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休息

 毎度お馴染み食事回です。


 ギルドに連れ出されたついでに一度宿に戻り食事を摂る事にした。

 思ったより報告に時間が掛かっていた様で、既に夕方と呼んで良いくらいの時間だ。

 遅い昼食か、早い夕食か微妙なラインである。

 残念ながら宿の食堂は今の時間はお酒の提供とおつまみ程度しかなかったが、持ち込みはオーケーとの事だった。


「すみません、少し調理場をお借りできますか?」

「なんだ?自分で飯でも作るのか?」


 この宿の人とは思えない程、人の良さそうな料理人のおじさんで、事情を話すと数枚の大銅貨で快く貸してくれた。

 少しだけ多めに支払い、早速調理場に入れてもらう。

 中は結構広くて、普段は五人くらいで調理をしているのだろう。

 大きな竈門が五つ並び、水瓶も沢山あり、水の魔道具まである。

 流しも三箇所にあり、作業しやすく作られていて、並べられた調理道具なども充実していた。

 そろそろ調理手伝いの人達が来るから手早く終わらせて欲しいと匂わされ、手早く作れるメニューをそれぞれ考えることにする。

 スープをジャックが、おかずをデイジーが、俺がパン(出すだけ)を用意することを決めて調理場にお邪魔させてもらう。

 

 クリーン魔法で手早く手を洗うと、必要な道具や材料を言われた通りに取り出していく。

 ザクザクと下処理を進める二人を見て、折角なので俺も何か作ろうと思い立つ。

 適当な葉野菜をざっと洗い、一口大にちぎって大皿に盛った。

 きゅうりやにんじん、トマトなど生で食べられる野菜も丁寧にカットして、彩良く並べていく。

 ラプストという植物から採れた油と塩、幾つかのハーブにゾンマーランジェの搾り汁を入れ、根気よく丁寧に混ぜてサラダに回し掛ける。

 ついでに果肉も少しだけちぎっていれてみよう。

 これでシェフの気まぐれフルーツサラダの完成だ。

 うーん良い匂い。

 なんてふざけていたら背後から料理人のおじさんが食い入る様に見つめていた。


(うわっ!ビビった〜……)


 無言でただひたすらこちらを見ているだけで、特に何か害があるわけでも無い。

 しばらくすると、その視線はデイジーやジャックの手元に向かう。

 成程、新たなレシピを求めていたんだね。

 それならまあ、仕方ない。

 多分それもレンタル代の内なんだろう。


 ジャックはコンソメっぽいスープストックに幾つかの野菜やベーコンを入れてさっぱりスープを、デイジーはタレに漬け込んでいたオーク肉で生姜焼きっぽい物を作っていた。

 これならパンはハード系の大きなやつかな?

 俺の顔よりも大きな丸型のパンを取り出す。

 十字の切れ込みが入っていて、固めのタイプだ。

 日本だとパン・ド・カンパーニュと呼ばれるやつに似てる。

 あれよりも少し硬くて酸味があるけど、肉と一緒に食べると絶品なのだ。

 それを食べやすいサイズに切り分け、軽く魔法で炙り表面をよりパリッとさせたらパンバスケットに盛っていく。


 俺の作業はすぐに終わり、サラダとパンを【アイテムボックス】に収納してオーランド達が確保してくれているテーブルに向かった。

 テーブルの上をクリーン魔法で綺麗にしたらサラダの皿とパンのバスケットをテーブルに置き、全員分のカトラリーをテーブルの上に積み上げる。

 小皿やフォークなどを置くと、間髪入れずにオーランド達がそれぞれの席に並べていった。

 俺が入ったばかりの頃は、料理担当者がその辺も準備していたのだけれど、「早く食べたいなら手伝うべきです」というデイジーの言葉で皆が準備する様になった。

 全てはデイジー母さんの教育の賜物である。


「キリト、()()はないのか?」

「あー……、じゃあこれで」


 オーランドが縋るような目でこちらを見てくる。

 その姿はまるで女性に浮気でもされた俳優の様な哀れさで、大きなため息が出てしまう。

 俺は言葉に応えるように小さな器にマヨネーズをたっぷりと入れてオーランドの前に置いた。

 途端ににぱーーっ!と全開の笑顔を見せる。

 このマヨラーめ。

 そのうち太るぞ。

 一瞬有名な格闘ゲームの太った美少年キャラが頭をよぎる。

 じとりと半眼で見ても全くこたえないオーランドは自分の席の前にマヨネーズを置いた。

 サラダにはドレッシングを掛けてあるというのに、おそらくたっぷりマヨネーズを付けて食べるつもりなんだろう。

 下手したらパンに塗って食べ始めるかもしれない。


 そんなやり取りをしているうちに、ジャック達の料理も終わったようで次々に皿が運ばれてくる。


「キリト」

「オッケーオッケー」


 皿を運んできたジャックに声を掛けられて俺は調理場に向かった。

 使った包丁やフライパンなどはある程度汚れを落として綺麗にしてあるが、クリーン魔法でサクッと片付け【アイテムボックス】に放り込む。

 鍋に残ったスープも熱々のまま【アイテムボックス】に入れておけばおかわりも簡単である。

 最後に調理場を魔法でちょちょっと掃除して料理人さんにお礼を言って席に戻った。

 何故か後ろから残念そうなため息が聞こえた。

 もしかしたらフライパンに残ったソースの味見がしたかったのかもしれない。

 料理漫画ではよくあるもんね。


「腹減ったー!」

「お昼抜きだったからな」

「早速いただきましょう」


 口々に話し合いながら食事を始めた。

 ここでは余計な話をせずに、ただひたすら食事を楽しむ。

 まずはジャックが作ってくれたスープから。

 コンソメ系の旨味の強いスープに、ざっくりと大ぶりに切られたトマトやキャベツと薄切りのナスやきゅうりが爽やかさを醸し出し、ザクザク食べ応えがあるのに、ごくごく飲めるあっさりとした味だ。

 ざっと火を通してあるだけなので、歯応えがあるのも嬉しい。

 時折現れる拍子木切りのベーコンがニクイ。

 うっかり半分くらい一気に食べてしまった。


「……このスープ美味いな」

「お?ヤンスがそう言うの珍しいな?オレはもう少し肉肉しいやつの方が好きだけどな」


 ぽろりと溢れたヤンスさんの言葉にジャックが嬉しそうに微笑み、オーランドが茶化す。

 多分だけどヤンスさんはトマト味が好きなんだろうな。

 前に作ったトマトのチーズ焼きも美味しい、故郷の味だって言ってたし。

 イタリアっぽいとこなのかな?

 エレオノーレさんはにこにことジャックに世話を焼かれながら食べている。

 相変わらずブレない二人だわ。


 そんな二人を横目に見つつ、今度はメインの生姜焼きもどきを食べる。

 オーク肉と玉ねぎを、いつぞやに作った焼き肉のタレのバージョン違いで、生姜とフルーツを効かせた甘めのタレに漬けて炒めたやつだ。

 醤油が無いので生姜焼きでは無いのだけど、複雑な香辛料の香りが生姜の味を惹き立ててくれる。

 厚めに切られた肉も柔らかく、簡単に噛みちぎれた。

 口いっぱいに頬張ってぎゅむぎゅむ噛むと、タレと肉汁が混ざり合っていつまでも噛んでいたい気持ちになる。

 そこにカットしたハード系のパンをちぎって放り込めばもう止まらない。

 肉と玉ねぎを一緒に食べたり、ソースをパンに付けたり、肉をパンに乗せたりと食べ方を変えたらいくらでも食べれる。

 贅沢を言えば白米と共に食べたいところだが、それは言いっこなしである。

 途中でサラダで箸休めしたり、スープで喉を潤したり、話もそこそこに夢中で食べ切ってしまった。

 デイジーも初めこそスパイスは贅沢すぎて使えないなどと言っていたけど、最近では使いこなしていて存分にその腕を振るっている。

 しかも最近は料理のアレンジにも拘っていて、もうすぐ満足のいくカレーが出来そうなレベルだ。

 持つべきものは料理上手な仲間だよな。



「オイ、親父、おれたちにもあのメシくれよ」

「見てたからわかるだろ?彼等の作った食事だ。オレに作れそうなのはサラダぐらいだな」

「ケッ!それでも料理人かよ!」

「あの複雑な香りでわかると思うが、大量の香辛料を使っているんだ。ここの材料と通常の料金で作れると思うか?しかも料理に魔法を惜しげもなく利用している様なパーティだぞ?」

「くそっ!生殺しじゃねえか……っ!」

「こんなに良い匂いだけ振り撒かれて食えねぇのかよ!」

「うううう…くいてぇぇぇ」


 背後でそんな会話が交わされていたとは露知らず、俺たちはお腹いっぱいに食事を摂ったのだった。


 すみません心の安寧のためだけにお食事回をぶっ込みました。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 マヨ、パンに塗って焼くだけでも美味しいからなぁ…オーランドさんの気持ちは分かる(笑) 自分には作れないと言いつつも、匂いで複雑さを読み取ったりしてる=この料理人さんもなかなかの腕…
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