クラン結成 1
「やっぱ専用の護衛、いると思う」
「そうだな、毎回こんなことばっかされたらたまったもんじゃねぇ」
俺の部屋でオーランドとヤンスさんが話し合う。
何故、と思わなくも無いが、魔力欠乏と心労で寝込んでる俺に無理をさせない為に来てくれたらしい。
早急に決めたいが、俺の頭越しに決める内容ではないという心遣いが嬉しい。
「時間稼ぎさえしてくれればギルドや兵士に応援を要請出来るから、強さはそこそこで良いけど信頼できるっつーのがなー……」
「「うーん……」」
皆で唸り声を上げることしか出来ない。
ある程度強くて、信頼できる人というのは正直『三本の槍』以外誰も思い付かない。
でも彼らには彼らの予定がある。
色々あってほぼ一年近く頼る形になっているが、それも俺達からや国からの依頼があったからであって、選んで一緒にいるわけではない。
いや、俺たちは好きだけど、どっちかといえばお世話になってばっかりだからね。
実力派の働き盛りな『三本の槍』。
そんな彼らに「ずーっとウチを守ってて」なんて申し訳無さ過ぎて言えないよ。
そして募集をかけるのも普段なら良い手ではあるのだろうけど今の俺達にはやっぱり難しい。
悪い噂が広まっているし、絶対に困らせてやろうとか、なんだったら直接殴りかかって(切り掛かって?)くる様な者まで湧いて出るだろう。
そりゃあ「うーん……」となっても仕方ない。
他に取れる手は一から信頼を築いて育てる事くらいだ。
あとは腕の立つ人達と仲良くなって守ってもらうとか?
どっちも時間がかかる上に不確実で、現在の俺達には環境的に難しい。
現状『捧ぐ意思』メンバーの状況がギルドから流れたらしく、直接的に攻撃してくる者はいない事だけが救いだ。
「やっぱ孤児院の子供を育成するしかないか」
「なら孤児院出身でハンターしてる人とかどう?ハンスたちとか」
「おお、それならアリかもな」
あれこれ話し合った結果、現ハンター、孤児院出身者の若手の子達を院長先生のツテで呼んでもらい、店の専属護衛になってもらうことにした。
翌日オーランドが孤児院長先生に相談に行くと、それはもう大変良い笑顔で請け負ってくれた。
その場でサラサラと手紙を書いて送ってくれた。
孤児院長先生、シゴ出来だわー。
今月中には来てくれるだろうとの事だった。
先行して届いた手紙には、ハンス、ロルフ、ネルケの三人を筆頭に合計三組のハンター達が了承の返事を返してくれたらしい。
中には充分に中堅ハンターとして活躍しているパーティもいるらしく、大変心強い。
十二人が一気に増える(予定)為、下働き部屋ではなく、余りまくってる拠点の部屋を使ってもらう事にした。
子供達も顔見知りばかりなので安心だろう。
細々と必要な備品を揃えていく。
時折「お前達には売れない」みたいな反応をされるが、そういう店からはこちらも買いたく無いのでサクッと別の店にお願いしていった。
明らかに品質の低い物を高額で請求してくる様な商人には、ヤンスさんが大声で品質と提示された価格を復唱して周りの視線を引いた。
あからさまに「この低品質でその価格を要求するのがこの店のやり方か?みんなも気を付けろよ」とアピールしていた。
その上で、実質価格で提供するか、キャンセルを受けるか、目の前の端金を得て破滅するかを選ばせていた。
まあ、実際そんな店ばかりでは無いのでちゃんと値段相応の品を適正価格で販売してくれる店を利用する。
そうやって信用できる店をピックアップして色々と注文したり、買い物したりしているうちになんとなく噂の影響範囲が具体的に把握できた。
現在『大店』と呼ばれる店や老舗、新しい小さな店でも才気煥発な経営者の店はキチンと対応してくれるどころか、大変丁寧な扱いを受ける。
逆に中程度から露店、一部の大きな店(決して大店ではない)は噂を信じて露骨に態度を変えてくる。
嫌味や粗悪品を渡したり、そもそも注文を受けてくれなかったり。
ブリギッテ達にも小さいながら影響が出ていて、幾つかの素材が手に入りにくくなっている。
大店や老舗の店舗が代わりに用意してくれる為、そこまで大きく問題が出ている訳ではないらしいが申し訳ない。
今はCランク以下のハンター達から冷たい目を向けられ、あからさまな嫌味や暴言・妄言に晒されるし、ハンターギルドからの助力は一切ない。
一応誤情報により迷惑を被っていると相談するも、そういうことはうちの仕事ではないと言い張られた。
どうも前回の俺達のやり方が気に入らなかったらしい。
お客が俺達のせいで離れたと逆に嫌味を言われたが、俺達の対応が間違っていたとは思わない。
ギルドに紹介されたハンターを信用したら甚大な被害に遭ったのだ。
それに苦情を申し立てることの何がおかしいのか?
逆に自分達の行動を棚に上げて「ハンターギルドに属しているのならもう少し穏健な対応があったはずだ」などと言い放つのはどうなんだ?
ちょっとハンターギルドが信用出来なくなってきた。
全員一致でしばらくはハンターの仕事から離れておこうという事になった。
指名依頼が来てもギルドが仲介しているのだから信用できない為お断りします。
タイミング良く(……悪く?)いくつか指名依頼が入っていたらしいが、全てお断り。
シュレ様があれこれお話してくれたらしく、お貴族様からの季節外の素材を確保して欲しいという依頼ばかりだったみたいで、ギルドは大変困ったらしいがこちらは知ったことではない。
最初からやるなんて言ってないのにギルドが安請け合いしたせいでしょ。
今はギルドのせいで俺達はやる事がいっぱいなのだ。
無理無理。
皇宮からいくつか問い合わせが来ていたので、それに対して丁寧で詳細な事情説明をしたお手紙を書いて提出しておいた。
シュレ様がお話されて依頼を出してきた方々には出来うる限りの対応をシュレ様の部下経由でお応えしておこう。
ギルドの評価は下がったがシュレ様の評価は上がったらしい。
その辺はもう俺達の知ったことではない。
自業自得だと思ってもらおう。
⭐︎
こちらに帰って半月程が経ち、俺の体調も普段通りになって元気にトレーニングしている。
続々と孤児院出身のハンター達が集まってきた。
一応面接はするが、全員問題ない人ばかりだ。
誰も彼もが孤児院出身という事でかなり苦労していたらしい。
何かあれば全く関係無い事でも疑われたり、報酬を渋られたりと嫌な思いを沢山してきた様で、少しやさぐれている感じがするくらいだ。
今回の事も「どうせ値切り交渉から始まるんだろ?」みたいな表情である。
カイ、テオ、イザークはそんな彼等にわかるわかると頷いていた。
ストリートチルドレンな彼等は日常がそうだったんだろうな。
なのにみんなこんなにいい子になって……。
思わずギュッと抱きしめたら恥ずかしがりつつも抱きしめ返してくれ、皆でへへへと笑いあった。
そして、ネルケ達とテオ達は護衛新人教育としてトレーニングを始める。
はじめのうちはオーランドやヤンスさん、『三本の槍』前衛メンバーが指導してくれる様だ。
現役Bランクハンターの前衛ばかりとは、なんとも豪華な教師陣である。
子供達の教育と、新人ハンターのトレーニング、拠点や部屋の設備を見直した。
人数が一気に増えた為、専用の料理人も雇う事にする。
冬の間にそれぞれ事情があって夫を亡くした母子家庭の親子が二組。
住み込みで働いてもらう事にした。
一旦下働き部屋に家族で入ってもらい、その内社宅を作ろうと思う。
まだ完成してないけど社員寮は一人暮らし用の部屋しか用意していないので、親子で使うのは狭くて無理だろうしね。
ていうかそもそもこの社員寮は拡大しまくるブリギッテとカールハインツの二つの工房の社員用に作っていたんだよね。
噂を聞いて他の街から就職しに来るんだけど、住むところがない者も多く、二人から揃って相談を受けたのだ。
ここが完成したら希望者に入ってもらう予定である。
初めから男子寮、女子寮と分けているので一人暮らしの若い女の子でも安心です。
おっと話がそれてしまった。
雇った女性二人にはそれぞれ子供が二人ずつ居るので、その子達は料理人見習いとして働いてもらう。
子供達にも少ないけどお給金も出すよ。
今はまだ本当にお小遣い程度だけどね。
食事は毎日毎食必要なので、自分達で判断して交代交代で休みをとってくれとお願いしている。
勿論面接済み。
衣食住はこちらで用意しておいたらめっちゃ感謝された。
服はアガーテ達の予備なんだけどね。
彼女達には朝昼晩で食事を出してもらう。
パンとスープに焼いたオーク肉くらいなんだけど、新人ハンター達は泣くくらいに喜んでくれた。
基本朝と夜にちょっとだけ硬いパンと水を飲む程度で、あとはハンターの仕事中に仕留めた獲物を焚き火で焼いて食べるだけだったらしい。
訓練するだけでご飯が毎食出てきて、寝る場所もあってお給料まで出るなんて!と感動された。
とりあえずお店は一旦長期休暇だが、拠点内はだいぶ過ごしやすくなった。
さて、あれこれあってだいぶ遅くなったけど、カイ達の配置も改めて決めた。
カイはブリギッテ達の店で刺繍職人として働いてもらっている。
刺繍部屋に個人スペースを作ってもらって黙々と働いていて、即戦力だと大喜びされていた。
ディアナを師匠と呼びぐんぐんスキルを伸ばしているようだ。
テオとイザークはオイゲン達と店の経営。
でも護衛としても訓練していて、オイゲン達が頭脳系事務職、テオ達が護衛兼店員の様な立ち位置になった。
今まで事務も店頭も全部任せっきりにして申し訳ない。
リーゼはアガーテ達とメイドさんの様なお仕事をしてくれる。
時折秘書っぽく、俺のスケジュールを告げたり、身の回りの世話を焼こうとしてくるのが困りものだ。
そして、『三本の槍』のメンバーは「飯が美味いから」「宿代が浮くから」となにかと理由を付けて拠点に居てくれる。
ぶっちゃけ子供達の護衛をタダでやってくれている様な状態だ。
現に怪しい男達が店に入り込もうとしているのを捕まえてくれたり、食料を買いに出る料理人達に付き添ってくれたりしている。
これはもうお礼にご飯は美味しい物を出すしかないじゃん?
エピソードタイトル詐欺……っ!
ちょっと次のとこまで入れたら長くなりすぎる為ここでカットしました。
いつも俺不運を読んでいただき誠に有難うございます。
レレレレレレビューをいただだだだだだだきましたぁっ!!
ドラドラ様ありがとうございます!(土下座)
嬉しすぎて何回も見直してしまいました……(照)
まだまだ始まったばかりで終わりまで長いですが、頑張って書き続けますのでどうかお付き合いくださいませ。
いいね、ブックマーク、評価、感想も嬉しいですありがとうございます。
特に最近感想が沢山届いていてとてもとても嬉しいです。
お返事は出来ておりませんが毎回全て読ませていただき、日々励みに頑張っております。
ここしばらく嫌な話ばかりで鬱々としておりますが、拠点がだいぶ賑やかになってきました。
ネルケ達も無事やって参りました!
次回は変態紳士も活躍できるはずなので……(ep217の回収予定)
とりあえず次は楽しいお話になるはずです。




