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撤退 2


『皇妃様からの下着の注文が二ヶ月連続で無い。何かやらかしてしまったかもしれないどうしよう!』


 そんな言葉で始まったブリギッテからの手紙。

 要約するとこの一言に全てがこもっていた。

 あとの文章はアレが悪かったのかもしれない、コレが悪かったのかもしれないと思い付く限りの事情が書かれているだけだった。

 全文を読まずとも、だから早く帰ってきてくれ!と伝わってくる。

 いやちゃんと全部読んだけどね。

 ぶっちゃけこれ、皇妃様に子供ができただけではないだろうか?

 皇帝のあの発注頻度から考えておそらく間違いないと思うんだけど。

 むしろ遅いくらいだよね。


 とりあえずダンジョンが閉鎖された今、ここに居て状況が悪化する事はあっても、改善する事は無さそうだ。

 身を守る為にもさっさと帝都に戻ることにしよう。

 幸い宿は引き払ってあるし、荷物も全て【アイテムボックス】に入っている。

 移動中の食料も問題ないし、近くの屋台で色々買っても良いだろう。


「とりあえず街を出ようか」

「そうだな。食料なんかは道々買えばどうにでもなるだろうしな」


 他のみんなも同じ気持ちだった様で急いで街を出た。

 保存食などを売っている店や屋台通りは大混雑で、迂回を余儀なくされた。

 おそらく他のハンター達もこの街から逃げ出そうとしているのだろう。


「お?」


 仕方なく屋台通りの一本裏の通りを進んでいるとヤンスさんがニヤリと笑った。

 ちょいちょいと俺を指で呼び、奥の方の屋台を置いておく広場の様な場所を指差す。

 そこにはいくつかの屋台が置かれていて、持ち主と思われる男達ががっくりと項垂れている。


「オニィさん達そんなにへこんでどうしたわけ?たしかダンジョン前で働いてたヒトでしょ?」


 ヤンスさんが人の良さそうな笑顔で声を掛けている。

 俺は覚えてなかったけどダンジョン前で商売してた人達らしかった。

 ヤンスさんの巧みな誘導話術が無くとも少し水を向けるだけで彼らは聞いていない事まで話してくれた。

 サクッと要点だけを挙げるとすれば、ダンジョンが閉鎖されて商売ができない。

 仕入れた食材が駄目になる為大赤字という訳だ。

 ああ、あの人の良さそうな笑顔の向こうに悪魔の様なニンマリした笑みが幻視出来るよぅ!


「それは大変だったなぁ。そうだ、コイツはこれでも一応商人なんだ。でかいアイテムボックスもある。流石にここに居る全部の店から全て購入は約束出来ないが、全員が赤字にならない程度購入するくらいならきっとどうにかなると思うぜ」

「!」

「ほ、本当かい?!」


 予想通りである。

 縋るような彼らの視線に抗う力は持っていない。

 結局ヤンスさんの口車に乗せられて、ほぼほぼ原価で材料のほとんどを購入する事になった。

 他の場所で売ったり出来ないのかを聞いてみたけど、それぞれ使用料を払って場所を確保していて、それ以外の場所での販売は許可されていないらしい。

 下手な所で販売している事がバレたら家族全員の首が飛んでしまうんだとか。

 安く買い叩いたにも関わらず、熱烈なお礼の嵐に目を白黒させながら食糧を【アイテムボックス】に放り込んでいった。


「せめて昨日のうちに言っておいてくれれば仕入れないで済んだんだがね」


 大きな溜息と共に誰かが零した言葉に周りの皆が力強く頷いた。

 本当ここの領主は何を考えているんだろうね。

 彼等のダブついた材料をまとめ購入し終われば、もうここに用はない。

 急足でドドレライスデンを出て、あちこちの村に寄りつつ秋の味覚を楽しみつつ、大量に購入していく。

 途中の村で帝都に向かうというハンターに出会ったので、ブリギッテへの手紙を託した。

 内容は「皇妃様の件は大丈夫だと思う、戻るから良質の毛糸と例のストレッチ素材の糸を大量に用意よろしく」といったものだ。

 ハンターは通常よりも良い価格の依頼に笑顔で了承してくれた。



 十日ほど掛けて移動して、昼前に帝都に到着した。

 途中で皆と別れてブリギッテの店に向かう。


「ただまー」

「師匠!」


 裏口を通って工房に顔を出すとブリギッテが駆け寄ってくる。

 引き摺るように手を引かれて工房長室に移動し、すぐに皇妃様の話に入った。


「なぁブリギッテ、騙されたと思ってこの下着皇妃様のサイズでゆるめにつくってくんないか?」


 道中宿屋で描いた幾つかの下着と服のデザイン画を取り出して渡す。

 それを受け取って確認したブリギッテの表情が変わった。


「え?これって……っ!」

「一応周りには秘密にしてな?」


 渡したのは、所謂マタニティ下着とマタニティウェアと呼ばれるもの。

 締め付けが少なく全体を覆えるデザインだ。

 それプラス腹巻きと分厚めな毛糸の靴下に靴下カバー。

 デリケートな案件なので、情報流出を防ぐ為、ブリギッテには申し訳ないが一人で作ってもらう事になる。

 俺が持ち込んだ特殊顧客対応の為、と称して拠点で作成してもらう事にした。

 早速大量の材料を集めて俺達の拠点に駆け込み、客室で作成を始めた。

 差し入れは持って行くから頑張って作ってね。


 ついでに例の小太り側近さんルートで、ドドレライスデンの現状を報告しておく。

 え?貴族から大事にするなって手紙もらっただろって?

 こちらからは了承の返事出してないから問題ないよね。

 むしろ報告しない方が大問題になるからね。

 キチンと報告(告げ口)致します。

 ダウンタウンからアップタウンに入った平民の金持ちは襲われて濡れ衣を着せられることが常態化していることや、実際に襲われた事、ダンジョンに変化が起こっている事、異変の起こっているダンジョンを領主がギルドの反対を押し切って閉鎖している事、貴族の遣い達にされた事など思いつく限りの事を全て時系列順に箇条書きにして渡しておいた。

 良かったらこっそり視察するなり調査させるなりしておいた方が良いかも、と付け加えておく。

 気になるならハンターギルドに聞いてもらっても良いと思うよ。

 あと、回復の宝玉を売りたいな、ともお伝えいただく。

 きっとそのうち反応があるだろう。

 内容を伝えられた伝言担当者は目を白黒させて頷いていた。

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― 新着の感想 ―
うーん、クソ領主とその取り巻きども、きちんと調査されて罰を受ければ良いと思うけど なんか皇妃の妊娠出産で恩赦されそうだよな
後ろ楯が烈火
理非曲直を糺せば、ざまぁは自動的に執行されるものですね。 ざまぁが、お嫌いか苦手な向きが、おかしな展開を書くことがあって無駄なストレスが掛かる事が有りますが、そういうイラつきが無いのは大変良いです。
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