マッピング! 3
幸い、心配する様な問題は起きず、俺の見張り時間がきた。
丁度朝が来たようで、周りのパーティがどんどんと起き出し、活動を始める。
騒がしくなる周囲に皆天幕の中で身じろぎしたりしているが、まだ誰も出ては来ない。
昨日の事もあり、遅めに出発しようと話していたし問題はないのだが、周りの視線がどうにも痛い。
ちょっと心苦しいので、朝ごはんでも作っていようかな。
ヤカンを以前手に入れたミニ竈でお湯を沸かす。
時間はあるのでジャックに教えられた枝に巻きつけて焼くパンを作ってみよう。
幾つか作って収納しておいたパンだねを取り出し、枝に薄く巻きつけていく。
石床に刺す事は不可能なので以前作った焼き鳥台の様な焼き台を出してクルクル回しながら焼いていく。
遠火にしつつ、一旦そのままにして、スープ作成に入る。
玉ねぎとにんじん、スパイス干し肉を小さく刻み鍋でほんの少しのバターを使い丁寧に炒める。
適宜パンを回転させつつ、充分に火の通った具材にスープストックを入れた。
今日使うのはコンソメにすりおろしたジャガイモを入れてとろみをつけたスープだ。
サラッと飲めるが、結構お腹に溜まるので朝ごはんにバッチリである。
牛乳を足して味見、少しだけ悩んでひとつまみ塩を追加した。
「ん。美味い」
なんとか満足のいく味に仕上がったな。
相変わらず周りのハンターからの視線は消えないが、慣れてきたのか大分気にならなくなってきた。
一人変な奴が近寄ってきたけど「ご用は?」と聞けば慌てて逃げていった。
背後からデイジーの天幕に一体何の用があったんだろうな?(怒)
パンも良い匂いを漂わせ、ふんわりこんがりと焼けた。
スープとパンと焼き鳥台を一旦【アイテムボックス】に入れて、新たに取り出したゾンマーランジェの皮を剥いていく。
外の皮もマーマレードにする為、大切にとっておこう。
まとめて【アイテムボックス】に放り込む。
ある程度実が溜まったら圧搾。
人前なので、手で潰している様に見せかけて、魔法を使ってぎゅっと搾る。
用意した水差しにたっぷりできたフレッシュジュースも収納しておいた。
「んー、こんなもんかな?」
「足りない、足りない。肉が欲し…ふぁあ……っ」
「お、おはよー。もう起きる?」
俺の独り言に、のそりと天幕からオーランドが出てきて、欠伸混じりに答えた。
「おあよー…」と背伸びを一つして、タオルを手に水場に向かう。
ここのダンジョンの水場は人工的な感じで、ヘソの上辺りの壁に水を受ける出っ張りがあって、そこに向かって水がずっと流れ出ている状態だ。
水もそのまま流れているわけではなく、ライオンの彫刻の口からジャバジャバと出ているのだ。
ライオンの吸水口ってたしか、ナイル川の増水の時期に獅子座が現れるから豊穣の象徴だとかなんとか言ってたような気がするんだけど……ここでもそうなのかな?
それとも別の理由?
うーん、よくわからない。
閑話休題。
とりあえずお肉が足りないらしいので、オーランドの為にソーセージでも焼きますかね。
焚き火台を追加で出して、最近お気に入りのグルグルソーセージを二本のせる。
多分これで充分なはずだ。
しばらくして、ソーセージの焼ける良い匂いが漂い始めると、他のメンバーももぞもぞ天幕から出てき始めた。
先に起きていたオーランドは、待っている間自分のポーチから取り出したエナジーバーを齧っていて、淹れてあげた草の根コーヒーをチビチビ飲みながら周りを観察している。
「だいぶ人が減ってきたな」
「もう朝だからねー。皆やっぱり隠し部屋探索なのかな?」
「だろうな」
とりとめなく話している間に、身だしなみを整えた他のメンバーが、次々に自分用の折り畳み椅子に着席していく。
以前農村でもらった折り畳み椅子の布地にワンポイントで刺繍して、どれが誰のかわかるようにしてあるのだ。
ジャック用の金属で骨組みを作った折り畳み椅子もちゃんと出している。
せっかく折り畳みできる様に作ってくれたのだが、重すぎて旅には向かず、農村のおっちゃんが落ち込んでいた。
やっぱりこの世界の技術力だとパイプ椅子くらいの重量は出るよね。
ウチは【アイテムボックス】があるから問題ないけど。
皆が揃ったのでテーブルと朝食を取り出す。
ソーセージもよく焼けていたので大皿に取り、ナイフとフォークを添える。
サッとオーランドの手が伸びてきて、程よい大きさに切り分け始めた。
鍋とスープ皿を置けば今度はデイジーが注ぎ分ける。
棒付きのままパンバスケットに入れたパンを中央に置き、カトラリーとお皿をテーブルに出すと、エレオノーレさんとジャックが配り始める。
ヤンスさんが生搾りジュースをカップに注いで配れば朝食スタートだ。
「んぉ?!このスープとろっとしてて美味いな」
「キリトのおかげでダンジョンでこんな風に贅沢出来るのよねー」
焼きたてソーセージを頬張ったオーランドがスープを飲んで目を丸くする。
普段野菜類はあまり好まない彼にしては珍しい感想だ。
パンを使ってスープを拭うエレオノーレさんがうっとりとした表情で俺を褒めてくれる。
褒められるのは嬉しいのだが、とりあえず後ろのクマさん制御してくれないかな?
視線がめちゃくちゃ怖いんだけど!
俺、熊さんの視線に射殺されそう。
わいわいと食事をしていると、新たなハンターパーティがセーフティエリアに入ってきた。
入口から賑やかな声が響く。
まだ若い少年少女達のパーティの様だ。
なんとなくだが、ウチとパーティ構成が似ている。
リーダーっぽい剣士の青年と、斥候らしい細身の少女、魔法使いっぽい女性に幼く見える神官、二本のショートソードを穿いた獣人の少女に、大柄の槍を持った男性の六人組。
女の子が多くて華やかだな。
「あーっ!あの時のっ!」
その内の一人、十代くらいの獣人の女の子がこちらを見て、指を指しながら大きな声を上げた。
おまけ
「あんなにいい匂い撒き散らされたら出てくしかないじゃん!」
「アイツら少しは周りに気を遣えよ」
予定より早めにセーフティエリアを抜けたとあるハンター達はブツブツと文句を言いながら歩を進める。
原因は昨晩遅くにやってきたハンターパーティだ。
ダンジョンでは時間の感覚が無くなりやすく、区切りの良い所まで攻略してから休憩する事が多い為、セーフティエリアに遅くやって来ることは珍しくはない。
この辺では見ない顔なので恐らくペース配分を間違えた者達なのだろう。
アイテムボックス持ちなのだろう、あっという間に陣地設営を終わらせた。
その手慣れた動きはベテランパーティだと容易にわかる。
しかし、彼等は一つとんでもないことをしでかした。
この場で料理を始めたのだ。
通常のクエストとは違い、食料の確保出来ないダンジョンでは普通料理などしない。
携帯食料をほんの少し齧って水を飲み飢えを満たすのみだ。
例外として、このフロアで取れるダブルホーンラビットの肉を焼くくらいである。
それも料理というよりは、焚き火で焼いて塩を振っただけであり、食べられるようにしただけ。
旨味よりも空腹を凌ぐ為のものだ。
更に、朝出立前にはパンさえ焼き始めたのだ。
周囲からの視線を気にすることさえなく、鼻歌交じりに次々と料理を作っていく黒髪の少年。
耐えがたい良い匂いがセーフティエリア中に漂う。
寝起きにコレを嗅がされた周囲の者の気持ちを考えろ!と怒鳴りつけたい。
衝動を必死で我慢して、急ぎ荷物をまとめて地上を目指す。
元々もう少しこのフロアを探索する予定ではあったハンター達だが、今はとにかく美味いものが食べたかった。
ーーー本日、街の食堂は大忙しだった。
すみません、追い詰められるとご飯回になるようです。
更新がギリギリすぎてヤバいです。
おかしな文章とかあれば、誤字報告でご指摘下さると助かります。←他力本願