170 帝都到着 4
レジーナの件と下着屋二軒の面接がやっと片付いたのでオークションに向けて本格的に稼ごうと思う。
俺個人の個人資産は大分貯まってきているが、それでも孤児院の運営費や各店舗でどんな大きな損失が出るかわからないし、解呪の宝玉を競り落とすにはもう少し多めに用意しておきたいところだ。
カタログやショーウィンドウの様に保存食や地図なども真似されたり需要が無くなってしまうかもしれない。
なので、それとは別の定期的に稼げる方法がほしい。
現在帝都は何故か類を見ない程の好景気に沸いている。
ヒメッセルトの変化ダンジョンの攻略に集まるハンターや、他のダンジョンを調査するハンター達が帝都を通り、少なくない額のお金を落としていく。
滞在費に食費、保存食や備品などの補充費、遊興費などなど。
人が増えれば消費も需要も増える。
需要に併せて珍しい物もバンバン入って来ているし、発明されている。
食材、調味料、酒、動物、魔物素材、布に置物、工具に多種多様な道具・魔道具……。
正直何に使うのかもわからないような物も多くある。
ヤーコプ達が張り切って高価な香辛料や珍しい果物なんかも仕入れているから食の都と呼ばれる様にもなってきているらしい。
大量に売れるのでスパイスを取り扱う商人達も安心して量を仕入れ、値段も少し落ち着いてきた。
そのおかげで購入出来る者達が増え、更に売れる、そして次はまた多く仕入れてくる、という繰り返しでかなり良い流れらしい。
俺が買い付けていた商人さんはこの辺のスパイス商人の顔役みたいになっていた。
いつもお世話になってます。
ありがとう。
道々では新しい料理の看板が立ち並び、屋台も種類が豊富だ。
調味料やスパイスが広がったため、屋台の味も増えたのだ。
当たり外れは店の常だけどね。
「うっわ……っ!ハズレ引いたわ……マッッッッズ!」
「わはははは、だからやめとけって言ったじゃねぇか」
なんの肉かわからない串焼き片手に悶絶しているのは、ここらじゃ見ない顔のハンターだ。
仲間が笑いながら果実水を差し出している。
ケバブっぽい店や、食事クレープ的な店がお互いに睨み合っていたり、串焼き屋の隣にエールの店が並んでいてお互いに協力しあっていたりと、街を歩くだけで十分に楽しい。
いい匂いからヤバイ匂いまで様々な料理の匂いが漂う通りはいつでも賑わっている。
技術も商品もあればあるだけ売れる、そうして儲けた者はお金を豪快に使うので、帝都は今とても景気が良い。
その中には勿論花街もあり、他の街では見られない魅力的な姿のお姉さん達に、連泊する者も沢山いるんだとか。
カタログ効果で画家や写本家もてんてこ舞いで、弟子を取るだのパトロンがどうだのやかましいほどである。
ウチの店にも何度も売り込みに来ているが、最初に仕事を受けてくれた人を大切にして間に合わなければ、彼等の紹介で追加を雇うスタイルにしている。
おかげさまでうちの下着もカタログも大変好調に売れております。
女性向けのカタログさえ購入希望者が後を絶たないのである。
でもこの収入は商会の収入であって、俺の懐にまるっと入ってくるわけではない。
勿論ハンターの仕事も、以前に比べれば数は増え、大きく稼げるようになってきてはいる。
だが、割りの良い仕事は壮絶な争奪戦だし、そうでも無いものは注意しないと割に合わなかったり、大変苦労する内容だったりする。
勿論そうそう高額の指名依頼があるわけでもない。
いや、いくつかは俺の【アイテムボックス】狙いでの輸送&護衛の指名依頼もあったけど、拘束時間がエゲツないので即お断りした。
なんだ半年って。
オークション間に合わないじゃん。
しかも延長の可能性ありとか。
都合よく使おうって魂胆が丸見えだよ。
皆で話し合い、ハンターギルドにコレ系の依頼は基本お断りすると宣言しておく。
ギルドに申請しておけば指名された際にシャットアウトしてくれるんだそうだ。
よくあるのが護衛専門で、採集はしませんよって使い方らしい。
ハンター達も、オークションに参加する為に必死で働いている為、そちらで稼ぐのはちょっと難しそうである。
折角拠点も店舗も出来上がっている事だし、前々から考えていた様に、帝都の孤児院の子達を雇ってお店でも開こうかな、と思っている。
あとメイド的なお仕事してくれる人も欲しい。
建物が広いから掃除がめちゃくちゃ大変なんだよ。
庭は、追々でいいかな。
ジャックが楽しそうにやってるし。
家で働いてくれそうな子に声を掛けたい、と園長先生に話すと、五人の子供達を先んじて紹介された。
「アガーテです」
「イルゼです」
「ぅ……ウルリケ」
「エドガーです」
「オイゲンですっ」
一列に並んだ女の子三人と、男の子二人。
女の子達はネルケ達の一つ下の仲良し三人組で、家事全般が得意なのだとか。
繕い物が好きな子もいるよ、と言われたのだけれどどういう意味だろうか?
男の子二人はさらにもう一つ下で、計算が得意で人当たりの良い子達だったはずだ。
女の子達の基本的なお仕事は掃除とたまにお使い、そしてまかない作成くらい。
掃除は共用スペースと客間のみが担当エリアで、プライベートスペースは個人からお願いがあった時のみ。
地下の研究スペースは対象外。
使用した人が綺麗にしましょう。
俺達の食事はほとんどデイジーとジャックが作るので必要ない。
男の子の分を含め自分達の分を支給された予算の範囲内で作ってもらうくらいだ。
たまにお使いをお願いするかもしれない。
あと、お店の手伝いは忙しくなったらお願いするかも、くらいかな?
男の子達は幹部として店の準備だ。
運び込まれる商品棚や備品をどんどん設置していき、出す予定の商品の知識を教えていく。
薬草については俺なんかよりも多くの知識があるし、人当たりも良いので接客に向いている。
あとは言葉遣いだけだが、それもあっという間に習得してしまった。
そして、一番重要なのが帳簿付けである。
所謂お金の管理を任せるのがこの二人というわけだ。
実際に店頭で働いてもらうのは通いのバイトさん数名くらいで良いだろう。
彼等にはドゥーリンさんが母屋に作った「下働き部屋」に住み込みで入ってもらうことにした。
ちゃんと男女でエリアが分かれている。
しかも、人数が少ないので一人一部屋だ。
一応二人部屋とかもあるけど、それだと一人溢れちゃうしね。
「本当に良いの?!」
「憧れの一人部屋だわ!」
「あ、ありが、とう……」
「精一杯働きます!」
「ひゃっほーう!」
予想していた以上に喜ばれた。
早速引っ越してきて、初日は荷解きや部屋の片付けに充ててもらった。
翌日からは本当によく働いてくれた。
こちらが指示する前にあれをして良いか?これをした方が良いのではないか?と確認にきて、積極的に動き回ってくれる。
勉強も嫌がるどころか、夜に個別に質問に来たりもするほど熱心だった。
二週間もすると頼んでいた制服も届き、立派な店員さんとメイドさんが誕生した。
コスプレメイドではなく英国風の紺色のロングワンピースにフリルたっぷりの白いエプロンとプリムの本格スタイルである。
強制はしませんが、三つ編みおさげスタイルを推奨します。
メガネがあればなおよし。
女の子達の部屋にはシンプルな姿見を用意してそれぞれにプレゼントした。
男の子達にはペンのセットとカフスをプレゼントする。
本当は懐中時計を贈りたかったんだけど、奪い取られそうだからやめておけ、とオーランドからストップが掛かってしまった。
因みにネルケ達はこの春に卒園してハンターデビューしたらしい。
今は近隣の簡単な採取を行ってなんとか過ごせているらしい。
とはいえ、時折孤児院に戻って宿代を浮かせたりもしているんだとか。
ちゃっかりしてるね。
いつかまた顔を合わせることもあるだろう、その時が今から楽しみだ。
お店を開くと決めたので、本格的な守衛小屋を作る事にした。
お店の護衛や、今回みたいに長期間離れる際、警備を頼むハンター用の待機所である。
冬支度用の部屋と暖炉のある部屋を二つ、風呂、トイレにダイニングキッチン、二人部屋の寝室を四つくらい用意すれば大丈夫だろうか?
暖炉のある部屋の一つを拠点側の角部屋にして、大きな窓を取り付けた事で、店を営業していても休んだり警備したり出来る。
勿論定時見回りはしてもらうけど。
というわけで、ドワーフ建築工房さん作成よろ。
さて、下準備がある程度出来たところで、売る物を細かく決めていこう。
ハンター狙いでいくのは間違いない。
需要がわかっているからこそ売れる物を用意できるだろう。
各種採集した薬草に、デイジーが作成した簡単な薬と、保存食各種。
エドガーやオイゲンが詳しいので薬草の買取をやっても良いだろう。
あと、マッピング用の紙とペン等をとりあえず並べよう。
旅の間便利だった道具類(折りたためる椅子や、簡易竈門、天幕に敷く折り畳みマットレスなど)も農村やブリギッテ達から仕入れて一緒に売ろうか。
天幕なんかはいらないかもしれないけど、念の為に数個ずつ在庫を用意する。
これは商業ギルドに紹介してもらった工房から仕入れた。
それよりもお手入れセットの方が大事だよな。
まだまだ沢山余っているオークのラードを使って、作った革製品のお手入れ用獣脂オイルや、臭いの少ないカンテラ用の蝋燭なども作っておく。
天幕を止めるペグやハンマーなども用意した。
形式としては雑貨屋になるだろう。
商人登録している俺が経営する、という形になった。
折角なので、弛緩病特効薬などの変わった薬も販売する事にした。
これはカウンター上の黒板に書いておくだけで、在庫は俺の【アイテムボックス】内である。
せっかくなので、孤児院の子供達が作った薬も【鑑定】してから『見習い薬師のおくすり』として少しだけお安く販売しようと思う。
こっちは場所代だけごく僅か差し引いて、残りは全て孤児院に戻すのだ。
彼等の個人収入にちょうど良いだろう。
看板は便利な土魔法で透かし彫りの吊り看板を作った。
某魔女のお届け屋さん感のある看板だ。
店員は戦闘のできる引退したハンターと、子育てが一区切りついた女性を数名雇った。
そこに初期から居た、孤児院出身の男の子二人で合計十名。
他の孤児院の子も、希望すれば雇うつもりである。
はじめは最低限で、人気のあるものや問い合わせを受けたものを増やしていくスタイルにした。
結構時間が掛かったが、なんとか準備が整った。
ハンターの為の雑貨屋、始動である。




