春が来た
またながくなってしまいました…
そんなこんなで一冬ずっとダンジョンの魔物討伐を続けた結果、なんとか魔物溢れが起こらないと言われる水準まで減らすことが出来た。
うん。
まあ、ここまでくるのに色々あったけど、基本こちらが衣食住を抑えていて、回復を担当していたこと、担当フロアが違うこと、などの理由から大きな問題は起こらなかったよ。
ことあるごとに嫌味を言われたり妬まれたりしてただけ。
ちょっと感じが悪いくらいで実害は特に無かった。
最終的に上下それぞれ二十五階層ずつ攻略出来ている。
これ以上先は本気で攻略に取り組まねば対応出来ないそうだ。
数組のAランクパーティが引き続きクエストに当たるらしい。
勿論『白銀』『三剣の華』も残る人員に入っている。
「ううーほんとに『飛竜の庇護』帰るのか?サポートとして残ってくれよ〜お金なら出すからさ〜〜」
「無理ですよ。俺達自分の店もあるんですから」
『白銀』のメンバーが半泣きでしがみついてくる。
彼等は特に俺達の恩恵を受けていたのでこの後の不便さが耐えられないのかもしれない。
炬燵やマットレスなどを回収する度に「あぁー…」と情けない声が上がる。
「おれたちのコタツ……」
「ふかふかマットレス……」
「美味しいごはん……」
情けない声を聞き流しながら貸出リストと回収した物を確認して漏れがない事を確認する。
全て回収し終えると『白銀』の人達を適当にあしらって次のエリアに向かい、どんどん他の人達へのレンタル品を回収した。
時折「このままレンタルさせてくれ」とか「購入させて」とか言われるので購入の人だけ対応する。
荷運びはご自分達でお願いします。
今回異常事態に早期に気付き、素早く対応したおかげで街まで魔物が溢れる事は無かった。
街の人達からは皇帝とシュレ様に最大級の感謝と敬意が送られ、爆発的に人気が出た。
皇帝とシュレ様の肖像画(どっちも似ても似つかない)が連日品切れする程に人気である。
勿論、現場で頑張ったハンターも充分に感謝されていて、街の皆から集められた感謝(カンパで集まったお金や食料やポーションなど)が贈られた。
それを上位ハンター達と下位ハンター達で半分にし、その中でパーティ数で均等に割り振られることになる。
『飛竜の庇護』は高位ハンター側で、パーティ総数が少ない為一人当たりの配分が多い。
「なんだよあいつらコネのくせに多くもらいやがって」
「アイツら金で爵位を買ったらしいぞ?どうせ高位ハンター達に寄生してやり過ごしてたんだろ」
「ああ、『三剣の華』のメンバーが嘆いていたのをおれ見たぞ」
「あ、それオレも聞いたな」
これ見よがしにこちらを見ながら不満を溢す後続ハンター達。
最初に潜った他のハンター達に比べて、ついこの間までCランクだった俺達のパーティはやはり弱く見えるらしい。
俺だって『三本の槍』と『飛竜の庇護』が並んでいて、「同ランクで料金は同じです。どちらを雇いますか?」とか言われたら迷いなく『三本の槍』を選ぶだろう。
その上どっかのオッペケクソ野郎が嘘をばら撒いていやがってたしな。
こまめに訂正したり、好意的なパーティの人達が声掛けをしてくれたりしていたが、ちっとも無くならなかった。
逆に訂正してくれているパーティまで悪く言われる始末だ。
正直、広範囲魔法やオーランドの心力剣で一気に倒したりしてるから、討伐数に関しては他のパーティより多いくらいなんだけどね。
あとそれらから出たドロップ品も【アイテムボックス】内に大量にあるので換金額も凄いことになりそうだ。
この街ではダブつき気味なので別の街で売ったり、ウチの店で売ったりと工夫は必要だろうけれど。
その程度全く問題ない。
それから考えれば、彼等は持ち帰れるドロップ品はごく僅かな上、換金額も低く、思った程の稼ぎにならなかったのは理解できる。
だから俺たちを目の敵にして良いとは言わないけど、妬んだり羨んだりする気持ちはなんとなく分からなくもない。
とはいえ、Cランク以下のハンター達から、こんな変なやっかみが大量に向けられるようになったのは誤算だった。
シュレ様と仲が良いことを勘繰られ、エレオノーレさんが身体で籠絡したとか、少年趣味なシュレ様と俺がデキてるとか、逆に屈強なハンター(オーランドやジャック)にシュレ様がメス化してるだのとんでもない噂が蔓延している。
ヤンスさんの噂が一番アレだったのは流石に胸中に秘めておこう。
あまりにひどいものは「侮辱罪になるから」と止められるが、それでも俺達が不正をしている、と実しやかに噂が広がっていた。
騎士達の中にはあまりにひどい噂を流した者を捕まえて牢屋に入れる計画を進める者も居るほどだ。
冬場は働かせて、仕事が終われば拘束とは中々に酷い気がするけど、適当な嘘をまにうけて貴族を軽んじた発言をする方が悪いと思うのでそっと視線を逸らしておいた。
街の人やギルマス達、高位のハンター達は「そんなことないよ」と何度も言ってくれるが、下位のハンターからは白い目で見られている。
一部Bランクパーティも同様だ。
すれ違ったりする時にぼそりと「実力とは違う所で目を付けてもらえた奴等は楽でいいよな」などと言われたりもする。
そういう奴らほどよく怪我して俺達の治療のお世話になってばかりいたんだけどな。
正直モヤモヤする。
自分達が不用意に怪我して治療を受ける際にお金を払わねばならない事がそんなに不満なんだろうか?
初めから怪我しない様に努力すれば良いのに。
次からはお金を積まれても回復してあげなくて良いのではないだろうか?
そんな後味の悪いクエストの最終日、一旦の解散を宣言し終わったシュレ様に何やら話して『三剣の華』のリーダーが壇上に登った。
ぶわっと強い風が吹いて、彼女ーーアレクサンドラさんの美しくて長い赤い髪を巻き上げる。
まるで神託でも受けた様な絵になる情景だった。
そして一つ深呼吸をして、視線を上げる。
女性としては低めの艶やかな声で奴を呼んだ。
「ヨハンネス、前へ」
「はい、なんでしょうかアレクサンドラ様」
嬉しそうに彼女の前に出て行ったおっぺけ野郎。
片膝をついて、誇らしそうに彼女を見上げている。
彼だけを見れば今から騎士の誓いでも行いそうな雰囲気である。
性格は最悪だけど顔の作りは良い為、騎士物語の挿絵にでも出てきそうな感じだ。
ただ、アレクサンドラさんの表情は固い。
「其方、わたくしに申し開きをすべき事があるのではありませんか?」
普段はうっかり貴族言葉が溢れでるけど、平民っぽい言葉を頑張って使っているのに、今はあえてかっちりとした貴族言葉を使っている。
その言葉にキョトンとして「いえ、特に申し開くことなどございませんが……?」と不思議そうに答えている。
それを見た他の『三剣の華』メンバーは大きく溜息を吐き、頭を振る。
他のハンター達は足を止め、何事かとそれを眺めていた。
そんなハンター達にちらりと視線を送り、再び険しい表情でヨハンネスを見下ろすアレクサンドラさん。
「他のハンターパーティへの暴言、横柄な態度、作業の妨害、特定パーティへの悪質な噂の流布……。わたくしが気付いていないと思っているのですか?」
ビシッと背筋を伸ばしたアレクサンドラさんは貴族的で、凛々しく美しい。
ぎゅっと寄せられた細い眉が不快を表している。
感情を露わにしない貴族には珍しいと思うけど、多分これはパフォーマンスなんだろうなと思い至る。
「わたくしは不快になりました。機嫌を取りなさい」的な。
もしくは「これだけ言っているのにコイツわからないんですのよ?」とか?
他のハンターパーティと濁しているがどう考えても俺たちの事だろう?
これ、アイツこの後俺達に対して逆恨みしたりしない?
いや、それが目的……?
隣に居たデイジーが大きく息を呑む。
「いえ、その様なことは……。私は貴族として当然の態度で……」
「其方は貴族ではありません。“貴族の子”であり、三男の貴方には継ぐべき爵位もありません。よって現在其方はただの平民のハンターです」
言い返すヨハンネスには本当に罪の意識は全く無い様で、当たり前の行動をとって何が悪いの?という顔をしていた。
貴族としての間違ったプライドが透けて見える。
それをズバッと一刀両断するアレクサンドラさん。
良いぞもっとやれ!
心の中でサイリウムを振って応援する。
しかし、その言葉に過敏に反応したおっぺけヨハンネス。
「な……っ!いくらアレクサンドラ様とはいえその言葉は許容出来ません!」
「お黙りなさい!」
「いいえ、黙りません!」
一瞬何を言われたか理解できなかったみたいで、ポカンとした後、噛み付く様に言い返した。
それに恐ろしい気迫で注意したアレクサンドラさん。
とても怖い。
美人が怒ると本当に怖い。
なのに、奴は全く意に介していない。
逆にすごい。
それを聞いたアレクサンドラさんは呆れた様に溜息を吐き、痛む頭を抱える様に数本の指で額を抑えた。
「ーーーーハァ。では、自分が貴族だと申すのならば上位の者の言葉を遮るのは礼を失してはいませんか?」
「ーーっぅぐ、も、申し訳、ございません……っ」
子供に言って聞かせる様に説明されれば謝るしか無いが、全く反省していない事は誰の目にも明らかだ。
そこに居合わせたハンター達は二人を固唾を飲んで見守っている。
既に解散は宣言されているのに誰一人移動しようとしない。
「今回の件、わたくしは早期の段階から其方に態度を改める様指導していました」
「……」
チラリとこちらに視線が飛んできた。
どちらかと言うと、オッペケ野郎ではなく周りのハンター達に「自分の罪ではない」とアピールしているように見えたのは気のせいだろうか?
「ずっと注意してたんだから私悪くない!」的な言い訳?
指導しても改善されなかったのなら貴女の監督不行届だと思うよ?
改善させる様に命令したり、罰を与えたりするべきだったんじゃない?
放置したり、なんだったら尻馬に乗っかって甘い汁吸ったりしておいて、今更「自分の責任じゃないよ」とは……。
またしても彼女の“貴族の価値観”が垣間見えた気がする。
「にも関わらず其方の行動は悪化の一途を辿りました」
「そ、それは……っ!」
「わたくしは“黙りなさい”と言いましたよ」
「ーーーっ!」
説明を始めた途端にまた言い返そうと立ち上がったオッペケ野郎。
それを視線と静かな一言で黙らせて跪かせる。
まるで女王だ。
どう見ても平民のハンターなどではない。
なんであの人こんなとこにいるんだろうね。
「世話になっているにも関わらず、言い掛かりを付けて彼らに迷惑をかけ、注意されれば改善をするどころか悪意に満ちた噂を流し出す始末です」
うんうん。
本当におっしゃる通りです。
完全に俺の気持ちを代弁してくれているアレクサンドラさん。
でもそれは貴女にも当てはまるよなー……。
「ですが!」
「お黙りなさい。もう三度目ですよ?これで其方は社交界には戻れなくなりましたね。上位の者の言葉を遮り、黙れと言われたのにそれを複数回破った。もう誰も其方を信用しないでしょうし、使用しないでしょう。貴族に生まれたことだけが誇りの様な其方にはもう行くところがありませんね」
「ーーーっ」
耐えられずまた立ち上がった奴に酷薄な笑みを浮かべて言い放つ。
良くはわからないが確かに再三注意されているのに改善されない奴の面倒を見る者など実の親くらいでは無いだろうか?
しかも貴族であれば「家の恥だ」と言って切り捨ててしまうかもしれない。
何より奴の態度を見ればその親の態度も簡単に察せよう。
「そしてここからが本題です」
「!!」
衆人環視の中で叱られただけだと思っていたおっぺけヨハンネスがびくりと震える。
「其方はわたくしのパーティから抜けていただきます」
「……は?」
「今流行りのハンター言葉で『お前はクビだ』と伝えた方がわかりやすいでしょうか?」
アレクサンドラさんは、少しだけ楽しそうに微笑んでクビ宣告をした。
中々に派手なクビ宣告。
しかも貴族(シュレ様達)や上位ハンター達の目の前で、奴が貴族としてもハンターとしても使えないよ、とはっきり示した上でのクビだ。
この後貴族の世界に戻るのにもパーティを組むのにもかなり苦労するだろう事が窺える。
うんうん。
ざまぁ!
かなり胸のすく思いで其方を見た。
皆はそれを理解して、嘲笑う者や目が合わぬ様に逸らす者が現れる。
その結果に納得できないのは一人だけだ。
「なっ!!!何故……っ!」
「あら、おかしいわね?今説明したつもりだったのだけど理解できなかったのかしら?」
頬に手を当てこてりと首を傾げるアレクサンドラさん。
大変に貴族のお嬢様らしい白々しさである。
「其方はわたくしのパーティに相応しくない行動を取りすぎました。注意されて修正出来ればこの様な事は言わずに済んだのですけど、其方は癇癪を起こすばかりで修正しませんでしたでしょう?」
ふぅ、と大きな溜息をわざとらしく吐く。
そしてまた貴族らしい美しい淑女の笑みで奴にとどめを刺す。
「自業自得です。春まで待って差し上げたのは今までの働きに対する温情です」
「それでは貴女様の身は誰が守るのです?!私しか適任が居ないではありませんか!」
確かに彼等の戦闘スタイルを見ればヨハンなんとかが抜けてしまえば彼女の身を守る者がいなくなる。
とはいえ、ほとんどの敵は剣士の三人ともう一人の盾職で防いで倒している。
稀に横を抜けて迫る魔物もいたが、それは槍士の男性が倒していた。
ぶっちゃけアイツはなんもしていない。
「ふぅ、何度も何度も言わせないで下さい。お黙りなさい。其方の守りなどわたくしには必要がありません。ライムントがいればどうとでもなります」
聞き分けの悪い子供に言い聞かせる様に溜息と共に事実を告げる。
そしてまた、少し意地の悪い笑みを浮かべた。
「それに人が足りなければスカウトすれば問題はありません。其方程度の盾の腕であればすぐに見つかるでしょう」
だからお前はいらない、と言外に告げる。
ヨハンネスは顔を真っ赤にして言葉にならない声を上げた。
「〜〜〜〜っ!!!!」
「そうですわね、黒髪の魔法使いなど良いかもしれませんわ」
白々しくヤツが一番嫌がる俺を仲間に入れようかなどと口にするアレクサンドラさん。
悔しげに歯噛みするオッペケ野郎。
いや、俺アンタのパーティなんてお断りですけど?
「さ、その装備はそのまま差し上げます。ただし、もう二度と『三剣の華』を名乗ってはなりませんよ」
言うだけ言い切ると、アレクサンドラさんはくるりと身を翻す。
実にお貴族様らしい身勝手さである。
「お待ち下さい!アレクサンドラ様っ!」
その背を追いかけて手を伸ばしたが、それを大楯が防ぐ。
『三剣の華』もう一人の盾職ーーライムントと呼ばれていた人である。
さっきまでこっち側にいたのに素早過ぎないか?
「おい、近寄るな!」
「退け!下賎な平民同然の木っ端貴族が!」
動線を盾で防がれ、怒鳴りつけるが、それがライムントさんの怒りに火をつけたらしい。
カッと顔を朱に染め、大楯を持ち直す。
「ーーーっ!力付くで排除する!」
ガツンとシールドバッシュをかまして、奴の意識を奪いにかかる。
避ける事も出来ず、鼻っ面にモロに攻撃をくらい、鼻血を盛大に噴きながら白目を剥いて倒れていった。
「ガ…ッ……ぐぅ……ぅっ」
その後、大きな拍手が巻き起こった。
うむ。
悪は滅びるのだ。
ざまぁ!
『三剣の華』含めオッペケ野郎はもう俺達に関わらないでくれますように!
冬の期間にクビにすれば周りの人達に被害が出る為、我慢していたアレクサンドラ嬢。
春であればソロでも地道に働けば生きていけるだろうと決行しました……という建前のトカゲのしっぽ切りでした。
ざまぁってこんな感じで良いのでしょうか?
初めて書いたので違和感しかありません。
とりあえず沢山の人の前で罪を並べ立ててクビにするか婚約を解消すれば良いんですよね?←極論
オッペンハイム家は大変面倒。
アレクサンドラ嬢が無事に逃げられるか不明。
槍の人(唯一の平民)頑張って。
いつも俺不運を読んでいただきありがとうございます。
いいね、リアクション、ブクマ、感想、評価を毎度励みにしています。
これからもどうぞよろしくお願いします。




