表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
223/223

指名依頼 2


 早朝に『三本の槍』と共にギルドに向かうと、他のハンター達も続々と集まってきていた。

 俺達が馬車を使うと話していたからか、他のパーティもギルドから馬車を貸し出されるらしい。

 四台の大型馬車が並んでいた。

 一パーティにつき一台、三パーティ分プラスギルド職員用のようだ。

 流石に四頭立て、八人乗りの馬車だったが。

 荷物類は空いたスペースに載せてくれとのことだった。


「まずはリーダーだけこっちに来てくれ」

「「了解した」」

「わかった」

「ああ」


 各パーティから一名が出てきてギルドマスターのところに向かう。

 ナイスミドルな渋くて大柄な男性と、豪奢な赤い髪の神官服を着た女性がオーランド達と歩いて行った。

 女性の神官服はデイジー達より豪華でひらひらしていて、幅広の襷の様なサッシュなんかも付いている。

 もしかしなくても結構上の位の神官なのかもしれない。


 その間に他のメンバーは一足先に顔合わせを行う。


「この帝都を中心に活動するBランクパーティ『三本の槍』のイェルンだ。メインが弓で、サポートにナイフと剣だ。魔法は使えない」


 そうイェルンさんが口火を切り、ぐるりと順に自己紹介が始まった。

 Aランクパーティ『白銀(しろがね)』と『三剣(みつるぎ)の華』の二パーティはそれぞれ別の地域に拠点を持っているらしい。

 『白銀』は盾、剣、槍、弓、魔法、回復のバランスの取れた男女混合六人パーティ、『三剣の華』は三人の女性剣士に盾の男性が二人と槍の男性が一人、そしてリーダーの回復役の女性という七人パーティである。

 『三剣の華』は全力前衛パーティで要が回復役のリーダーみたいな感じだね。

 ちょっと危なっかしく思えるけどそれでもAランクになれているのだからきっと連携がすごいのだろう。

 彼らは今回帝都に呼び出され、取るものもとりあえず急いで集まってくれたのだとか。

 本当にお疲れ様です。


 リーダー陣の話し合いが終わるまでの間、今回一番事情に詳しい俺達が概要の説明を行なった。

 ギリギリBランクの俺達はやはりまだ見た目なども含めてかなり頼りなく見えるらしく、首を捻られていた。

 特に俺とデイジーは子供にしか見えないらしい。

 それを補う為に、今回の事情に一番詳しいよアピールをする。


「ーーというわけで今回は人災扱いの魔物溢れ(スタンピード)対応になる」

「いくら貴族でもあり得ないな……」

「周りの迷惑を考えなさいよ」


 ヤンスさんがざっくり説明が終えると俺達以外の全員が頭を抱えた。

 そりゃそうだろうね。

 その土地を管理する貴族が欲に駆られてダンジョンを立入不可にしておいて自分では責任が取れなくなったのであなた達が呼ばれました、だから命をかけてみんなを助けてね、なんて馬鹿らしすぎる。

 ただ、今回は前回の様に緊急クエストではなく指名依頼なので報酬に関しては期待して良いだろう。

 まあ人災だもんね。

 普通の災害と違って本来なら起こらなかったトラブルだ。


 ある程度事情を説明しても尚、リーダー陣の話し合いは終わらなかった。

 時間を無駄にしない為に荷物の点検や馬車のチェックを行う。

 俺達の馬車に乗り込もうとした人もいて、それは流石に全員が止めた。


 彼等は拠点から帝都にくる分くらいしか食糧の準備が出来ていなかったらしく、数人は今から追加で買い出しに出るんだとか。

 それならば、と紹介状を書いてヤーコプ(ブリギッテの旦那)の店を薦める。

 ヤーコプならばこの早い時間でも多少の無理は聞いてくれるだろう。

 無理に安くする必要はないが、Aランクパーティだから恩を売っておいて損はないよ、と書いておく。


「この店なら時間外でも対応してくれると思います。場所もすぐそこですから」

「ありがとうキリトくん。助かるよ」


 剣士のお姉さんに頭を撫でられてしまった。

 どんだけ子供に見られているんだよ!

 俺もう二十五過ぎてるんだけど?!

 ……ジャックみたいに髭でも生やしてみるか?

 いやーでも壊滅的に似合わないんだよなぁ……。

 はぁ。


 食料を買いに行っている間に炬燵と毛布を各馬車に支給した。

 炬燵に使ったのはボロボロの小さな机と木炭と七輪だけど。

 無いよりは絶対マシだ。

 流石に魔導炬燵は無理。

 材料も足りないし、持ち逃げされたら目も当てられない。

 以前手に入れたボロボロの机をジャックが補強してくれて、なんとか利用出来るくらいまでにしてくれた。

 毛布自体は全員持っているだろうが、この寒さでは絶対に足りないと思う。

 せめて二枚重ねで寒さを凌いでほしい。

 どちらも貸し出しではあるが大変に喜ばれた。

 ふへへ、役に立てるのがちょっと嬉しい。


 買い出しに出ていた三名が戻る頃、リーダー陣もやっと会議室から出てきた。

 主に到着した後の動きについて話し合っていたようだ。

 ざっと情報共有したら急いで出発する。

 雪がまた降り始めた。



 びゅうびゅうと音を立てて風が吹き、容赦なく体温を奪っていく。

 御者台は凍えるほどに寒い。

 耳がちぎれそうだ。

 さっきまではチラチラと降っていた雪が吹雪になったのは俺が御者台に入ってすぐのことだった。

 毛布を二枚重ねにしても合わせの隙間から冷たい風が吹き込んで体温を奪う。

 分厚い手袋を付けた手も、既に指先の感覚が無い。


「こりゃあどっかで休んだ方がいいな。このままでは事故を起こしてしまうだろう」


 『白銀』のリーダーが奥歯をガチガチ言わせながら休む場所を探す。

 幸い近くに開けた場所が見つかり、そこに移動する。

 お馬さん達も寒い様で、みんなでぎゅうぎゅうに寄り添っている。

 間に俺を挟んでくれるのはとても嬉しいが今は困る。

 やらなきゃいけないことがいっぱいあるのだ。


 首筋を強めに撫でて、なんとか馬の間から抜け出す。

 一頭ずつ背中にフェルトのブランケットを掛け、角砂糖を一つ与える。

 寒いからカロリーが必要なはずだ。

 ぶるるると嬉しそうに嘶いてパクリと頬張る姿がえらく可愛い。

 全ての馬にご褒美が終われば飼葉を取り出して積み上げる。

 寒い中頑張ってくれたので、豆と穀物、果物なども多めに混ぜ込んだ。

 よっぽど疲れていたのだろう、すぐに横から首が伸びてきてモッシャモッシャ食べ始めた。

 そこからまた這い出て、横に飲み水も用意する。

 凍ってしまうから少しぬるま湯にしておいた。

 寒いから秒で冷水になるけどね。

 ジャックに協力してもらい、木の枝と刺して立てた棒に防水布を張って簡易的な馬場を作った。


 俺達が馬の世話をしている間に他の人達は焚き火と竈門を作ってくれたらしい。

 軽く雪がどかされた地面の上、赤々と焚き火が燃えている。


「ふあぁぁ……生き返るぅ……」

「おれ達の馬の世話までありがとうなー。ほらほらもっと前の方であったまんな」

「ありがとうございます〜」


 『白銀』のリーダーがぐいぐい背中を押して火の前まで俺を連れて行ってくれた。

 それに甘えて手をかざせば次第にジリジリと指先が痛痒くなる。

 手を揉みつつその痛痒さを堪えて、くるりとひっくり返る。

 表面が炙られて暖かいが、背中は極寒のままだ。

 実家でよくストーブ前でこれをやって「霧斗餅がひっくり返ってる」と笑われていたな、とぼんやり思い出した。


「今日はここで休む事にしよう」

「そうだな。無理に進んでも道を外れてしまいそうだ」


 満場一致だった。

 それぞれが夕食の準備を始める。

 流石Aランクパーティ、二組とも【アイテムボックス】持ちがいる様でポイポイと調理器具が出てくる。

 少し自慢する様な瞳でこちらを見た『三剣の華』の盾役の男性に、俺とパウルさんはニコッと微笑みあった。

 俺は【アイテムボックス】から、パウルさんは収納カプセルから、調理器具を取り出して彼に見せつける。

 確か買い出しに行っていた人なので俺の【アイテムボックス】の存在を知らなかったのだろう。

 目を大きく見開いていた。


「Bランクでも持ってる奴は持ってるんだよ」


 ニヤリと笑うパウルさんが溢した言葉は正論だった。

 あれ?そういえば自己紹介で俺、ポーターって言わなかったっけ?

 あれー?

 まあ、いいか。


 子供に見えているのは霧斗だけ。

 デイジーはもう立派な女性ハンターに見えます。

 先日ドキドキしたはずなのに、霧斗の目にはいまだ痩せっぽっちで胸に飛び込んできたデイジーのままなのです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
親戚の子供とか生まれた頃から知ってるといつまでもちっちゃいままのつもりで接しちゃいますね、もうとっくに成人してるんだけどね… キリトもそんな感じなんでしょう中身がおっさんだからしょうがないw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ