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間話 ◯視点 オーランド 【キリトとオークション】

 なんとあっという間に三周年です!

 いつも読んでいただきありがとうございます。

 三周年記念間話です。


 またやらかしたよコイツ。

 オレは大きな絵を手にぽややんと微笑む男を見て大きくため息を吐いた。


 オレ達のパーティ『飛竜の庇護』には問題児がいる。

 キリトという小柄な黒髪黒目の青年だ。

 少年に見えるが歴とした成人だ。

 ぶっちゃけ出会った時から三年経つが見た目が全く変わらない。

 本当に他種族の血が混ざっていないのか疑いたくなるレベルだ。

 現にエレオノーレだって八分の一入ったエルフの血のおかげで若々しく見えるが、これでも出会った頃に比べたらきちんと成長しているのがわかる。

 特に……ごほんっ。

 どことは言わないけれど。


 おっと、話が逸れたな。

 キリトの今回のやらかしは帝国最大級のイベント、オークションでだ。

 今回はまだ周りにバレてないけれど、これがバレたら洒落にならねぇよ。

 絶対また変な貴族に追い回される。

 ていうかヤンスも止めろ!唆すな!


 はじめはオークションの初日。

 奴は初っ端からやらかした。

 このオークションは帝国が主催しており、三年に一度、一週間に渡って行われる。

 各貴族家からの持ち出しや、職人ギルドからの逸品、ダンジョン産出品など、多数の良品逸品上級品が並ぶ。

 勿論中には壊れている品や、贋作、偽物なども紛れている為、注意は必要である。

 それでも近隣諸国では最大級の大きなイベントで、注目度は高い。

 オレ達の参加は四日目からのはずだった。



「四日目からのはずだったよな?!どうしてここにこんなに競り落としたガラクタがあるんだよ?!」


 ひび割れた花瓶と、薄汚れたティーセット、それにボッロボロの絵画が数点。

 正にガラクタとしか言いようがない。

 競り落とした本人であろうヤンスすらも疑いの目でキリトを見ていた。


「ええっと、こっちの花瓶が……大銀貨一枚で競り落としたヤツですね。この花瓶、ひび割れた状態でも小金貨二十五枚するんですよー。実は、隣の国で大変価値があるとされているシリーズの未発表作みたいで。底面に銘が彫り込まれていて、出す所に出せばさらに上乗せ出来るらしいです」

「「……」」


 こともなげに言い放ったキリトに開いた口が塞がらない。

 は?大銀貨一枚が小金貨二十五枚?

 ……は?

 ちょっと理解が追いつかない。


「んで、これを……んー……こう、かな?」


 惚けるオレとヤンスをよそに、割れた金貨を取り出した。

 古い時代の割れた金貨なんて地金としての価値しか無く、売るにしても少な過ぎて売りづらい微妙な代物だ。

 そんな物を取り出して何をしようというのだろうか?

 花瓶のヒビに接着剤に使われる樹液と割れた金貨を同時に当て、反対の手の人差し指を立てる。

 その指先からぽわりと赤い光が溢れたかと思えば金貨が見る間に溶けていく。

 接着剤と空中で混ざったかと思えばキリトの指の動きに合わせて混ざった液体がヒビの隙間に入り込んだ。

 それはおそらくそれほど長い時間ではなかったはずなのだが、オレにはあまりにも長く感じた。

 まるで生き物の様にヒビの隙間に入り込み、左右の陶器を繋いでいく金色の液体。

 元々の華やかな絵付けをされた優美な花瓶に、雰囲気を損なわず美しく輝く金のライン。


「こうやって金継ぎすれば……ホラ!小金貨三十枚になったよ!」


 子供の様に無邪気な笑顔を見せるキリトに言いようの無い不安を感じる。

 金継ぎとか高位貴族しかやらねぇぞ?

 それも余程価値のある物にしかしなかったはずだ。

 それを気軽に、拾ったクズ金貨で……。

 頭が痛い。


 その後のティーセットはまぁ汚れだけだったからな。

 いつものクリーン魔法とやらで新品同様になるのは理解の範疇ではある。

 けど、こいつそれ(クリーン魔法)だけで生活できるんじゃなかろうか?

 貴族の屋敷を回って「価値ある汚れた食器を綺麗にします〜」って歩き回れば充分稼げるだろ?


 絵画に至ってはもうなんでそうなった?と言いたくなるレベル。

 普通下の絵の方が価値があるだなんて誰も思わない。

 そもそも絵画に価値を見出すのは金持ちだけだし、平民であれば有名画家を知ってる方が珍しい。

 この絵は俺達平民ですら知っている有名な画家コッポラである。

 描く絵は悉く大金で売れるのにギャンブルですぐにスってしまう。

 助けてくれた平民にお礼で絵を描き、贈る。

 それを売ったら驚く程の大金で売れた、という事が何度もあって、伝説として語り継がれているのだ。

 なんでこうなっているかはわからないが、サインもあるし、ヤンスもエレオノーレもキリトの鑑定も本物だと言っているのなら間違いない。

 こいつは投げ売りしたとしてもかなりの高額で売れるだろう。

 オレは頭が痛くなった。



 二日目は特に収穫は無かったようで安心していたのだが、三日目にもまたやらかした。

 それは少し変わったネックレスであった。

 子供の拳程の大きさの台座に十二個の魔石が嵌まったペンダントトップ。

 石は赤から黄色、緑、青、紫と少しずつ色を変えている。

 裏返すと切れ込みの様な線が縦横無尽に入っている。


「これね、ジャン・ジャック・ジャンっていう大盗賊のアジトの鍵なんだって」


 ネックレスを無造作にひっくり返しながらこともなげに言うキリト。


「「は?」」


 田舎の子供でも知っている程有名な大盗賊の名前にヤンスと共に固まる。


「んー…なんかアジトのヒントがあるかなって思ったけどさっぱりわかんないなぁ」


 高かったのに……と溜息を吐いているが、それどころではない。

 ジャン・ジャック・ジャンのアジトと呼ばれる場所は各地に存在するが、そこの鍵などと言う存在は一度たりとも聞いたことが無い。

 これが本物であれば大変なことだ。

 罠だらけでSランクハンターですら百五十年近く攻略出来ていない最高難易度のアジトに潜入できるかもしれないのだ。


 ヤンスが震える手でそのネックレスを摘み上げた。

 ジャン・ジャック・ジャンのアジトに直ぐに向かいたいが、今それをすると足がつくと思っている顔だな。

 しばらくはキリトの【アイテムボックス】に封印するしかない。

 いつか時期を見計らってアタックしに行こう。


 そして運命の四日目である。

 大人数で会場に向かい、途中誘拐されかけるわ、スリに遭いまくるわで会場に入るまでに散々やらかすキリト。

 しかも会場に入ったら入ったで、おかしな魔法を使って景品がよく見える様にした。

 不自然な視界に思わず声が漏れてしまい、ヤンスに思いっきり殴られた。

 めちゃくちゃ痛い。


 途中で出てきた魔剣は購入出来なかった。

 いや、偽物だとキリトが自信を持って言っていたのであれば魔剣ではないのだろう。

 でも、万が一ということもあるだろ?

 本当の持ち主に出会った時、殻を破る様に本物の魔剣が出て来たら?

 きっと伝説の魔剣とはそういう物なのだ。

 普通の人にはわからんのですよ。

 魔剣というロマンが。


 ぶつぶつと文句を言いつつ舞台を眺めていると、見栄えのしないバスタードソードが管楽器のBGMと共に出てきた。

 飾り気は無く、最低限の拵えで、刃も傷んでいる。

 持ち手に巻かれた滑り止めの革だけが新しく、おそらくオークションに出す為に巻き直したのだろう。

 巻き方が雑な上、全体の雰囲気から妙に浮いている。

 亡くなったとある有名騎士の遺産処理との事で、大量の業物が出ている中「練習用の剣」として出てきたそのバスタードソードは、普段持っているやつより二回りほど大きい。

 騎士は大切にしていたのだとうかがえるが、その家族は違ったのだろう。

 鞘には雑な傷が付き、手入れさえまともにされていないのが見てとれる。


「オーランド最近筋肉が付いてきたって言ってたし、丁度良い練習用の剣だよ!造りもしっかりしてるっぽいし、絶対に落とした方が良いと思う!」


 何を思ったか説明くさい台詞で『練習用に良いね』とアピールをしてくるキリト。

 しかもヤンスまで競り落とし始める。


「えー、オレ両手剣あんまり得意じゃないんだよなぁ、重いし」

「だからこそ練習用に買うべきでしょ」


 遠回しにいらないと言っても引き下がらず、結局競り落としてしまった。

 しかも支払いは何故かオレ。

 はぁー?!

 納得がいかないが、支払わなければ折角競り落とした剣が台無しになってしまう。

 釈然としない思いを胸に、支払いに向かった。

 確認の為に手渡されたバスターソードを細かくチェックしていくが、どこからどう見てもただのバスターソードである。

 オレが手にした途端封印が解かれるわけでも光るわけでも手に吸い付く様な感覚があるわけでもない。

 丁寧に作られて丈夫な事はわかるが、それだけだ。

 初見で受けた印象、元の持ち主は大切にしていたが家族はそうでは無かったというのも間違い無さそうだ。

 せっかく購入したのだからグリップは後で丁寧に巻き直してやろう。


「問題なければ小金貨五枚をお願い致します」

「く……っ!」


 断腸の思いで小金貨を取り出して渡す。

 苦笑を浮かべる引き渡し担当の女性から引き渡し証明書を受け取り泣く泣くサインした。

 なぜオレは魔剣も買えず、こんな冴えない地味な大剣を買っているのだろうか?

 既に待機スペースにはパウル達も集まってきていて、何かしら話し合っている。

 こっちの気も知らずに良いゴミブンだよな!全く。

 ケラケラ笑っているキリトに帰ったら説明しろよ?と念を押しておく。


「楽しみにしててよ」


 えらく自慢げな笑顔が返って来た。

 大変に腹が立つ。


 しかし、ネタバラシされたらその笑顔の理由がわかった。

 青く光る刀身をにんまりと眺める。

 とはいえ、流石にもう少しなんとか言っておいて欲しかったな。


 ーーー憧れの魔剣がこの手に来た。


 でもまぁ大目にみてやろう。

 ヒャッホイ!

 本物の魔剣だ!!


 いつも俺不運を読んでいただき誠に有難うございます。

 ストックが足りない!とヒーヒー言っている間にあっという間に三周年がきてしまいました。

 自分でもびっくりです。

 これもひとえにお話を読んでくださっている皆さんのおかげです。

 ブックマーク、評価、感想いつも本当にありがとうございます。

 これからも頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
魔法が有る世界ですし。 金をハンダみたいに扱う技法が有って、陶磁器の修復にも使われていて、それが〈金継ぎ〉と呼ばれていたりするのですかね。 キリトなら、接合面を一切目立たない様に修復する事も可能な気も…
キリトの金継ぎを見て「違う!そうじゃない!」と叫んだのは俺だけではないはず 魔法で無理やりくっつけたんだと思おう…
更新お疲れ様です。 相変わらず剣をゲット出来たら調子良いなあオーランド(笑) でもまぁ「洗浄とかで飯食えるやろ」って感想には同意ですね…そしていつも通り胃が痛くなってそうなヤンスさんww それでは…
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