指名依頼 1
帝都に戻り門を通ろうとすると、門番に呼び止められた。
奥から責任者と思しき兵士が現れてちょっと待機場所に移動させられる。
指名クエストが俺たちに入っていたらしい。
「丁度君達が街を出た後でね、行き先もわからないから今回は諦めるしか無いかと話していたところだったのさ」
「うわー面倒ごとの匂いしかしねぇな」
「だな」
門番が言うにはドドレライスデンが魔物溢れ寸前なんだって。
えー?そんなん自業自得じゃんよ。
ていうかなんで俺達?
事情や地図を持っている俺たちと『三本の槍』そして他の街に滞在していたAランクの二組を指定したんだってさ。
ってゆーか今冬だよ?!
さっきまで移動してた俺たちが言うのもなんだけど普通は移動なんてしない時期でしょ?!
文句を門番さんに言っても仕方ないので、渋々ハンターギルドに向かう。
カイ達には申し訳ないけど拠点で待機してもらう事にした。
本当は慣れるまで俺が間に入って色々やるつもりだったのだけど。
いい子達ばかりなのできっと大丈夫だろう。
アガーテ達に事情を説明して、俺達がいない間に拠点での過ごし方や仕事などを教えるようお願いしておく。
カイに関しては糸と針と布を与えて好きに刺繍をする様にと指示を出す。
「任せて下さい」
「兄ちゃん!頑張ってね!」
にこりと微笑み合うアガーテとリーゼ、少し強張った顔で俺達を見送るテオとイザーク、全く気にせず元気に手を振るカイ。
エドガーとオイゲンはなんだか不機嫌っぽい。
イザークと喧嘩にならなきゃ良いんだけどな。
少しだけ心配だ。
今回の指名依頼のせいで全く手を出せないからなぁ。
更に、いつも拠点の護衛をお願いしていた『三本の槍』も指名されているので、拠点を守ってくれるハンターも居なくなる。
流石に子供ばかりだと色々危ないので、信用できるハンターをギルドに紹介してもらって外の警備室に入ってもらって守ってもらう事にしよう。
彼等には警備部屋を利用してもらって、家の中には入らない様に伝えておかなければならないなだろう。
そう考えながら手早く荷造りを終わらせ、貸し馬車屋に向かう。
折角なので借りていた馬車はそのまま延長して借りることにした。
だって寒いんだよ。
この雪の中震えながら歩きたくなんかない。
後でヤンスさんが経費で申請してくれるって言ってるしね。
貸主は予定外の収入に大喜びである。
冬は馬車を使う人が少ないのに飼料代が嵩むから維持が大変なんだとか。
俺のアイテムボックスには豆も麦も青草も藁もフルーツも沢山入っているからね。
お馬さん達もこっちで色々食べれた方がうれしいらしいよ。
万が一の事があるので、俺たちが帰って来なかった時は馬の代金をギルドから支払ってもらえる様にヤンスさんが交渉してくれるそうだ。
まぁ、使うのは俺たちのパーティ預金からだからギルド的には問題は無さそうだ。
なんだかんだ貯金はたっぷりあるしね。
実はお馬さん達、大変俺に懐いている。
こちらの世界に来てから俺は動物に飢えているので、暇があればブラシを掛けているし、一日の終わりに必ず甘くて美味しい物を差し入れている。
そのおかげでお馬さん達の毛並みはツヤッツヤのさらっさらである。
陽が指す日にはシャンプー(豆の煮汁からお馬さん専用のシャンプーを調合した)なども行っているからね。
現在では、近付けば甘えて擦り寄ってくれる程である。
あと、周りにはあまり言えないけど、【言語対応】のおかげか、彼等が言いたい事がなんとなくわかるのだ。
下手な事言ったらまた面倒が起こりそうだから口にはしないけどね。
どの辺が痛いとか、甘い物が食べたいとか、ブラシを重点的に掛けて欲しい場所とかね。
そして、面倒ではあるがハンターギルドに足を運ぶ。
馬車はギルドの馬車留めに置かせてもらった。
小銀貨一枚はぼったくりすぎな気がするよ。
そこで改めて聞かされる今回のドドレライスデンの指名依頼。
ざっくり言えば先に聞いていた通り、ダンジョンから魔物が溢れそうなので、それの処理を手伝って欲しいとのこと。
まだ今すぐにスタンピードが起こる訳ではないそうだが、一般のハンターでは中に入るのが難しいくらいになっているそうだ。
しかも、上層部がすげ変わったばかりで騎士団がうまく機能していないらしい。
まぁ、あの兵士達の事を考えれば騎士団も言わずもがなだろうね。
オーク討伐での成果と、ダンジョンの地図や内情に詳しい俺達にこの話を持ってきたらしい。
ギルド側からすれば「お前達が持ってきた面倒事なんだから最後まで関われ」ということなのだろう。
説明しているギルド職員さんの目がそう語っていた。
ぶっちゃけ引き金は俺達ではなくグンターさんではないだろうか?
そして一番悪いのはあそこの管理をしている貴族たちでしょ?
俺達だけ責められるのはちょっと納得がいかない。
……いや、全く関係ないとは言わないけどさ(ごにょごにょ)隠し部屋人前で見つけちゃったし。
依頼人は国からで断る選択肢はないが、今回の件で引き起こされるこちらの不利益を補填しろ、とヤンスさんが突っかかる。
まず季節手当に、馬車の代金の補填、うちの拠点を守ってもらうハンターの紹介と彼等に支払う料金の補填、前回の緊急クエストで味を占めて俺にまた物資を運ばせるつもりだったらしいのでその運搬費、他にもアレコレすごい額が積み上がっていく。
これには「流石に無理…」と返してきたハンターギルドに「そっちが先に無理を言ってる自覚あるか?運送を何度も繰り返して使う人件費に照らし合わせればコイツの運搬費なんて安いもんだろ?」などと言いくるめていた。
ざ、罪悪感が、はんぱない……。
結果殆どの要求が可決され、依頼料が倍程に膨れ上がったのだ。
その代わり大量の物資を運ぶ事になってしまった。
【アイテムボックス】に放り込むだけだから問題ないけどね。
昨日呼んでいたAランクハンターも揃ったので、俺たちの準備が整い次第出発できるらしい。
俺達は疲労を気にせず、拠点護衛のハンターさえ見つかれば、すぐにでも出発可能だ。
そう話せば「では早速」とえげつない程の物資を収納させられる。
収納しながら作成した物資のリストを複製して、あっちとこっちで数量を確認できる様にしておこうと提案しておいた。
俺が作ったリストと、ギルドが作ったリストを照らし合わせ、間違いがないか確認した上で割印を押し、更に複製してもらう。
その間に探してくれたらしく、物資を預かった後すぐに拠点護衛のハンターが連れてこられた。
紹介されたのはCランク中堅のパーティだった。
『捧ぐ意思』というパーティ名で、構成は俺達とほぼ変わらず、剣士が二人に斥候が一人、魔法使いと神官が一人ずつの五人パーティである。
神官は槍使いでもあるそうだ。
三十代くらいの小柄な男性がパーティリーダーで、警備小屋と冬の間の薪を支給すると話せば大喜びでしっかり守ってくれると約束してくれた。
「でっか……」
「ここ、貴族の屋敷じゃなかったんだ……」
「オレ、ここの店で何回も買い物したぜ?すげー便利なの売ってんの」
一度拠点に戻り彼等と子供達の顔合わせを行う。
拠点に着くと、『捧ぐ意思』のメンバーがフリーズして何やらボソボソと話し合っている。
早速護衛計画でも立てているんだろうか?
しばらく動きそうにないので一旦放置して店に顔を出す。
折角なので子供達だけでなくバイトに来ている人達にも声を掛けよう。
お店は一旦お休みだ。
休憩中の札を掛け、全員に出てきてもらう。
テオ達も呼んできてもらい、お互いに顔合わせである。
バイトメンバーはお母さんズと元はハンターな男達。
何かあった時はぜひ連携して対応してもらいたい。
今回は俺たちも『三本の槍』もいないのだ。
用心するに越した事はない。
「「「は?」」」
警備小屋を見た『捧ぐ意思』の面々はすごい顔で目を丸くしていた。
ちょっと狭いかもしれないが我慢して欲しい。
彼等が泊まる部屋へ案内して荷物を置いてもらう。
荷物を置いて身軽になったら他の部屋を案内する。
警備部屋とミニキッチン、倉庫に来たついでに薪類を支給し、幾つかの保存食も試食用に置いておく。
肉類と小麦粉は最低限支給するが、基本は自分達で確保していただきたい。
ご近所のお宿に幾つか材料を販売しているのでその辺で買ってもらう事にする。
「この保存食はそこの店舗で販売しているので、気に入ったらぜひ購入して下さい」
「わ、わかった……」
「これ高いけど美味いやつ……」
雑貨屋の商品のアピールも行い、今度は拠点の敷地内の案内を行う。
こちらはヤンスさんやオーランドがメインで説明していく。
途中で拠点の客室から顔を出した『三本の槍』メンバーが詳しい事例などを挙げて注意してくれる。
どの辺が忍び込みやすく、潜伏されやすいかなんていまだによくわからない。
もう少しお勉強を頑張らないといけないらしい。
オーランド達に任せている間に俺は雑貨屋の倉庫に足を向ける。
冬の販売用に保存食や防寒用品を追加する。
『捧ぐ意思』達に販売するであろう分を計算してかなり多めに置いておこう。
物々交換用の衣類もたっぷり目に。
逆に交換した夏物秋物、あとこれからの時期には売れない薬類などを回収した。
物々交換で手に入れた衣類は、イルゼがクリーン魔法を使える様になったおかげで、とても綺麗な状態で保管されている。
一部は彼女達のお裁縫の練習用になっていて、謎の刺繍やガタガタに歪んだ当て布などが付いている。
これはこれで微笑ましくてありだよな、と思うんだけど、流石に売り物には出来ない。
このまま練習に使ってもらおうと、そっと避けて置いておいた。
カイにも練習に使って良いよと伝えてもらう。
他にも途中からやってきたエドガーとオイゲンに言われるままに商品を倉庫の棚に並べていく。
多分これで俺がやらなくてはならないお仕事は終了だろう。
拠点側の冬支度はバッチリ終わっていた。
なんと増えた子供達の分まであり、更にもう少し予備がある程である。
子供達は優秀だった。