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176 オークション 3


 無事生還してギリギリ滑り込みで会場入りをした。

 一般席はみっちり埋まっていて、見渡す限りハンターばかり。

 しかし、上の貴族席を見上げれば一部金持ちそうな少年がチラホラ見えた。

 騎士になりたい貴族の子達かな?

 あと、かなり裕福な商会のバイヤーが、何故か貴族席に数人いる。

 かなりえぐいやり口で娘を勧めてきた人達だから覚えてる。

 目が合ったらヤバそうだから見ないでおこう。


 入り口の案内係は参加人数を伝えると人数分の札を渡してくれ、俺達を端の方の席に連れて行く。

 昨日までは「お好きな席にどうぞ」だったのに、と思っていたらヤンスさんからハンター達が暴れ出さない様に人数と印象で席を指定するのだと教えられて納得する。

 人数の関係上、『三本の槍』のメンバーとはここで離れる事になってしまったが、それはまあ仕方ない。

 九人まとめて座れる席なんて空いてないだろうからな。


「お互いに狙った獲物が手に入ると良いな」

「負けねぇからな!」


 パウルさんの声に拳を上げながら応えるオーランドが少年の様な笑顔をしていた。

 彼等の前に出るとどうも新米ハンターに戻ってしまうらしい。

 案内の人が少し先で苦笑いしながらこちらを見ていて、慌てて後を追う。

 俺達が案内されたのは後方左隅の通路側だった。

 丁度三席だけ空いていて、奥には厳つい見るからに盾職と思われる大柄な男性が座っていた。

 ヤンスさんが並ぶと喧嘩をふっかけそうだとオーランドに奥に押し込まれてしまった。

 通路側の席がヤンスさんで、いささか不満そうにドスっと音を立てて座っていた。


 席に着くと「キリトちゃんいつものやつ頼むわ」とヤンスさんから小声で指示があり、望遠魔法・改オークションスペシャルを俺達三人分だけ発動する。


「うわっ!何だこれ」

「うるさい」

「あだっ」


 急に視界が切り替わったオーランドが声を上げ、ヤンスさんに殴られている。

 ごにょごにょと小声で話したかと思ったら大人しくなったので恐らく魔法の説明をしてくれたのだろう。

 先に説明しておけば良かったな。

 失敗失敗。


 ヤンスさんに言われて色々カスタマイズした結果、視界の一部に表示されて、周りの状況を確認できるようになった。

 気持ちとしては舞台のテレビ中継モニターが置かれている感じだ。

 基本は司会の人?とオークションの品物が映し出されていて、細かい説明の際にアップにする。

 顔を動かせば視界から外れるが、ステージに顔を向ければちゃんとまた現れる。

 しかし他の人がそこに座ってもモニターは現れないし、見ている時も周りからは見えないというメタ仕様。


 初めてこの魔法をヤンスさんに教えた時は絶対に他言するなよ、と今までで一番恐ろしい顔で言われた。

 その後、沢山の注文がつけられて、ヒーヒー言いながらカスタマイズしたのは良い思い出である。

 いっぱい頑張った、俺。

 うん。

 なんかヤンスさんもこの魔法の練習をしているらしく、競り落とした品物のチェックが終わると何処かに姿を消し、夕食後にアドバイスを求められる。

 いつも教えられてばかりなので頼られて嬉しい。


 程なくしてオークションが始まり、様々な武器防具が紹介されていく。

 はじめはそこそこの業物がいくつか続き、中堅ハンター達が競り落としていく。

 明らかに上級だと思われるハンターや貴族のお坊ちゃん達は札を上げようともしない。

 彼等は自分の力でアレくらいの業物は手に入れる事が出来るのだろう。


 そうしてとうとう魔剣を名乗る武器が現れた。


「こちらはさる貴族家より出品された魔剣です!見てください、この風格のある佇まい、細身の両刃直剣、正しい持ち主にはとてつもない力を与えると言われているこちらの魔剣は大金貨三枚からスタートです!」


 先日と同じ舞台役者のオースティン……だったかな?がドヤ顔で堂々と嘘をつく。

 魔剣とは名ばかりの儀礼用のハリボテの剣である。

 なにが「正しい持ち主にとてつもない力を与える」だ。

 剣としても見た目にばかりこだわりすぎて切れ味は微妙、耐久力も低く、まともに武器とし扱えない代物である。

 まあ、「〜と言われている」というのは詐欺の常套手段だもんな。

 多分彼も運営陣もそれを知っているからこそ、これだけ早いタイミングで出してきたのだろう。

 鑑定証明書なども付いていないそれに大金貨三枚は欲張り過ぎじゃないかな?


「持ち主にとてつもない力を与える……」

「「え?」」


 呆れて鼻で笑っているとポツリと呟く声が聞こえてきた。

 隣を見れば、目をキラッキラ輝かせたオーランドが札を上げている所だった。


「おっま……バカッ!降ろせっアンなんどう考えてもニセモンだろうがッ!!」


 オーランドの向こう側に座っているヤンスさんがオーランドの札を握った手を引っ張るがびくともしない。

 傍目には大人の腕にじゃれついている様にしか見えない。


「えー…でもアレ、本物かもしれないじゃん」

「本物なら鑑定証明書がついてるわ!ボケッ!!」


 幸いお貴族坊ちゃんの方が高額で上乗せしてくれた為、ぼったくり品を競り落とさずに済んだが、さらに札を上げようとするので「あれは偽物だよ」と耳打ちする。

 ぴたりと動きが止まり、こちらを向くオーランド。

 オーランドの目を見て「俺が保証する」と続けると、目を大きく見張り、しょんぼりして札を引っ込めた。

 捨てられた子犬もかくやと言う風情である。

 言葉にはしないが、俺が鑑定したのがわかったのだろう。


「あーいうのは購入者が文句を言っても“正しい持ち主”ではなかったのでしょう、つって金だけせしめる商法なんだよ」

「うぅぅぅ……っ」


 ヤンスさんが勝ち誇った様に説明して、ただ唸るだけのオーランド。

 頭は理解したけど心が納得できないのだろう。


 かなり騒いだから目立ってしまったかと思ったが、周りも似た様なものだった。

 あちこちで札を上げようとする剣士を仲間が止めて大騒ぎになっている。

 正直殴り合いになっている所まである。

 そこには騎士がすかさず向かい、暴れるハンター達を摘み出していた。

 殴り合っていた人達はあまりの早業すぎて何が起きたのか理解できない顔でこちらを見ていたが、無情にも目の前で扉が閉じられた。


 その一連の流れを見ていた他のハンター達は大人しく口を閉じ、こちらを無視して競り合っていた貴族のお坊ちゃん達を見守った。


 案外すぐに決着がつき、勝ち誇る少年とやっちまった〜という表情の御付きの人達。

 これの出品者は苦情が入るまでを計算しているらしいので、なんかもうただひたすらにご愁傷様です。

 その後にはまた業物の斧や弓などの通常の品が出品され、それなりに盛り上がっていたが、特に掘り出し物というか、絶対に手に入れなくては!という品は無かった。

 途中ちょくちょく魔剣や魔槍、魔弓と言い張る品が出されたが、振ったら光るだけだったり、エフェクトが出るだけで性能は初心者用レベルだったり、偽物だったりした。

 面白いのが、先程の詐欺魔剣と同様の魔槍や魔弓が出ると槍使いや弓使いが札を上げようとし、剣士を筆頭に他の仲間が「詐欺だって!」と止めているパーティが沢山あったところだ。

 みんな自分の使う武器には盲目なのかね?


 そんな中でもピカイチにヤバかったのは、かの英雄(名前は言われなかった)が使っていた盾!として出されたものだ。

 壊れる寸前の耐久性が激ヤバな代物で、修繕不可と表記されていた。

 どの英雄かはわからないけど、盾持ちのタンク職達が目を輝かせて凄い勢いで札を上げ続けていた。

 勿論俺の隣のゴツいハンターも目の色を変えて札をバシバシ上げていた。

 しかし、札を上げる合間に「くっ、これ以上は厳しいか……」「いや、予備の武器を売れば…」「グッ!いや!まだまだだ!アイツに借りれば後大金貨十枚くらいなら…!」などと恐ろしい独り言を繰り返していて、オークションの恐ろしさをヒシヒシと感じた。

 結局、その盾もお貴族金持ち坊ちゃんズが競り落としていき、沢山のハンター達が悔しそうに声を上げている。

 いや、むしろ命拾いしてるんだよ君達、と声を掛けたくて仕方がなかった。

 あんなの使って戦闘でもした日には、その日が使用者の命日になるだろう。

 坊ちゃん達がアレを使う日が来ないことを祈るばかりである。


「お次はコチラです!」


 そんな中、あまり見栄えのしないバスタードソードが管楽器のBGMと共に出てきた。

 飾り気は無く、本当に最低限の拵えで、持ち手に巻かれた滑り止めの革だけが新しく妙に浮いている。

 亡くなったとある有名騎士の遺産処理との事で、大量の業物が出ている中「練習用の剣」として出てきたそのバスタードソードは、オーランドが普段持っているやつより二回りほど大きい。


「【鑑定】っと……はぁっ!?」


 特に気にもせず機械的に【鑑定】を行った俺は我が目を疑う。

 鑑定結果は「心力剣」。

 意志の力を乗せる事で間合いを伸ばせる魔剣である。

 さっきまで出ていた偽物や、オーランドの簡易魔石によるなんちゃって魔剣ではなく、正真正銘本物の魔剣。

 慌てて事前に決めていた合図『絶対に落として』をヤンスさんに送り、アイコンタクトをした。


「オーランド最近筋肉が付いてきたって言ってたし、丁度良い練習用の剣だよ!造りもしっかりしてるっぽいし、絶対に落とした方が良いと思う!」

「えー、オレ両手剣あんまり得意じゃないんだよなぁ、重いし」

「だからこそ練習用に買うべきでしょ」


 若干説明くさい台詞で『練習用に良いね』とアピールをしておく。

 オーランドは全く乗り気ではないが、ヤンスさんは俺の反応であの剣が魔剣だと察したのかパッと札を上げていた。

 他にも数人が札を上げたが、二度三度競い合うとすぐに上がらなくなった為、比較的安価で競り落とせた。

 金額は小金貨五枚である。

 練習用のバスタードソードとしては適正価格だろう。

 まぁ、アレは魔剣だからとんでもない安値なんだけどね?


 その後しばらくオークションは続いたが、あれ以外は特に掘り出し物も、魔剣や魔槍などは無かった。

 唯一良いなと思った物は、ドワーフの神鍛治師が心の赴くままに作成した強化戦斧くらいだったが、瞬く間に高騰して割に合わなかった為断念した。

 そうして本日のオークションが終了した。

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― 新着の感想 ―
・亡くなったとある有名騎士の遺産処理との事で、  ・大量の業物が出ている中 ・「練習用の剣」として ・鑑定結果は「心力剣」。 ・意志の力を乗せる事で間合いを伸ばせる魔剣である。 「練習用の剣」が本…
更新お疲れ様です。 なんかまた面白そうな、そしてモノホンである魔剣ゲットですね! 練習は練習でも、剣に宿ってる効果の練習をされてた…ってことなんでしょうかね、前の持ち主は? それでは今日はこの辺り…
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