罪と罰の訳 5
話の都合上短めです。
フィンさんが貴族の遣いを追い払った翌日、俺達は昼近くまでぐっすりと寝た。
いや、もちろん見張りは立てたけど、それでも奴等がいないというだけで疲れの取れ具合が全然違うんだよ。
久しぶりにゆったりと休息と食事を摂って、英気を養ったあと、夕方すぎにギルドに再報告に戻った。
薄闇の中ダンジョンからギルドに向かう多くのハンターに紛れて歩く。
道ゆく彼等の話題は、やはり隠し部屋と最近急に増えた魔物についてだ。
どのフロアが見つかったとか、見つけたらどんなマジックアイテムが出るだろうかとか、売るか使うかなどと話しながら歩いている。
とはいえ、明るい顔の人ばかりではない。
結構でかい怪我をしている人もいるし、泣きながら歩いている人もいる。
何が原因かなんて考えなくても分かる。
でもうっかりここで回復魔法なんか使ってやるわけにはいかない。
有料だとしてもそれをしてしまうと囲まれて動けなくなってしまうだろうし、引き抜き交渉とかの面倒なのに巻き込まれるだろうから。
それに彼等を癒すことで生計を立てている人達がいる事を忘れてはならない。
「なんで急にボラーレポルコスピーノなんか……っ」
啜り泣きの合間に聞こえてしまった言葉に湧き上がる苦い思いをなんとか飲み込む。
ーーーハンターは全て自己責任。
そう自分に言い聞かせてそっと視線を外した。
ハンターギルドに入ると、やはり混む時間なのかカウンター周りは大混雑していた。
今回はギルドからの依頼なので受付を通さず、ギルマスに報告する事になっている。
人混みをなんとか掻き分け、フィンさんに案内されながらギルマスの部屋に向かった。
部屋の中には既に俺たちが戻ったことが伝わっているようで、ノックですぐに「フィンか?」と返事が返ってくる。
中に入ればギルマスが執務机に着いていて、書類を読んでいる。
何か報告に来たのか、書類を持ってきたのか丁度よく副ギルドマスターも同席していた。
「入ります」
キリッとしたフィンさんが一言告げて中に入る。
それに続いて俺達も足を踏み入れた。
机の前に皆で並んで、フィンさんが代表して「報告に参りました」と口にすると、ギルマスはひとつ頷き、読んでいた書類をオーランドに向かって差し出した。
「何があったか想像がつくが、改めてお前達の口から報告してもらおう。……が、その前に、『飛竜の庇護』宛に領主から手紙が届いたぞ。……その、まぁ、悪いがギルドの為に……先に開封させてもらった」
ギルマスが申し訳なさそうに述べながらぺらりと渡してきた羊皮紙をオーランドが受け取る。
なんだなんだと他のメンバーも左右から覗き込む。
それは書類ではなく便箋だった。
ギラギラとした箔押しで装飾された……されまくった(?)それに目を通すと、装飾過多な文章で「部下が私の事を思って独断で動いてお前達には迷惑をかけたらしいな。自分は全くちっとも悪く無いけれど、部下に代わってこの私がわざわざ謝ってやるんだからこの件を大事にするなよ?言ったからな?(意訳)」みたいな内容が書かれていた。
「?」
「???」
謝罪かこれ?脅しでは?むしろ謝罪してるとこある?謝ってやるんだからいうこと聞けよって言ってるけど謝ってなくない?俺の読み方が間違ってるだけ?
俺達が手紙を読み返しながら首を捻っているのを見て、ギルドマスターも副ギルドマスターも苦笑いする。
こんな内容でも、ここの領主としては珍しくちゃんと謝っているらしいよ。
貴族は普通謝ったりしないからね(ラノベ知識)
貴族の保身であるし、これ以上突っ込めばこちらもただでは済まないので、この辺が落とし所なのだそう。
まあ、これ以上絡まれないならそれで良いや。
気を取り直してフィンさんが調査した事と、ギルドで確認した内容の擦り合わせを行う。
フィンさんは俺達の報告に嘘が無かった事、自分の目で見て、体感して魔物が増えていた事などを理路整然と報告していた。
難しい言葉は使わないけどかっちりしていて、聞き取りやすく、わかりやすい。
なんだろ、頭の悪い例えだけど、“頭のいい人の喋り方”だなって思う。
「ふむ、成る程な。こちらもパーティ名などは明かせないが、地上五階で隠し部屋を見つけたとハンターから報告があった。『飛竜の庇護』の話とフィンの話を合わせれば、恐らく隠し部屋見つける毎に魔物が増えている事は間違い無い」
ギルマスがしかつめらしい顔で言うと、副ギルマスが悔しそうに頷く。
「隠し部屋を開ける際にはよくよく注意する様に、また誰かが隠し部屋を開ける事で急に新しい魔物が増える可能性がある為、今後はダンジョンに潜る前に準備と覚悟をしっかりする様にと通達を出すしかありませんね」
「そうですね。開けるな、と言っても止まるわけがありませんし、表立って開かずとも報告せずに開く者も必ず出てくるでしょう」
「それならば、初めからそういうものだと公言して急に増える魔物に対して準備をしておくことが大切だろうな」
まぁ、確かに高額品がある、一攫千金がすぐそこってわかってるから、たとえギルドが開けるなと言っても誰も守らないだろうね。
俺だって解呪の宝玉欲しいし。
切実に欲しいし!
俺みたいに本人が切望している人もだし、転売やオークションに出品を考えている人だって沢山集まってくるだろう。
そうしてまた新たな隠し部屋が開かれて魔物が増えていくのだ。
重要な情報を提供したとして今回の案内料金とは別に情報料に小金貨八枚の報酬を出してくれ、合計小金貨十三枚になった。
想定外の報酬だったが、減って困ることはあっても増えて困ることは無い。
充分な額の報酬を手に入れた俺達はホクホクしながら宿屋に戻った。
ここ最近急に寒くなってきたのであったかいお風呂とお布団が恋しい。
いつもの宿に相変わらずヤンスさんが圧を掛けて値下げを交渉してお安くしてもらう。
お風呂を洗浄、覗き穴チェックを済ませると順番にゆったり入浴を楽しんだ。
このあと二日程ハンター稼業は休暇にして、疲れを取ることに専念する。
休暇中は特筆することもなく、平和に過ぎていった。
少し覚悟していた例の『貴族の遣い』達は宿には現れず、充分に身体を休める事が出来たのだった。
いつも俺不運を読んで頂き誠にありがとうございます。
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フィンさんの名前書いてる時にどうにもチラチラと頭を過ぎる某怪盗の相棒だった天使さん。
懐かしいなぁと思っていましたら最近ガチャポンにもなっていました。
無敵に素敵です←
ストックが全然溜まらず日々更新に追われております。
誤字報告マジ神。
ご指摘下さる方々本当にありがとうございます。
今後もどうぞよろしくお願いします(他力本願)