22 はじめての見張り番
つらつら考えてたらいつの間にか眠っていたらしい。
気がつくとヤンスさんに肩を揺さぶられていた。
「キリトちゃーん起きてくんなーい?見張りの時間だよー」
「……ぅ、すみ、ません……起きます……」
グラグラする頭を抱えつつ気合いで起き上がる。
天幕を出たら、オーランドが大欠伸をしながら立っていた。
小型モンスターや野生動物が出た、などの引継ぎを済ませると、ヤンスさんは眠そうに自分の天幕に潜り込んだ。
直ぐに眠ってしまった様で、まもなくイビキが聞こえてきた。
俺も眠すぎてやばい。
冷たい水を出して顔を洗うと、少しだけシャッキリとした。
焚き火の周りに丸太や石を置いて椅子代わりにしてある。
それに腰掛けながらあたりを見回す。
「オーランド、見張りってどうやるんだ?」
「んー……そんなに難しくはないぞ?基本的に魔物は街道にはほとんど出てこないしな。辺りに気配察知をして、定時起きているだけだな。眠たくなるのが難点だ。たまに身体を動かすと良いぞ」
そう言ってニカっと笑う。
気配察知。
立ち上がってぐるぐる見回りしたりしなくて良いのは良いんだけど、それ、どうやってやるのさ?
そう聞くと、神経を集中させて近寄ってくる気配を察知するとかまんまなことを言ってくれる。
それが出来たら聞いてないよ!
「それ、どうやって覚えるんだ?」
「え?気合い?集中したらなんとなくわかんないか?」
「いやいやいや、わかんないって」
なんとなく察していたけどオーランドは本能で動く系か。
焚き火に木切れを放り込み考える。
気配ねぇ……。
ラノベとかだと探索魔法って便利な魔法があるけど俺も使えたりしないかな?
なんかこうモンスターをハントするゲームとかみたいに、視界の右下とかに半径百メートル分くらいの表示でどの辺になんか居ますよー、みたいな簡単な地図と赤丸で表示されたりしないかな?
ムムム……。
途端にズワッと魔力が抜けていく感覚がして、想像通りに円形の地図が表示された。
いや、これダメだろ?
魔力使いすぎだ。
絶対後から動けなくなる。
半径百メートルじゃ無くて二、三十メートルくらいで良くね?
地図に意識を持っていくと大きく表示される。
それを範囲を狭くする事がうまくできない。
触ってピンチ操作とか出来ないかな?と親指と人差し指でグイッと拡大してみる。
イメージ通りに拡大されて、引き出される魔力の負担が一気に軽くなる。
いや、魔法ってホントすごいわー。
これをオンオフできるように出来ないかな?
流石に厳しいかな?
まぁ今くらいの負担なら見張りの間くらいなら行けそうだけど……。
そう思っているとピタ、と魔力の減りが止まった。
視界には画面の暗くなった円形の地図が。
意識して魔力を込めるとまたゆるゆると魔力が吸い出され始め、意識して止めるとまた暗くなる。
「キタコレ!」
「うぉっ!どうした急に」
出来たよオンオフ探索魔法!と思ったら口に出てたらしい。
隣に座っていたオーランドがビクッとする。
オーランド今寝てただろ?口から涎出てるぞ。
そう突っ込むと、寝ていない!と言い張る。
いやいや寝てたね。
間違いない。
「気配察知っぽい魔法が使える様になったよ」
顔のニマニマが止まらずその勢いで機能を説明する。
オーランドはよくわかってなさそうな顔で、「良かったな!」と笑っている。
これで一人でも見張りができるぜ!
そう思っていると地図に赤い丸がいっぱい出てきた。
数は二十ほど。
この野営地後方からゆっくり近づいて来ている。
「オーランド!あっちから何か来る」
小声で叫ぶという矛盾した注意喚起をすると、オーランドもそちらを注視して頷く。
オーランドが警戒して火を大きくする。
俺が皆を起こして回る。
その間にもジリジリと距離は縮まっている。
じっとりと嫌な汗が背を伝う。
みんなが武器を構え、森の奥を見据えた。
「キリトは無理しないでエレオノーレと交互に魔法を撃って援護してくれ」
「いきなりハードだけど頑張りましょうね。でも、絶対無理をしない事。大丈夫よ、このくらいの敵なら守ってあげられるわ」
「……寝たばっかりだっつーのに。……殲滅してやる」
俺はエレオノーレさんと後衛との事。
ジャックは大きくて温かい手で俺とエレオノーレさんの背中を叩いて行った。
ヤンスさんは睡眠時間が短かったせいで、めっちゃ機嫌が悪い。
オーランドも、エレオノーレさんも口々に「無理をするな」と言う。
勿論、出来る事なら無理はしたくない。
でも非力で何もできない俺は、無理しないと生き残れない気がするのだ。
今、戦いの火蓋が切られようとしていた。




