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間話 ◯視点 『三剣の華』 ヨハンネス【Bランクパーティのハンター達 2】

 ちょっとストーリー上、ここで投下しとかないとあとあと困りそうなのでなんの理由もないですが間話を投稿しておきます。


 私の名前はヨハンネス、聖女アレクサンドラ様率いるAランクパーティ『三剣(みつるぎ)の華』の大楯担当である。

 個人ランクはBだが、盾役とは思えないと言われるスリムな体型と、しっかりと付いた筋肉、精悍な顔のつくり。

 とどめは男爵家の三男と血筋も良い。

 正直言って人生勝ち組だ。

 何をしても周りの目を引いてしまう。

 アレクサンドラ様にも気に入られていて、戦闘時は私が御身をお守りする任に付いている。


 現在私達はドドレライスデンでの魔物溢れ(スタンピード)に対抗する使命を帯びて移動中である。

 他にも軟派な『白銀』やBランクパーティ二組を供に引き連れている。

 今は悪天候により早めに野営に入ることになったのだ。

 私達が先頭に立ち焚き火を始め、野営の準備を行った。


 そのうち、最下位のBランクパーティである……あー…飛竜の……尻尾?だったか?何かえらく大層な名前のパーティが中心になって薪を作り始めた。

 勿論共同クエストなので、当然その薪を私達にも納めてくる。

 しかしそれを見たライムントはその手伝いに入っていった。

 貴族としてあり得ない行動だが、目下の者に手を差し伸べる事も良いだろう。

 ライムントは木っ端貴族なのだからその辺の矜持もまともに持ち合わせていないのかもしれないがな。


 そして切り分けた薪を魔法を使って水分を抜いていく。

 小間使いと端女、そして下品な身体のラインを出した下品な女が地面にしゃがみ込んで作業をしているのだ。

 薪とはこうやって作る物なのだな、と興味深く観察させてもらった。

 薪を掴む指先や、動く度に変わる谷間の皺……。

 ふむ。

 大変興味深い。


 そうやって下々の作業を観察していたら、驚くべき事にその出来上がった薪を、私達より多く彼等が手にしようとしていたのだ!

 まずは貴族たる、私達に半分献上すべき所を、『飛竜のなんたら』共以外は全パーティ同数、そして厚顔無恥にも、奴等はその倍の量を確保していく。

 これにはどう考えても納得がいかなかった。

 これが私達が倍量で他が同数ならまだしも、私達が平民のハンター如きと同数だと?

 B級ハンターより少ないだと?

 とても許せることでは無い!

 遺憾の声を上げると平民の中でも更に育ちの悪そうな男に「文句があるなら自分で木を切ってくるか、金を出して買え」と言い放たれる。

 なんと失礼な事か!

 更に注意をしようと口を開いた所でアレクサンドラ様が「その通りね。わたく…わたしたちはお手伝いしかしていないものね」と謙虚なお言葉を口にされたので、引くしかなかった。

 心優しいアレクサンドラ様の行動は素晴らしいが、あまり平民を甘やかさないでいただきたい。

 アレクサンドラ様のお言葉に先程の下賤な男が勝ち誇った様に鼻で笑う。

 これだから常識の無い低レベルのハンターという生き物は嫌なのだ。

 どうせ私達の足を引っ張るだけなのだから、大人しく上位者に従えば良いものを。

 私は貴族らしく自分を律して拳を引いた。


 その後各自で調理を行ったのだが、奴等は大きな馬車に乗っていただけあり、自分達だけタープを持ち込んでいた。

 その中で何やら一丁前に調理を行っているらしく、暖かそうな湯気が溢れていた。

 本来タープも食材も平民は貴族である私達に譲るべきなのだ。

 しかし無知蒙昧な者達は無遠慮にも自分達だけで使用するという。

 低俗な者達の厚顔無恥な態度に苛立ちを覚える。

 しかし貴族は感情を隠すものだ。

 態度には表さぬ私は貴族の鏡だろう。


 私達は寒い中火に当たりながら、ライムントとウドが調理を終わらせるのを待つ。

 ライムントは木っ端とはいえ一応貴族ではあるが、ウドは平民だ。

 アレクサンドラ様のお気に入りの商会から選出された槍使いであり、私のパーティの小間使いである。

 火の番や調理、片付け、宿の管理など細かい雑務は全てウドが行う。


 テーブルなどは無く、倒した木を切り刻んだ丸太の椅子に座り、膝に木の板を乗せて食事をする。

 はじめはあまりの惨状に皆から悲鳴と嘆きが出たが、騎士として遠征に出ればこんなのも当たり前らしい。

 Aランクになった今では仕方なく受け入れている。

 本日のメニューは固く焼きしめたパンに先程購入したお湯を入れるだけで料理になる保存食と、小さな小さなオークのステーキとチーズである。

 ステーキにはソースなどはなく、塩胡椒を振っただけの質素なものだが、他のハンターには涎が出るほど贅沢なものであろう。

 例の店で購入した保存食は高いだけあって味が良い。

 とろりと舌を滑るスープは充分な旨味を内包し、小さいながらも肉や野菜が入っている。

 多少食感は独特だが干し肉や野山に生えている野草に比べれば気にならない程度のものだ。

 これであればまた購入してやっても良いだろう。

 そう思いながら食事をとっていると何やら良い匂いが漂ってくる。


「何の匂いだ?ウド」

「どうやら『飛竜の庇護』のタープからですね。他のパーティもそちらに集まっている様です」


 問い掛ければウドも気になっていたのだろう、すぐに返答が来る。

 視線を送れば確かにタープに人が集まっていた。

 ウドに見に行かせれば野営とは思えない料理をテーブルについて食べていたらしい。

 竈門やコンロなどまであったと口にするがどこまで信用して良いものやら。

 そして金を払えばその料理を買うことが出来ると情報を持って帰ってきた。

 平民の料理ということで、ものは試しと器を持って行かせ、少量を購入した。


「これはなんだ?!」

「挽肉団子の煮込みだそうです」

「この短時間でこれを調理したというのか?」


 アレクサンドラ様の腰巾着共が驚きの声を上げ、スプーンを動かしている。

 食事中に行儀悪く騒ぐな。

 ウドが買ってきたのはトマトで煮込んだ肉団子だった。

 トマトの旨味とスープの旨味が肉団子に染み込んでいて、逆に肉の旨味とコクがスープに滲み出ている。

 味わい深く、何よりも身体の中から暖まる。

 平民が作ったとは思えぬ味だ。

 中々の料理人がいるのでは無いだろうか?

 これであれば私のパーティで料理人として雇ってやっても良いだろう。

 貴族たる私が声を掛ければ喜んで移ってくるだろうな。


 朝、良い匂いに包まれて目が覚めた。

 シチューだろうか?

 気がきくではないか。

 身嗜みを整え馬車を降りれば例の小間使いが料理をよそっている。

 己のパーティのみではなくもう一つのBランクパーティにも渡しているのだから当然私達の分もあるのだろう。

 そう判断し、ライムントからスープ皿を受け取って朝食の列に並ぶ。

 本来ならば貴族たる私は並ぶ必要性は無いのだが、ハンターは列を無視すると暴れ出す野蛮な生き物なのだ。

 大きな心で譲歩してやり並ぶ方が面倒がないと以前学習したのだ。

 私はなんと勤勉なのであろうか。

 なのにまた昨日の最下層男が意見してくる。


「オイ、何でお前らまで並んでんだ」

「は?同じ依頼を受けたのに私達には寄越さぬというのか?」


 信じられぬ。

 この食料はギルドが用意したものであろう?

 なのに何故其方達が自己主張をするのだ?

 自分達が運んできた物だと言い放つが、貴族の為に平民が荷を運ぶのは当然ではないか。

 何度も言い合うが奴は料理を自分達の物だと主張を下げない。

 仕方なく金を恵んでやる事にした。

 だが、それがいけなかった。

 がめつく下卑た者達ばかりで、「恵んでやる」と言えば金がもらえたと喜ぶばかりで料理を用意しない。

 しかも屁理屈を捏ねて自分達がこちらに施してやっているとさえ主張した。

 あまりの大言に目眩を覚える。

 何と下賤な。

 何と愚かな。

 平民とは貴族に傅き、崇め、献身すべき存在であるにも関わらず何と横柄な態度か。

 怒りで目の前が真っ赤になる。


「ーーーーっ!」

「まだ何か御用でも?」


 一、二、三、四、五。

 心の中で五秒待つが、この愚かな平民は厚顔無恥にもふんぞりかえって謝罪も返金もしない。

 しかもあろう事か、料理や竈門を全て仕舞って自分のタープに引っ込んでいくではないか。

 本当に信じられない。

 金だけ奪い取って本来為すべきことを為さぬ下賤の者。

 私は仕方なくウドの料理を徴収して食事を済ませた。

 蕩けるような食感のごろりとした大きな肉が入っており、良い赤ワインを使っている。

 驚くほど美味く、何より冷えた身体を温める。

 美味ければ美味い程に、ウドにはこれだけのものを渡して私には渡さなかったあの小間使いに対して、怒りが沸々と湧いてくる。

 空になった食器を押し付けると奴らは笑いながら食事を摂っている。

 怒りで言葉にならない為、ただ睨みつけることしか出来なかった。


 その後もこの失礼なパーティは何度も何度も非礼を繰り返した。

 屁理屈を捏ねてこちらに暴力を振るったり、暴言を放ったり。

 あまりにも礼を失する行為に何度も苦言を呈したが、「同じハンター同士でなぜBランクの自分達がAランクのそちらの面倒を見なければならぬのか?」と返ってくる。

 下位の者が上位の者を敬い、協力するのは当然の摂理である。

 平民なので学が無いのは仕方ないが、いい加減貴族に対する接し方を覚えてほしいものである。


 しかし『飛竜の髭』だったか?奴等の料理人は大層腕が良い。

 華奢に見えてつくべき所にはしっかりと肉の付いた従順そうな少女で、あの黒髪の小間使いより更に下の立場の様だ。


(ならば端女か。アレクサンドラ様程では無いにしても癒しの力を使える者が端女とは、世も末だな)


 幾分の憐れみと、料理の腕に溜息が漏れる。

 華は無いが、戯れ程度になら相手をしてやっても良い程度には整った顔立ち、神官服に隠されてはいるがその下には女性らしい曲線を維持しているであろう肢体。

 何より抵抗などしなさそうな、あの従順さが良い。

 小間使いの周りでくるくるとよく働いている。

 素直そうで懐っこい笑顔は“飼われる者”としての価値もある。

 あの者が居れば私達の食事も休息もより良いものになるだろうことは間違いない。

 その境遇を憐れみ、何度か私のパーティで使ってやろうと声を掛けてやったが、貴族が恐れ多いのか、頑なに断ってくる。

 結局はこちらにくるのだから遠慮などせずにさっさと移動すれば良いものを。

 かえってこちらに迷惑をかけている事に早く気付くが良い。


 正直、アレクサンドラ様がいらっしゃる為あの高慢ちきな女共を手籠にする事もできず、日々鬱屈しているのだ。

 初日は私が充分に可愛がってやるとして、翌日はライムントに譲ってやっても良いとさえ思っている。

 そのうちウドにも分けてやらねばならぬな。

 まずはどの様に可愛がるかを考えると自然と頬がゆるむ。

 料理人を奪われて悔しがる不届者共を思い、溜飲を下げた。


 いつも俺不運を読んでいただきありがとうございます。

 キリトの視界に入っていない裏事情をチラリと出しておきました。


 間話を付け忘れておりました。

 誤字報告で教えてくださった方ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
男爵家の三男が木っ端というくらいだからライムントは準男爵の出かな?あとは騎士爵くらいしか下ないよね。世界によっては男爵から貴族というのもあるからわかりにくいな。ヨハンネスの頭がお花畑くらいしか理解でき…
アレクサンドラがコイツを自分の護衛にしたのは下手な動きをして連携を崩してパーティ瓦解するのを恐れたんだろうな 自分の傍に置いておけば他の連中の邪魔をすることは無いだろうし、大ポカやっても自分がフォロー…
男爵家の三男ってまさに木端も木端なくせに なんでこいつ自分が大家族だとでも勘違いしてんの?
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