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178 オークション 5


 ヤンスさんにこってり絞られた翌日、武器防具のオークションでは『三本の槍』と一緒の席になり、なぜか期待に満ちた視線を注がれた。

 が、掘り出し物(本物の魔法武器)がそう簡単にいくつも出品されるわけがなく、工房の逸品(そこそこの品)を競り合い、落とすことが出来ないまま、一日が過ぎて行った。


 オークション会場を出ると相変わらず絡まれるが、オーランドが例のバスタードソードを背に、ニコニコとご機嫌にスリやたかり、(やから)を排除していく。

 一応「ちゃんと魔剣だと隠せないのならば【アイテムボックス】に封印させるからな?」と釘を刺されているので、昨日みたいなあからさまな行動は無くなった。

 ……それでもご機嫌なのは隠せていないけれど。

 翻ってしょんぼりした『三本の槍』の皆は、足を重そうに引きずってついてくる。

 俺が悪い訳では無いし、彼等も責めてくる訳ではないが、ちょっとだけ居心地の悪い思いをしつつ、拠点に戻った。

 食事もせずに客室に引き篭もった彼等にかける言葉は無かった。


 パウルさん達が心配ではあるが、とはいえ、俺にとってオークションの本番は明日のダンジョン産魔法アイテムだ。

 ここまで長かったが、お金稼ぎをめちゃくちゃ頑張ったのはこの為だ。

 何がなんでも絶対に『解呪の宝玉』を競り落としてみせる!

 リピートしたぐるぐるソーセージを食べながら決意した。



 ダンジョン産魔法アイテムのオークションは、エレオノーレさん、ジャックが参加して、オーランドとデイジーは不参加だ。

 オーランドは拠点で留守番兼魔剣の稽古をするらしい。


「早くブルーノ(コイツ)に慣れたいからな」


 また剣に名前付けている。

 それって普通のことなのだろうか?


 オークション会場の人混みが苦手らしいデイジーも、留守番をして商品の薬や人気商品のハンドクリームなどを量産してくれると言っていた。


「デイジーの作る香り付きのハンドクリームはママさん達に人気があるけど、だからって無理しないでね?」

「はいっ、大丈夫です。キリトさんもお目当ての品物が手に入るといいですね!」


 笑顔で送り出してくれたデイジーは大変に愛らしかった。

 留守番組に手を振って会場に向かう。

 今日からは会場も混み合うらしく、かなり早めに拠点を出たが、それでも物凄い人数が既に会場には居た。

 早く来ただけあり、中央あたりの席に全員で座ることが出来たが、一般席はその後あっという間に埋まってしまった。

 後方には立ち見の人達までいる始末である。

 貴族用のボックス席も見える範囲は全て埋まっている。

 もしかしたら相席になっているのだろうか?

 何か言い争いをしている席まである様だ。

 今日もトラブルには事欠かないみたいだな。

 こちらに災難が降りかかってこない様に神様にお祈りしておこう。


 そんな風に周りを見回していると、大きな管楽器の音が響き、舞台の幕が開いた。


「さてさて、皆さま大変長らくお待たせ致しました!エーアストベルク名物オークション、最大の目玉!ダンジョン産マジックアイテムの初日が遂にやってまいりました!」


 既にお馴染みとなった舞台役者オースティンが両手を上げながら現れ、声を張り上げる。

 舞台中央に立つと、芝居掛かった動きで胸に手を当てあちらこちらへ腰を折る。

 お辞儀らしいのだが、顔は正面に向けたままだ。

 俺の勘違いがしれないが、客だけではなく彼もまたいつもより興奮している様に見える。

 まあ、昨日までの品物と比べて人数も、落札額も桁違いになるから当たり前かもしれない。

 周りからも拍手や指笛が鳴らされ、会場は大盛り上がりである。


 ヤンスさんに促され『飛竜の庇護(ウチ)』のメンバーにだけ望遠魔法以下略を発動させる。

 昨夜のうちに説明していただけあって、エレオノーレさんもジャックも大きな反応はない。

 ただ、少し強い視線を感じた程度だ。

 そうこうするうちに、舞台下で流れている音楽が盛り上がりはじめる。


「まずはこちら!最近話題のヒメッセルトのダンジョンより出ました睡眠防止の指輪から参りましょう!こちらは効果もさることながらーーー」


 早速始まったオークションは、俺たちにも馴染み深いアイテムからだった。

 ぶっちゃけ今出てるやつなら同じ様なのが幾つも【アイテムボックス】に入っている。

 なんだったら装飾品としてより価値の高そうな物や、効果の高い物もある。

 そうだった。

 競り落とすだけじゃなくて出品もできるんだった。

 しかもめちゃくちゃお高く競り落とされそうな良いアイテムを俺達は今持ってた。


「うわー……女王様の三点セット出品()しとけば良かった……」

「あー……アレは出品しとけば高かっただろうな。すっかり忘れてたわ」

「ほんそれ」


 ボソリとこぼした俺の言葉にヤンスさんが乗っかり、エレオノーレさんが深く頷く。

 後悔先に立たず。

 次回に持ち越すしか無いね。

 次は……三年後?遠いなー。

 思い出していればもう少し資金が確保できただろうに……あー、うっかりしてたわー……。

 ジャックが皆の背中をポンポンと叩いて慰めてくれる。

 そんな優しくされたら涙が出ちゃうかも。

 

 それからも続々とバッドステータス抵抗や防御のアイテムが、指輪やブレスレッド、カフス、ネックレスと種類豊富に出てきて、そこそこの高額で競り落とされていく。

 やはり貴族は資金の桁が違う様で殆どの商品はお貴族様達が落としていった。

 大人気ないというか何というか少しは他の人に譲る気持ちは無いのかな?

 マナーのへったくれもない。

 むしろバッドステータス防止系はダンジョンに潜るハンターに譲れよ。


 属性の付いたナイフや剣などは高ランクハンターと貴族が競り合い、かなりの高額で競り落とされている。

 どうやら競り落とせたハンター達はその属性武器一つに絞って、パーティ全員のお金で勝負していたらしい。

 落札が決まった瞬間に近くにいたパーティ全員から歓声が上がっていた。

 必死で札を上げ続ける周りの人達の目の色が変わっていて、少しだけ怖かった。


「ウチは『解呪の宝玉』一択なのでまだ大丈夫ですけど、イェルンさん達は何かお目当てがあるんですか?」

「今日出る予定の炎の槍を落とせたら、とは思っているが、一本だけだと争いの元になりそうでな……」


 周りと違い静かに見ているイェルンさんにこっそり話しかければ、困った様に槍使い三人を見て答えてくれた。

 確かに三人とも自分が使うつもりで見ているみたいで、時折クフフ、と何か変な笑いを浮かべている。


「さあ、素晴らしい品々ばかりでしたが、こちらからは少し趣向を変えた物をご紹介致しましょう。それでは大博打!魅惑のジャンクアイテムをいくつかご紹介いたします!」


 説明によれば、ダンジョンで産出されたものの、使い途が判らない物、鑑定されていない物、鑑定しても「不明」と出た物などを格安スタートで出していくらしい。

 基本的にコレを落とすのは変人か博打打ちくらいのものだそうだが、箸休め的にちょいちょい差し込まれるそうだ。


「まずはこちら!鑑定結果不明品、出品者は何かのアクセサリーでは無いかと申しておりました。謎の石とそれを嵌め込む台座らしき物体です」

「「「「!!!?」」」」


 台に載せられたそれはボックスティッシュを半分にスライスしたくらいの薄ペタい箱に収まる二つのアイテム。

 金属製の長方形の台座みたいな物と、台座に嵌めるであろう青色透明な丸い石。

 周りが肩の力を抜いて「あんなん誰が買うんだよ〜」などと笑っている中、俺たち四人は腰を浮かせてしまった。

 すぐさま俺に向かう六つの瞳。

 鑑定結果は汎用簡易魔法弓製造アタッチメントと汎用簡易魔法シリーズ用魔石 青(5/10)。

 あれ、剣だけじゃ無かったんだな……。


「弓のです」

「「「!!」」」


 小声で答えれば皆が息を呑む。

 エレオノーレさんが素早く小銀貨三枚を示す札を上げた。

 札が上がったことに周りがざわめき、慌てて数枚の札が上げられた。


「え?なんで?」

「そりゃこっちの反応見て“良いもの”だって判断したんだろうよ」

「えー……使い方もわかんないのにですか?」

「後で“聞けば”良いと思ってんだろ」


 ヤンスさんが言う“聞けば”は頭に無理矢理とか、力づくで、とかが付くんじゃないかな?

 こっわ!

 その言葉を聞いたジャックがエレオノーレさんを守る様に背に庇い、周りを睨みつける。

 ヤンスさんは鼻で笑いながら椅子にもたれ掛かった。


「不明品に大銀貨はちょっとやり過ぎじゃね?」

「鑑定不明品なんて中々見ないもの。研究の為には仕方ないじゃない?」


 まるで周りに聞かせるかの様にエレオノーレさんとヤンスさんが話しはじめる。

 魔法の知識やアイテムに目が無いんだから、とか、結局無駄遣いになるんだよな、とかじゃれあいに見せつつ“貴重な品物ではありませんよ〜”アピールをしていく。

 途端に周りからの視線が重さを無くした。

 まだいくつか突き刺さる様な視線はあるものの、大部分の人は汎用簡易魔法アタッチメントに興味を失った様だ。


 その効果が出たのか、数度金額のやり取りがあり、とうとうエレオノーレさんが落札者になった。


 シレッとお隣に座る三本の槍メンバーもさっきの戦いに参加していたのを俺は見逃さなかった。

 大銀貨になったあたりでやめていたが、中々心が強いらしい。

 


 その後幾つか出てきたアイテムはしょーもない物や、ダンジョン産と言い張る偽物ばかりで、何人かがダメ元で格安落札していた。

 中には中々精巧に作られた偽物もあった。

 海外で購入してきたナイフに拾った骨を宝石の様に磨いて取り付けて、不思議な色合いの飾り石にしていたのだ。

 ぱっと見でアレを骨だと見破れる人は少ないと思う。

 逆に感心してしまうレベルだ。

 とはいえ、あの骨、人骨なんだよな。

 呪われそー……。


 そしてまた本来の鑑定済みの品物に戻り、いくつかのマジックアイテムが熾烈な争いの後に落札されていく。

 槍や弓が出てくる度にお隣がヒートアップし始めているのが少し気に掛かるが、一応は平和的に進んでいる……はずである。


「さーぁっ参りましたよ皆様!とうとう本日の目玉一つ目です!皆様ご存知、魔法の袋!こちらは【アイテムボックス】を持たない者でも沢山の品を何処でも簡単に軽く運べるマジックアイテム!ハンターも、商人も、お貴族様も皆欲しい!こちらは大金貨二十枚からのスタートです!」


 煽りに煽る紹介に、一斉にあちらこちらから札が上げられた。

 勿論三本の槍もパウルさんが代表して上げている。

 その額大金貨三十枚。

 それでも止まることを知らない金額はどんどん上がっていっている。


「ウチはキリトが居るからいらないな」

「ホント、最高のポーターよね。ありがたいわ。どこにも行かないでね?」

「キリト、ありがとう」


 ウチのパーティは落ち着いていて、ニコニコとこちらを見ながら話しかけてくる。

 なんかこう、揶揄うでもなく、素直にこういうことを言われると背中がむず痒くなるね。

 お尻の座りが悪い気がするわー。


「……こちらこそいつもありがとうございます」


 今ちょっと皆と目が合わせらんないかな。

 そうやってパーティ内で戯れあっている内に、どこかの高ランクパーティが大金貨六十八枚で落札した様だ。


「くそっ!Aランクパーティか!」

「資金が桁違いだな……」


 大変悔しそうに膝を拳で叩くパウルさん。

 そんな姿を見せられたら、いつか俺たちが魔法の袋を手に入れた時に彼らに最初に話を持って行ってあげたくなるな。

 周りの人達も悔しげに呻き声をあげている中、また新しい品物が出てき始めた。

 身代わりの指輪に魔法の込められたアクセサリー、高品質の宝石や装飾品。

 様々な品物が紹介されて、落札されていく。

 ジャンクアイテムも二回ほど挟まれて、いよいよ『解呪の宝玉』となったーーー。


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― 新着の感想 ―
誤字ではないので、こちらにて。 ・〈ヤンスさんにこってり絞られた翌日、〉 今回の場合、叱ってくれたのは、前話からの流れ的にも、〈三本の槍〉の皆さんと言うべきではないかと。 ヤンスさんは、人前では浮…
さてキリトの不幸が消えるのか なんだか彼の不幸が何か悪さをする気がしてなりません
魔法の袋の人気に比例してキリトの価値が上がっていくのは吹いた。
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