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166 いざ、帝都へ 3

久々のご飯回です。


 今回のやらかしはかなりヤバめなので反省して、気持ちを切り替えて晩ご飯の準備だ。

 流石にこちらでは余計な事はせず、言われた通り、いつも通りに作業を進める。

 食事に関しては、お貴族様グループとハンターグループで別々だ。

 レジーナ達は、クラーラ様に雇われている形なので、お貴族様グループ扱いだ。

 最初はクラーラ様に俺達の分も用意しようか?と言われていたのだけれど、多分使用人達用の質素な料理が出てきそうだから嫌だ、と、とある方が猛反対した。

 旦那さんのご飯が世界で一番美味しいそうです。

 ……うん、ごちそうさま。


 保存食や水、飼い葉などは馬車に積んであるが、生鮮食品は【アイテムボックス】で預かっている。

 連れて来られた料理人さんが食材リストから今日使用したい分の食材と量が伝えられる。

 言われた物を取り出しつつ、お互いに確認し合いながら、食材リストの残量を修正していった。

 それが終わると、今度は俺達の在庫からジャックの言う品物を取り出していく。

 前にも思ったけど、俺、冷蔵庫みたいだわ。

 全自動の歩く冷蔵庫。

 なんだったら魔法で凍らせたりもするよ? 笑


 今回は冬に結構売ったけれど、まだまだトン単位で余っているオーク肉を使う。

 作るのは、オークバラ肉の野菜巻き。

 俺の知っているサイズより一回り大きなプチトマトに、アスパラガス、ネギ、小玉ねぎ。

 人参、インゲンは茹でて細切りにした物をまとめて一つにする。

 あとはレタスに似た葉野菜。

 それぞれに薄めにスライスしたバラ肉で巻いて焼くのだ。


「コレ、絶対美味しいやつ……」

「頑張って沢山作るのでいっぱい食べて下さいね」


 ヨダレが溢れそうになるのを我慢しつつメニューを聞いているとデイジーが拳をきゅっと握って微笑む。

 あざといくらいに可愛いが、これは天然である。

 デイジーの愛らしさはさておき、野菜の豚バラ巻きだが、ジャックとデイジーが手早く下準備を終わらせていく。

 バットに薄く小麦粉を敷いたり、野菜を処理する順に並べたりとさくさくスパスパうごいている。

 野営でここまで沢山の野菜が並ぶのは中々無い。

 そんな中でも異彩を放つのはメインであるスライス肉だ。

 本来、お肉を薄くスライスするのは冷凍しないと厳しい。

 だがしかし、【アイテムボックス】さんは本当に万能で、スライスする様に肉の一部を収納していけば、あら不思議、たっぷりのオークバラスライス(常温)があっという間に完成。

 これを試した日は、ジャックの興奮度合いが凄かった。

 エレオノーレさんが驚くレベルにはしゃいでいた。

 その日のご飯とジャックはエレオノーレさんをメロメロにさせたことは言うまでもない。


 プチトマトはヘタをとって丸のまま。

 ネギはまるまる一本は大きすぎる為、フライパンの大きさに合わせて長さを揃えてカット。

 アスパラガスは上下を持ってぐにっと曲げると、硬い部分と柔らかな部分に折りわけることができる。

 折分けた下の硬い皮を剥いで、それぞれ肉を巻く。

 玉ねぎはくし切りにしたものに巻き、葉野菜は粗めに千切りにして塩で揉み、軽く塩をすすいだだあと、しっかり搾ってから巻く。

 くるくる巻いたあと、剥がれ防止の為に表面にちょこっとだけ小麦粉をはたく。

 片栗粉(澱粉)でも良いんだって。

 焼く時は肉の端っこを巻き込む様にしてフライパンにのせると捲れ難い。

 あとは弱火でじっくり、表面がカリッとするまで焼いていくだけ。

 自分から溢れた脂で揚げ焼きされるオークバラ肉は罪深い……(ごくり)


 トマトやネギ、アスパラに小玉ねぎは細い鉄串に刺して、焼き鳥台で炭火を使って焼く。

 焼き鳥台は土魔法で串の幅と、ジャックとデイジーの背に合わせて作った。

 俺にとってジャック用は少し高めで、デイジー用は低めだが、二人は至極楽しそうに焼いている。

 腰に負担がなくて良いと好評である。


 そして、主食は、パンに山羊のチーズをのせて火で炙って蕩けさせよう。

 エレオノーレさんが辺りの警戒ついでにさっと集めてきてくれた春の山菜のサラダに、スープも付けよう。


 スープは簡単にスープストックを利用する。

 あと一品、という時に便利なクズ野菜のコンソメだ。

 毎回の料理で出た野菜の皮やヘタ、お肉の切れ端や皮、骨などを【アイテムボックス】に保管しておいて、ある程度量が溜まってきたら全部まとめて一緒に煮込み、押し潰してから裏漉しすると出来る、簡単便利なスープである。

 ただし、【アイテムボックス】ありきのスープなので、真似はおすすめしない。

 大鍋から小鍋に一回分を移し取り、簡易竈門で温める。

 幾つかの野菜とお肉の切れ端をさっと炒めて放り入れれば、あっという間に出来上がりである。


 ちゅわーっと脂の音を響かせながら、野菜巻き串が良い匂いを漂わせ始めた。

 香ばしくて、肉肉しい芳香にお腹がなりそうだ。

 匂いだけでヨダレが溢れてくる。


 ーーーくるるるるるぅ……


 匂いに釣られて下働きの男の子達がふらふらと近寄ってきた。

 一番年下の子だとまだ十二歳やそこらである。

 食べ盛りの彼等には、この匂いは耐え難いだろう。

 目だけは肉を見たまま、喉とお腹を鳴らして去っていった。


「焼けた」

「わ、ジャックありがと」


 そんな子供達を見ていると、目の前ににゅっと肉が現れた。

 カリカリに焼けて、じぶじぶ熱そうな音を立てる野菜の肉巻き。

 これは火傷必至だな。

 ふぅふぅ息を吹きかけ、唇に触れない様に齧り付く。

 カリッと心地良い歯応えの肉と、肉の旨味を引き出す塩胡椒の風味に、ジューシーな野菜がたまらない。

 皿に乗った六本の肉巻きは、あっという間に無くなってしまった。


 物足りなさにチラリと目をやれば、ジャックは楽しそうに次の分を焼いている。

 エレオノーレさんが「トマト!次はトマト多めで!」とリクエストを出しているので、もうしばらく待っていれば、また美味しくいただけるだろう。

 食べ終えた串は俺のクリーン魔法の水球をザプッと潜らせればピッカピカである。

 食べ終えた者は串を洗い、専用の籠に放り込むだけの簡単なお片付け。

 ああ、この魔法本当に便利……。

 洗い終わった串を使い、デイジーが追加の肉巻き串を高速で作っている。

 それまではサラダやパン、スープを食べて時間を潰す。

 うん、とけたチーズも大変に美味しいです。


 エレオノーレさんがジャックの口元に焼けた串を持っていって食べさせている。

 デイジーもずっと作っていてまともに食べられていない様なので俺もあの二人を真似してみる。


「キ、キ、キキキ、キリトさんっ?!」

「デイジー全然食べれてないだろ?俺、串打ち下手くそでさ、触るなってジャックに怒られてるからこれくらいはね」


 子供みたいに食べさせてもらうのが恥ずかしいらしいデイジーに「ほら、あーん」と促し粗熱の取れた肉巻き串を運ぶ。

 それに観念した様で、遠慮がちに口を開くとプチトマトの肉巻きを口にする。


「あ、あふあふ……っ!」

「あれ?ごめん!まだ熱かった?」

「らいよーふれふ……っ」


 熱さに顔を真っ赤にさせているのに俺を気遣うデイジーは本当にいい子である。

 ハフハフもぐもぐ必死になって咀嚼する。

 そして咀嚼しながらも真剣な目で材料と串を見つめてシュバババババっと手を動かしていた。

 相変わらず真面目だなぁ……。

 一皿分を食べ終わった時には目の前にあった材料は全て打ち終わっていた。


「あーあー、またそうやってたらし込む……」

「アレ、エレオノーレとジャックの真似をしていちゃついてる自覚は、ねぇよなぁ」

「デイジーちゃんもかわいそーに」


 デイジーに肉巻き串を食べさせるのに一生懸命になっていた俺は後方でオーランドとヤンスさんがボソボソと話し合う声には気が付かなかった。



 サラダを食べ始めた頃には、料理人さんのエリアからもとても良い香りが漂ってくる。

 でもその香りは上品なんだよ。

 キャンプ飯というよりは、ガーデンパーティに高級料理を持ってきました、みたいな?

 上手く言えないけど、端的に言えばコレジャナイって感じ。

 

「あの、そちらはどういった料理なんでしょうか?」

「うわっ!」


 首を捻りながら仮設キッチンを眺めていたら背後から声を掛けられ、驚いた。

 手に持っていたお皿がひっくり返って落ちる。

 ああ、まだサラダ半分くらい残っていたのに……。


「ああっ申し訳ありません!」


 謝罪の言葉に慌てて振り返れば、三人いた料理人の内の一人である。

 落ちたサラダとお皿を拾ってまた謝罪される。

 お礼とともに皿を受け取ってクリーン魔法に突っ込み、サラダは地に帰す。

 再度同じ質問をされたので、一つずつ説明していくと、丁寧にお礼を言われた。

 やはり薄くスライスしたオーク肉が一番興味を持たれた。


 何故彼がここに居るのかを聞くと、クラーラ様の料理も完成したらしいが「あちら(俺達)の料理の方が美味しそうですわ」と言われてしまったせいらしい。

 まぁ、貴族のお嬢様からしてみれば見た事も聞いた事もない料理だし、匂いもガツンとパンチがあるもんな。

 あと、料理人(彼等)にしてみても、今回の料理の出来は不服なのだそうだ。

 どんなに良い材料と料理の腕があっても、ここにはまともな竈門もオーブンもない。

 圧倒的に設備が足りないのだとか。

 彼等用の作業テーブルに、簡易竈門などもあるけれど、やはり普段使っている物とクセや使い勝手が違いすぎて、大変らしい。


「どうにかなりませんかね?」

「流石に竈門を丸ごと持ってくるわけにはいかないですし、頑張って工夫していただくしかない気がします」

「そうですよね……」


 あまりにもしょんぼりしているので、少しだけお試し用にスライスした肉を分けると、大喜びで戻っていった。


 他の人達も食事を始めると、より視線が痛くなる。

 クラーラ様は勿論豪華な食事で、その周りのメイドさんとか執事(ベンヤミンさんの息子さん)、そしてレジーナ達は、クラーラ様の料理の残りに硬いパンだ。

 それ以下の下っ端は硬いパンに干し肉とチーズ、そして水だけだもんな。

 かと言って、毎食俺達が分けてやるわけにもいかないので、この視線は無視するしかない。


 三回目の肉巻きは焼肉のタレでいただいている。

 葉野菜の肉巻きが信じられないくらいに合う。

 うま〜……。

 少年が自分のパンと俺の肉を見比べてため息を吐いた。

 …………うーん、心が痛い。

 せめてチーズだけは温めて溶かしてやろう。

 そっと近寄って、手招き。

 フライパンで彼の黒パンの表面を炙り、温まったところでチーズを乗せるととろりと蕩けるチーズトーストを作った。

 弾ける様な笑顔でお礼を言われ振り返ると、背後にはパンとチーズを持った人の列が出来ていた。


 流石に全員分俺がやる訳にはいかないので、石を組み合わせる竈門の作り方を教え、フライパンを三個取り出してセルフで焼いてもらう事にした。

 売り物だったが、背に腹は変えられない、と涙を飲もうとしたところ、エメリヒさんが気付いて買い取ってくれたので損はしなかった。

 ありがたいけど、その気遣いクラーラ様にしてくれりゃあ良いのに。


 使用人達がわーきゃー騒いでチーズトーストを作っているのが気になったのだろう。

 クラーラ様がメイドさんを二人連れて歩み寄ってきた。

 しかし、メイドさんに注意され、仕方なさそうに俺達の方に方向転換する。


「キリト達は何を食べているのですか?」

「野菜の肉巻きとチーズトースト、それと山菜のサラダとスープですね」

「どれも見た事ない食べ物ですわ……」

「少しお試しになりますか?」


 結構あからさまに「食べたい」アピールされたため、誘わざるを得なかった。

 チーズトーストは食べやすい様に一口大にカットしたものを、肉巻きは串から外し、大き過ぎるものは切り分ける。

 サラダとスープは味の想像がつくからいらないそうだ。


「おいしい……っ!」


 念の為、メイドさんが毒見をして、食べ始めたクラーラ様が、目を輝かせる。

 先に豪華な食事を摂ったはずなのに、結局サラダとスープも希望して、全てペロリと平らげてしまった。

 しかも串打ちをしてみたいと言って肉巻き串を一本作ってみたり、焼いてみたり。

 初めての味で、焼き立て、出来立て、更に自分で初めて作った料理にはしゃいで食べまくった。

 その日の夜中、誰かが腹痛を起こして馬車付近がざわついたが、全員が見なかった事にした。

 夜だけじゃなく、移動中もお菓子食べまくってたもんな。

 消化薬をエラさんに渡したら大変感謝された。

 いつも俺不運を読んでいただきありがとうございます。

 いいね、ブックマーク、評価、感想とても励みになっています。


 最近、仕事がガチで忙しくストック生成が厳しい状況が続いています。

 更新はまだ遅れていませんが、かなりピンチな状況です。

 夏休みが終わったのでこれからはもう少しマシになると思いますが、ストックがすっからかんです。

 ほぼプロット状態です。

 頑張ります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 〈アイテムボックス〉の応用的な活用法も、知られていないものは、人に驚かれたりお金に化けたりするのかも知れませんね。 [気になる点] ・「流石に竈門を丸ごと持ってくるわけにはいかないですし、…
[一言] 野外だから出来立てを食べる方が美味しいよね 自分で作って食べるのも美味しいよね まあ、これが常時になると途端に面倒になってしまうんだけどね
[良い点] 更新お疲れ様です。 チーズトースト…これを見ると某アルプスの少女もやってた、ラクレットチーズを乗せて焼いてたやつを思い出しますね。そういえばアニメ版の『銀○』でもパロディしてたなあww …
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