法陣を組み合わせて携帯魔道竈門を作成した。
魔力をほんの少し通すことで簡単に熱を発生させることができるというものだ。
火は出ない為安心安全仕様になっている。
キルシェも手伝い、商品登録して店頭に並べた時には大変話題になった。
錬金術師のお得意様から大量の注文が入った時には俺も徹夜で作らされる事になってとても大変だった。
ーーーエデルトルート様からの連絡はまだない。
いつも俺不運を読んでいただきありがとうございます。
いいね、ブックマーク、評価、感想、誤字報告いつもありがとうございます。
とでも助かっています。
職場で改めてコロナが流行しはじめております。
皆様も感染対策お気をつけ下さい。




