159 冬の華 5
今回は話の区切りの関係で短めです。
一夜明けて拠点を撤収すると、俺達はアルスフィアットに帰ることにした。
何となく雪の精霊が近くにいる気がして、シリアルバーとプリンを雪の上にそっと置き、お礼を言って森を離れる。
ざくざく歩いて、ふと振り返った時には、シリアルバーとプリンは無くなっていた。
きっと雪の精霊が受け取ってくれたのだろう。
アルスフィアットに戻り、クラーラ様に報告すると、「たった三日で見つけてくるなんて凄い!」とベタ褒めいただいた。
領主代行のクラーラ様の叔父さんとは初顔合わせだったが、クラーラ様とは似ても似付かぬ熊のような大男であった。
道理でジャックが怖がられないわけである。
領主代行のゴットフリート様に氷雪蘭の性質を説明する。
こちらの花は雪の精霊にキチンと交渉して分けてもらった物なので安心してほしい、と話すとホッと表情を崩された。
貴族ってあまり感情を表に出さないって聞いていたけど、この二人は大変に表情豊かである。
雪の精霊に教えられた通り、庭にカマクラを作ってその中に氷雪蘭の鉢植えを収める。
お貴族様のお城に饅頭のようなカマクラはどうなんだと思い、外見をお城に似せて作った。
中は空洞で、中央に氷のテーブルを設置して氷雪蘭を飾る。
庭師のお爺さんに雪の精霊から聞いた通りに、雪を切らさないようにお願いをすると、快く受けてくれた。
勿論クエストの評価は最高評価。
お城型のカマクラにいたく感動した領主代行から追加報酬も出て、とても嬉しい。
お財布がぽかぽかである。
他のハンター達も手放しで褒めてくれた。
冬の採取依頼は、難易度が桁違いに高いので、毎回大変なのだそうだ。
クエストとは別に、きちんと氷雪蘭と雪の精霊の関係も報告した。
まさか、そんな、と言いつつも、今回無事に氷雪蘭を手に入れたし、精霊とも話したのだから、と報告を受け入れるギルドマスター。
長い間大切に育てていた花を、何も言わずに勝手に盗めば、そりゃあ仕返しもされるだろうとハンターの皆は比較的簡単に納得してくれた。
その時に流行っているスイーツを持っていき、精霊の許可を得てから花を手に入れる安全な方法を伝え、情報料として少なくない報酬をもらった。
報告類が終了したら、パーティで借りている家に帰り、倒れ込む様に爆睡した。
正直立っているのも辛かった。
だって徹夜だぜ?
でも、実際に精霊に会ったのも、交渉したのも俺だけだし、スッゲー頑張った。
ベッドに倒れ込んだ後の記憶はない。
目が覚めたら昼近くだった。
寝過ぎて少し腰が痛い。
皆と昼食を摂り、食後は「氷雪蘭と雪の精霊」の紙芝居を作った。
精霊が舞い踊るシーンは自分で言うのもなんだけど、かなりよく描けたと思う。
スイーツを贈って氷雪蘭を分けてもらう教訓と、実際に精霊がいるという布教、どちらも上手く盛り込めたはずだ。
雪の降る日に読めば、あの精霊も聞いてくれるかもしれないな。
あ、そうそう、雪の精霊からもらった氷雪蘭の種は魔力を込めたら発芽するそうなので、氷属性の魔力を注いでみた。
ついでに環境魔素を使って、冬の魔力 (というのがあるかどうかはわからないけど)を重点的に込める。
そのおかげかはわからないが、家の周りだけ寒さがマシになったのは嬉しい結果だった。
カマクラに収めて二週間くらい続けていたらぴょこりと発芽する。
朝顔の様な双葉だ。
観察日記でもつけてみるべきか?
そして、ここからが、大変らしい。
日光に当てない様に、風は通る様に、栄養はあげすぎず、かと言って少なすぎず。
種の状態は【鑑定】さん任せである。
雪ゴケと一緒に育てると水分の調節をしてくれるので比較的育て易くて良いらしい。
上手に育てられたらマチルダさんに鉢植えにしてプレゼントしよう。
後に、初めて氷雪蘭を人工的に発芽させたと話題になるけれど、それはまだ遠い未来の話である。
一晩休んで、私設孤児院に顔を出したらまた総員タックルで押し倒された。
今回はクエストで、いつもより期間が長く空いて、しかもいつ帰るかわからないと言われて不安になった模様。
春までには俺から卒業してくれると嬉しいんだけどな。
そこは先生たちに任せるしかない。
子供達の背中を撫でながら心中でため息を吐いた。
さて、俺達の仕事は終わったが、クラーラ様達はこれからが本番である。
どう考えても、春までお客様達は帰れないはずだし、食糧などが絶対的に足りない。
特にお馬さんの飼い葉なんかも足りないだろう。
今後馬車を導入したいと考えていた俺の【アイテムボックス】には、飼い葉や豆、寝藁などが、大量に入っている。
秋の間に色んな場所でお安くまとめ買いしているため、お財布への被害は最小限である。
それらをベンヤミンさんにそっと耳打ちすれば、両手をがっしり握られて「言い値で買います!」と言い切られた。
ヤンスさんが居なくて良かったと本気で思う。
子供達とお城に向かい、貯蔵庫に入るだけの飼料を入れ、ずっしりと重たい革袋を頂いた。
同じ様なやり取りを食料や薪で数度行い、高位貴族のお嬢様に備える。
結局、高位貴族のお嬢様は予定の一週間程後に到着し、氷雪蘭を見る前に倒れてしまったそうだ。
移動中の食事事情や、寒さに温室育ちのお嬢様は耐えられなかったらしい。
それを見たクラーラ様は「あの時止めてもらえて本当に良かった」と涙ながらに感謝してきた。
ベンヤミンさんが言うには、押しかけてきたご令嬢の普段の華やかさや美しさが見る影もない状態になっていて、かなりショックを受けたらしいよ。
しばらくはご令嬢の看護に掛りきりになるらしくて、お茶会も開けないんだって。
まぁ、倒れたのはお嬢様だけじゃないだろうしね。
元気になったならゆっくりお花を見ながら話したら良いと思うよ。
いつも俺不運を読んでくださってありがとうございます。
ストックが切れましたので来週からは週一更新に戻させていただきます。
そして、すみません。
新しい職場が思いの外忙しく、お返事返しの時間が全く取れません。
このままいけばストック切れも見えてしまうので、申し訳ありませんが感想のお返事は今後控えさせていただきます。
目だけは必ず通しておりますので、お気軽に一言でも感想を頂けるとやる気に変換されます。
今後とも霧斗達をどうぞよろしくお願いします。




