21 疲労困憊体力欲しい
なんだか俺だけ身軽で申し訳ない。
などと思っていたこともありました!
ええ。
ええ。
自分の体力を過信しておりました。
前回も思ったけど、荷物が一番少ないのにエレオノーレさんよりも遅くて疲れている俺ってなんなの?!
膝がガクガクしてるんですけど?
週一で二時間ジョギングしてるから、一日中歩くくらい余裕だろって思ってたけど、甘かった。
本当に移動の為の長時間の徒歩ってほとんどした事ないから身体がついてこない。
むしろ競歩だろコレ……。
始めのうちは、エレオノーレさんとの魔法談議(昨日の話の続きだ。目の色が変わっててめっちゃ怖い)や素材の採取の仕方や価値なんかを教えてもらってたんだけど、昼食後辺りからだんだん言葉が耳を素通りしていって、杖に縋りながらなんとか歩いた感じだった。
コレは休みの日の走り込み決定だな。
皆の足を引っ張ってる。
夕方天幕をうまく張ることが出来ず、ジャックの手をまた借りてしまった。
く、くそ……次こそは……っ!
しかも今日は両脚がぱんぱんで、野草やキノコ、薪等を集められなかった。
飲水を出して浴びる様に飲んだ後、頭にバシャっと掛ける。
少しだけスッキリした。
そこでふと思った。
ゲームとかでよく見るヒール掛ければ良くね?と。
「ヒール」
試しに、ブッチブチに千切れた筋肉の超回復をイメージをしながら脚に向かって魔法を発動した。
白い光が掌から発生して下半身を包む。
脚の疲労が一気に取れた。
よしイケる!
「はーい、今、貴重な魔法のヒールを無駄撃ちした人ー」
「!!!?」
背後からの声に振り返るとジトッとした目でしゃがみ込んでいるヤンスさんがいた。
ヤンキー座りで、心底呆れました、という表情を崩さずこちらを、俺を見ている。
「ヒールってさ、『元の状態に戻す』魔法な訳。神聖魔法だし、かなり高位の魔法だしで、使える奴もめっちゃ少ないし、魔力もゴリゴリに使うしな。つまり、今、す〜んごい魔法を無駄撃ちして、今日一日頑張って鍛えたキリトちゃんのあんよは、今またフニャフニャのヘニャヘニャに逆戻りしちゃったんだよね」
ま、まさか……。
「つ、つま……り……?」
「明日も今日みたいにぐんにゃりへにょへにょ、ガクガクプルプルする事になりまーす。筋肉痛を甘んじて受け入れてれば三日くらいで体力も脚力も付いたはずなのになー!ざーんねーん!」
ニヤニヤしながら揶揄う様に悲しい現実を突きつけられた。
なんということだ……なんと、いう、こと、だ!
マジかー!
まーじーかー!?
がっくりと肩を落とす俺にヤンスさんはお疲れちゃーんと投げかけ去っていった。
「……って訳で。あと三日くらいで到着かなー?」
「アンタ……ッ!なんっって勿体無いっ!」
晩飯の川魚の丸焼きを齧りながらヤンスさんがみんなに俺のヒール事件を話す。
もちろんエレオノーレさんは激おこだ。
ジャックがそっと宥めている。
俺は縮こまって焼き魚を啄む事しかできない。
オーランドが釣ってきた大量の川魚は皮目がパリッとしていて、身を食めばぎゅっとしまった肉から旨味がじゅわじゅわっと溢れてくる。
はー……美味しい……。
癒される。
「いや、でも今日は後半ヨレヨレだったけど、それでも弱音も泣き言も言わないでちゃんと一日中歩き続けられたじゃないか。頑張ったなキリト」
オーランドがフォローしながらバシバシと背中を叩く。
無駄に強くて痛い。
優しいな、ありがとうと言ったところ「オレは夕方まで保たないと思ってたから」と笑顔で返され、あまり期待されてなかった事に気付いた。
ショックだ。
衝撃が顔に出ていたのか、慌てて言葉を重ねるオーランド。
「いや、初めて長旅する人間にしてはちゃんと歩けてる方だからな?こないだは護衛と案内だったから依頼主のキリトの速度に合わせたけど、今日はパーティとしての移動だから結構速度出してただろ?今日の進み具合で、今後の移動ペースを調整して、日程を組む予定だったんだよ」
「そ、そうだったのか……」
「そうそう。私にもちょっと早い速度だったものね」
今回の蛍石は期限がそこそこ長いから移動ペースの確認に最適だったのだそう。
薬草茶の入ったマグカップを啜りながらシレッとエレオノーレさんがぶっちゃける。
成程。
俺がどれくらい出来るかの確認だったのか。
でもそれならそうと教えてくれたって良いじゃないか。
俺もお茶を自分で注いで口を付ける。
目下のところ目標は体力、筋力を付ける事だな。
とりあえず明日は遅れないように気合いを入れて歩こう。
無駄に体力を使いすぎず、出来るだけ疲労を蓄積させないように姿勢にも気をつけよう。
採取出来そうな実とかキノコとか生っていても我慢。
我慢だ。
そう自分に言い聞かせて、自分の天幕に潜り込む。
新品の臭い消しに骨組みから乾燥ハーブを吊り下げている。レモングラスとゼラニウムを足して二で割ったような爽やかな香りだ。
虫除けにもなるらしい。
ジャックがくれた。
今日の見張りはオーランドと一緒にやるらしい。
深夜から明け方の三番目だ。
疲れてるだろうからまずは寝させてくれるらしい。
ちなみに一番最後の明け方から出発までは毎回ジャックだそう。
朝ごはん係を兼ねているらしい。
美味しいごはん、楽しみにしてます。
では、おやすみなさい。
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