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184 いざ罪と罰のダンジョンへ! 3


 すったもんだあった翌日。

 一応チェックアウトはせずに部屋を確保したまま宿を出た。

 何故ならヤンスさんのおかげで宿代が三分の一くらいになって、とてもお得なのだ。

 お風呂だけは毎回俺のチェックが必要だけど、それ以外は悪くない。

 食事も美味しいし、リネン類は清潔で肌触りが良い。

 流石に食事に薬を盛る事は出来ないだろうしね。


 天気は晴れ、微風。

 さわさわと流れる風がほんのりと秋の涼しさを運んできている。

 期待を胸に向かうのはギミック式の塔型ダンジョン。

 上下どちらが正解なのかすら解明されていない、『罪と罰の塔』と呼ばれるそれは、古くから存在しているものの、いまだ未踏破のダンジョンである。


 街中にあるだけあって、ダンジョンそのものは高い壁で囲まれて区切られている。

 その壁の向こうからニョッキリと伸びる高い高い塔。

 そのてっぺんは雲に隠れて見えない。

 丸い円柱形で、所々窓の様な物が見える。

 直径八百メートルくらいのかなり大型の建物……ではなく、大型の石造りのダンジョンだ。


「はあー…たっけぇなぁ〜、これ何階くらいあんだっけ?」

「上下共に不明だったはずだよ。グンターさんが言うには、上は五十五階まで攻略されてるけどまだまだ先があるってさ。下は二十階まで攻略されてて、それもまだ終わりじゃないって。あと、五階毎に転移陣があって、それに触れれば一瞬にして入り口まで戻れるらしいよ」

「はーっ、ダンジョンの神秘だよなぁ!」

 

 手で庇を作りながら見上げるオーランドが感嘆のため息を吐く。

 隠しきれない興奮が見てとれた。

 五階毎に転送陣があるから攻略済みフロアは五の倍数なんだろうか?とか零している。

 ふふふ、転送とかめちゃくちゃファンタジーだよね。

 解呪の宝玉とは別枠でワクワクする。


 ダンジョンを囲む壁の外には色んな屋台が並んでいる。

 保存食や水を売る者、普通の食事を売る者、武器や道具、薬などを売る者、ダンジョンで傷んだ武器の手入れをする者ーー沢山の人がそこには居た。

 中でも目を引いたのは孤児院の子供達だろうか?

 五、六人の子供達が募金箱の様な箱を首から下げている。

 それにハンターが数枚の小銅貨を入れると、パーティ名や彼等の名前を聞き、みんなで取り囲み、口々に「頑張って来てね『◯◯』のお兄ちゃん達!」「かっこいい!」「最高!絶対攻略出来るよ!」など笑顔で褒め称え、最後に「いってらっしゃーい!」と締め括る。

 元手がほとんど掛からない良い商売だと思う。

 孤児達への支援も兼ねている様で、結構利用してるパーティも多い。

 もしかしたら孤児院出身のハンター達がいるのかな。

 たまーに屋台で買った食料を追加で渡している奴もいる。

 その時にはまるで伝説の勇者が来た、と言わんばかりに大騒ぎになるのはご愛嬌だな。

 子供たちはお金を稼げて、ハンターは士気も上がり、慈善事業をした気分になれるwin-winの関係というやつではないだろうか?


 そんな沢山の屋台を流し見しつつ、歩を進めると壁に張り付いて建つ小屋があった。

 それはギルドが設置している小屋、もとい、出張所らしく、中ではダンジョンで出たマジックアイテムの買取や例の地図が売られているらしい。


 かららん、と可愛らしく鳴るドアベル。

 中を覗けば、カウンター内の壁一面にずらりと備え付けられた書類棚が目を引く。

 それらは全てこのダンジョンの地図だと言う。


「え?!多過ぎない?!」

「こちらでは各フロア毎に地図を販売しておりますので」


 ウフフ、と微笑む美人なお姉さんが言うには、なんと、各階ごとに六種類もの地図があったのだ。

 ギミック式のダンジョンの為「道だけ」「道、次階へのギミック説明」「罠あり」「罠、次階へのギミック説明あり」「罠、魔物情報あり」「全部盛り」。

 つまり、攻略済みのフロアが五十五と二十で七十四フロア分、それが各六種類で合計四百四十四種類。

 目が回りそうな数である。

 しかもそれが新しい地図を別のパーティが描いて、その有用性が認められたら差し替えられるというのだから、実際にはもっと種類があるという事だろう。

 考えただけで実に管理が面倒くさい。


「どれになさいます? 基本的に皆さんギミック説明アリの方にされる事が多いですよー」


 成る程、次の階に進む為にはギミックを解かないといけないのか。

 お姉さんが言うには、簡単なパズルものから、必要なアイテムを複数揃えねばならないものまで多種多様存在するらしい。

 お金なら沢山あるし、どうせなら全部盛りにしてしまうか?

 拳を口元に充てつつチラリとオーランドに視線を送れば、幾つかの地図を流し見した後、ニヤリと笑って全てをお姉さんに返した。


「キリトがいれば問題ないだろ?下手に前情報があると見つかるものも見つからないからな」

「「「「たしかに」」」」


 まさかの発言に、何故か俺以外のパーティメンバーら賛同する。

 意味がわからないよ!

 結局地図は買わずに今日は一階と上下一フロアずつ様子見をする事になった。

 そういうハンターも少なからずいる様で、お姉さんはにこっこりと笑ってダンジョン入場受付を処理してくれた。


 入場許可証を壁の前の兵士に見せると、しかつめらしい顔で門を開く。

 ここも二重扉になっていて、壁の中に俺たちが入り切るとバタンと門が閉じられた。

 その音に反応してか、正面の門が開かれる。

 きっちりとスタンピードに対応しているのがこの街っぽくない気がするけど、自分達だけは助かりたいから閉じ込められる様に対応した可能性もあるな。

 むしろそっちの可能性なら大いにありそうだ。

 門番の兵士に急かされて門を通り抜ける。


 ダンジョンの入口である塔の入口は、扉も無く石を切り出したブロックがアーチの様になっているだけのものだった。

 三段の上り口の上にぽっかりと開いていた。

 中は照明があるらしく、ゆらゆらとオレンジ色の光が見える。

 早速手元にメモ帳を構えてマッピングしていく。

 何だかとても懐かしい気分だ。

 最近ダンジョンに潜る事とか無かったもんね。


 一階は魔物などはほとんど現れず、罠なども特にない。

 迷路、とまではいかない程度に入り組んだ通路を少しだけ歩いて、上に行くか下に行くかを選ぶだけのフロアみたいだった。

 とりあえず左の壁に沿って全ての道を歩いてみる事にした。


「結構無駄な通路が多いな」

「行き止まりやら、何もない部屋やら、やたらあってめんどくさい」

「魔物も全然出て来ないわね」


 皆がそれぞれ感想を口にする。

 確かに、一階フロアを見る限り無意味な道が多いイメージだ。

 何だか入る度にマップが生成されるダンジョン攻略ゲームが頭に浮かんでくる。

 松明が切れると壁にぶつかり続けてライフが無くなってしまう仕様は本当にやめていただきたい。


 二時間ほど歩き回って、無事、上の階に行く階段と、下の階に行く階段は見つかった。

 現在休憩中である。

 軽く防水布を敷き、それに座って外側を向いて水分を補給するだけの小休憩だ。

 俺だけその中心で地図を仕上げている。

 ただ、ざっと描いた地図を見ると、意図的にある部分だけ空白のエリアがある事に気づく。

 何処を見てもそこに行く道は無い。


「ちょっと皆コレ見て欲しいんだけど」


 地図を見せながら説明すると、ヤンスさんがニヤリと嬉しそうに笑った。


「キリトちゃん、()()はどうなってる?」


 探索魔法ですね。

 もちろん確認してますよ。


「部屋、ありますね」

「なら、探すしかねぇよな?」


 俺の言葉にオーランドが嬉しそうに乗っかる。

 【鑑定】先生を使えば多分一発でスイッチを見つけられるだろう。

 だが、最初から使ってしまっては面白くない。

 少しは自分達の力で探してみたいじゃないか。

 そうして俺達はワクワクと最初のフロアを探索した。

 まずは空白地帯のある通路まで移動して、壁を丹念に調べた。

 上下階に行く道からちょっとだけズレた位置にあるけれど、そこからはよく見えるという絶妙な場所にある為、ダンジョンに入っていた他のハンター達からジロジロと見られてしまう。

 彼等から変な物を見る目で見られている気がするけど、そんなのは関係ない。

 二十分程全員であちこち探してみたものの、目視では見つけられなかった。

 結局エレオノーレさんからギブアップが出て、探索魔法に表示された隠し部屋を【鑑定】する。

 以前と同じ様に、目の前にポンとウィンドウが浮かぶ。


 一階の隠し部屋

  中には宝箱が一つ。魔物は居ない。

  現在居る位置の背後、最下部にスイッチがあ

  り、押し込んだ後右にスライドする事で隠し扉

  が開く。左にスライドしてはいけない。アラー

  ムが鳴り響き魔物が集まってくる。


(マ?!)


 隠し部屋の入り口を開くか、魔物パーティかの二択とか……っ!

 やっぱダンジョンって性格悪い!

 俺は皆に目配せして、背面にある壁の確認をする。

 膝をついて、下の方をゆっくり注意深く見ていく。

 小石を膝で踏んづけ悶絶するのはいつもの事である。

 これ絶対アザ出来てるやつだ……。

 皆でしゃがんで探し始めて三分もしない内に、一センチ掛ける二センチくらいの小さな切れ込みを見つけた。

 じょーーーずに石の影になる様に作られている。

 ここら辺にスイッチがあると確信して探さねば見つからぬレベルの隠され様である。


(いやマジで!言われなきゃこんなんわかるわけねぇだろ!)


 腹立たしくおもいながらも、その切れ込みをそっと押込むと、ゆっくり右にスライドさせる。

 それに合わせて後ろからゴゴゴッと重い何かがズレる音が響いた。

 その音に道の向こうからハンターが集まりはじめる。

 ジャックが立ち上がってそちらに牽制の視線を送れば、三メートルほどの距離を開けてこちらを窺いはじめた。

 ヤンスさんと俺とデイジーの三人だけが中に入って確認する様にオーランドから指示が出る。

 俺がざっと部屋全体をもう一度【鑑定】して、ヤンスさんが宝箱自体に罠が無い事を確認する。

 一つ頷くとそっと宝箱の蓋を開けた。

 そこには野球ボール程の大きさの蒼い宝玉が収められていた。


「ーーーーーーーーーっ!」

「ーーっ!ーーーっ!」


 声にならない声が出て、思わずデイジーと手を繋いで飛び跳ねる。


「おいコラまだ喜ぶのは早いぞキリトちゃん。ちゃあんと確認(鑑定)したのか?」


 注意をするヤンスさんの声も喜色に満ちている。

 そうだった確認(鑑定)しないと!

 今年も一年俺不運を読んでくださってありがとうございました。

 来年も頑張って参りますので、どうぞよろしくお願いします。

 皆様、良いお年をお迎えください。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 いきなり件のオーブか!?……いやさすがに早すぎですね、多分違う中身な気がするなぁ(笑) 今年も一年お疲れ様でした!良いお年をお過ごし下さいませ。それでは今日はこの辺りで失礼致し…
貴重品だけど、解呪ではないとみました。 良いお年を。
キリト君に年越しの幸運がやってくるのか!? 来年の更新も楽しみにしてます 良いお年を
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