表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
229/254

指名依頼 8


 地下十三階はオークとギフトレプディラマンダー、岩狼そしてロックゴーレムがメインで出てくる。

 時折デスムーアというツノが剣みたいに鋭くなってる鹿やボラーレポルコスピーノが現れることもあるが。

 ボラーレポルコスピーノに関しては上の階から紛れ込んだ感があるけどデスムーアは下の階からかな?

 そもそもダンジョンって魔物の階移動しないんじゃなかったっけ?

 いや、するから溢れるんだっけ?

 ちょっとよくわからない。

 この二種類はほとんど現れないが、現れた時は怪我人が爆発的に増えるのですぐに出たとわかる。

 セーフティエリアに戻った時回復協力を求められるから。

 ぶっちゃけこちらの回復をあてにしてるんじゃないか疑惑があるレベルに皆怪我してる……。

 まぁ、痛い思いをしたい人なんていないだろうからわざわざ突っ込んでいっているとは思いたくない。

 努力の結果なんだよ。

 きっと…………多分。


 ギフトレプティラマンダーは前にも言った通り、揮発する体液のせいで、単体よりも他の魔物と一緒に出てきた時が本当に厄介な魔物だ。

 何よりもあの見た目。

 ぬらりと光る表皮を思い出し、ぞわぞわと背筋を悪寒が駆け抜けた。


「トカゲやヤモリなら良いのになんでオオサンショウウオなんだ……」

「オレには違いがわかんねぇよ」


 腕を摩りながら文句を言えばオーランドからそんな言葉が返ってきた。

 たとえシルエットが似ていたとしても爬虫類と両生類では天と地ほど違う。

 大違いだ。

 間違いなくあの表皮がダメ。

 コイツのせいでも怪我人も多く出ている。

 見つけたら即駆除しなければ痛い目を見る魔物の典型例だろう。

 こいつも結構ハンター達の怪我を増長させていて、麻痺を残したまま戻ってくる者も多い。

 しばらく安静にしていれば麻痺は治るのだが、解除してくれと言われることもある。

 そういう人達は得てしてまた麻痺って帰ってくるから解除するだけ損なんだけどね。


 ゴーレムは硬くて歯が立たないと思いきや意外と簡単に倒せる。

 なんといっても動きが遅い。

 動物園でゴロゴロしてるパンダくらいの動きである。

 そして大振りで単調な攻撃。

 余程油断しなければそんな攻撃当たらない。

 勿論掠っただけでも大怪我間違いなしなんだけどね。

 当たらなければどうということはないのだよ。

 そして奴等は関節が弱過ぎる。

 魔力で繋がっているだけらしく、武器で狙って攻撃しても良いし、なにかしらの魔力を通しても簡単に外れてしまう。

 外れたら少し遠くにズラすだけで元には戻れなくなるし、安全性を高めるのであれば外した手足に適当に魔力を上掛けするだけでよい。

 それだけで彼等はくっつけたとしても元に戻せなくなる。

 一対一なら俺やデイジーだけでも時間を掛ければなんとか倒せるレベルだ。

 手足が外れて仕舞えば怖い物はない。

 最後に頭をボディから外し、首部分の魔石を外すなり壊すなりすれば倒すことが出来る。

 正直、ロックゴーレムだけだったら何体出ても多分対応出来るだろう。

 そしてここの魔石が良いお値段になるらしく、ヤンスさん主体で乱獲しまくった。

 討伐証明に使用した魔石は、テコの原理で隙間にナイフを入れてやればぽこんっと良い音を立てて簡単に外れるのだ。

 でも他のハンター達は何故かロックゴーレムの頭に直接斬りかかる人が多く、怪我をする人も多数出ているのが解せない。

 攻略法もあって、それに従えばこんなに弱いのに。

 そう思いながら打撲を治療して小銀貨を数枚もらう。

 ぶっちゃけこれくらい自分達で治せるようになってほしいものである。

 折角医術書公開してるっていうのに。


 医術書ははじめ皆チャレンジしていたが、読んだだけで簡単に習得できないと分かると大半の人はすぐに見向きもしなくなった。

 今借りに来るのは極々少数の回復職と数名の斥候ハンターのみだ。

 上位の回復職の人はかなり熱心に読み込んでいるが、流石に『三剣の華』のリーダーは読みにこない。

 余程自分の腕に自信があるらしい。

 下位の回復職は数ページ読んだのちに「金を返せ!」と騒ぎながら離れていったが、何を期待していたのだろう?

 そして意外としっかり読み込んでいくのが数名の斥候ハンター達。

 ヤンスさんの麻痺魔法を知っているのか、読むのは神経系とか呼吸器系とかばっかなのがめっちゃ怖い。

 時折質問を受けるので分かる範囲で質問に答えているけど、「血液を逆流させるとどうなるのか」など聞かないで欲しい。

 そんなのわかるわけないし、絶対に体に良くないに決まってる。

 回復に使ってよお願いだから。


 他の魔物は正直倒し方(攻略法)さえ分かればどうにでもなるのだが、問題は岩狼とオークだ。

 ここのオークはハンターから手に入れたのか、武器を装備している。

 奴らが振り回す剣や斧はその全てが血脂で錆びていて、更に自分達の糞尿などがついていてもお構いなしだ。

 そんなの掠っただけでも破傷風になってしまう。

 それだけでも恐ろしいのに、ブンブン振り回される武器の合間を縫って岩狼達が襲い掛かってくるのだ。

 しかも何故か武器は岩狼には当たらない。

 妙に連携の取れている岩狼とオーク。

 オークを目隠しに使いつつ、壁を足場にしてアクロバティックに攻撃を仕掛けてくる岩狼をなんとか避けて、火炎弾(ファイアバレット)氷弾(アイスバレット)を交互に打ち込む。

 岩の様に硬い毛皮を持つ岩狼には通常刃が通らない。

 攻撃したこちらの刃が欠けることすら珍しくない。

 それでも温度差で攻撃を続ければ脆くなる。

 なんども温度の変わったその毛皮は、攻撃すれば意外にもサクッと刃を通し、容易に倒す事が出来る。

 いや、魔法を連発したり、同じ箇所に当て続けることが難しいとも言うけれど。

 やってやれないことはない。


 実際俺達は人目がある時はそうやって倒している。


 そう。

 ()()()()()()()


 人目がなければどうするかと言えば……。


「心…力剣っ!」


 敵に絞って大剣を振り抜くオーランド。

 青く輝く刃が壁も家具も通り抜けて、オークや複数の狼をスパーンと真っ二つにする。

 勿論壁や床、松明などは無傷。

 いやもう本当に楽です。

 探索魔法で魔物のいる方に向かって進み、多方面を警戒しつつオーランドが大半を処理して、残った魔物を掃討するだけ。

 おかげで俺達は大きな怪我もなく、短い時間で充分な戦果を上げている。

 それもこれも、ワンフロア三組(実質一日二組)で他のハンター達が来ないからこそ出来るやり方だ。

 以前みたいにいっぱいハンターがいたら誰に見られるかわからないので絶対こんな事出来ない。

 速攻で高位ハンターや貴族、有象無象が寄って集って「その剣を寄越せ」と言ってくるだろう。

 既に言いそうな奴が身近に一人いる。


 このフロアに出る魔物の倒し方を確立した俺達は、調理のため戦闘時間が少ないとは言っても討伐数はそれなりに多く、このフロアの担当パーティでも一位だし、他フロアを合わせてもBランクでは上位に入る。

 それがまた反感を買っている気はしないでもないが、やるべき事はやらねばならない。

 手を抜けばそれこそまた余計な火種を作りかねないし、信用問題にも関わる。



⭐︎



 先日起こった配膳トラブルを引き金に、周りのハンター達に牽制してから、俺達の周りは少しピリついた空気が流れている。

 上位パーティは相変わらず好意的だが、下位パーティは日に日にこちらを敵視している者が増えてきた。

 大多数は妬み嫉みやっかみらしいとヤンスさんが言い切り、時間は進んでいくし、魔物は現れるので実害が出ないうちはそのままにしておこうとなった。


 食事に文句を言えばパーティ全員に渡さないと言っているので文句は言われないが、何かを言いたげにこちらを見てくるBランクパーティが数組ある。

 あからさまに睨んでくる奴も居るほどだ。


 実はその原因を俺は知っている。


 ついさっき、例のアイツが他のパーティにウチの悪口を吹き込んでいる現場に居合わせたからだ。

 国側が用意した保存食を取りに荷物の積まれたエリアに足を運んだ時、偶然それを見かけた。

 積み上げられた木箱の陰、三人のハンターと奴が隠れる様にして何かを話している。

 誰も俺の気配に気付いていない。

 気配と足音を控えて静かに荷物を開ける。


「奴等はシュレ様のご意向で捩じ込まれた本来Cランクのパーティなんだ」


 “奴等”は恐らく俺達の事だろう。

 あんたシュレ様からそう呼ぶなと言われてなかったっけ?

 貴族だなんだというならその辺弁えてないと大変なことになるんじゃ無いか?

 流石にその現場に顔を出すわけにはいかず、積まれた木箱に紛れ、身を隠す。

 オッペケ野郎はこちらに気付くこともなく更に言葉を重ねる。


「あいつらだけあんなに良い装備を持っていて、他のパーティに貸し出しが出来るのはそのせいなんだ。実力も無いのに貴族の力を当てにしてやりたい放題していて、私達も頭を悩ませている。しかもギルド職員を抱き込んで討伐数の虚偽報告まで行っているらしい」

「確かにあんな短い時間で大量に討伐した割には怪我もないよな」

「あ、たしかに!」


 何故そんな嘘に騙されるのだ?と思いたくなるくらい簡単に奴の言葉に同調している。

 確かにオーランドの魔剣のおかげだったりするけど、偽装なんてしてないよ。

 しかも“ギルドを抱き込む”ってどんだけ俺達権力を持ってる設定なんだろうね?

 もしかして『三剣の華(彼等)』こそそうやってAランクに上がったとか言わない?

 流石にそれは無いか。

 それよりもそこで頷いてるハンター達、「楽な倒し方」を教えているのにそれをやらずに怪我ばっかしてる方が問題なのでは?


「あのムカつく黒髪の坊主が大容量の【アイテムボックス】持ちなのは間違い無いだろうが、それだけだ。他のメンバーの能力なんて高が知れている。にも関わらず私の(Aランク)パーティよりも多く討伐するなんてあり得ないだろう?」


 私のパーティって……、お前のではなくお前が所属するだろうが。

 他のメンバーも気に入らない所はあるけど、やっぱりコイツが一番不愉快だ。

 他のメンバーも貴族だと思えば普通なんだよ。

 貴族という生き物はもうね、最初の価値観から違うんだ。

 本人達もそれを理解しているからこそ色々こちらに寄せようと努力している気はする。

 まあ、こないだみたいに意識していない時は傲慢さが透けて見えるんだけど。

 それほら、三つ子の魂百までって言うじゃん?

 俺だって油断すれば現代日本の感覚が顔を出しちゃうし。


 それに、シュレ様を利用しているなんて事実はないよ。

 いや、たしかに今回は少し頼らせてもらったけどさ。

 それもドドレライスデンの不正を報告しただけだし、この指名依頼だってむしろ巻き込まれた側だ。

 出来れば辞退したかったくらいだ。

 俺達が持ち込んだ問題だから仕方ないと言われれば仕方ないけどさ。


「何でもかんでも金金金金言いやがって。少しは周りに協力する気持ちはねぇのかよ」

「わかる!国に雇われてるんだからおれ達から金を取る必要ないだろ?骨の一本や二本ちゃちゃーっと治してくれればいいのに」

「そうそう。しかもあの女共お高くとまりやがって。尻や乳の一つくらい触らせろよ。戦闘には役にたたねぇんだからよ」


 国から払われる金額は同じだ。

 お前達が俺達を助けてくれるなら別だが、寄りかかるだけなんだからそれを防ぐ為にお金は有効なんだよ。

 骨の一本や二本ちゃちゃーっとと言うくらいなら自分とこの回復担当者にやって貰えば良いだろ?

 ウチを頼るなよ。

 しかもデイジーとエレオノーレさんに手を出そうとしただと?

 しっかり報告させて頂こう。

 今後奴等の治療は俺がやろう。

 ちゃんと治すが、痛みが出る様に治療して、料金は倍額。

 もう決めた。

 あと食事は少なめにしてやろうな。

 文句を言うのであれば支援停止で。


「貴族に寄生するゴミ虫だからな。金にがめついのだろうよ。シュレ様も何故あのような輩を重用するのか」


 一人だけ別次元にいるオッペケなんとか。

 会話になってなくない?

 最近まともに食事を摂れていないはずなのに何故かツヤツヤしてるのが気になる。

 もしかして仲間のご飯を奪ってたりする?

 それこそゴミ虫では?


 確かにウチの店のお客様に貴族の方は多いけど、貴族の権力をハンターの仕事に利用した事はない。

 かといって、ここで出ていって文句を言ったところで「図星を指されて焦ってる」と言われてしまいだろう。

 はーめんどい。

 いつも俺不運を読んでいただきありがとうございます。

 いいね、リアクション、ブクマ、感想、評価とっても嬉しいです。

 本当にありがとうございます。


 こう、いやな話が多すぎてとても書くのがしんどいです。

 いや、自分で作ったお話なので文句は言えないのですが……。

 早く楽しくて楽ちんホワホワごはーんなお話に戻りたいです……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
オッペケの実家(オッペンハイマー男爵家)の当主は、「面倒な自称貴族の遣い」でしつこく絡んできた貴族の1人で、農村に避難する切っ掛けになった相手です。 その件でその家は皇帝から叱られて落ち目となり、それ…
会社でも居るは、こうゆう奴o(`ω´ )o ま、大概は会社で居場所を無くして辞めてくけど居座ったらマジ害悪よな
おはようございます。 こういうバカ共って普通に背中から刺してくるから、そうなる前に処理しとかないとヤバいですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ