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異世界行きが決定したぜ


 そして世界選びが始まった。


 魔法がある世界なのは絶対だよなー。

 ふんふんと鼻歌を歌いながら眺めていく。


 A4くらいの紙一枚にひとつの世界の特徴が収められていた。

 企画書みたいな感じで大体の方向性と幾つかの写真、オススメの見所というかいくつか大きな国の特徴なんかが書いてある。

 写真も触ると短い動画になってて、すごく楽しい。

 イギリスのベストセラーの魔法ワールドみたいでドキドキする。


 この分厚い紙の束全部が、大上神様のお弟子さんの世界だそうで。(融通を利かせやすいらしいよ)

 十センチ位の厚さがあるよ!目を通すだけでも一苦労だね!(ワクワクが止まらないぜ!)

 紙で指を切るのはご愛嬌。

 大丈夫慣れてる慣れてる。

 いてて。


 とにかく全てを魔力で賄っていて、魔力をどれだけ持っているかで地位が決まったりする世界があれば、逆に魔力という概念が無い今の地球によく似た世界もあったし、そもそも星じゃない平たい世界がいくつも連なった様な世界、世界樹って呼ばれる木が主軸になって形作る世界とかこう、胸にグッとくる。

 オタク心はもうオーバーヒートだ。


 とりあえずパッと見て、アリとナシに割り振っていく。

 もちろん、魔力ありの世界っていうのが、一番のポイントね。


 あ、そうそう。

 地球にも実は魔法が存在したらしいよ。

 つっても超大昔だけどね。

 現在の俺達は魔力を放出する器官自体が退化してるらしい。

 俺は肉体を再構成する時についでに復活させてくれるってさ!

 ヤッタネ!

 一部の人間しか使えない魔法よりも、みんなが使える科学を選択した結果らしい。

 元々、魔力って地球の環境が巡り巡って円滑に動き出す為の補助だったらしい。

 異世界で魔物に当たる生き物は、日本で言う妖怪とか神獣的な感じになって伝承だけ残ってるんだってさ。

 海外ではモンスターとか神様とかだね。


「ん? これは?」


 紙の枠や文字が、異様に装飾されていてゴテゴテしている。

 お貴族様最優先!平民からは搾り取るって国が多い。

 美食に溢れる(意訳)って書いてあるけど多分俺は平民扱いになるからなー。


『それはフランスのロココ文化に影響された神の世界じゃの。くどいくらいに装飾があり、魔法を放つにも長々と呪文を唱えるぞ。ワシは目がチカチカするが、好きな者は好きじゃの』

「長い呪文は覚えらんないだろうなぁ……」


 チラリと覗いてきた大上神様が眉間にシワを寄せている。

 確かに目がチカチカするし、魔法もちょっとめんどくさそうだからここはやめておこう。


『そこは地球で言う三国志演義に似ておるかの。中華風の文化と呪術と呼ばれる魔法が、良い味を出しておる』


 次に手に取った紙にはまんま古代中国って感じの服装とかお城とかが写っていた。

 中華魔法ワールド、良いよなぁ……あのヒラヒラした独特の服着た綺麗な女の子と……って皇帝にでもならなきゃ意味ないか。

 結構こういう世界の平民って質素なんだよね。

 しかも呪術ってなんかこう、代償とかありそうだよね。

 やめとこ。

 ナシの方にヒラリ。


 次の世界はこう、なんとも少年心をくすぐる世界だった。

 メカメカしいゴテゴテと謎の機械が張り付いたタイヤが一つしかない空飛ぶバイクみたいなのや、蝙蝠の羽みたいなのが付いた飛空艇、パイプがごちゃごちゃ入り組んで、煙があちこちからモクモク上がる街並み。


『そちらは機械と魔法が融合しておる。所謂スチームパンクという奴……じゃったかの?蒸気装置と魔石を動力源にアレコレ作っておる』

「成程!」


 おおお!やっぱりスチームパンク!

 良いよなぁ…このエアバイク乗ってみてぇ〜!

 これはキープ、と。

 ホクホクとアリの方に積み上げる。

 次は……。


『そこの神は変わり者での、文化がある程度育つ度に壊して一から物作りをさせておる。「何もない所からモノを作る快感を提供し続けるのだ」などと言っておったぞ。確かほんの二十年程前にまた壊しておったから物作りが好きならばオススメじゃ』

「いやいやいや!ソレ何処の賽の河原!?」


 鬼か?!ナシナシ!

 ん?次のは……?

 二枚の紙がクリップで留められていた。

 ほとんど同じに見えるんだけど……?

 んー……微妙に違う?


『おお、その二つは双子神の世界じゃの。性質も存在箇所も近いせいかお互いに影響しあって、稀に交錯した時に側に居った人間がもう一つの世界に飛ばされる事もあるのぅ。のんびりとした中世ヨーロッパ風の世界での、スローライフにはバッチリじゃ』

「スローライフ……」


 神様にもスローライフの概念があったのか……。

 というかさっきからなんか、ちょいちょいオタクくさい世界多くね?

 神様もラノベ読むの?


「パッと見おんなじに見えるんですけどどっちがどう違うとかありますか?」


 そう、見た感じ同じ世界だよって言われても違和感ないくらいの差くらいしか見当たらないんだよ。

 俺の予定職業が冒険者と呼ばれるかハンターと呼ばれるかとか、月が二つか一つか、くらい。

 大上神様はふむふむと頷きつつ説明してくれる。


『概ね同じなんじゃが、どちらかと言えば姉の世界の方が剣と芸術、妹の方が魔法と食べ物に力が入っておるかの。仲の良い双子姉妹じゃからの。どうしても似通ってくるのじゃよ。其方絵を描くのであろう?それならば姉の方が良いかのぅ?』


 そう言って紙に手を置くといくつかの芸術品を映し出してくれる。なにこれ便利〜……じゃなくて!


「いやいやいやいや!コレ明らかな芸術作品じゃないですか!俺のはイラストだし、めっちゃ下手だし!コレと並べちゃダメですよ!」


 むしろ俺、妹神様の世界の方が良くね?

 一応、食べ物にうるさい日本人だし、魔法が使いたいし!

 あとさっき聞き逃せない大事な事言ってた。


「えーと大上神様?さっき交錯した所にいた人が飛ばされる事があるって言ってましたけどそれはつまり…?」

『異世界から来る者に慣れておる、という事だの。確かどちらでも“迷い人”と呼ばれておったの。其方が行くなら都合が良かろう。もう一つから飛ばされてきた人間として振る舞えばの』


 好々爺の様な表情で頷く大上神様。

 うん。さっきのスチームパンクも気になるけど、どっちかっていうとこっちの方がthe 異世界転移って感じがする。


「ここにします」


 むふーっと鼻から息を噴き出し、紙を大上神様に渡す。

 こうして妹神の世界へ行く事が決まり、次はお待ちかねのスキル選択だ。大上神様の祝福というか、加護は初めからもらえる事が決まっていたらしい。 神様候補の五人からひとつずつと大上神様のひとつで計六つ。


 コレから選べ、と渡されたのは妹神様の世界のスキルリスト。

 正直めっちゃ分厚い。六法全書かってくらい分厚い。

 五十音に並べ直してくれたので(大上神様のワンタッチですよ。凄いね神様)欲しいスキルを検索。

 本当は色々見たい気持ちもあったけど、下手なの選んじゃうと失敗しちゃうからね。

 ラノベ知識を総動員して、意思疎通に便利な【言語対応】、時間経過の無い【アイテムボックス】、何かと便利な【鑑定】、【魔法】、魔法を探してる時に見つけた常識の為の【マナーブック】そして一番大事な【幸運】をお願いした。


 なんてったって【幸運】ですよ。

 一番に選んだもんね。

 俺、不運だもんね。

 なんでか知らないけど。

 最悪打ち消しあってプラマイゼロでも良いんだよ。

 普通の生活が送れたらそれでいい。

 大上神様と、神様候補の一人一人がオデコに指を当ててスキルを授けてくれた。

 ひとつスキルが付く度にふわっと暖かい風が吹くのが気持ち良かった。


『ではうちの若造供がすまんかったの。いくばくかの金銭も財布に入れておる。一ヶ月程は過ごせるはずじゃ。贅沢は出来んがの。お人好しの近くに転移させるでの、安心して頼るが良いぞ』


 ぽんぽんと払うように俺の肩を叩くと眉間にシワを寄せ、指をフワリと振る。

 尻ポケットに入れていた財布がずっしり重くなる。

 転移が始まったのかすうっと肌寒くなってきた。

 身体が光りつつ解けていく。

 不思議と恐怖は感じない。


「大上神様色々ありがとうございます。頑張って仕事見つけます!」


 お辞儀をしたら、財布を落としそうになる。

 慌てて抱き留めて懐に仕舞い直した。

 相変わらず不運ではあるものの、前だったら転移の直前に落として異世界に行ってたんだろうな。

 幸運はいい仕事をしてくれている。

 うん。

 そうして懐にある財布に確かな重みを心強く思いつつ目を瞑る。

 視界が光に埋め尽くされた。

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