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指名依頼 5

 ドドレライスデンに着くと門番がすぐに気付いて駆け寄り「アップタウンのお城に向かう様に」と伝えてきた。

 この街は現在領主の失脚により皇帝直轄地になっているそうだ。

 何故か街の人達の顔には明るい笑顔が浮かんでいる。

 もしかしてまだスタンピードの情報は出回っていないのかな?


「いや、スタンピード間近ってのは皆知ってるみたいだ」

「え?じゃあどうして?」


 オーランドが眉間に皺を寄せて周りを見回している。

 街ゆく人達の声を拾っているのだろうか?

 そっと真似して耳を澄ませる。


 ちらほらと聞こえてくるのは客引きの声や、挨拶を交わす声。

 その中に混じって「領主様が変わって安心だ!」「これでスタンピードが起きても問題ないね」「皇帝が直々に手を下してくださったんだ!この街は安泰だな」などという言葉の数々。

 確かにスタンピードを起こさない様に国が手を尽くしているけど現地のこの危機感の無さはヤバくない?

 確かにこの時期にスタンピードが起きて街を追い出される様な事になれば命に関わる。

 それを防ごうとしてくれている、と聞けば諸手をあげて喜ぶのはわかるけど、万が一守れなかった(裏切られた)時はどうなるのだろうか。

 手のひらを返して責めてくるのではないだろうか?

 下手したら謀反とか起こしてしまうのでは……?

 チラリとヤンスさんを見れば案の定ものすごい顰めっ面である。

 オーランドも苦々しい表情で溜息を吐いている。


「これ、俺達の責任、重大なんじゃ……?」

「そうね。万が一失敗したら国の保身の為に私達ハンターが悪い事にされてしまいそうだわ」

「えぇ〜〜……」


 一番悪いのは前の領主達なのに!

 自分の欲の為に、人為的にスタンピードを起こそうとしたんだからね?!

 うわー……。

 他のパーティを見てみても皆渋い顔をしている。

 やばいなぁ、早速士気が下がってる。


 そんな感じで街を見て回りながら城まで向かう。

 主要通路のみ雪かきが行われていて、馬車での移動もスムーズでとても助かった。

 アップタウンの城壁がより厚くなる様に補修が行われていて、門を潜れば広場に沢山の天幕と資材が置かれている。

 どうやら責任者ーー領主代行者は最悪ここに住民達を避難させるつもりらしい。

 でも、アップタウンの住民である貴族達は自宅に籠り、固く門を閉じて門の()()に門番を置いている。

 平民を中には絶対に入れたくないアピールだろうか?

 非協力的だなぁ……。

 首がすげ変わってもそこに住む貴族は変わらないんだもんね。

 やな感じ。


 ダウンタウンとは違い、陰鬱な空気のアップタウンをぱかぽこガラガラ進んでいく。

 妙に足音が響く街にまた雪が降り出した。

 重たく水っぽい嫌な気分にさせる雪だ。

 併せてびゅう、と冷たい風が吹く。

 灰色の空と空気に街全体が重く沈んでいる様に思えた。



 城に近づくにつれてザワザワと慌ただしい空気に変わっていった。

 あちらこちらから馬車が足早に駆け回り、資材を運んでいる。

 下っ端の兵士だろうか?十代前半くらいの少年たちがあちらこちらで雪かきをしていた。

 それを采配しているのは、なんか見た事ある小太りの男性だ。

 城で見た時よりも動きやすそうな服と帽子にマントを着けている。

 あれ、小太り側近さんでは?


「シュレースヴィヒ様お久しぶりです!」


 例のアイツ(ヨハンネス)が親しげに声を上げて馬車から降りて駆け寄った。

 チラリとこちらに視線を送り勝ち誇った表情も忘れない。

 何に勝ち誇ってるのか知らないけど、皇帝の側近に対してそのフランクさは大丈夫なのか?


「どなたですか?今私は大変忙しいのですが……」


 眉間に皺を寄せて振り返った小太り側近さん。

 彼の視線が奴を捉える。

 あ、やっぱダメだったみたい。

 小太り側近さんの眉間の皺が一層深くなる。

 

「えーと、君はどこの家の子だったかな。マナーの勉強が足りないんじゃないか?」

「はい、オッペンハイム家の三男ヨハンネスです!マナーは一通り勉強しましたので大丈夫です」


 貴族的には割と露骨にマナー違反を指摘されているのに全く気付いていない。

 っていうか、オッペンハイムってどっかで聞いた気がするんだけど。

 「私はここの貴族と親しいぞ」アピールをしているんだと思うんだけど、逆に挨拶しても気にも止められていないというか、迷惑がられているという現状が赤裸々。

 ううーん、色々失敗しているよね、多分。


「それで、オッペンハイムの三男が何の用でしょう、か……ーーーキリト君!よく来てくれたね!待っていたんだよ!」


 溜息を吐きながらあしらっていた小太り側近さんとパチリと目が合ってしまった。

 途端にそれまでの会話を放り出して、笑顔で駆け寄ってくる。


「あ、あの、お久しぶりです。先日はお世話になりました」

「いやいや!君達『飛竜の庇護』のおかげで惨事になる前に手を入れることが出来たんだ。助かりこそすれ世話をしたなど」



 挨拶を返さぬ訳にはいかず周りの目を気にしながら返答する。

 図らずも奴がやりたかった事をやり返す形になってしまった。

 何故お前如きが?!とでも言いたげなすごい目でこちらを睨み付けている。

 ギリギリという歯軋りの音がここまで聞こえてくる。

 いやどんだけ〜。

 歯割れちゃうんじゃない?


「いやー!準貴族になったんだってね!君達なら男爵にでもなれただろうに……本当に欲がないねぇ〜」

「あ、あのその事はあまり大きな声では……」


 しかもオッペケ野郎に当てつけで言い聞かせるかの様に大きな声で話し始める。

 兵士や騎士達が目を見張ってこちらを見る。

 あーーっやめてやめて!

 他のハンター達の目がすごい事になってるから!

 俺達はただのハンターです〜。


 

 場所を移して城のスタンピード対策本部。

 あちこちに色んな書類が散らばり、騎士や文官達が慌ただしく出入りしている。

 俺達はその部屋にある応接スペースで詳しい話を聞いていた。

 元いた領主は罪に問われて現在牢屋の中だそうで。

 最初は人為的なスタンピードを起こそうとして、国家転覆を企んだ反逆罪で捕まり、あれよあれよと大小さまざまな罪が浮き彫りになったのだそう。

 脱税に規定以上の重税、領主主体の人身売買、平民・ハンターからの不正な財産搾取、違法奴隷……etc.

 結果、財産も領地も爵位も全部取り上げられてお家取り潰しになったんだってさ。

 死刑判決は免れないそうだ。

 ザマーミロ!


 そんでもって、ダンジョンの方はやはり状況が芳しくないそうで。

 数度に渡り調査に騎士団を出したが、誰も帰ってこないのだそう。

 食料などがそれ程ある訳でも無いし、セーフティエリアに閉じ籠るにしても救い出す手立てがない。

 ハンター達にダンジョン開放はしたものの、魔物の数が多過ぎるらしく、少し潜ってはすぐに戻ってくるの繰り返し。

 最初のセーフティエリアにも辿り着けない有様で、焼け石に水、状況の改善には遠く及ばない。

 確かに高額クエストでもなければ自身を危険に晒したい者などいるはずもない。

 俺だって指名されてなければたぶん知らんぷりしてたもん。


「よく戻ってきてくれた。こちらからも感謝する」


 膝に手をついて頭を下げるのはドドレライスデンのギルマスである。

 彼もこのスタンピード対策本部に呼ばれているらしい。

 国が動くにはもっとずっと時間がかかると思っていたそうだ。

 にも関わらず、俺達がここから逃げ出して最速と言っても良いスピードで調査員が現れ、皇帝の懐刀と呼ばれるアウグステンブルク様が訪れた。

 元領主達の恐怖はいかばかりか。

 ツテがあると言っていたが、そのツテの太さに驚いたそうだ。

 なんたってウチのお得意様はこの国トップ二人だもの。

 直通最速なわけですよ。

 だとしても異常な距離感なわけですが。

 まぁ、その会話を聞いた他のハンター達がまた変な顔をしていたのだが、こればかりはどうしようもない。

 相変わらず奴の妬みの視線が鬱陶しい。


 え?アウグステンブルク様って誰だって?

 何となく察してる人もいるだろうけど、小太り側近さんのことだよ。

 小太り側近さん改めシュレースヴィヒ・ホルシュタイン・ゾンダーブルク・アウグステンブルク様。

 うん長い。

 以前にも聞いた気がするけどさっぱり覚えられなかった。

 公爵家の四男で、その能力の高さから皇帝自ら側近に選んだと言われる天才。

 そして有名人。

 名前覚えられなくてごめんなさいってなった。

 そんな俺の反応で覚えられない事を察して「シュレと呼んでも良いよ」って笑顔で言ってくれた。

 優しい。

 早速奴が「シュレ様!」と呼んで「君には許可していません」と冷たく切り捨てられている。

 何故視線も向けられていないのに呼んで良いと思ったのか謎。


 現在シュレ様がこの土地の領主代行で、今回の責任者になるらしい。

 すでに近辺のハンターは呼び寄せられていて、何度か小規模なダンジョンアタックを繰り返していた。

 だいぶ地上一階の魔物の数は軽減されたが、それでも次のフロアは上下階共に行けないらしい。

 通常のハンターが入り口周りをちまちまと処理してくれているんだとか。

 現状、中に入る分には問題が無いが、退路の確保が困難らしく、まだ本格的なダンジョンアタックは行われていない。

 Aランクパーティが圧倒的火力で切り開き、Bランクパーティがそこを維持して数を減らしていくしかないのだ。


 食事事情もだいぶ問題になっている様で、酒場は食事以外使用禁止だそうだ。

 冬のこの時期に飲んだくれて暴れて食べ物を粗末にする者に出す金は無いと厳しめに言われた。

 その視線がどうにもオッペケ野郎に向かっている気がしたのだがきっと気のせいではないだろう。


 会議後、運んできた資材をシュレ様の配下に言われるまま倉庫に納めていき、都度リストをギルド職員と配下さんと俺で確認する。

 全てを納品し終えたら、受領印と報酬をもらって部屋に戻った。

 じゃらんと重たい皮袋を覗いてヤンスさんがニンマリと笑う。

 本当にお金好きだよね。

 一割をヤンスさんに渡し、残りの半分を自分の木箱、もう半分をパーティの木箱に入れて収納した。


 今日だけはこの城で休んで良いそうで、パーティ毎に専用の個室を与えられたのだ。

 メイドさんに案内されながら部屋に向かう。

 オーソドックスで、クラシックなメイド服のシニョンのメイドさん。

 こんな時でなければ後でモデルさんをしてくれませんか?とお願いしたいくらいに良く似合っている。

 早く終わらせて絵が描きたいなぁ……。

 ハァ……。

 その晩は夢も見ずにぐっすり眠った。



 一晩休んで、シュレ様の指示でダンジョン攻略を始める。

 俺達の第一の目標はダンジョンの平常化。

 第二が閉じ込められた者達の救出だ。

 中には死んでいなければ数十人の騎士達が閉じ込められているらしい。

 あと数人のハンター。

 生存は絶望的だそうだが、生存者がいるのなら助け出してやって欲しいとのことだった。

 俺達の食料は領主やこの地の貴族どもが私腹を肥やすために溜め込んでいたものを放出するそうで、保存食や調味料などはここから補充できそうである。

 まぁ、ウチ(飛竜の庇護)の分だけで見るなら五年分くらいは【アイテムボックス】に入ってるけどね。

 それは内緒である。


 Aランクパーティ『白銀』『三剣の華』の二組が先陣を切り、『飛竜の庇護(ウチ)』と『三本の槍』が低階層の露払いというか退路の確保を担当する。

 他の方角の街からも実力者が集められていて、同じように先に進むAランクチームと後方支援Bランクチームに分けられていた。

 特に退路確保するパーティは複数用意されていて、全部で二十三パーティにも及んだ。

 元々ドドレライスデンを拠点として活動するパーティで探索出来る人達も沢山いたので彼等は独自に探索をしてもらうそうだ。

 その中で力不足と判断された人達も沢山いて、彼等はダンジョン外で漏れ出てきた魔物の討伐を行ったり、安全確保されたセーフティエリアに食事やポーションなどの運搬をしたりするらしい。

 あとは手に入った下位のダンジョン素材なども運び出してもらうらしい。

 その他、ドドレライスデン内部の雑用なんかも一手に引き受けてくれている。

 俺達は安心して魔物の掃討に挑めると言う訳である。


 ダンジョンに入ると、一階には最弱スライムだけではなく普通のスライムも沢山沸いていて、あちこちの壁や床にべたべたぷよぷよぽよぽよ引っ付いている。

 先陣担当のハンター達が自分達の前の魔物だけ排除して先に進む。

 地図は既に全員に配布されている。

 半分は上へ、半分は下へ。

 ザクザクスパスパ切り捨てて進むAランクハンターは流石としか言いようが無い。

 退路確保担当の俺達は、ある程度区分けした範囲を丁寧に潰して回る。

 一階層がある程度安全が確保された時点で、先に決めていた担当エリアに向かう。


 俺達の担当は地下である。

 『三本の槍』と共に歩いて降りていくと、早速シュシュフロッシュが現れる。

 探索魔法のおかげで抱きつかれる事は無くなったが、それでもやはり気持ち悪い。


「シュシュフロッシュだと……?!」

「ああ、ここは馬鹿みたいに出るぞ」


 驚くパウルさんにオーランドが笑いながら答える。

 なぜかこいつらは俺ばかりを狙うんだ。

 ほんとに頼むからやめてほしい。

 そういえばコイツら換金するの忘れてたな。

 確認したく無いけど多分【アイテムボックス】の中に三桁はいるはずだ。

 はーやだやだ。


 地下一階も魔物がウヨウヨいた。

 隠し部屋にしか居なかったはずのオオイワトカゲまで我が物顔でのっしのっし歩き回っている。


「一度セーフティエリアまで真っ直ぐに向かおう。陣地設営してから掃討に入ろうと思うんだがそっち(三本の槍)はどうする?」

「私達もそれが良いと思う」

「じゃあ決まりだな」


 短いやり取りでスパッと決まる。

 気心の知れているパーティはこれだから楽だ。

 おそらく先に行ったAランクパーティも真っ直ぐにセーフティエリアに向かったのだろう。

 途中ポロポロと拾い忘れたドロップ品が転がっていた。


「これ、拾って持っていってあげた方が良いですよね?」

「いや、価値が低いから捨てていったのかもしれないぞ?」

「ええ……もったいない。一円を笑う者は一円に泣くんですよ?」

「は?イチエンとは?」

「あ、えーと、小銅貨を笑う者は小銅貨に泣く、みたいな。欲しい物を見つけた時にあと小銅貨一枚足りない、みたいな感じです」

「それは一理あるな」


 イェルンさんと話しながら結局そのアイテムを拾っていく事にして、取り出した大きな麻袋にポイポイ放り込んで【アイテムボックス】に収納しておいた。

 彼等がいらないと言うのならこれは俺がありがたく頂こうと思う。

 子供達へのクリスマスプレゼントに使おう。

 それまでに帰れるとは思えないけど。


 セーフティエリアに着くまでに結構な数の魔物と戦った。

 やはり『三本の槍』はとても強く、俺達が数人掛かりで倒してるオオイワトカゲを一人で軽々と倒していた。

 ふぁー……めちゃくちゃかっこいい!

 いつか俺達もあんな風になれるのだろうか?

 やっぱり筋肉は全てを解決する?


 沢山手に入ったトカゲ肉は今晩のご飯にしようと思う。

 めちゃくちゃ美味いんだよねこれ。

 そんな感じで先行してくれた二パーティのおかげで、数だけは多いけど命の危機を感じるほどではない絶妙な数の魔物と戦い、セーフティエリアに辿り着いた。

 が、そこにはとんでもない光景が広がっていたーーー。


「は?!な、何だこれは……っ!!?」

 いつも俺不運を読んでいただきありがとうございます。


 最近鬼の様に暑いですね。

 ぐったりして身動きが取れないレベルです。

 仕事にも行きたく無いし、なんならお家から一歩も出たく無い暑さ。

 皆さん水分塩分睡眠をしっかり補給して下さい。

 家の中でも熱中症になる方も多い季節になりました。

 せめてこの蒸し暑さだけでもどうにかなってくれないものか……。


 改めて、再会したのは小太り側近改めシュレ様でした。

 シュレースヴィヒ・ホルシュタイン・ゾンダーブルク・アウグステンブルク様。

 いやー長い長い。

 無理。

 作者が覚え切れません。

 大変良い性格(腹黒)をしていますが、皇帝第一主義、第二は食事という感じの(現状)害の少ないお方です。


 いつもいいね、リアクション、ブクマ、感想、評価ありがとうございます。

 次回はちょっとグロいですが頑張ります。

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― 新着の感想 ―
あー、外に出れないところで食料尽きたらそりゃ蟹と婆さんがリズム取ってるよね
・準貴族 そう言う言い方だと、〈騎士〉を連想します。 形式上は皇帝直属の騎士としての礼遇(宮廷への出入り並びに皇帝への面会の自由など)が与えられる勲章、なんてのが有っても良いですね(有事には然るべく任…
こんばんは。 あ~…。後書きを読む感じ、残念ながら…って状態なんでしょうね。南無~…。
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