罪と罰の訳 3
気がついたらダンジョンを出ていた。
目の前にはドドレライスデンのハンターギルドがある。
「え?あ?!ええ?!なんで?外?」
「お?やーっと戻ってきたか?」
オーランドが俺の顔を覗き込みながら笑う。
どうやら俺はヴェークローテ戦の後倒れて、意識が戻ってもショックでずっとぼんやりしていたらしい。
会話もまともに出来ないが、「◯◯してくれ」などと声を掛ければこくりと頷いてその作業を行ったらしい。
ここまで自分の足で歩いてきたんだって。
シュシュフロッシュもヴェークローテも無言で排除してアイテムボックスに収納してたらしいよ。
信じらんないよね。
「あの感じで騒がずにサクサク狩って収納してくれたら良かったんだけどな」
「どの感じかは知りませんが、多分無理です」
とりあえず気を取り直してギルドに報告だ。
前回のことがあるのでスムーズにギルマスに会うことができた。
挨拶もそこそこにダンジョン内で話し合った“報告するべき事”を伝える。
そして今までこのダンジョンにシュシュフロッシュやボラーレポルコスピーノ、ヴェークローテに最弱スライムが出ていたのかを確認する。
タイミング的に俺たちが隠し部屋を開けた後から増えた気がする、ダンジョンの名前も『罪と罰の塔』なので、もしかしたらそういうダンジョンなのではないか?と繋いで、ギルマスの記憶に刷り込んでおいた。
ただ、ボラーレポルコスピーノに関しては俺達の開けたタイミングとは違うので、他のハンターが隠し部屋を開いたという情報がないか訊いてみる。
だが、当然の如く教えてはもらえなかった。
まあ、そうだよね。
むしろ教えられた方がギルドを信用出来なくなりそうだ。
他にも、今回急に増えたはずの魔物のせいで戻ってきていないハンターやパーティが増えていないか聞いてみた。
流石にこれに関してはすぐには確認出来ないので受付に確認して調べてみてくれるらしい。
話の流れで俺達が隠し部屋をいくつか開けた事を知られてしまったが、皇帝にツテがある事も知っているので何が出たか聞かれた程度であっさりと終了した。
その話の後、ギルマスが眉間に皺を寄せて俺達を改めて見回した。
「これは本当に気をつけて欲しいのだが、領主が君達を狙っている様だ。こちらに何度も問い合わせが来ている」
真剣な瞳で、鉛を吐く様に話すとキツく手を組んで目を伏せる。
「ハンターの守秘義務がある、と答えているが、人の口に戸は立てられぬ……。近いうちに接触があるだろう」
申し訳無いが…と続けるギルマスが言うには、ギルドでは今の段階では何もできないのだそうだ。
周りに丁寧に聞き込みをすればおのずと俺達『飛竜の庇護』に辿り着くだろう。
下手したら既にバレているかもしれない。
絶対に手を出される事が分かっているにも関わらず、あちらから手を出されるまで守ることすら出来ない、と何度も謝られる。
ギルマスは悪く無いのにな。
悪いのはここの領主だろう。
「オレたちの事と知っていたのかどうかは判りかねるが、ダンジョン内で既に声を掛けられている」
頭を下げるギルマスに苦虫を噛み潰した様な顔でオーランドが自称貴族のオッさんに絡まれた時の話をする。
これこれこんな感じの見た目で、後ろに騎士らしい護衛付けてた、もしかしなくてもこいつが領主か?と聞けば首を横に振る。
「いや、その見た目なら領主ではないが、その配下の貴族だな。貴族としては下っ端ではあるが自己顕示欲と権力欲が強く、平民を人として見ていないタチの悪い男だ」
うわー……。
ギルマスの言葉にズーンと気分が重くなる。
しかも、金にがめついらしく、今回の事でも散々自分達に献上しないとは何事か!と騒いでいたらしい。
ヤンスさん指導のオーランドの一言を伝えたら流石に口を噤んだが、明らかに納得していない風だったんだとか。
自分達に献上して、こちらから皇帝に更に献上するのが筋だとかなんだとかぶつぶつ文句を言いながら帰って行ったらしい。
今回声を掛けられたのは、皇帝に献上される物を奪う訳にはいかなかったから、自分で他の物を探すつもりだったのかもしれないな。
「ダンジョンの異変はこちらでも確認する。良かったら明日から調査員と一緒に潜ってはくれまいか?」
「報酬は?」
「勿論出すさ。そうさな、隠し部屋の明記された地図と案内込みでこれくらいでどうだ?」
ヤンスさんの言葉に左手を開いてこちらに向ける。
所謂パーの形でおそらく大銀貨五枚とか五十枚とかそういったところではないだろうか?
それを見て「あとはなんかあった時のフォローもな」と言ったヤンスさんに少し驚く。
今までは毎度値段交渉していたのにとても珍しい。
とりあえず穏便にその場が収まって良かった。
宿に戻り、速攻で風呂に突撃して、心身ともにリフレッシュした俺は、食堂の料理を食べているオーランドに報酬の確認をした。
どうやら右手が一桁、左手が二桁を表すらしく、今回の報酬は大銀貨五十枚らしい。
びっくりする程の高額依頼だ。
今回の異変はダンジョンの運営に大きく関わる事になるので当然なんだとか。
まだ大きな被害が出ていないのにこの額を出せるのは良いギルドの証拠なんだってさ。
最初無理矢理俺達を引き摺ってきた職員以外は。
大銀貨五十枚ってことなら小金貨五枚でも良いじゃん、と少し思ったが、ハンターの生活では大銀貨の方が使い勝手が良いらしい。
仲間内で等分するにも、屋台や店で使用するにも金貨は使いにくいもんね。
一万札一枚より千円札十枚の方が使いやすいのと同じみたいだ。
まあ、お札と違ってめちゃくちゃ重いけどね。
皆が皆【アイテムボックス】を持ってる訳じゃないし、大変だと思う。
銀行口座様々だね。
翌朝ギルドに向かうとすぐにギルマスの部屋に通された。
そこで、紹介されたのがフィンさんである。
四十代くらいの金髪碧眼文化系な男性で、目が悪いのか大きめなメガネをかけている。
くるくるとキツくカールする小麦色に近い金の髪と、真っ白で薄くそばかすが浮いた顔など、どうにもナ●ィアを想像させる。
「このフィンが今回の調査員だ。元ハンターで、自衛は出来るが戦闘はあまり期待しないで欲しい。あくまでこいつの仕事はダンジョンの調査だからな」
「つまりは護衛に近い道案内ってことか?」
「いや、君等の仕事は道案内と説明のみだ上下3階なら自力で行って帰れるくらいの力はある」
「よろしく」
ぱぱっと自己紹介して、ダンジョンに向かう。
入ってすぐに最弱スライムに出会ったが、「これだけではなんとも言えない」とのこと。
今回の事が引き金だったのか、それとも別のファクターがあったのか慎重に判断するのだとか。
地下一階に潜ると早速シュシュフロッシュが現れる。
フロストでポロポロ落としていけば、フィンさんは目を丸くして、声も無く驚いていた。
隠し部屋へ案内して、そこで手に入れたものがマジックアイテムであったこと、その翌朝からシュシュフロッシュが現れ始めた事などを説明していく。
最短ルートで案内して進むので、サクッと地下二階に着いた。
一度ここで休憩を取る事にしたが、セーフティエリアに着くと水場の近くをドでかく陣取るグループがいた。
明らかにハンターではない男達で、身なりから考えても下っ端貴族である事が窺える。
俺達の姿を捉えると、配下に何事かを指示して
偉そうに座り直す。
周りを囲む背の高い騎士のうちの一人が抜け出て、颯爽と歩いてきた。
「君達は『飛竜の庇護』だな?我が主人が君達との面会を希望している。私についてきてくれ」
爽やかな笑顔で話し掛けてくるが、こちらが断るとは思っていない上から目線である。
オーランドは目の前の騎士と同じくらい爽やかに笑いながら断りの文句を口にする。
「今クエスト受注中なのでお断りします」
「うむ、ではこち、ら…?」
護衛中の二重受注は原則禁止である。
護衛依頼の途中で討伐や採取をしない様にギルド側が設定したルールだ。
その為、こういった場で「クエスト受注中」と言って断る場合護衛依頼中だと伝わるはずだ。
まあ、俺達のは護衛ではなく案内なんだけどね。
それが理解できなかったのか、想像もしていなかったのか、彼の主人の所へ案内しようとして固まった。
強張った笑顔で首を傾げる。
「お断りします」
もう一度明確にオーランドが答えると、顔色が悪くなった。
理解し難い、と言った表情でこちらに向き直る。
「断、る…と?」
「はい」
ほんの少しの威圧感を出しながら答えを変えさせようとする騎士に毅然とした態度でお断りをするオーランド。
流石リーダー!頼り甲斐があるぅ!
とりつく島もないこちらに小さく息を吐いて騎士は去っていった。
ギルドからの派遣さんエルマーにしてしまって、孤児のエルマーと被っていた事に後から気付きました。
エルマー→フィンに変更しましたが、漏れがあるかもしれません。
このエルマーってやつは誰だ?!となったらフィンさんの前世だと思って下さいませ。
気が付かれたら誤字報告などで教えて下さるととても助かります。